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来島梨々花

「聖女譚」。私が人生を捧げてもいいと思えるほどの好きな人が出てくる、世界でいちばん大嫌いな物語だ。


ヴィクトール・ル・シュバイツァ。私の大好きな人。一応2次元。

「聖女譚」は元々ネット小説サイトで連載されていたライトノベルだった。凄まじい人気で、書籍化、漫画化、アニメ化まで果たした。


世間は概ねこの話の主人公に好意的だ。けれど私は大嫌いだった。

偽善的で、傲慢。自分が正しいと思ってるから。


ヴィクトール様の繊細な葛藤と苦悩には気にもとめず、ただ境遇に同情するだけ。薄っぺらい。


流行りの悪役令嬢転生物みたいに私も転生しないかなって思っていた帰り道、車に引かれて死んだ。


人生最大の不幸は死んだこと。人生最大の幸福はヴィオレッタに転生したこと。


ヴィオレッタは主人公を虐める悪役令嬢。王太子の婚約者で最後は糾弾されて、国外追放になる。お決まりの役。


私も流行りの悪役令嬢転生物みたいに、周囲の好感度を上げつつ、大好きな悪役を助けて、最後は偽善者のヒロインに辛い思いをさせられる。


なんて、そう思ってた。ヴィクトール様は物語と変わらなかった。魔族と人間の間で揺れ動く繊細な人。

だから、仲を深めるのに時間はかからなかった。彼のこと私だけがわかってあげられる。


でも、ヴィクトール様のクーデターが告発されて、裁判になった。彼はそんなつもりは無かったのに。やっと人として生きる覚悟を決めてたのに。もっと早くに転生してれば、子供の頃とかに転生してれば、私がクーデターを止められたのに。


そしたら、もう喋るなって。惨めにさせるなって。どういうこと?


ヒロインのエリスは相変わらず偽善者だ。ヴィクトール様のことを助けてはくれないのに、自分が正しいみたいな顔をしてる。


ムカついた。そんなら本物の悪役令嬢になってやろうって殺そうとした。


裁判になってどうにでもなれって思った。でも読み上げられる罪状の殆どに身に覚えがない。

おかしい。こんなの「聖女譚」には書いてなかった。


もしかしたらエリスも転生者なんじゃないかって思って話がしたくて、呼んだけど一度も来てはくれなかった。

その代わりに魔王が来た。魔王なんてものも出てこなかったけど、設定としてはあったのかな?


私はこの世界が物語であることを魔王に伝えた。魔王ならわかってくれると思った。


でも、馬鹿にしたように笑うだけだった。


魔王が言った。この世界以外にも世界が無数に存在してるから、この世界に似た創作話がどこかの世界に存在しても不思議じゃないかもしれないと。


断頭台の上で必死に考える。

私は「聖女譚」に転生したんじゃないの?

もしかして、ここは物語の中じゃなくて現じ────


読んで頂きありがとうございました。

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