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中編

目が覚めたら、10歳の時に戻っていた。神殿で暮らし始めるちょうどその日に。


もし、神様がくれたチャンスならば、私は今度こそ上手くやってみせる。


幸い神聖力は1度目と同じくらい強かった。私は真面目に修行することを辞めた。


神殿内は派閥争いが酷い。未来を知っている私は、将来神殿長になる、まだ幼い男の子の味方になった。名前はルート。


ルートは男爵家の三男で、入ってきた当初身体が小さく、神聖力も弱かった為虐められていた。

彼は成長すると、属国である島国に配属された。その島国には疫病が蔓延していた。

彼はその疫病を見事根絶し、帝国で流行った病を治めたことで、神殿長にまで上り詰めた。


1度目は彼と殆ど関わったことがなかった。1度だけ虐めを庇ったくらいだ。

その時に、彼に見当違いなことを言った気がするが、瑣末なことだろう。


私は彼のことを知って程なくして聖女になり、戦場に送られた。私が神殿に戻って学園に通う頃にはもう、彼は島国に行っていた。


だから彼のそばにいるために、島国の疫病を速やかに根絶することにした。


ルートは元々製薬が得意だった。だから、私は彼を、虐めや他の神官や聖女のやっかみから遠ざけ、製薬に専念できる環境を作った。


そのために色々なことをした。彼を虐めていた人を神殿から追い出し、彼の邪魔をした神官や聖女を失墜させた。


その甲斐あって、疫病の特効薬は1度目よりも早く出来上がった。


その頃には神殿は綺麗になっていたので、公の立場から特効薬を島国に送ることができた。


その功績で彼は早い段階で神官になった。


その頃に私は戦場へ送られた。ルートは大分反対したそうだけれど、私はその方が都合が良かった。


魔族領と帝国領の境にある平野。足を踏み入れたものは皆死んでしまうというその平野は、1度目と変わらず血の匂いがした。


魔族との戦いの最前線であるそこには傷ついた兵士が沢山いて、誰もが聖女を待ち望んでいた。


だが、私は帝国陣営には立ち寄らず、その足で魔族領へと向かった。


「貴様のような人間がどこから入った。」


首元に武器を当てられながら、1人の魔族からそう聞かれた。


私は微笑む。


「もちろん。正面から。」


魔族陣営のテントの前にいる魔族全員が武器を構えた。

私は眼前にある槍の刃先を指先で下に向ける。


「私があれだけの魔族達を無傷で突破できる手段を持っているとわかっていての行動かしら?」


「そうだとしてもここで貴様を殺す。」


「そう、貴方も眠りたいのね。」


神聖力を使えば相手を眠らせることができる。ここにいる魔族を全員眠らせることなんて容易い。


私が神聖力を使おうとすると、後ろから笑い声が聞こえた。


「それは、私がいると知っての行動だろうか?帝国の聖女。」


圧倒的な存在感と魔力を纏ってゆっくり歩いてくる。私は彼に会いに来た。


1度目の時のこと。帝国領に魔族が侵入しかけた時があった。

帝国陣営は多大なる被害をうけて、沢山の死者が出た。私も戦場で一睡もせずに怪我人を治療し続けた。


帝国側は、魔族側に休戦を依頼した。その際に、その時の陣営には魔王がいた事がわかった。


私がここへ来てまもなくのことだった。


私は今ここに魔王が居ることを知っていた。私はこの男に話をしに来たのだ。


「皆武器を下ろせ。」


「陛下!」


「下ろせ。」


「はっ。」


彼の声で魔族は一斉に武器を下ろす。


「それで、帝国の聖女。何が目的だ?」


「話が早くて助かりますわ。私、この戦争を終わらせます。ですので、その協力をして欲しいのです。」


魔王は私の言葉に目を見開いて、それから笑った。


「御大層な望みのようだが、どのように終わらせる?数百年も続いたこの戦争の始まりさえ忘れられているのに。」


