憧れた人は同じ人
学術都市ティクス魔法学校 とある教室…
「…という感じだ。今回ちーとの模擬戦で何か掴んだ奴もいると思うし、鼻っ柱折られて落ち込んでる奴もいると思うが、この経験は絶対に生きてくる。お前らがしっかりと相手を見くびらず、何かしてくると思っていれば何事にも対応出来るからな?」
試合が全て終わり、教室に戻った生徒たちは千棘の視点と鏡の視点で撮影されていた試合を見ながら振り返り、一つ一ついい点と悪い点を出していきながら解説していた。
もちろんフィーヤとルノアールの恥ずかしい所は編集済みだ。
ルノアールは千棘に負けてからいつもの無表情ではなく少しずつ笑うようになっており、フィーヤも今までとは違う接し方になっているのを千棘と鏡は感じ取っていた。
「ミラー先生の魔法で君達は自分の未来の可能性を見たと思います。ここで腐る人は絶対にいないと僕は思っています。ここでしっかりと認識していて欲しいのは可能性という事です。今日、戦った力が自分の限界だと決めつけないでください。数ある一つの可能性を今日は体験したのです。だからその自分を超えるようこれからもミラー先生の元で頑張ってくださいね?」
千棘は授業の締めとしてそれっぽい言葉を伝えて一度頭を下げると生徒達も大きな声で返事を返してくれて鏡に並んで授業終了を告げる。
「ちーもいい事言えるもんだなぁ?よし!お前ら~今日の授業は終わりだ。各自、今日の反省するべき点が見つかったものは明日にでも反省点をまとめた物を提出するように、解散!」
宿題を出されたというのに特に不満も出る事なく、友達と話しながら各々が教室を後にしていく…が、赤髪と黒髪の女生徒は二人で残っており、千棘と鏡の元へ近づいて来た。
「チヅル様、ミラー先生、今日はありがとうございました」
「チヅルさん、ミラー先生、ありがとうございます」
フィーヤとルノアールは丁寧にお辞儀しながらお礼を伝えて頭をあげた時は二人ともいい笑顔をしていて、千棘と鏡は釣られて笑みを浮かべながら、
「おう。どうだ?今日の授業はお前らの未来がみえたんじゃねーか?」
「はい!」
「お疲れ様、フィーヤにルノアールちゃん。二人とも授業する前よりいい顔してるね?」
千棘が声をかけた瞬間、二人の顔が曇って不機嫌になり…
「……」
「…え?ん?僕、今変な事言っちゃった?気に障ったならごめんね?」
「ちー…お前…女心をくんでやれ…」
「ええ!?試合しただけなのに!?」
「別に…チヅルさんになら子供扱いされてもいいって言うか…ちゃん付けでもいいです…」
「私もあの時、ルノって呼んでくれたのに…」
「あ、ああ…ごめんよフィーヤちゃん、ルノ…」
名前を呼んであげた途端、さっきまでの不機嫌な様子は一切なくなり、二人の満面の笑みが現れた。
「はい!…それより試合して思ったんですけど、チヅル様は魔法使えないって言ってたのにアイテムボックスの魔法使ってましたよね?」
「あ、それ私も思った!チヅルさん使えなかったんじゃないんですか!?」
ルノアールとフィーヤに痛い所を突かれたと思いながら苦笑し、千棘は…
「えーっと、これはアイテムバックあるでしょ?あれの取り出しをスムーズにしたやつで…仲間に作ってもらったんだよね…だから…ほら?武器を取り出しても魔力の揺らぎとか一切ないでしょ?
