親友同士の夜会
「ルノ…おはよう…おかえり」
「…フィーヤ?」
「そうだよ、ルノ…」
「う、く、苦しい…」
「ご、ごめん!嬉しくてつい…」
フィーヤは起きたルノアールを抱きしめたが嬉しさのあまり締め上げているともわからず、ルノアールの苦しそうな声を聞いて抱擁を緩めた。
ルノアールは何が起こっているのかわからないという表情で自分の最後の記憶を思い返す…
「私…あの時、身体の中の魔道具が壊れて死んだはず…それにここは…隣に凄い綺麗な人が寝てるし…髪の色も戻ってる…?どうなってるの?」
「えっと、ミラー先生から聞いた話だと、確かに魔道具が壊れてルノは死んじゃったんだって。だけどね?チヅルさんが聞いた事もない…最上級魔法の更に上、神格魔法っていうのを新しく作り出してルノの身体を帝国に弄られる前に戻して、ルノの魂をその身体に戻したんだって。今、隣で寝ているのはチヅルさんで、ここはミラー先生の部屋だよ?」
フィーヤの話を聞き漏らす事はなかったが、頭の中で理解が追い付かずにきょとんとしてしまうルノアール。
「え、えっと?…私は死んだけど、チヅル様が神格魔法?って言うので私の事を生き返らせた?チヅル様は魔法使えないよね…?ていうか、ここがミラー先生の部屋だとしても…隣で寝ているこの綺麗な方がチヅル様??…また女装しているの?というより、身長とか全く違うよね?」
首を左右に傾げながら自分が理解できていない部分を再度フィーヤに確認していく。
「チヅルさんは魔法を使う事は出来ないけれど、今の姿…ダフネの十英傑のアエリア様の姿ならその神の力に匹敵する、神格魔法を使えるんだって。私達じゃ存在も知らない魔法…既存の魔法がある事も知らないのに、更にそれをルノを助ける為だけに新しく神の魔法を作っちゃったんだよ!」
「チヅル様が…アエリア様…?それに私を生き返らせる為に神の力を使った…?」
「ミラー先生…もうルノも知っていると思うけど、ウルワリ キョウ様が言っていたのは…十英傑のチトゲ様、アエリア様、コル様は三人で一人、同一人物なんだって!」
フィーヤから、今まで英雄視されていた存在の三人が実は一人の人間だったという事に驚きを露にする。
「えええ!?そ、そんな事ってありえるの!?三つの身体を一人の人が扱う…!?それこそ神の力なんじゃ…」
「私も信じられなかったけど、でも隣に寝ている美女はアエリア様であってチトゲ様…私達の勇者様のチヅルさんだよ?」
フィーヤの一言にルノアールは固まる。
「え…っとぉ……もしかしてなんだけど…フィーヤも…チヅルさんの事、好きになったの…?」
錆びて動きが悪くなった機械の様に首を回し、フィーヤの目を無表情で見つめる。
「へ?え!?…えーっとー…う、うん…」
「っ!?だ、だって!あの時話したらよくわかんないって!!!」
「ちょ、ルノ!!落ち着いて!!」
フィーヤが千棘の事が好きと肯定した瞬間、フィーヤの肩をがっしりと掴み、首が取れてしまうのではないかというほど身体を揺らすルノアール。
フィーヤの落ち着いてという言葉を聞いて肩から手を離し、深呼吸を5回ほどして落ち着きを取り戻す…。
「ふぅ…で、フィーヤ…あの時は冗談で好きなの?って聞いたけど…」
「ルノが悪い訳じゃないから、落ち込まないで聞いてね?ルノが魔族に操られていたのはちゃんとわかってるから…んんっ!…えっとね、お腹に穴が開いちゃった後、もらったイヤリングの事を思い出してチヅルさんとミラー先生に通信したの。ルノが連れてかれちゃったって。でね?それだけ言って私は意識が無くなって、死んだはずだったんだけど…」
そこまで言うとフィーヤは顔を赤くして、もじもじしながら髪を弄って先を話そうとしない状況に痺れを切らしたルノアールは続きを促す。
「…死んだはずだったんだけど…?」
