三兎を追う者は一兎をも得ず
今年最後の投稿です
「ねぇアル!!お味噌汁とかあるよ!?」
「こっちにはたくあん…それにヨモギ団子だよこれ」
「ねぇエリ!!私達が好きだったうなぎのかば焼きとかあるよ!?」
「ほんとだエル!!名前は違うけど全部同じだよ!!」
夜になるまでアズマ国を観光しているフェイナ、アルメラ、エルリ、ルエリは食べ物を提供しているお店に入って食事をしようとしていたのだが、日本で見た食品ばっかり並んでいるのを見て興奮を隠せていなかった。
厳密には素材は違うのだが、見た目や味がほぼ一緒でこの世界に来てから初めての和食を堪能していた。
しかも店員は明らかな大正ロマン…華々しい格好での接客でついつい店員を目で追ってしまう。
そして何より…ここでは日本人の様な顔立ちをしている人が多く、何故か安心する雰囲気が出ていた。
逆に四人はファンタジー色強めの美形なのでこの国ではいい意味で目立っていた。
だからと言って他種族がいないわけではないのだが、ほぼ日本人の様な顔立ちだった。
ちなみにエルリとルエリは背中の羽を透過させて、お人形さんの様な人間種に変装していた。
「ねぇねぇエル?ちーちゃんが起きたらここを拠点にしてもいいか聞いてみよ?」
「そうねエリ、これはちーちゃんに聞いてみるべき!」
「確かに…エルラシアの屋敷も別に悪くないんだけど…やっぱこっちの方がいいかなってウェイナちゃん的にも思うな~」
「私もそう思う」
そんな事を話していると店員の一人が会話に混ざってくる。
「本当ですか~?この国を気に入って頂けて嬉しいです~。結構、異国の方だと不便だとか、見た事もない食事に忌避感があるみたいで気に入ってくれる人はあんまりいないんですよ~」
「そういうお姉さんはここの出身じゃないでしょ~?」
フェイナが女性の店員の顔立ちを見て問いかける。
するとちょっと頬を染めながらある方向を向き、その視線を追うと一人の男性が目についた。
その男性もここの出身ではない顔立ちで、料理を作っては店員に手渡していく姿を見て納得する四人。
「なるほどねぇ…お姉さんは惚れちゃったんだ?」
「恋の原動力は凄い」
「おねーさんはあの人とお付き合いしてるのー?」
「おねーさんはあの人と結婚しているのー?」
四人から自分がここにいる理由をすぐに見抜かれた事に苦笑しながらも答えてくれる。
「ええ…私、冒険者だったんだけどね~?あの人と同じパーティーだったの~。だけどあの人はとっても変わっていてね~?」
人差し指を唇の前に立てて少しだけ声を抑えて言う。
「私達の知らない知識をいっぱい持っててここの国が故郷だって言うの~。あの人の生まれは海上王国アクエリアなのよ~?この料理も故郷の料理だって言うの~。それで前からあの人の事が気になっていたからついてきたら~…」
左手の薬指に嵌っている指輪を四人に見えるよう手の甲を向けて、
「気づいたらここに指輪が嵌ってて~、一緒にお店をやってるのよ~」
そう言い切った店員は指輪を見て昔を懐かしむような顔をした後に小さく手を振って別のお客の元へ向かって接客をし始めた。
その話を聞いた四人の目線は見事に店の奥で料理を作っている男性に固定された。
いつの間にか先程話していた店員さんがいない事にいち早く気付いたのはアルメラ。
そしてアルメラが止まった時間を動かすように口を開く。
「さっきの話…私達以外のプレイヤー…?」
アルメラの言葉に反応するのは男性から視線を外し、テーブルに並べられた料理を見つめるフェイナだった。
「プレイヤーの可能性があるね…やっぱり私達以外のプレイヤーはいたのか…」
そんなフェイナの疑問を増やしてしまう発言をするのは、料理の味を再度確かめながら声を抑えて言うルエリ。
「…プレイヤーの可能性もあるけど…そうじゃない可能性もあるよ、ね?エル」
ルエリに呼ばれた姉のエルリはそうじゃない可能性を考えながら誰かに聞かせるでもなく自分の思考を口から垂れ流す。
「プレイヤーじゃない可能性…異世界転生者…異世界転移者…可能性はある…私達が来たこの世界は《SL》だった頃から500年経ってる…ならその500年の間に転生者、もしくは転移者がこの国を作った…?そこから英雄症と言うのが出来た…?転生者ならきっと赤子から…なら転移者が英雄症を広めた…?でも何故、私達ダフネの十英傑のみが英雄視されてる…?っ!」