インベントリから大型の鎌を取り出して魔法じゃない方法で武器を取り出して見せる。
「…確かに魔力の揺らぎは一切感じなかったですけど…でもバッグを持ってないですよね?チヅル様…」
「えーっと…装備に特殊能力で付いているって言うか…」
「ええ!?防具にアイテムボックスと同じ能力を付与出来るお仲間がいるんですか!?チヅルさん!」
「う、うん。だからほら、何処からでも取り出せるでしょ?」
大型の鎌をしまい、短剣、長剣、盾、斧、弓と順番に取り出して見せていく。
「すごい…それにしてもチヅル様は本当にいろんな武器を使うんですね…試合の時に盾と弓を持った時は本当にびっくりしました…」
「確かに!魔法を跳ね返す盾も初めて見たしあの弓!!あり得ない威力だったよね?ルノのアイスウォール10枚重ね…私の魔法でも一枚割れるか割れないかの強度なのに…弓で一気に5枚割ったよね…?」
「ああ、あの弓はちょっと特殊でね?ちょっと持ってみる?二人で持って、怪我しないように気を付けてね?」
そう言いながら天使の羽をモチーフにした弓をルノアールとフィーヤが差し出している両手に乗せると…
「わぁぁ!?な、なにこれ!!お、重いいい!!ルノ!もっと力入れて!落としちゃう落としちゃう!!」
「んんんんっ!!フィーヤももっと力入れて…!…も、もう無理かも…」
二人が怪我しないように千棘は超重量の弓を片手で受け取りながらくるくる回して床に立てる。
「まぁこんな感じで結構重いんだけど破壊力は抜群でね…この立ててる状態で二人で弦引いてみる?」
恐る恐る弦に手を伸ばす二人は触った瞬間にこれは絶対に引けないと思ったのか口をパクパクさせていた。
「え、ええ!?何これ…こんなの人が引けるの…?鉄を引っ張ってるみたい…」
「これをチヅル様は軽々持って弦を引いちゃうんですね…」
「そうだね、だから相手の見た目に惑わされたり魔法が使えないからって侮っちゃダメだからね?フィーヤちゃん」
「はい…前衛には前衛の強さ、後衛には後衛の強さがあるって今回の事ではっきりわかりました…」
「うんうん、一回だけで今までの考えを捨てて新しい考えが出来るならフィーヤちゃんはもっと伸びるね!流石ミラーの教え子だね」
千棘はフィーヤの事を褒めながら無意識に頭を撫でてしまう。
するとフィーヤは顔を真っ赤にしてされるがまま撫でを受け入れて…その隣では威圧感を放っているルノアールが千棘の事を睨んで頭を突き出していた。
「…ルノ?どうしたの?…ああ、そうか。ルノも今日の試合凄かった。僕も剣だけじゃ勝てないと思ったから色んな武器使ったし、最後の詰めはとてもよかったよ?魔法抵抗力が低い前衛だったらあの氷はすぐ全身を覆っちゃうぐらいの魔法だった。だけど油断なく重ね掛けするべきだったかな?そうしたら多分僕は負けてたかもね…その時は奥の手使ってたけど…」
そう言いながらフィーヤと同じようにルノアールの頭も撫でてあげ、威圧感が無くなったと思いながら手を離してインベントリからイヤリングを二つ取り出し、二人の手に置いていく。
「…!こ、このイヤリング!!【ダフネ】のイヤリングですよね!?アイドルのチル様が付けていた奴!!」
「フィーヤはこのイヤリング知ってるの?私はちょっとわからないかも…」
「ルノ!?クラン【ダフネ】は凄いんだよ!?今まで加入条件がわからなかったのをチル様が加入条件を情報誌で発表したんだけど、正体不明のクランリーダーから手渡しで渡されるしか加入出来ないんだよ!?」
「…なるほど…って言う事はチヅル様がクラン【ダフネ】のリーダーって事ですよね…?」
「へ…?………え!?チヅルさんが【ダフネ】のリーダーなんですか!?」
「ん?そうだよー?別に正体を隠しているわけじゃなくてあまり僕自身活動していないから知名度を上げてくれたのは鉄壁の黒猫ウェイナと聖剣の女騎士アルとチルのおかげだけどね…後、そのイヤリングには遠くの人と話せる機能が付いてるから話をしたい相手をイメージしながら話しかけると通信出来るからね?」
「通信できるなんて…!?チル様とお近づきにな、なれるんですか!?」