「死んだはずだったんだけど…そのー…なんていうか…唇に何度も柔らかい感触がした後に、身体の中に暖かい空気が入ってきて…目を開けてみたらチヅルさんと唇を重ねていたというか…何と言うか…うん…」
「な、何度も…しかもチヅルさんの息を…」
わなわなと震えているルノアールに少しだけ恐怖しながら弁解するフィーヤ。
「ち、違うんだって!!なんかその事をミラー先生に話したの!!そうしたらね?心臓って止まったら胸を圧迫して息を入れて、疑似的に呼吸させて助ける方法があるんだって!それをしてくれただけなの!!」
「そ、そうなんだ……た、助ける為なら仕方ないよね…それでチヅル様の事が好きになったのね…」
「う、うん。それに初めてのキスだったし…」
「…ライバル出現…私だってチヅル様としたもん」
「え、ええ!?ルノも!?」
その後も私はこれをしてもらったあれをしてもらったと可愛い喧嘩をしていたら突然寝室のドアが開き、長身の美形エルフが顔を出す。
「おい、フィーヤ…何時までやってんだ?そろそろ…ってルノ!?お前記憶とか大丈夫か!?」
「え…?え、ええ…特に問題ないです」
「フィーヤと話していたって事は…そうか、人格は変わらなかったか…」
「え?ルノの人格が変わらなかったってどういう事?ミラー先生」
「?」
「ああ、その様子だとフィーヤから大体は聞いてるみたいだな。まぁ…明日は授業ねぇし、このまま延長するか。…ちーが使った魔法はルノの身体を帝国に弄られる前の身体に時間を戻して、失ったルノの魂を巻き戻した身体に入れ直すっつー神の技にも匹敵する方法で生き返らせられてんだよ」
「改めて聞くとチヅルさん凄い事してるよね…身体の時間を巻き戻すって…一言で言ったら不老と同じという事でしょ?」
「確かに…年老いて、おばあちゃんになったらその魔法を使ってまたやり直せる…本当に神の技…」
「私も年取ったらその魔法掛けて欲しいなー」
フィーヤの一言で鏡は整った顔を歪めて咎める。
「フィーヤ、そんな神の技を何の代価もなく使えると思ってんのか?そんな甘い考えは捨てろ」
「…」
「……いや、わりぃ。俺様もその時の状況を詳しく話してなかったな…確かに不老なんて物は女からしたら喉から手が出る程にすげぇもんだよな…女に限らず男でもそうだ。…だがな、その魔法一回の為にちーがどれだけ頑張ったか、これを見ればわかるはずだ」
鏡はフィーヤにきつく言いすぎた事を謝り、インベントリからアエリアが一人で使用したポーションの空き瓶をルノアールとフィーヤがいる場所に机を動かしてその上に置いていく。
瓶と瓶が当たって響く硬質な音と、机に置く度にことことと鳴る二つの音を響かせながら魔法を使った時の状況を語っていく。
「ルノ、フィーヤ、これが何の瓶かわかるか?」
「ポーションの空き瓶…この色…魔力ポーション?」
「ルノ、この魔力ポーション普通のじゃない…残っている液体の色…普通で売ってる物と違って色が濃い…品質もかなりいいものだよこれ…」
「二人とも正解だ。このポーションはちーがコルの身体で作った、神話級の魔力ポーションだ。その空き瓶がここに110本ある」
「神話級の魔力ポーション!?」
「それにチヅル様が作ったポーション…?それが110本…」
二人は驚いた表情のまま並べられた瓶を見つめており、鏡はその瓶を一つ抓んで持ち上げ爪で瓶をコンコンと叩く。
「ちーはアエリアの身体で膨大な魔力を保持している。無理やり比較するなら…俺様の二倍ぐらいだな」
「に、二倍!?」
「俺もダフネの十英傑って言われてるだけあってかなりの魔力を持ってるが…あいつは都市一つを滅ぼすほどの大規模魔法を得意としているから、その分魔力は多いわな…」
「都市を丸ごと…」
「勇者っていう存在が小さく見えますね…」
「そうだな。そのアエリアの膨大な魔力を一瞬で全回復させるポーションが110本空になっている。これは全てルノを助ける為に、ちーがアエリアの身体で何度も飲んで、何度も吐きながら飲み干したものだ」
