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魔術学院マイナーデ  作者: 宣芳まゆり
王の子どもたち
70/104

12-1

「何の話ですか? 姉上.」

自分の背中から出て行こうとするサリナを留めて,ライムはたずねた.

少年の後ろでは,スーズが守るように少女の肩を抱いている.

「王都で暴れた幻獣は,サリナのお腹の中にいる私の子どものものです.」

子どもという単語に,彼らの話し合いを見守っていた王宮魔術師たち,兵士たちがぎょっとする.

「幻獣の儀式の後,マイナーデ学院で彼女を私の妻としました.」

周囲の無遠慮な視線を感じて,サリナはかぁっと顔を赤らめた.

薄水色の髪の青年は少女に同情するが,どうすることもできない.

今は,このうそをつき通すしかないのだ.


「あなたさえサリナを誘拐しなければ,今ごろ正式に婚姻の儀式を済ませている予定だったのですが.」

落ちつきを払って,少年は軽くほほえんでみせる.

しかし少年の内心は,あせりでいっぱいだった.

「サリナは……,」

いったいどこでばれたのだろうか,自分の失態を探そうとする思考とこの場を切り抜けようとする思考がぶつかって,一瞬,少年は言葉に詰まる.

「いやぁ,イリーナ,」

空白を埋めるように,イスカが弟の背をばんばんとたたいた.

「今までの中で最高の冗談だ! いったい誰にそんなうそを吹聴された?」

大口を開けて笑うのだが,青年のこげ茶色の瞳はしっかりと妹を見すえ,鋭い光を放っている.


くすり,とイリーナはほほえんだ.

ざわり,と金の髪の少年は背筋に悪寒が走る.

「王都で暴れた幻獣は,確かにライゼリートのものかもしれないわね.」

隠し持っている切り札を,イリーナはもったいぶりながら懐から取り出す.

「なら,これはいったい何なのかしら?」

一歩一歩,弟に近づいてゆき,シグニア王国軍の書状を見せる.

ここで逃げたら肯定するようなものだと,少年は踏みとどまって姉を待った.


アンジェ・イーストによる少女誘拐事件について.

予想していなかった書状の文面に,少年は「え?」と声を上げる.

そして次の瞬間には,顔色を真っ青に変えた.

イースト家の魔女,サリナをさらい,身体を奪おうとした狂気の女.

そこにはしっかりと,アンジェ・イーストがサリナの幻獣によって氷づけにされたという証言が記載されていた.


証言者は氷づけにされたアンジェ・イースト本人と,その使用人の二人.

運の悪いことに,幻獣の姿を見知っている者が使用人の中にいたのだ.

犯罪者であるアンジェ・イーストの証言だけなら,なんとでもごまかすことができたのだが…….

ライムは,事件の全容を調べ上げた紙面をただ凝視する.

少年の知らない水面下で,サリナのことはとっくにばれていたのだ.

これから先,どのようなうそをつけばいいのか分からない.


ぼう然とする少年に書類を手渡して,イリーナは少年の背後にかくまわれている少女をつかまえようとした.

「……どきなさい.」

威圧的に命令をする,少女を守る従者の青年に向かって.

「ライム殿下のご命令なので,どけません.」

にっこりと優しげな笑みを作る青年に,イリーナはまゆを跳ね上げる.

「奴隷のくせに!」

「あの,イリーナ様!」

とうとう黙っていられなくなって,サリナが口をはさむ.

「わ,わ,私……,」

耳たぶまで真っ赤にさせて,少女は叫んだ.

「ゆ,誘拐事件のときにすでに妊娠していました!」


言った後で,薄茶色の髪の少女はさらに顔を真っ赤にさせる.

しかしイリーナの余裕に満ちた顔は変わらない.

「なら,ライゼリートの幻獣の儀式のときに現れた幻獣は何だったの?」

誘拐事件は,幻獣の儀式よりも前の出来事である.

少女は簡単に言葉を失った.

すでにライムとサリナは,うその上にうそをどんどんと重ねていっているようなものだ.

「それにあなたが妊娠しているかどうかなんて,」

イリーナにきつく手首をつかまれて,

「医者に診させれば,すぐに分かることなのよ.」

ふかしぎに揺らめく王女のまなざしに,少女はぞっと震えた.


「サリナを離してください!」

金の髪の少年が,少女をかばうように二人の間に押し入る.

だがイリーナはけっして少女の手を離さない,逆に強く握り返してくる.

「痛……,」

手首に食いこむ女の爪に,サリナは小さくうめいて顔をゆがめた.

「ライゼリート,あなたが……,」

ふとイリーナは,少女が銀の腕輪をはめていることに気づいた.

はっとして,サリナが手を引っこめようとする,

「サリナ,あなた……,」

しかし,もう遅い.

イリーナは,決定的な証拠をつかんでしまった.

「本当に,私の妹だったのね.」

歓喜にも似た驚きの笑みで,イリーナはほほえんだ.


いつもは同情に満ちてイリーナを見つめていた少女の瞳が,衝撃に見開かれる.

少女は,イリーナと同じ立場の人間だったのだ.

いや,サリナの方がずっと罪深い.

禁じられた恋を成就させてしまったのだから.

「サリナを離せ,イリーナ.」

今度は赤毛の兄が命令する.

威厳さえも感じさせる兄のものごしに,イリーナはすくむ思いを隠した.

「サリナは妊娠していない.もう逃げも隠れもしないから,手を離せ.」

こげ茶色の瞳が,真っ向からイリーナをにらむ.

戦争を経験して,この青年の中で何かが変化したかのようだ.


金の髪の少年が非難するように,青年の方へ顔を向ける.

少年にとって自分と少女が姉弟であるなど,とんでもない事態だ.

「今はサリナのことよりも,やるべきことがあるだろう.」

弟と妹を制して,イスカは言葉をついだ.

兄の言葉に,イリーナは反発しながらも従う.

かすかに震える少女の白い手首を離し,

「王城へお迎えにまいりましたわ,」

敵意に満ちた視線で刺すように,イリーナは用件を告げる.

「転移魔法ですぐさま飛びましょう.」

イリーナが嫌う身分いやしい者たちに,いや,それは間違いだった.

異なる髪の色を持つ,王の子どもたち.

「次の王を決めるために…….」

母親も,歩んできた人生も…….

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