悲劇のヒロイン 私の王子様
「やっぱり起きる気配ないね…」
「チヅル様…」
自室で準備を整えたルノアールとフィーヤは夕暮れ時、鏡の部屋に戻ってアエリアが横たわっているベッドの隣に椅子を置いて様子を見ていた。
「あんまり落ち込んじゃダメだよルノ」
「うん…」
「私達これから十英傑の人達と会うんだね…」
「うん…」
「…」
「…」
「あー!もう!考えても仕方ないよ!なるようにしかならないよ!!」
「うん…」
「そういえば気になってたんだけどさ?ルノの魔法って今どうなってるの?」
「…使ってみたけどやっぱり前みたいに魔力があるわけじゃないから…最上級魔法を何回か撃ったら魔力切れになっちゃうかな…」
「ふーん、それでも最上級魔法は撃てるんだね?」
「うん…だけど魔道具で補助されていた動きとかもあったから、かなり弱いよ?」
「でも私と同じかちょっと上でしょ?」
「今まではずるで手に入れた力を使ってたようなものだしね…だからあんまり力を使わなかったから、そんな違和感はないよ?」
「そっかー、ならよかったね?後一年で卒業だし、終わったら一緒に冒険者になる?」
「えっ?フィーヤは宮廷魔導士になりたいって言ってなかった?」
「んー、ルノになんかあった時に助けれるかなって思ったから目指してたけど、もう勇者じゃないルノなら一緒に冒険者として活動するのもいいかなってー」
「そうだったんだ…じゃあ冒険者になろ?」
「うん!それで強くなってチヅルさんと一緒に冒険!」
「…うん!」
二人の少女が未来に想いを馳せている時、鏡がアエリアが寝ている寝室に入ってきた。
「おう…待たせたな?」
「いえ、大丈夫です」
「私もそんな待ってないですよ?」
「…ふぅ。よっし、んじゃまぁ行くか」
「はい」
鏡は二人の返答を聞き、ベッドに横たわっているアエリアを横抱きで抱え、自分の身体に触れるようフィーヤとルノアールに告げてアエリアの自室へと転移魔法を使用する。
一瞬の浮遊感の後、今までの簡素な部屋の風景から部屋中に情報を記しているであろう書類の束が机の上に高く積まれ、重要な情報には印を、そして仲間の情報等は壁を埋め尽くすように貼られた部屋の光景に変わり、フィーヤとルノアールは軽く息を飲む。
「すごい…チヅル様はこんなに…」
「すっごい…考えられない…」
そんな二人を放置したまま横抱きのアエリアをベッドに寝かして軽く床に散らばった書類を纏め、スペースが開いたところに大きなテーブルと椅子を設置する。
「とりあえずこんなもんでいいか…ルノ、フィーヤ、床に散らばってる書類を纏めて置いてくれ。俺様は今集まれる奴らに声かけてくっから」
「わかりました」
二人が返答すると大きな扉から鏡は部屋を出ていき、屋敷にいる仲間をこの部屋に呼びに行った。
ルノアールとフィーヤは一つ一つ書類を拾い、見ようとしなくても入ってくる情報に舌を巻いていた。
「エルラシア王国、海上王国アクエリア、カルフィード共和国、シドフィア帝国、セレンティス山王国、ファーレン聖教国、アトラティア海底王国、ドルファニス地底王国、精霊の国…シルト王国、エルフの国…アンバーウッズ森王国、ドワーフの国…エルドアース鉱王国、獣人の国…ビルスト獣王国、東の国…アズマ国、仮称…?雲上王国?」
「ルノここにある情報…全国の情報…しかも両ギルドの視点から集めた物だったり、貴族視点から集められた情報ばっかりだよ。民間…多分、これはアイドル活動とかで集めた噂話だ。アイドル活動も情報活動の一環だったの…?しかもどこのギルドで何のクエストが滞っているとか、街の傾向?スラムが何処まで酷いかとか…こんな所まで調べてたのチヅルさん…」
流石に国の中枢の情報は掴めないが、掴めるものは何でも掴んでると思わせるほどの情報量が手に持った数枚の書類で垣間見えた。
「私達の勇者様は本当に凄いんだね…ルノ、気合入れないと背中どころか影すら見えない程だよ」
「う、うん…生半可な気持ちじゃ…私達はチヅル様の仲間になんかなれない…」
今まで見ていた顔はほんの一部の外面で、書類を見ていく毎にどれだけの顔を持っているのか想像もつかなくなっていく二人。
