第1話 入学
眩しいほど明るい太陽の日射しに照らされて僕、篠崎奏明は目を覚ました。
「もうこんな時間か……」
今日から高校生になった僕。といっても、僕が今日から通う道三院学園は、日本国内でも有数の魔導師育成専門学校なのだ。故に、入学試験で試されるのは、身体能力値や生まれつきの魔力数値が主な内容となっており、筆記試験は合否の結果に一割弱程度しか反映されない。頭の良さを活かして術式をたくさん覚えても、体力や魔力がある程度無ければ、お話にならないということだろう。まぁ、両方できるのに越したことはないんだけどな。
「そう考えると、入学できただけでも、すごいことなのかなぁ」
そんな独り言を言ってから、朝食の調理に取りかかる。
一応説明しておくと、僕は今一人暮らしをしている。母は今でも健康に暮らしていて、かつては魔導師をやっていたこともある。父もそうだった。
僕の父の名は、今でも魔導師界の伝説に語り続けられている。本当にすごい人だった。実を言うと、僕が魔導師を目指すようになったのは、殆ど父さんの影響なんだけど……
え?父さんは今何してるかって?
━━━━それが、わからないんだ。僕が六歳のときに、海外の遺跡で行方不明になって、そこからもう十年近く連絡がないからたぶん……
でも、いつかまた会えるかもしれないから、僕は父さんが生きてるって信じてるよ。
「どんなに辛くても、希望は捨てるな!」
父さんに何度も言われた。
それに、今までこの言葉に何度も支えられてきた。
辛いときや悲しいとき、悔しいことがあったときでも、この言葉と父さんの顔を思い出して、乗り越えてきた。だから━━━━━
「魔導師目指して、今日から頑張らなくちゃな!」
僕は新しい生活に胸を踊らせながらも、そう決心した。時計を見ると、もう既に家を出なければならない時間。慌てて朝食を済ますと、新しい制服の袖に手を通して……
「行ってきまーす!」
そう言って、僕は新しい学園生活の入り口へと、出発した。
◇◇◇◇
学園に到着すると、既に多くの新入生が集まっていた。人混みの中を掻い潜って、僕はすぐにクラスの割り振りが掲示してあるボードの前に向かった。
「篠崎……奏明……あった!」
篠崎奏明その名の横には、1-G と記されている。
「僕はG組か……まぁそれはいいんだけどさ」
ボードに書かれているクラスの数だよ……
「一学年でA組からZ組までの26クラスって多すぎるだろ!!」
まぁ、それだけの人気校ってことか。魔導師を目指してるやつなんて、最近では山ほどいるしな。
「……教室行くか」
入学式の前に、クラスごとで何か決めることがあるらしい。そのため、早めに登校してくれと、事前に渡された書類に書いてあった。
でも、クラスごとって……何を決めるんだろうか。
「まぁ、行ってみれば分かる話だ」
……でも、やっぱり気になるな。考えられる可能性は……
そうこうして考えに耽っている内に、1-G の教室に着いた。扉を開けるとそこには、多くの新入生の姿が……というか1-Gは、僕以外、既に全員揃っていた。それに、各々緊張した面持ちをしている。
まあ、入学式だから、無理はないか。
そして、天井から吊るされたスクリーンに映し出されている座席表を確認して、僕は自席に着いた。
「……本当に、入学できたんだな」
教室に入ってようやく、これから魔導師として修行をしていくことに対する実感が湧いてきた。
今さらって感じだけど、実感できたことが嬉しかったんだ。
「よぉーし! これで全員か?」
教室の扉が開き、先生らしき人物が入ってくる。茶髪のロングヘアーで眼鏡をかけている、とても綺麗な女性だ。
「私は谷口凉子、今日からこのクラスの担任を受け持つことになった。よろしく」
この人が担任か。気の強そうな人だから、ちょっと話しかけづらいかも……
「あのー、僕たちが早い時間に集められた理由って、なんですか?」
おそらく、皆が疑問に思っていることだろう。それを、一人の男子生徒が、先生に質問した。
すると、先生は「よくぞ聞いてくれた」というような顔をして、答えた。
「実は毎年の恒例でな、入学式前に、クラスリーダーを決めるんだよ。クラスリーダーってのはその名の通り、今後魔導師としての修行を積んでいく上で、クラスの中心となってもらう人物のことだ。もちろん、魔導師としても一人の人間としても、皆から信頼されるようなやつにやってもらいたいんだが……誰かを強制的に……って訳にもいかないだろ?だから毎年、希望者を募って、その中から担任がクラスリーダーを決めることになっている。」
……なるほど。確かに、魔導師になるための訓練や授業をこなしていく上で、リーダー的存在は、必要不可欠なのかもな。
でも、じゃあ、入学式前にわざわざ集まって決める理由は?
「でも、じゃあ、入学式前にそれを決める理由は何ですか?」
おぉ、またさっきのやつ。
あいつ、僕と同じようなこと考えてるな。
「あぁそれは単純に、入学式でクラスリーダーがクラスの代表として点呼されるからだ。一人一人の名前を呼んでいたら、日が暮れてしまうだろ?」
「なるほど……ありがとうございます」
質問をした少年は納得したのか、返答の後、すぐに着席した。
「では早速だが、クラスリーダーを募りたいと思う。希望者はその場で挙手をしてくれ」
さて、どうしよう。
他の誰かにやってもらう手もあるが、ここはクラスリーダーになって、魔導師としての経験を積んだほうがいいか。
「……はい」
そう言って僕は、手を挙げた。
そして、もう一人。クラスリーダーの希望者がいた。先程、先生にいろいろと質問をしていた少年。
短髪で身長が高く、がたいがとても良い。いかにも運動ができそうな感じだ。
「では……いきなりだが、希望者の二人には、これから一対一の勝負、決闘をしてもらう。それじゃあ二人は私に着いてきてくれ。あ、他の生徒は三階にあるモニタールームから、観戦可能だ。二人の戦いを見るか見ないかは、各々の判断に任せる。」
先生のその言葉を聞いた瞬間、教室内の生徒は、皆驚いたような表情を見せた。そしてそれは、僕自身も同じだった。たしかに、「希望者の中から決める」とは言ってたけど……まさか実際に一対一で戦うことになるなんて……それに、いきなりすぎるというか……
「どうした篠崎。はやく着いてこい」
「あぁ、はい!」
先生にそう言われると、僕は慌てて立ち上がり、先生の案内で、会場に向かうのだった。
いやいや、急すぎるだろこの展開。