この戦争の始まり。魔族がひとつの村を襲い、村民を虐殺した事件。

歴史の教科書にはそう書かれていた。


この戦争が始まる前までは、魔族との交流は細々であったが、確かに行われていた。


その村も、そのひとつだった。


村にはよく魔物が現れていた。村民のひとりが魔族を魔物と間違えて殺してしまった。


だから、その魔族の父親は女子供残らず村民を全員殺し、村を焼いた。


それが、魔族と帝国の戦争の始まりだった。


私は1度目の人生に、そのことを魔族のひとりから聞いた。その人は村を焼いた魔族の孫だった。

そのひとは祖父のやったことを非難していた。当時もそうだったらしい。だから、当時の魔王は、その魔族を帝国の裁判にかけ、処刑させた。

それでも、帝国民の怒りは収まらなかった。

根本的に、魔族のことを畏怖し、排除したがっていたからだ。

魔族は魔物であるという定説が広まる前から、魔族のことをどこか理解できない存在にしようとしていた。

だから、魔族を良くは思わない存在。とりわけ、神殿には好都合だった。

魔族は神を祀らない。大陸で広く信じられている我々の父の存在も、彼らは信じてはいなかった。


神殿はある演劇を上映した。それは、魔物を魔族が操り、それを憂いた我が父が人間に力を授け、魔族を打ち倒すというものだ。


神殿は魔族を敵にするのと同じに、魔族が扱う魔力とは違う、人間が独自に持っていた力を神聖視させようとしていた。


それこそが今、神聖力と呼ばれるものだ。


この頃から神殿は神聖力を持つ子供たちを集め、神聖力が強い男を神官、神聖力が強い女を聖女として祭り上げはじめた。


私はこの事実を神殿の禁書庫にある、神殿長の日記で知った。


最初から聖女というものは、戦争の為に作り出された存在だった。


魔族と帝国の確執は、ひとりの魔族の罪から始まり、神殿によって大きく深くなった。


「それは、あなた達から生まれた罪を、我が父の代弁者たる神殿が罪深くも利用したことかしら。」


私の言葉に魔王の笑みが深まる。


「して、どうする。神殿はお前達の指針なのだろう?最も、神殿をどうにかしたところで解決するような問題では無いが。」


確かに、今更神殿を告発したところで、不敬神で私が神聖裁判にかけられるだけだ。

それに、信仰は弱いものの心の拠り所だから無くすつもりもない。


「仰る通りです。真実ではなく人は都合のいいことを信じますもの。だから、魔族との戦争を終わらせる方が都合いいようにします。」


「どうやって?」


「簡単な話です。敵をつくるのです。魔族と帝国民の共通した敵を。」


かつてヴィオレッタがそうしたように。


1度目、あの告発が上手くいったのは、告発者であるヴィクトールとヴィオレッタが聖女と当時の国王を、魔族と帝国双方の敵にしたから。


今度は私が同じことをあの人たちにする。ヴィオレッタはヴィクトールが反乱を計画していることを零していた。


戦争に行く前に、私はヴィクトールのことを探った。彼が魔族と人間の混血であることは暗黙の了解だった。

そして、彼が反乱を起こそうとしている証拠を掴んだ。

彼が混血であることから虐げられていたことには同情するが、だからと言って帝国民を巻き込んでいい理由にはならない。


計画は最終段階まで進んでいたが、ヴィオレッタによって止められていた。けれど、起こそうとしていた事実は変わらない。

私はそれを利用することにした。


「帝国にいる魔族と人間の混血が、魔族の名を騙って反乱を起こそうとしています。ですので、私と一緒にそれを告発して欲しいのです。」


ヴィクトールは自分を魔族として認めて貰うために反乱を起こそうとしていた。それは、魔族にとっても余計なことだろう。そのようなことをすれば、帝国側に魔族を攻める大義名分を与えてしまうようなものだから。