だけど雲の上の様な人でも一緒に居たいという気持ちが上回り、不安や諦めというよりこれからの困難にどう向かっていくか、そう考える顔になっていた。
そんな二人が書類をまとめ終わる頃、部屋の扉が勝手に開き、赤髪の小さな女の子が入ってきた。
いきなり扉が開いた事にびっくりした二人は少しだけその場で飛び跳ねた後、女の子を見て挨拶をする。
「は、初めまして、フィーヤです」
「初めまして、ルノアールと申します」
「…ああ、ここにいるっつーことは今回の当事者か、あたいはユーラン、よろしくな」
そう言葉を返したユーランは驚く二人を無視してベッドに横たわっているアエリアに近づき、顔を覗き込む。
「…本当に死んでねぇみてーだな。息もしてる、心臓も動いてる…今日で何日目だ?」
ユーランの鋭い目つきに身体を震わせたルノアールはアエリアが意識不明になってからどのくらい経ったか聞かれたと思い、日数を伝える。
「6日目です…」
「そうか」
ユーランは一言呟いてドスドス歩き、用意された椅子に座って目を瞑って動かなくなる。
ルノアールとフィーヤはそんなユーランの雰囲気に気圧されていると、今度は精霊族特融の半透明の羽に、瓜二つの二人が扉を壊す勢いで入室して真っ白な髪を振り回しながらアエリアへと駆け寄る。
「ちーちゃん!!」
同じような声で、同じ名前を呼び、同じ姿でアエリアの顔を覗き込み、涙を零す二人を見てルノアールとフィーヤは驚きのあまり言葉を失う。
「ちーちゃん…僕達がいれば…」
「そうねルエリ、私達がいれば…」
そう呟いた後、二人はその場から動かなくなる。
後ろ姿をじっと見つめ、ルノアールとフィーヤは自己紹介しなくちゃと身体の硬直を抜けきってなくても話しかけようとした時、真っ黒の髪に黒猫耳、黒尻尾の女性と、ピンクの髪に特徴的なアモン角、ピンクの長いふさふさの尻尾の女性が鏡と一緒に入ってくる。
すると鏡は何も言わずに椅子に向かい、黒猫の女性とピンクの羊の女性は精霊族の二人の元、アエリアの元まで歩いていく。
そしてアエリアの顔を覗き込んでいる二人の横からアエリアの顔を見て悲しそうにつぶやく。
「ちーちゃん…」
「アエリア…」
その一言を発したピンク髪の女性はルノアールとフィーヤを一瞥してそのまま椅子に向かうが、黒猫の女性だけはルノアールとフィーヤの目の前に立ち、睨みながら言葉を吐き捨てる。
「…私、フェイナって言うんだけど、あんた達がきょーちゃんの生徒のルノアールとフィーヤって子?」
「は、はい…」
フェイナの目力に思わず一歩だけ下がってしまう二人…そんな彼女達にフェイナは、
「あんた達のせいでちーちゃんがこんな風になったって事、忘れないでよね」
「っ!」
その一言は彼女達には重くのしかかり、心がひび割れそうになるのをぐっと堪える。
堪えたが目には小さく雫が浮き上がるが必死で耐えた。
フェイナはそう吐き捨てて二人から視線を切ってアルメラの隣の椅子に向かい、どっかりと座り込む。
「おい、フェイナ…責任は俺様にあんだよ。だからあいつらは責めないでやってくれ…」
「私言ったよね?きょーちゃんと勇者の間で何があったか知らないけど恨むって」
「だがな…あの二人にも受け止めきれる量に限界があんだよ。俺様にならいくら当たってもいい、だけど二人にはあんま詰めないでやってくれ…」
「ふんっ。後言っとくけど、フリエスとアリエス、ノエルとシエルちゃんは仕事で今回来れない、アイシャ女王とカレン精霊女王、ライゼンとサリィは遠くて来れないから私から伝えとく」
「わかった…ルノ、フィーヤ、お前らは俺様の隣に座れ」
「はい…」
肩を落としながら席に向かう二人の背後から扉が開く音がして反射的に扉を見た二人は、この部屋に入室してきた真っ白のうさ耳を持つ女の子に目を見開き言葉を失う。
その女の子の風貌は簡単に言い表すなら大切な家族を奪われた者…髪は乱れ、肌は血が通ってると思えない程に白く、目は光を映しておらず…目を離したら何処かに消えてしまいそうな危うさがあった。
女の子はルノアールとフィーヤの間を足元だけを見つめながら椅子に向かい、音もなく椅子に座る。
