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魔術学院マイナーデ  作者: 宣芳まゆり
とらわれ人
38/104

6-8

不意に胸をよぎる嫌な予感に,金の髪の少年は馬の脚をとめた.

緑なす草原の風に吹かれて,王都のある南の方を眺める.

……なんとなくそこで少女が自分を待っているような気がする.


ライム王子がいない間は魔法の練習はしない.

横顔で少女の声を聞いた,王都へたつ前にマイナーデ学院で.

みずからの強大な魔力にほんろうされる少女,サリナの潜在能力は常人のそれとはケタ外れのものである.

少女は呪文詠唱の練習をしたり,気休めのまじないの言葉を口にしただけでも,魔法が発動してしまう.

ライムなどは十分な精神統一と一種の興奮がなければ,けっして魔法は出てこないというのに.


みずからの持つ魔力が大きくなればなるほどに,制御は難しくなる.

だからこそ,母は心をなくした.

王城から,魔封じのされた部屋から抜け出そうと無茶な魔法を使って…….

ぞくっと少年は肩を震わした.

嫌な予感がどんどんと強くなる.


少年は馬の腹をけって,再び南へ向かって走らせた…….


「どけっ!」

ごったがえす人ごみの中を,赤毛の青年は炎に向かって走った.

逃げる人々に,火事を一目見ようとする人々.

王城からやってきて,どうにか群集を整理しようと行動を始める軍人たち.

しかし収めようとしても,収まるものではない.


炎の勢いはとどまることを知らず,隣近所の屋敷にまで燃え広がりはじめる.

こちらは純粋な火事である,中心の屋敷とはちがい煙がもうもうと立ち昇る.

狂ったように荒れ狂う炎の竜,抜け出したいのにこの場から逃れられないかのように.

イスカの知るかぎり,幻獣の持ち主は四人.

自分自身,兄のラルファード,妹のイリーナ,そしてサリナだ.

現時点でもっとも疑わしいのは行方不明のイリーナだが,王にはまだ隠し子がいるのかもしれない.


この時期に,王都に火を放つとは……!

犯人はティリア王国と通じているのか!?

いや,

イスカはぶるっと首を振った.

犯人探しは後だ,今はこの炎をどうにかしなくてはならない.


「イスカ……,」

「殿下,」

周囲の人々が,炎をにらみつけてたたずむ青年の存在に気づく.

この王都に住んでいて,赤の第二王子の顔を知らないものはいない.

王子という身分に関わらず,彼は気軽に街に出て人々に声をかけるのだから.

「こんなにも建物が密集しているところで……,」

真っ赤な燃えるような髪,せいかんな顔だち.

「火遊びしてんじゃねぇ!」

青年のたくましい体が炎に包まれた!


「うわぁ!?」

「に,逃げろ!」

王都の街に,もう一頭の幻獣が現れる.

炎をまとう竜は天まで駆け上がり,そして街を燃やしつくそうとする竜と対峙した.


どれだけの魔力があろうとも,魔法の成功のかぎは意志の強さが握る.

今,王都を混沌の渦におちいれている竜は,ただ荒れ狂っているだけで意志など持たない.

「後でたっぷりと説教してやるからな!」

イスカの操る幻獣が真正面から,ぶつかりにゆく.

すると巨大な体を持った竜は簡単に霧散してしまう.

しかしエネルギーの残りかすが,さらに強く屋敷を燃え立たせた.


「……国王陛下.」

この騒ぎの中を,国王リフィールはなかなか自室から出てこなかった.

さすがに怪しんで,王宮騎士たちは部屋の外から主君を呼びかけるのだが返事はない.

王城の廊下で,王の仕え人たちは困惑した顔を合わせた.


「部屋の中に入ろう.」

一人の兵士が思いきって提案する.

彼はイスカに「親父の様子を見に行ってくれ.」と頼まれた兵士である.

「いや,しかし……,」

ほかの騎士たちはちゅうちょする,許しなく国王の部屋の扉を開けるわけにはいかない.

「緊急事態だ.」

一歩前へ出て,彼は震える手で大きな扉のノブをつかんだ.


「陛下……!?」

扉を開いた瞬間,彼は自分の考えの正しさを知る.

国王リフィールが,胸を押さえベッドのそばで倒れこんでいた.

「だ,誰か,医師を!」

「陛下,お体が……!?」

国王の額には苦痛のために汗の玉が浮かんでおり,顔色は真っ青であった.

「陛下…….」

扉を開いた兵士は立ちすくむ.

この国は国王の力によってなっているのだ.

カリスマ性を発揮して,独裁的に国を動かしてきた国王.

代わりなど,いるはずがない……!


「われらの祈りを聞きとげよ,天からの慈悲を,」

幻獣を静めて,イスカはすぐさま呪文の詠唱に入った.

青年のそばで幻獣同士の戦いに見入っていた王都の住民たち,家から焼け出された貴族たちははっと顔を見合わせて,そして青年の魔法に同調してゆく.

「天と地を結ぶ糸,卑小なる身を凍らせる水,」

兵士たちがまわりの家屋を次々と破壊してゆくが,炎の燃え移るスピードにはかなわない.

「われ,今ここにこいねがう!」

どぉん! と稲妻が光る.

次の瞬間,滝のような雨が降り出した.


「おぉ,……助かった.」

「雨が……,」

どしゃぶりの雨の中で,人々が歓喜の声を上げる.

大量の雨により,火の勢いが急速に弱まってゆく.

「イスカ殿下,ありが,」

しかし礼を言われるべき青年は,人々を置いて走り出す.

「殿下,どこへ!?」

「犯人を見つけ出す!」

青年はいまだ炎がくすぶっている屋敷へと向かった.


犯人は,……サリナだ.

青年の瞳にはあせりの色が濃い.

あのような魔力の持ち主など,そうそうにいるはずもない.

「なぜだ?」

同じく魔法を唱えて消火活動をする兵士たちの間をすり抜けて,イスカは問題の屋敷へとたどり着く.


サリナはライムとともにマイナーデ学院にいるはずだ.

いや,今ごろはすでに,ライムやスーズとともに王都へと向かっているはずにちがいない.

犯人がサリナでなければ,まさかサリナほどの魔力を持つ王の隠し子がティリア王国と手を結んでいるのだろうか?

過去にこの国を裏切った元第二王子のように…….

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