『私達の勇者様』
「なんかこうやって二人でお買い物とか久々だったからすっかり暗くなっちゃったね?」
「うん、なんか私も勇者として張り詰めてたのが無くなったからか…凄く楽しかった」
赤髪と黒髪の女の子…フィーヤとルノアールは街を巡って色々な買い物を楽しんでいた。
そして日が落ち始め、辺りが暗くなり始めた頃、学校の寮へと二人は歩みを進めていた…が、彼女達が寮へと辿り着くことは出来なかった…。
暗くなり始め、道に出ていた者は自宅へ帰り、物を売っていた者は店じまいをせっせと行い、人混みもなくなり歩きやすくなった道をフィーヤとルノアールは歩いていると、暗い路地から黒いローブとフードを被った2m程の人影が一つ出てきて…
「見つけたぞ、失敗作。お前を連れて帰る」
「…!」
その暗く、重い一言を聞いたルノアールは身体を硬直させて手に持っていた物を全て落としてしまう。
フィーヤは事情が分からず、黒い影とルノアールを交互に見るが明らかにルノアールの様子がおかしい事に気付いてルノアールを庇うよう前に立ち、影とルノアールの視線を物理的に切る。
「ちょっと、いきなり失敗作って何なの?ルノに言ってるなら謝りなさいよ」
「小娘、お前はいらない。ここから消え失せろ」
「はぁ!?何様のつもり!?ルノは私の友達なの!黙ってると思って」
「フィーヤ!!!」
「っ!?」
先程まで固まっていたルノアールはフィーヤがこのままでは危ないと思い、大声を張り上げてフィーヤを止める。
「フィーヤ…私は大丈夫…だから…私が戻れば大丈夫…だから…」
「ルノ!?」
ルノアールは大粒の涙を目に貯め、脚を震わせながらもフィーヤに語り掛ける。
「…フィーヤ…本当にごめんね…私が戻れば…フィーヤが何かされる事は無いから…今までありがとう…友達になってくれて…さようなら…」
今まで友達として一緒にいてくれた感謝を伝え、これが最後の別れになるとわかっているルノアールはフィーヤに別れを告げるが…
「ねぇ!ルノ!わけわかんないよ!いっちゃダメ!私が守るからルノは逃げて!!」
ルノアールがフィーヤの前に歩き出て黒い影に近づこうとするのを服を掴んで必死に引き留める。
「フィーヤ…もういいの…私は作られた存在で…失敗作だから…」
「え…?ルノ何言ってるの…?作られた?失敗作…?わけわかんないけど行っちゃダメ!!」
そんなフィーヤの静止を止めさせたのはルノアールではなく、黒い影だった。
「喚くな小娘。失敗作、早く来い。こないならその小娘を殺すぞ」
「わ、わかりました…フィーヤには絶対に手を出さないでください…」
「だからルノ!!ダメだよ!!ルッ!?」
黒い影の言葉を無視してルノアールを止めていたフィーヤは…向こう側が見えるよう腹に穴が開いていた。
「うぐっ!?うううう!!!!」
「フィーヤ!?そんな!?…なんでですか!?何でフィーヤを!!」
フィーヤの腹に空いた穴を見やり、ルノアールは指示通り行こうとしていたのに何故という風に黒い影に声を荒げる。
だが黒い影はそんなルノアールを嘲笑うよう真実を伝えた…。
「我は何もしていない。お前が小娘の腹に穴を開けたんだ」
「な、何を言って…!?」
手に違和感を感じたルノアールは自分の手を見る…すると魔法を手から発動した魔力の揺らぎがあり、自分がフィーヤに攻撃したという事実が頭の中でぐちゃぐちゃと駆け回る。
「え…え…私は…私はこんな事…フィーヤに攻撃なんて…」
「約束通り我は手を出さなかった。自分で手を出して始末する…それを覚えていない、流石失敗作だな…まぁもう聞こえていないみたいだが」
ずっとルノアールは自分はやっていないと繰り返し呟き、目も虚ろになりながら黒い影に担がれるが…その後もずっと繰り返し呟くだけだった…。
この場から去っていく黒い影とルノアールの後ろ姿を霞む目で睨みつけるフィーヤ。
「ル…ノ…行かないで…」
地べたで手を伸ばしたとしても、届かないとわかっていても二人の後ろ姿に伸びる手。
何も出来ない自分に悔しさを覚えながら…ふと、フィーヤは耳に違和感を感じた…。
「あ…こ…」
いつも耳には何もつけていなかったフィーヤは千棘にもらったイヤリングの存在を思い出し、信頼できる二人を頭に思い浮かべながら…祈るように声を絞り出す。
『チヅルさん…先生…ルノが…連れてか…』
イヤリングからフィーヤの名前を呼ぶ声がするがそれに答える力も尽き…視界が真っ暗に…意識がなくなった…。
■
「フィーヤ!?…フィーヤ!!…くそ!反応しない…!動いてもいない、行動不動にさせられた…!?」
千棘はフィーヤのイヤリングを目指して夜の街を屋根を跳ね、一直線に向かう。
行動不能の怪我を負っている可能性もある為、すぐに回復できるよう以前クラーケンの話を聞いたテルカさんに飲ませたのと同じ『神雫のポーション』を予めインベントリから出してすぐ飲ませれるように右手に握りしめている。