そしてルノアールとフィーヤも席に着き、まだアエリアの元にいる双子を除いて全員席について鏡が口を開き、全員の自己紹介と今回の出来事をこの場にいる全員に話していった…。
■
「今のでちーが意識不明になるまでの出来事の全部だ…」
「はぁ…ちー助らしいっちゃらしいな…手の届くところは何が何でも守る…いい考えだと思うが行き過ぎるとこーなんのな…」
「確かにちーちゃんらしいし、そこまでして助けた人ならもう私は何も言わないよ…」
「そうね、私もそう言う事ならいい。…けど、鏡は一回殴らせて」
「それで気が済むなら俺様を殴りたい奴は後で好きなだけ殴ってくれ。だけど俺様の生徒には絶対に当たんないでくれ」
「ちーちゃん…もう僕我慢できないから帝国に乗り込んでぶっ潰してきてもいいかな…」
「ちーちゃん…私ももう我慢できないからルエリと帝国に乗り込んでいいかな…」
「エルリ、ルエリ、それが出来てるならちーはとっくにやってる…お前達がちーの事を異常に慕ってるのは知ってる。本当にすまねぇ…だけど今は堪えてくれ…」
「……」
みんなが思い思いの言葉を発するが、この話し合いが始まってから一切言葉を発していない者が三人いた。
ルノアールとフィーヤ、そしてユリスの三名。
そしてユリスがゆっくりとルノアールとフィーヤの二人に視線を向けて今まで閉ざしていた口を開く。
「リアが…目覚めなかったらどうするの…」
「…」
「二人とも黙ってないで答えてよ…」
フィーヤが口を開く。
「本当にごめんなさい…私が何かしてチヅルさんが起きるなら何だってします…」
ルノアールが口を開く。
「チヅル様が目を覚まさないのはキョウ様が言った通り、私の命を救う為なんです。だから私も何だってします」
「…さっきから何だってしますって言ってるけど…貴女達に何が出来るの…?」
「そ、それは…」
「わかりません…だけどチヅル様を助ける為なら何だって『だから無責任に何だってするって言葉を使わないでよ!!!』っ…」
「何…?事の原因は自分達だから何だってします…?なら今すぐリアの事を起こしてよ…何だってするんでしょ?今すぐ起こしてよ!!!」
あまりの剣幕にルノアールとフィーヤは押し黙ってしまう。
「なんなの…?また私は大切な仲間を失わなくちゃいけないの…?あんた達のせいで!!私の大切な仲間を!!何で私から奪うの!?」
「わ、私だってチヅルさんの事を大切に思っています!!」
「私もチヅル様の事を大切に思っています、だから…」
「だから…?だから何…?たかだか数日の間、リアと居たから大切…?あんた達がリアの事を好きなのはわかったよ…だけどその恋心が今の状況…何の役に立つの…?好きな人にキスしたら起きるとでも思ってんの?そんなのお伽噺だけなんだよ!!!どうするのよ!!リアがこのまま起きなかったら!!!」
「ちょ、ちょっとユリス…言いすぎだと思うよ…?」
「フェイナの言う通り、少し言いすぎ」
「フェイナとアルメラは黙ってて!!!貴女達は大切な仲間を自分の目の前で殺された事なんてないでしょ!?!?」
ユリスの目が戦闘をする時よりも鋭くなり、その目から大粒の涙が零れだす。
ユリスのこんな姿を見た事が無かったこの場の全員はユリスが言った大切な仲間が目の前で死ぬという言葉に酷く顔を歪めて押し黙る。
「みんなは強いから!!みんなはお互いを助け合ってダフネの十英傑って言われて!!守りたいモノを守って、守れなかったモノなんてないんでしょ!?」
この場の全員が沈黙する…。
「私は…Bランクの冒険者になるまでずっと組んでたパーティーがあった。…パーティーの中でみんながBランクになっても私だけはずっとCランクだった…だけど、少ない稼ぎをみんなが出し合って私の装備を整えて、必死に頑張ってやっとの思いでBランクになった…」
ユリスはあの時の悲しい気持ちを吐き出すように息を吸って吐く。
