磁器の虚飾、重なり合う冷徹な襞
その街の境界、貴金属店のショーウィンドウが冷たく街灯を弾く場所に、その「オーガニック・デリ」は真珠のような淡い光を放っていた。
今回、ハイヒールの音を鋭く響かせて入ってきたのは、ファッション雑誌の編集長を務める女性、冴子だった。
冴子は、完璧主義者だった。彼女にとって「美」とは、一切の隙がない構築物であり、他者の視線を圧倒する武装だった。最新のブランド、最高級の宝石、そして一分の狂いもないメイク。しかし、彼女の心は、どれだけ着飾っても満たされない「乾き」に蝕まれていた。
「……安っぽいもの、雑なものが許せないの。世界はもっと、洗練された静寂に満ちているべきだわ。私自身も、誰にも触れられないほど気高く、磁器のように滑らかで、冷ややかな存在になりたい。この不潔な日常から、完全に切り離されたいのよ」
冴子磁器の虚飾、重なり合う冷徹な襞の指先は、常に何かを品定めするように細く動き、その瞳は、美しいもの以外を映すことを拒んでいた。
店主の男は、冴子の冷徹な、しかし飢えた瞳をじっと見つめ、カウンターの上に「それ」を置いた。
「気品、ですね。暗闇の中で純白を保ち、外の世界を拒絶して自らを層にする……でしたら、これをお試しください。苦さを誇りに変えた、冬の女王です」
店主が差し出したのは、不気味なほどに白い、小ぶりな砲弾のような形をしたチコリだった。
それは野菜というよりは、象牙を薄く削り出した工芸品、あるいは貴婦人が畳んだ扇のようにも見えた。葉先はわずかに淡い黄色を帯び、そこからは冷たい霧のような、清涼で鋭い香りが漂っていた。
「『クリスタル・ラグジュアリー(氷結の贅)』。これを、一枚ずつピンセットで剥がし、氷水にさらして一欠片ずつ飲み込んでください。あなたの体温は下がり、その肌は、どんな光も通さない完璧な盾となるでしょう」
冴子は、恍惚とした表情でそのチコリを持ち帰った。
彼女は部屋の照明を極限まで落とし、銀のトレイの上に氷を用意した。
カチ、カチ。
ピンセットで葉を剥がすたびに、静謐な部屋に小さな、乾いた音が響く。
氷水で冷やされた一辺を口に含む。
「っ……」
……痛いほどの苦み。
それは瑞々しさの裏側に隠された、神経を逆なでするような「拒絶の味」だった。
しかし、飲み込んだ瞬間、冴子の心を満たしていた焦燥が、氷の膜を張るようにして鎮まっていった。全身の血流が静まり、肌の表面が磁器のような滑らかさを帯びていく。
「これよ……私は、この『冷たさ』が欲しかったの……」
変化は、まず彼女の「質感」に現れた。
翌朝、冴子が鏡を見ると、自分の顔から「毛穴」が消えていることに気づいた。
肌は白く、硬く、光を鈍く反射している。指で叩くと、肉の音がせず、薄い陶器を叩いたようなコン、コンという高い音が響いた。
しかし、美しさは彼女から「動き」を奪い始めた。
三日目。
冴子の背中や胸から、新しい「葉」が芽吹き始めた。
それは彼女の皮膚を覆うように、幾重にも、幾重にも重なり合い、フリルのような襞を作り上げていった。その葉は驚くほど薄く、しかしガラスのように鋭く、不用意に触れれば自分自身の肉を切り裂きそうなほどだった。
五日目。
冴子は、もはや横たわることができなくなった。
身体を曲げようとすれば、重なり合った「磁器の葉」が互いに干渉し、耳障りな不協和音を立てるからだ。
彼女は、自室の真ん中で、一本の「白い彫像」のように直立したまま、自らの変容を見つめていた。
彼女の意識は、もはや感情ではなく、一つの「層」へと集束していた。
一枚剥がせば、また次の葉。また剥がせば、さらに白い葉。
彼女の肉体は、内側へと巻き込まれ、中心に向かって凝縮されていった。
「……ああ……美しい……誰も……私を……汚せない……」
声はもはや、冷たい風が細い隙間を通るような音にしか聞こえなかった。
七日目。
冴子の肉体は、完全に「チコリ」へと置換された。
部屋の真ん中に、高さ二メートルに及ぶ、巨大で、しかし繊細な「白い塊」。
そこには、かつての冴子の顔を思わせる冷徹な輪郭が、重なり合う葉の隙間に、永遠に固定されていた。
彼女は究極の気品を手に入れた。
しかし、その中心には、もはや心臓も、温かい血も残っていなかった。
あったのは、ただひたすらに重なり、自分を隠し続けるための、冷たくて、どうしようもなく「苦い」虚飾の層だけ。
数週間後。
連絡の取れなくなった編集長を心配した部下たちが、部屋を訪れた。
そこにあったのは、家具一つない、一面が白い粉雪のような「破片」で覆われた部屋だった。
中央に鎮座する、人間ほどの大きさがある純白の塊。
一人が、そのあまりの美しさに魅了され、震える指で表面を撫でようとした。
その瞬間。
パリン、と。
繊細な音を立てて、塊は一気に崩壊した。
何万枚もの「白い葉」が、鋭い破片となって床に散らばり、後に残ったのは、中心まで何一つ詰まっていない、空っぽの抜け殻だけだった。
店主は、今日もエプロンの上に付着した、白い磁器のような破片を、静かに指で弾く。
「飾りすぎた美しさは、自らの重みで砕け散ります。さて、次は……自分の姿が醜くて、他人に顔を見せたくない。泥の中に潜んで、誰の目にも触れずに生きていたい……そんな、卑屈な魂に。泥を噛み、全身に土の記憶を刻んだ『ゴボウ』などは、いかがでしょうか」




