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秋の終わりと木枯らしと②

「38度か……」



気怠い身体にうんざりしながら、俺はベッドの上で横になりつつ体温計を見る。




「……」



午後の授業を気合いで乗り切り帰宅した俺は、速攻でベッドに入って眠りについたが、やはり熱は下がらなかった。身体がだるく、何もする気にならない。寒気を感じるのに部屋着はもう汗ばんでいる。幸いな事に食欲はあるのだが、しかし何も作る気が起きない。




「ん……?」




携帯が震えるとそれは菜月からだった。メッセージを確認すると菜月がぐるぐるバッドでふらふらになり、友達と呑気にはしゃいでいる動画が送られてきていた。




「……」




俺はそっと携帯を枕元に置いた。普段なら何かしらの返事をしてる所だが、今はとてもじゃないがそんな気分ではない。つかなんなんだあいつマジで……腹立つな……。




「明日は休みだなこりゃ……」




時刻は19時を過ぎている。もうこの時間だと近所の病院もやってないし、明日学校を休んで、病院に行くしかない。




「あぁ……」




こんな本格的な風邪なんて、いつ以来だろうか。少なくとも、中学校に上がってからまともな風邪なんて引いてない気がする。それともなにか食当たりでもしたのだろうか。いや、変なものを食べた記憶もない。




「水……」




とりあえず寝汗をかき過ぎて、喉が渇いている。立ち上がると、自分の身体なのに別人のように身体の節々が強張っていた。俺はそんな身体を引きずって台所へと向かう。




「はぁ……」




台所で水を一口飲んで食材の棚を見渡すも、こんな時に限って軒並みインスタント食品を切らしている。冷蔵庫の中に食材は入っているが、今の体調では包丁を持つ気すら湧かないしそもそも、調理するにも流し台に溜まった鍋やフライパンを洗うところから始めなければならない。




「……」




もう良い。今日のところは水だけ飲んで、寝てしまおう。夜飯を抜いたくらいで死ぬわけでもないのだ。とてもじゃないが飯を作れる気分じゃない。そして俺はコップを手に取り再度、水道から水を出そうとした、その瞬間。




「……はぁ」




部屋中にインターホンの音が響き渡る。




「誰だよ……」




俺はうんざりしつつ玄関のモニタを確認した。




「は……?」




凛とした切長な瞳に、綺麗なポニーテール。そこには学校帰りなのか、制服姿の真夏のいた。俺は急いで、マイクをオンして、




「どうしたよ」

「恭二、ひとり?」

「あぁ」

「開けてよ」

「風邪移るぞ」

「良いから」




淡々と答える真夏に俺は急かされつつ、玄関へと向かい扉を開ける。




「やっほ、恭二」

「……」




スクールバックを肩に掛け、手提げ袋と共に、真夏が家の中に入ってくる。真夏は玄関で靴を脱ぎつつ、




「あ、汗かいてる」

「寝てたんだよ……」

「熱は?」

「38度」

「え、高いじゃん」




何も気にせず家に上がる真夏に俺は、




「いや、つか誰から聞いたんだよ……」

「信道君。昼休みにね、恭二体調悪そうだって」

「あいつ……」

「家近いし、真夏ちゃん頼んだ! って」



信道の奴……いらん心配しやがって……。




「ご飯は?」

「食ってねぇ……」

「そう。雑炊で良いでしょ? 色々食材持ってきたけど」

「あぁ……」

「じゃあ、作るから。恭二は休んでて」

「悪ぃ……」




少し申し訳なく思うが、今の体調では背に腹はかえられない。大人しく真夏の言葉に甘える事とした。制服のスカートをなびかせつつ、キッチンへと向かう真夏の背中を見送り、俺は自室へと戻った。




★☆★☆★☆★☆




ベッドで寝ている中、廊下から真夏の足音が聞こえる。



「恭二?」

「あぁ」



俺が返事をすると真夏がおぼんを持って部屋に入ってくる。俺が身体を起こそうとすると、




「寝たままで良いから。辛いでしょ」

「……」




正直、先程よりも肩や首周りも強張ってきて、しんどいのは確かだった。しかし、起きなければ食べられない。せっかく真夏が作ってくれたのだ。俺はあまり言う事の聞かない身体を強引に起こす。