「そんな時、私はクエストに行くからついてこいって言われて私はついていった。だけど…運悪く討伐対象魔獣の突然変異種が私達のパーティーの前に現れた…後から聞いた話ではSに限りなく近いAランク魔獣で、そんな事を知らない私達は慎重に戦った…だけど一人、また一人って目の前で死んでいった。私も必死で戦ったのに全く歯が立たなかった。私は弱いからみんなを守れなかった、手が届くところにいたのに。一人になった私はみっともなく逃げた。その後に受付にみんなの死亡とクエスト失敗報告をした時、私が…Bランクに昇級したからクエスト完了の報酬で、お祝いをするんだって嬉しそうに受付に話していたのを知ったの」
下を向いていた人も全員ユリスを見つめる。
「みんな…私の為に死んだの…受付から話を聞くまでは冒険者だから…命の危険は何時でもあるから仕方ないって思ってたのに…話を聞いたら私のせいでみんなを殺したようなものだってわかった…私はあの人達を守りたかった、だけど弱くて守れなかった…ずっと落ち込んでた…リアに会うまでは」
ユリスは知らずに流れていた涙を拭いて、
「リアの強さを見て、憧れた…私も強くなりたいって思った。そしたらリアが私の事を仲間にしてくれたの。だからまた自分の力不足で守れるものも守れなかったら今度こそ立ち直れないから…リアの力になりたいから死ぬ思いをしながら訓練もした。だけど、リアは死なないって、私の前からいなくならないって安心させてくれるほどの存在だったのに…やっとリアの隣に立っても恥ずかしくないって思えるほど強くなれてたのに!!返してよ!!リアを返してよ!!!!!」
ずっと押し黙っているルノアールに飛び掛かり、床に押し倒して胸倉を掴んで叫ぶ。
「あんたが!!!魔族に操られない程強ければ!!!!こんな事にならなかったんじゃないの!?作られたから!?偽物の力だから!?偽物でも勇者だったんでしょ!?その与えられた力を拒否し続けて!!誰かを守る為に強くなることもしないで!!好きになった人を守れないのがあんたが望んだことなの!?あんたは悲劇のヒロインでも気取っていたんでしょ!?何もしないで、現実に絶望していればリアみたいな人が助けてくれると思っていたんでしょ!?!?何で、何もしないやつが救われて…何かを守る為に頑張ってる人が泣きを見ないといけないんだよ!!!」
ユリスから言われた言葉に何も言い返せないルノアールは目から涙を流しながら許しを乞う。
「ご…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
「謝ってすむなら誰も不幸に何かならないんだよ!!!!」
ユリスが泣いて謝るだけのルノアールに拳を振り上げる…が、フェイナがその拳を受け止める。
「フェイナ!!なにす『ユリス!!!』っ!!」
ユリスの頬が叩かれる音が部屋に響く。
「ユリス、確かに貴女の過去と同じ苦痛は私達は味わった事はない。だけど、ルノアールに自分の面影を重ねて殴るのは違うよ」
「っ!!」
「守れなかった自分をルノアールに重ねて、自分は強くなろうとしたのに、与えられた力でも守る力があったのに何もしないでいたルノアールに腹を立てたんでしょ?少しだけ冷静になりな、ユリス」
「っ…」
ユリスはルノアールの上から飛びのいて、自分に割り振られた自室まで走っていく。
「フェイナ、助かった」
「別に、きょーちゃんにお礼言われる為にやったんじゃないよ。ここでルノアールを殴ったらきっと、ユリスは目を覚ましたちーちゃんに合わせる顔が無いと思ったから止めただけ」
「それでも助かった。ルノ、大丈夫か?」
「…」
「…はぁ、フィーヤ、部屋の隅にルノを連れて傍にいてやれ」
「はい…」
「あ~~~~なんだかな~私がせーっかく嫌な役引き受けようと思ったのにな~」
「は?お前、俺様の事恨むって言ってたじゃねーか」
「わかってないな~。私が率先して、みんながルノに言えない事を言っても不自然じゃない様にしてたのに。したらちーちゃんに怒られるのは私だけで済んで、みんなは怒られないでしょ?」
「…わりぃ…」
「だーから!!私はこのメンバーの盾役だよ!?こういうのは私の役割なの!…って言ってもユリスがずばずば言っちゃったからなぁ…」
「そうだな…」
「よし!一旦解散しよっか!みんな頭を冷やすべき!ユーランは何か鏡とかルノアール、フィーヤに言いたい事は?」
「あたいは何もねぇ」