そのポーションが割れそうになる程無意識に力んだ千棘はキシキシと瓶が軋む音をさせながら、進行方向を睨みつけ必死にフィーヤに声をかけ続ける。
「この辺…!…いた!!フィーヤ!!!」
フィーヤから通信をもらった5分後、大量の血を流しながら倒れているフィーヤを見つけた千棘は即座に屋根から飛び降りて傍に駆け寄る。
「ふぃ、フィーヤ…!…息していない…フィーヤごめん」
フィーヤの鼻と口辺りに手を翳して息をしていない事を確認し、一言謝りフィーヤの育った胸に耳を押し当て心音を確認する…。
「心臓も動いてない…!くそ!!」
フィーヤの身体を確認すると腹からの出血は…明らかに人が死んでしまう量が出ている。
意識がなく、飲ませれないフィーヤの身体に効力が落ちる事も関係なしにポーションの瓶を割り、傷口へ虹色の液体を振りかける。
するとフィーヤの身体は光に包まれ、仰向けでも地面が見えていたの腹の傷が一瞬で塞がり、身体の色も血の抜けた青白さではなく健康的な肌の色になる。
「フィーヤ!?目を覚ましてくれ…!!…くそ!まだ心臓が動いてない!!」
血色は戻ったが、未だ心臓が動かずにずっと目を閉じているフィーヤの胸に手を重ねて圧迫していく。
「くそ!フィーヤ!!戻ってこい!!死んじゃダメだ!!フィーヤ!!!フィーヤ!!!」
必死に呼びかけても反応示さないフィーヤにどんどん焦る千棘…
「くそ!!心停止が5分経過すると救命率は25%…!!お願いだ、目を覚ましてくれ…フィーヤ…!フィーヤ…!!…っ…ごめん…!」
ずっと胸を圧迫しているが目を覚まさないフィーヤの顔に千棘の涙が落ちる。
自分が泣いている事も気付いていない千棘はフィーヤにごめんと呟き……唇を重ねる。
自分の呼吸をフィーヤの口から身体に入れて心臓に、肺に動くよう祈りながら繰り返す。
するとフィーヤの指が一瞬ピクリと動いた…気がしたが、千棘は手を、唇を重ねるのを止めることなく繰り返して戻ってくるように祈る…。
そして…ゆっくりとフィーヤの瞼が持ち上がり…
「ち…チヅル…」
「ふぃ、フィーヤ!?」
掠れた声が聞こえた瞬間、上半身を抱き上げて心音を確認する千棘。
「フィーヤ…本当に…本当によかった…」
フィーヤの心音を聞き、もう大丈夫だと自分の涙をフィーヤの胸元に染み込ませるよう抱きしめる…。
フィーヤはまだ頭が働いていないのか状況が理解出来ずに呆けていたが、自分の胸で涙を流しながら抱きしめてくれている千棘を見て一気に顔を赤らめる。
「ち、ちちちちチヅルさん!?ど、どうして私の胸に!?」
「あっご、ごめん…さっきまでフィーヤは心臓が止まっててほぼ死んだ状態だったから…生き返って本当によかった…」
フィーヤは千棘の顔を見る…その顔は安堵しきっている顔で、目は涙に濡れとても赤く…私の為にこんなに必死になって助けてくれたんだと気づいてしまった…。
気付いたフィーヤは、心臓が違う意味で痛くなるのを感じて更に顔を赤らめるが…
「っ!?ち、チヅルさん!!ルノが!変な奴に連れていかれちゃったの!!」
必死に千棘に伝えてくるフィーヤの頭を一撫でして千棘は安心できるようにっこり笑い、
「うん、わかってるよフィーヤちゃん。今ミラーがそっちに向かってるから、僕もすぐそっちに行くつもりだよ。一旦ここにある荷物は全部僕が持っておくからフィーヤちゃんはこれを着てすぐに寮に戻って」
地べたに落ちている荷物を全てインベントリにしまい込み、厚手のローブをフィーヤの肩にかけてあげるが…
「チヅルさん!私もルノの所に連れてって!ルノはもうお別れみたいに言っちゃって…失敗作とか作られたとか意味わかんないし…!」
「…フィーヤちゃん、気持ちはわかるけどダメだ。僕がちゃんと連れて帰ってくるからフィーヤちゃんは寮で待ってて」
「でも私も!」
「フィーヤ!!!!」
「っ!」
突然、千棘の大声を聞いたフィーヤは身体を強張らせ、叱られた子供の様な顔をしながら千棘の顔を見ると…涙を目に滲ませてまた泣き出してしまいそうな、大切なものを奪われてしまったような悲痛な面持ちがフィーヤの目に飛び込み、はっと息を飲む…。
「君は今さっきまで死にかけていたんだ…!また運よく助けられるとは限らない…!だから寮に戻っててくれ…!もし君が死んだら僕は自分が許せなくてきっと……!」
「チヅル…さん…」
許しを乞うように呟かれる言葉にフィーヤはこれ以上この人を困らせてはいけない…これ以上この人の重荷になってはいけないと思い…
「わかりました…絶対に連れて帰ってきてください……『私達の勇者様』…」
「…ありがとう、フィーヤちゃん」
そう一言、言葉を零した千棘の姿は一瞬でフィーヤの視界から消えた。
千棘にもらったローブと自分の唇を触りながらフィーヤは呟く。
「私の初めてのキス…ルノに言ったら怒られちゃうかな…」
初めて赤髪の女の子に好きな人が出来た…。