気付かず思考が漏れていたエルリはここが食事処で誰が聞いているかもわからない状況だというのを忘れていて思わず両手で自分の口を塞ぐ。
エルリの思考を聞いていたフェイナは顎に手を当て、足を組みながらエルリとルエリに提案する。
「…確かに気になるよね…だけど、今はそれを確認している暇は私とアルにはないからエルとエリでその辺も追加で調べてもらっていいかな?後、出来れば私達プレイヤーが使う物理系スキルを転生者、転移者が使えるかどうか、戦力的にはどうなのか…そういう所も出来れば調べて欲しいかな?」
フェイナはそう言った後一度大きく息を吸い、そんな事がないといいんだけれど…と言いながら人差し指を立てて続ける。
「もし、もしもだよ?…私達に敵対するそういう存在が出てくるかもしれない…だからエルとエリが調べた情報を基準として、今後の脅威となりうるかどうか見極めたい」
プレイヤーが使える物理系のスキル…千棘が一度フェルミットの一件で図書館の地下にあった分厚い扉を吹き飛ばした『コメットストライク』や、フェイナの『シャットシェル』、海上王国アクエリアで魔族との戦闘に使った『ショルダーペイン』、『シャドウスタンプ』はこの世界の住人には扱えない技術だった。
以前、ユリスに両手に短剣を持つときに使える『ダガーダンス』という10連撃のスキルを教えてみたが、使用する事は出来なかった。
スキルは魔法と同じカテゴリーに入るのか、ユリスにスキルを見てもらった時に「それ、魔法だよね?」と言われた為、この世界にはスキルという概念がないという結論に至った。
そのスキルを転生者や転移者が使えた場合…普通の攻撃よりも高火力な為、相手が使えるか使えないかで今後敵に回られた時の障害になる可能性がある。
ちなみに千棘やアルメラ、エルリとルエリは物理攻撃系のスキルは全てモーションを覚えているのでスキルを発動しなくても同じ事が出来るが、フェイナが使うスキルは防御系、明らかに盾が届かない所を守ったりする為にモーションを真似たとしても効果がない事からユリスはフェイナのスキルを魔法と言っていた。
「おっけー、その辺も調べておくよ、ね?エル」
「そうね、ちゃんと調べるわよ、エリ」
「んじゃまぁ…アル、一旦屋敷に帰ろっか」
「わかった、エル、エリ、頑張ってね」
エルリとルエリに負担をかけて申し訳ないと思いつつ、食事処で別れたフェイナ、アルメラは誰も見ていない路地裏へ、エルリとルエリは情報を集める為に冒険者ギルドへと身体を向け、別々の方向に向かって歩き出す…。
■
「さて…そろそろいい頃合いだけど…」
ユリスはそう呟きながら宿の部屋から月明りが照らす道に視線を向ける。
人通りもなく、適度に暗い外は絶好の奇襲日和と心の中で思いながら短剣を手でくるくる回し、感触を確かめていく。
「私は何時でも行けます」
そう答えたルノアールは新調した指揮棒の様な杖を手に持ち、身だしなみを整えていた。
「私も大丈夫」
フィーヤも自分の杖をくるっと回しながら答え、三人で向かい合う。
「まず、私だけで相手の目の前に出るから二人は離れた所から魔法で援護して欲しい。出来れば生け捕りで拘束系をお願いね。状況が分かりやすいようにイヤリングの通信は繋げたままでいくよ」
「わかりました」
「わかった」
■
(ちゃんと部屋に戻ったか…流石に部屋の中を透視するのはな…でもこのまま部屋に行っても会ってくれるのか…?)
青年は夜更けに頃に女性の部屋に行っても問題ないのかと宿から遠く離れた時計塔の上で頭を悩ませていた。
そして青年は何か閃いた表情をしながら空間から弓を取り出した。
(そうだよ…こういう時、矢文がいいんじゃないか!?そうと決まったら…っ!?)
青年は矢文の準備をし、部屋の窓に狙いをつけていると…突然、後ろから殺気を感じて身体を前に倒し、頭から時計台を飛び降りる。
落ちながら先程まで自分の居た場所を確認すると二本の短剣の刃とウサギの耳だけが見え、顔まで確認する事は出来なかった。
(あのうさ耳…!神託の白兎か!?どうやってここまで…っ!?)
