セーラー服の帰り道、受け継がれる秘密
三者面談の当日。和美は母親と肩を並べて、教室の前に置かれたパイプ椅子に腰掛けていた。
和美の成績は学年トップとまではいかないものの、常に平均以上の位置をキープしている。その上、部活動では新体操部の部長を務め、校内外での評価も高かった。「内申点はかなり高いですよ」という担任の言葉通り、地元の高校の選択肢はかなり広かった。
「面影さんの実力なら、伝統ある桐栄女子の高等部も十分に選択肢に入ってきますよ」
担任の先生が資料を指さしながら教えてくれた。しかし、新体操での推薦進学をすでに断っている和美にとって、桐栄女子高への進学はあまりピンとくるものではなかった。
「他の高校は、どんな感じでしょうか?」
「そうだね。面影さんの成績なら、トップランクの進学校以外ならどこへでも狙える位置にいる。だからこそ、これからは高校の校風や、自分のやりたい活動に力を入れているかどうかで選んだらどうだろう。……ここに第三希望まで書き込める用紙があるから、よく考えて来週の木曜日までに提出してくれるかな」
「分かりました。ありがとうございます」
面談を終え、校舎を出る。夕暮れ時の穏やかな光が差し込む通学路を、お母さんと二人きりで並んで歩くのは、考えてみればこれが初めてのことだった。
「こうやって、お母さんと並んで学校から帰るのって初めてだね」
和美がぽつりと言うと、お母さんは愛おしそうに和美の横顔を見つめた。
「そうだねえ。入学式の日に、ぶかぶかのセーラー服を着て緊張していた和美のことを考えると、なんだか感慨深いものがあるわ」
「ふふ、そうよね。私、このセーラー服に憧れてこの中学に進学したんだもん。もうすぐお別れかと思うと、ちょっと寂しいな」
他愛のない思い出話に花を咲かせていたが、ふと、お母さんの声のトーンが少しだけ真剣なものに変わった。
「ところで、和美。……高校へは、男子として通うの? それとも、女子として通うの?」
核心を突く問いだった。和美は歩みを緩めることなく、真っ直ぐ前を見つめたまま言葉を紡ぐ。
「そのことなんだけどね……最近、よく考えていたの。男子として学ランを着てズボンを履いて高校に通う自分を想像してみたの、でもどうしても『女の子が男装している姿』にしか思い浮かばなくて。心が完全に女の子になっちゃったみたいで、もう、男である自分を受け入れることができなくなっているの。だから、高校は女子として通う。……それに、多分この後の人生も、ずっと女性として過ごすことになるのかなって思ってる。
男の子の和巳に悪いなっては思うのよ。私が和美の人生を選ぶという事は和巳という自分を捨てることになるから、でも何かを捨てなくては先に進めないから」
和美が自分の心と向き合って出した答え。それを聞いたお母さんは、驚く風でもなく、深く深く頷いた。
「なるほどね。それが和美の選択なら、私は全面的に受け入れるわ。……だってね、こういうお母さんだって、元々は男の子として生まれて、女の子になって、そうして今のあなたのお母さんになったんだから」
「……え?」
和美の足が、ピタリと止まった。今、信じられない言葉が耳を通り抜けていった気がした。
「ちょっと待って。今、なんか聞き捨てならないことを聞いた気がするんだけど……お母さん、元々は男の子だったの!?」
「そうよ? 今の和美と全くおんなじ感じ」
お母さんは事もなげに、まるでお天気の話でもするかのように微笑んでいる。
「そんなこと、今まで一度も聞いたことないよ!」
「ふふ、だって話したことないもの」
「お、お父さんは……お父さんはそのこと知っているの?」
混乱する和美の問いに、お母さんは「もちろんよ」と優しく笑った。
「プロポーズされた後にね、面影家の『異能』の話と一緒に、私の過去のことも全部お父さんに話したわ。お父さん、最初はそりゃあひっくり返るくらいびっくりしていたけれど、最後はちゃんと理解してくれたわよ」
夕暮れの街並みの中、発覚した驚愕の新事実。
和美は呆然としながらも、自分と同じ道を歩み、そして今こうして誰よりも優しく強い「母親」として目の前に立っている人の姿を見つめた。
男として生まれ、女として生きる。その先には、こんなにも温かい家族の未来が待っているのだ。
驚きが静かに腑に落ちていくと同時に、和美の胸の奥に、自分もいずれ誰かを愛し、お母さんのような母親になるのだろうかという、まだ見ぬ未来の景色がふっと浮かんできた。




