夏祭りの選択
今日は待ちに待った夏祭りの日。盆踊りの櫓が組まれ、夜には打ち上げ花火が夜空を彩る。
「今日は浴衣を着たいから、女の子」
和巳がそう宣言すると、柔らかな光に包まれるようにして身体の線が細くなり、和美へと姿を変えた。
「まあ、和美ちゃん。今日も可愛いわね」
お母さんに手伝ってもらい、色鮮やかな浴衣に身を包む。鏡に映る自分を見て、和美は満足そうに微笑んだ。家族で連れ立って歩くお祭りの夜は、女の子モードで過ごすのが和巳——いや、和美の密かな楽しみだった。
一方で、日常の選択は現実的だ。
「今日はサッカーの授業で走り回らなきゃいけないんだ」
そんな日は、迷わず男の子モードで登校する。元々が男の子であるため、普段は学校では「和巳」として過ごしているが、お祭りの浴衣のように「女の子ならではの衣装」が絡むときは、家族の期待もあって「和美」として振る舞うことが多かった。
しかし、この便利な異能にも苦労(副作用)はある。
以前、女の子モードで海水浴に出かけた際、うっかり女子用水着の「日焼け跡」をクッキリと残してしまったのだ。
週明けには学校で男子としてプールに入らなければならない。和巳は必死だった。
庭先で水泳パンツ一枚になり、不自然な水着の肩紐の跡を消すために太陽の下で必死に肌を焼き直す……。そんな涙ぐましい努力が必要になるのも、面影家の跡継ぎゆえの宿命なのだろう。
和美として浴衣の裾を揺らしながら、和巳はふと思う。
(次からは日焼け止めをしっかり塗っておかないと……)
夜空に大輪の花火が咲く中、彼は二つの自分を器用に使い分けながら、賑やかな夏の一日を謳歌していた。