うさ耳に気を取られていた時、かなり遠くの位置から狙いすましたように雷属性の魔法が二方向から直撃コースで放たれている事に気付き、空中で身を捩りながら回避する。
(くそ!あの子らこんなに強かったのか…!?明らかにこっちの事、敵だと認識してるな…誤解を解かないと…!)
もう少しで着地するというタイミングで上からうさ耳の少女が急降下して来ているのを視界に納めた。
(うっわ着地狩りとかエグイな…!)
明らかに着地した瞬間にこちらに攻撃を合わせる気満々の速度を見て青年は手に持っている弓に矢を番えてうさ耳の少女に向けるが回避する動作すら取らず、眼を狩人の目つきに変えて更に空気抵抗を減らして速度を速めてくる。
(これぐらいじゃ動じないか…少しだけ能力使うしかないか…)
そう思った青年は深く集中していく…すると身に纏う雰囲気がガラリと変わり、鋭い目でうさ耳の少女を見る。
うさ耳の少女も雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、攻撃されても大丈夫なように短剣を身体の中心に構えて受けと迎撃が出来るよう備える。
(悪く思わないでくれよ…終わったらしっかり話聞いてもらうぜ…!)
そう心の中で言った青年は次の瞬間…『空気』を蹴った。
今まで真下に落ちていた身体がいきなり横に落ちるように移動してうさ耳の少女の着地狩りを回避し、逆に着地した瞬間を狩る為に一度上へ空気を蹴り、再度急降下し、落下するうさ耳の少女の上を取る。
うさ耳の少女は驚いた顔をしていたがすぐに気を引き締めたのか、地面に向かって背中を下にし、上にいる青年に身体の正面を向けながら声を発した。
「今!!」
その言葉に答えるよう、また遠くから二つの魔法が直撃コースで…向かってこなかった。
一つは風魔法でうさ耳の少女の落下を抑え、もう一つは足元に魔力の障壁を張り、それを蹴ってうさ耳の少女は青年と同じように空中を移動した。
(サポートが的確すぎねーか!?空中戦は互角、次は地上戦だ!)
両者、時計台の大通りに着地し、土煙をあげたが特に音が立つことは無く、その土煙に紛れるよう瞬発する。
青年は空間に弓をしまい、片手剣を取り出し、うさ耳の少女は両手に短剣、片方は逆手、もう片方は順手に持ちながら両者の距離が詰まり、激突する。
(んなっ!?能力開放してんのに俺よりも早いし力も強い!?ば、バケモンかよこの子!!)
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!俺は君たちの敵じゃないんだ!!」
「しらばっくれないで!!さっき私達の部屋に矢を打ち込もうとしたでしょ!それに昼間からずっと私達を付けてきたじゃない!!」
「それは夜中に女の子の部屋に行くのはまずいと思って手紙を矢に付けて届けようと思っただけなんだ!!」
そう伝えた瞬間、うさ耳の少女は大きくバックステップをして距離を開き、構えたまま声を発するが…それは青年への言葉ではなかった。
「3秒!拘束!!」
そう発した瞬間、再度とてつもない速度でこちらに短剣を突きこみ、更には急所を的確に狙った蹴り等の体術を組み込んだ攻撃に防戦一方になってしまう。
「ちょ、ちょっと本当にま、待ってくれ!!はなしをきがあぁあ!!??」
最後まで言葉を発せなかった理由は後ろに突然現れた金髪の美少女が、こちらの首を掴み、雷属性の魔法で身体の自由を奪い、足元を氷属性の魔法でガチガチに凍らせていく。
もう一人、赤髪の美少女が横から無数の火属性魔法でこちらに狙いを定めており、少しでも抵抗すれば即座に殺されると思い、痺れる舌を動かして伝える。
「こ、こうひゃん!!ひゃふけて!!」
一瞬、何を言っているのか伝わらなかったのか、首を傾げた三人は顔を見合わせ、小さく息を吐いてこちらに話しかけてきた。
「さて、貴方の目的…全部吐いてもらうよ。かなり痛い事するから覚悟してね」
青年はこちらの言葉を本当に信じてもらえるのか、とても不安になった…。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
来年からも楽しく読んでいただけると嬉しいです。