一人でこの量のポーションを飲み干したと聞いた二人は…
「こんな量飲んだら拒絶反応で身体が壊れる…それどころか急な魔力増減は死ぬほど辛いのに…それを110回も…?」
「…だからチヅル様はアエリア様の身体で今も寝ているのですか…?」
「ああ、ちなみにルノが目を覚ましたのはあの出来事から四…もう今の時間なら五日前か、ちーは今も目を覚まさねぇ。…あいつが71本目のポーションを飲んだ時、口からやべぇ量の血を吐いた」
二人の息をのむ音が聞こえる。
「その後、俺様は流石に死ぬっつって止めたけどすげぇ怖え顔で睨まれて止められなかった。だから出来るだけ俺様もちーに回復魔法をかけたが、その後は一本飲む毎に血を吐き続けてた。魔法で血は増やせても身体の拒絶反応までは癒せなかったんだよ…魔法の構築が完成した時はここで人が何人死んだんだって思わせるには十分なほどの血溜まりが出来上がってた。…この話を聞いてもまだちーにその魔法を使って欲しいって言えるか?」
二人は絶句し、不老の魔法だと喜んだ自分自身を恥じ、下を向いてしまう。
「それだけ助けたかったんだよ、ちーは。俺はルノは死んだと諦めた。だけどちーは生き返る可能性に賭けて、自分を追い込んで追い込んで追い込み続けてやり遂げた…だがな、この魔法には一つだけ落とし穴があんだよ」
こんなすごい魔法のどこに穴があるのかと言った表情で二人は鏡を見つめる。
「ルノの身体を巻き戻したから身体はルノの物だ。だが…魂がルノの物じゃなかったら?ルノの身体に別の誰かの魂が入り、ルノの身体で悪さをするかもしれねぇ。…最初はすぐにフィーヤとルノの部屋に連れていこうと思ったが万が一にもそんな事があったらっつー懸念があったから俺様の部屋で起きるまで待ってたんだ」
フィーヤはその事実を聞き、どうして会わせてくれなかったのかその理由に納得していたが…ルノアールはその話を聞き、自分の身体に別の人の魂が入るという不快感に身体を震わせていた。
「ってな感じでルノはちゃんとした生身の身体で生き返る事が出来たわけだ。フィーヤもお前の事情は既に知っている。後はルノに俺様達の素性を全て話せば…俺様達とお前達の間で隠し事は無くなるっつー事だ」
「改めてミラー先生…助けてくれてありがとうございます…」
「まぁ俺も助けたが…正直働きは8:2でちーの割合がでけぇけどな…ルノが無事でよかったぜ」
「私からも、ルノを助けてくれてありがとうございます、ミラー先生」
「おう、ちーが起きたらちゃんと言ってやれよ?今日はもう外でれねぇと思うからこの部屋でフィーヤも寝ていけ。俺は適当に宿屋で空き部屋探してくっから、また朝になったら戻ってくるわ」
そう言い残して鏡は転移魔法で部屋を後にした。
残されたフィーヤとルノアールは机に置かれたポーションの空き瓶を見つめながら言葉を交わす。
「私の為にこんな事をしてくれる人がいるんだ…」
「私もチヅルさんに助けられたけど…不謹慎だけどちょっとうらやましく思っちゃった」
「もし逆だったら私も思っちゃうよ…なんていうか、今までの人生は思い出したくもない嫌なものだったけど…この為の人生だったのかなって思えてきちゃった」
「…ルノはここまでされて助けられたけど、私もチヅルさんの事好きになったから…友達であって恋のライバルだからね…?」
「恋のライバルはわかるけど友達はよくわからないかな?」
「えっ…?」
「私達、もう親友って呼んでもいいんじゃないかな?」
「…ルノっ!!」
「ちょっ!いきなり抱き着いたら危ないでしょ!?」
「えへへ、なんか嬉しくなっちゃって…あ!ルノ全然ご飯食べてないじゃん!ミラー先生の食材使ってなんか作ってあげるよ!」
「えー?ミラー先生に怒られないかな?」
「そんな事で怒らないよ!!ほら、ルノいくよ!」
「だからいきなり引っ張らないでってばー!」
月明りで照らされた部屋で、同じ人を好きになった少女達は朝まで語り合う…。