「なに? 寝てて良いよ恭二」

「飯食えねぇだろ」




と、そう言うと真夏はそのポニテを揺らしながら優しく微笑み、俺のベットの片隅に持っていたおぼんを置いて、




「大丈夫。食べさせてあげるから寝てなよ」

「いや、そこまでじゃねぇから」

「良いからほら、大人しくしてて」




そう言って、半ば強引に横にさせられてしまった。料理をして少し暑いのか真夏が制服のジャケットを脱いでいるなか俺は、




「ったく……たかが風邪で心配し過ぎだっつの」

「だって好きな人だし、そりゃ心配くらいするでしょ」

「……」




なんつー返ししてくんだよ……恥ずかしいな……。つか、気まずいしよ……。すると、俺の気持ちが透けて見えているかのように真夏は笑いながら、



「でも、風邪なんて久しぶりだよね恭二」

「あぁ……」

「やっぱり運動不足じゃない?」

「帰宅部だしな」

「ならさ放課後、私と一緒に走ろうよ」

「真夏のペースについて行けるわけねぇだろ」

「ふふ……」




風邪を引いていても、反射的にツッコミを入れてしまう自分が馬鹿らしい。すると不意に雑炊の良い匂いが鼻を抜けた。熱や喉の痛みがあるものの、鼻詰まりがないのは幸いだ。




「具沢山にしておいたから。恭二好きでしょ」

「あぁ」

「熱いかも」

「良いよ」

「ほら、口開けて」




真夏がレンゲを口元に近づけてくる。俺は口を開け、雑炊を頬張る。すると真夏と一瞬だけ何故だか見つめ合ってしまい、何だか小っ恥ずかしくなる。




「うん、美味い……」

「白だしで味付けちゃったけど、味噌の方が良かった?」

「いや、これで良い」

「そう、良かった」




口の中で溶き卵と大根の風味が広がる。土鍋のためか熱さが保たれ、かなり俺好みだ。すると頃合いを見て真夏が再度、れんげを口に持ってくる。恥ずかしいがもう今は何も考えないようにしよう。腹が減っているのだ。俺はその運ばれたレンゲを大人しく口に入れる。




「鶏肉、美味しい?」

「あぁ」

「てか相変わらず、恭二は熱々好きだよね」

「熱々なんてみんな好きだろ」

「そんな事ないよ、私は普通だし猫舌の人も多いよ」




そう言われた一瞬、何故だか分からないが脳裏に同じ熱々好きの南つばさが浮かんだ。




「水飲む?」

「いや、いい」

「そういえば、圭ちゃんには風邪引いた事伝えてないの?」

「あぁ」

「どうして」




真夏は落ち着いた表情と共に、その凜とした瞳を俺に向ける。そうだ、真夏の中では俺と圭が付き合ってる事になってんだもんな……。




「いや、別に」

「ふーん。なんか恭二らしいね、そういうの」

「俺らしいってなんだよ」

「ひょっとして、私が看病に来てくれるって思ってたとか」

「な訳ねぇだろ」

「あはは」




真夏の笑い声を聞きながら、雑炊の優しい味を噛み締めていると、




「だけど私、圭ちゃんに悪い事しちゃってるよね、きっと」

「……」

「勝手に彼氏の家に上がり込んでさ」

「いや、それは……」

「ううん恭二。私が言いたいのは、恭二がそれでも私を家に上げてくれたって事だから」

「……」




いや……そもそも俺と圭は付き合ってないんだよ真夏。つか、圭自体が俺なんだから……って言えたらどんだけ楽か……。




「義理堅い恭二の事だから、もしかしたら断られちゃうかもって覚悟してたんだけど」

「……」

「だけど恭二は、私の知ってる恭二のままだった」

「まぁ幼馴染だしな……。つか、そう簡単に人間なんて変わんねぇだろ」

「まぁ恭二の場合、良い意味でも悪い意味でもね。ふふ」




その綺麗なポニテを振るいつつ、真夏は笑う。ずっと昔から知っているこの笑顔を見ていると、なんだか不思議とこのだるさが和らぐような気がした。すると真夏は、何かを思い出したかのように、




「そういえばさ恭二、憶えてる?」

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