「魔族が魔物ではないことを、神殿に発表して貰います。それも、演劇という形で広く広まるように。」


魔王は、面白そうに笑った。


「そのようなことが神殿に出来るのか?」


「ええ、新しく神殿長になる方は聡明ですから。」


魔王の笑みが深まった。今の神殿長はかろうじて内部告発を免れただけで、元は欲深く、他責的な性格をしている。

直に、ルードが、彼を正式に帝国の裁判にかけて、過去の罪を償わせる。そして、ルードが新しい神殿長になる。


そうなれば、神殿から魔族は魔物ではなく、我が父が見守っている存在であることを広まらせることができる。


世俗が戦争に否定的になれば、利益のために戦争を望んでいた一部の貴族や商会は表立って活動できなくなる。


そのような時に反乱の告発。世論は反乱を起こそうとしたヴィクトールを責めるだろう。

魔族にとっても、帝国民にとってもヴィクトールは敵になる。


そして、最後にヴィオレッタの生家ファルシエール家の罪を暴露する。


「魔族を奴隷として売買している帝国貴族をお教えします。反乱の告発が終われば、あなた方の法で彼らを裁いてください。」


ファルシエール家は魔族を奴隷として売買していた。それに関わっている貴族は全員魔族との戦争を望んでいる。


反乱の告発を外部のものになされたことによって帝国側の立場が弱くなる。その折に、ファルシエール家の奴隷売買の罪を問う。

これ以上立場が弱くならないように、帝国側はファルシエール家を裁くだろう。


魔族が魔物でなく、我々と同じ父の庇護下に入っていることが広まっている以上、魔族を無下には出来ず、これ以上戦争も続けられない。


極めて魔族は有利に和平交渉ができるだろう。和平交渉の条件として、ファルシエール家の処分を一任すればいい。


そこまで私が魔王に話すと、彼は微笑んだ。


「わかった。この話に乗ろう。」


半信半疑であった魔族達はそれぞれ異議を唱えたが、魔王はそれを抑え、私と私的に契約してくれた。


魔力で相手同士の魂を縛るその契約は何よりも強力だった。


私は休戦協定の書類と共に帝国陣営に戻った。この場の最高指揮官である、オルヴィス将軍に、魔族が魔物ではない証拠の映像石を見せ、休戦協定に同意するように求めた。


将軍は思慮深い人で、すぐさま同意の旨を伝えた。

将軍が休戦協定の書類を帝国に送ろうとするのを私は止めた。これが公になるのは今はまずいからだ。


将軍は私のような小娘の言葉にも、耳を傾けてくれて、休戦を下手に公にすると、将軍が罪に問われる可能性があること、将軍の生家である大公家が批判の的になることを理解してくれた。


そうして、秘密裏に魔族との休戦協定が結ばれた。


間もなくして、前神殿長の悪事と共に、神殿長が交代した知らせが届いた。

予想通り、新しく神殿長になったのはルードだった。


世論がルードに肯定的になるまで、しばらく待ち、私はルードに手紙を送った。


内容は魔族が魔物ではないことを発表して欲しいというのもの。


魔族が魔物がどうかに以前から疑問を抱いていたルードはすぐさま調査をしてくれて、瞬く間に証拠とともに公表してくれた。


直ぐに様々な研究者が研究し、魔族が魔物ではない事実が裏付けられていった。


そして、神殿は魔族も我が父の庇護下にあるという内容の演劇を上映し、それは徐々に民衆に広まった。


停戦を求める声を無視できなくなった帝国は魔族に対して停戦を提案。実は、オルヴィス将軍と私の手によって、実質的な停戦がなされていたことが分かり、オルヴィス将軍は先見の明があると讃えられ、私は名実ともに帝国の聖女となった。


魔王は使者を遣わして、和平交渉に望んだ。その際に、証拠とともにヴィクトールの反乱を告発。

外部のものに内乱を告発されたことによって帝国内は動揺した。


そして、ファルシエール家の魔族の奴隷売買の件で圧力をかけることにより、魔族側に優位かつ、帝国民の反感を買わないような和平条約を成立させた。


ヴィクトールは魔王の立ち会いの元、裁判にかけられた。

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