記録は、裁かれる
夜が明けるころ、三人を乗せた馬車はテルミドールの街に入った。
行政首都であり、新聞社の街でもあるこの都市は、いつもなら朝刊を手にした人々で賑わう。
だが今日だけは、通りにざわめきが満ちていた。
「見ろよ、保衛委員の行列だ」
「また“記録違反”の者が出たらしい」
「噂じゃ、女でも子供でも容赦しないって……」
通りすがる声が、アンダイエの耳に鋭く刺さる。
窓の外、広場の中央には白布で覆われた巨大な円形の壇が設けられていた。
壇の縁には金属製の柵、上部には真鍮の拡声器。
そこに刻まれた銘板にはこう書かれている。
〈臨時審問会場 記録保全法に基づく公開審査〉
――仮設の法廷。
瓦斯灯に照らされたその光景は、まるで舞台劇の幕開けのようだった。
兵士が扉を開き、三人を引きずるようにして壇上へ連れ出す。
傍聴席には役人、新聞記者、市民、そして学生までが集まっていた。
カメラのフラッシュが閃き、記録用の魔導式留音器が回り出す。
ティラナ・アレグリアがゆっくりと壇の上に立った。
黒と紅の礼装、まるで裁判官と俳優のあいだのような佇まい。
紅い瞳が広場全体を見渡し、やがて観衆に向けて告げた。
「本日ここに、記録保全法に基づく臨時審問を開廷します。対象は、消された名を再び記した者――アンダイエ・シュティ。彼女が触れた“記録”の正体を、我々は確かめねばなりません」
静まり返った空気の中で、アンダイエは自分の胸の奥に、微かな震えを感じていた。
それは恐怖ではなく、記録を守る者としての決意に似ていた。