「アルメラは?」
「私もない」
「エルリとルエリは?」
「ユリスが凄くて僕はもういいかな…」
「私ももういい…」
「鏡は?」
「俺様もねぇ」
「ルノアールとフィーヤは…まぁしばらくこのままにしておこうかなー。んじゃみんな一旦解散かいさーん!!」
フェイナがこの場にいるみんなをまとめて解散させ、各々の居室へ足を運ぶ。
部屋の隅で泣きじゃくってる二人を見やり、アエリアの元へ向かう。
胸に手を当てて心臓がちゃんと動いてる事を確認して頭を一撫でし、ルノアールとフィーヤの元に向かう。
「さてさて、ルノアールちゃんとフィーヤちゃん、今日は嫌な思いするってわかっててよく来れたね?おねーさん感心だよ」
「フェイナ様…本当にごめんなさい…私のせいで…偽物でも勇者だったのに…何も守れないで、何もしないで救ってくれる人を待っていて…こんな私にチヅル様の仲間でいる資格なんてありません…すぐに帰ります…」
「フェイナさん…私もごめんなさい…私もチヅル様に助けてもらいました…だけど何も力になれずごめんなさい…」
「…はぁ、それじゃ今までと何も変わんないよ?…まずフィーヤちゃん」
「は、はい…」
「フィーヤちゃんはちーちゃんの事好きなの?」
「はい…」
フィーヤの肯定を聞いたフェイナは胸がチクリとした。
「…そっか、起きた事はしょうがない、好きな人の為に出来る事を探しなさい。好きな気持ちだけで状況は良くならない。ここでちーちゃんから離れたら必死で助けたちーちゃんの思いを踏みにじるって事忘れないでね?」
「はい…」
「次、ルノアールちゃん」
「はい…」
「ルノアールちゃんもちーちゃんの事好きなの?」
「…好きじゃ済まないです。愛しています…」
またフェイナの胸にチクリと痛みが走る。
「愛してるときたか…まぁユリスの言っていた事、全部図星だったから黙って殴られようとしたんでしょ?」
「はい…欲しくもない勇者の力を身体を弄られて与えられて…過去をずっと呪ってその力を使わない様にしてました…力を使えばきっとクラスの友達も、もう一人の勇者に痛めつけられず守れたはずです…だけど、使わなかった…泣いてばかりで守られてました…勇者なんて呪いみたいなものだと思って何もしませんでした…ユリスさんの言った通り、悲劇のヒロインを気取って助けてくれる人をずっと待ってました…」
「それで?ルノアールちゃんは今どうしたいの?」
「…チヅル様の為に何か出来るならしたい…だけど、私がいたらきっと迷惑をかけます…だからもう二度とチヅル様には近づかないようにします…」
「ふーん、そうやってまた悲劇のヒロインに戻るのかな?あんなになるまで自分の身体を張ってあなたを助けたのに」
「感謝しています…ですが私の存在のせいでチヅル様があんな…っ!」
フェイナの手がルノアールの頬を叩く音がする。
「ふざけんな。そんなに軽い想いなら軽々しく愛してるなんて言ってんなよ小娘。初対面の女に少し言い負かされただけで投げ捨てられる想いなら、最初っから想いを抱くな。迷惑かけたと思ってるなら、それを取り返す為の努力をしろ」
さっきまでの雰囲気など一切なく、そこには女性としての先輩の姿があった。
「はい……私…頑張ります…」
「守られるだけの存在に成り下がるな。千棘の事を好きなのはあんた達だけじゃない、覚悟を決めな」
「はい!」
「んじゃまぁ、いっちょユリスと喧嘩してきな?ルノちゃん」
「ふぇ?け、喧嘩ですか…?」
「うん、喧嘩。言われっぱなしでいいの?ユリスに負けないぐらいちーちゃんの事好きなら、私の方が好きだって言ってきな?」
「…はい!!」
答えたルノアールは走って部屋を飛び出していってしまう。
「さて、フィーヤちゃんはどうするの?」
「…私もルノがやり過ぎないように見てきます」
「はいはい、いってらっしゃーい」
そう送り出すとフィーヤも走ってルノアールの事を追いかけて部屋を出ていった。
「はーあ…敵に塩を送るなんてなぁ…難儀なこって…」
ぽつりと呟いてアエリアの寝ているベッドに椅子を寄せて頭を撫でる。
「どれだけ好かれれば気が済むんですかねぇ…私の王子様は…」