「え、通信の事よりチルの方に食いついちゃうの?フィーヤちゃん…そんなにチルの事好きなの?」
「はい!あんなキラキラしてて女の子の憧れです!!」
「私は通信の方が凄いと思うんだけど…フィーヤがそんな風に言うって事は相当可愛い子なの?」
「ルノ!可愛いってもんじゃないよ!天使だよ天使!!」
「あ、あはは…チルも喜んでるんじゃないかなー」
千棘はフィーヤが異常にチルについて熱く語り始めて正体がバレない様にしないとと思っていたら今まで黙っていた鏡が余計な一言を言い放ってしまった…。
「ん?フィーヤ、チルならおめぇの目の前にいんぞ?」
「…は?ミラー先生、流石に冗談だってわかりますし面白くないですよ?」
「いやいや、アイドルのチルはちーが女装した姿だぜ?名前もチヅルとチルで似てんだろ?」
「え…?」
その一言を口から出したフィーヤは千棘を見ながら固まってしまった。
「ミラー…何で余計な事言っちゃうんだよ…」
「あん?おめぇ、二人にイヤリング渡したんならそれぐらいの隠し事は無しだろ?」
「本当にチルさんというのがチヅル様なんですか?私ちょっと見てみたいです!!」
「…わかった、ちょっと三人とも後ろ見てて…」
ルノアールがキラキラとした目でチルを見てみたいと言い、逃げられないかと思った千棘は未だ固まったままのフィーヤを後ろに向けてチルへ変装していく。
後ろを向いてもらって2分後、いつものピンクの髪に赤いドレスのチルの格好になった千棘は三人に声をかけた。
「いいですよ、こちらを向いて頂いても」
三人はこちらに振り返り、フィーヤは目の前にチルがいる嬉しさと千棘がチルだという現実を受け入れられないかのような顔をしていた。
ルノアールはさっきまでの千棘の雰囲気が全くなく、小さな女王様という雰囲気に興奮しており、鏡は面倒な感じになったな?という感じで笑いながらこの光景を見守っていた。
「す、すごい!本当にチヅル様なのですか!?全然雰囲気が違いますね…女の子としても完成されているというか…胸も…あ、これは偽物…?でも感触は本物…?んん?」
ルノアールは千棘の変装の完成度に舌を巻きながら胸が本物なのか偽物なのかを真剣に考えており、フィーヤは変な顔の状態からやっと復帰したようで目の前の現実に項垂れていた。
「そんな…憧れていたチル様が実はチヅルさんで…そのチヅルさんに私…知らないとはいえ試合であんな事を…」
「フィーヤちゃん、確かに私はチヅルが女装した姿です。ですが、この時の私はチルなのです。だから同じ人と考えない事が大事ですよ?試合したのはチヅルで、今こうしてお話しているのは私、チルなんですからね?」
ルノアールに胸の真偽を確かめられながらフィーヤの頭を撫でてあげる。
「ふぁ…チル様に頭を…いやチヅルさん…いやでも……チル様はチル様、チヅルさんはチヅルさん…」
「ええ、フィーヤちゃん。だから今までと同じように応援してくださいね?」
「は、はい!わかりました!!…ていうかルノ!何時までチル様の胸を確かめてるの!?」
「だって…どうなってるのかわからないよ?」
「いいの!チル様はチル様!」
フィーヤは何時までもチルの胸を確かめていたのを咎め、触れないよう拘束して離れさせるとそのタイミングを逃さないように千棘の姿に戻る為、変装を解いた。
「まぁこんな感じだね…後、色々な秘密もあるんだけどそれはまた落ち着いた時に全部話すから…今日の事は絶対に誰にも言っちゃダメだからね?」
「はい!」
「よしよし、二人はこれからどこか行く予定なの?」
千棘が二人にそう問うとフィーヤとルノアールは何かに気付いたような顔をしながら、
「あ!忘れてた!私達、これからお買い物いくので!チヅルさん、ミラー先生またー!」
「チヅル様、ミラー先生、今日はありがとうございました!またお願いします!」
と言い残し、二人はそそくさと教室から出ていき買い物に行ってしまった。
教室には鏡と千棘が残っており、顔を見合わせえた後、お互いふっと一笑いして教室の清掃をしながら話し合う。
「ちー、ありがとな。うちのクラスの懸念が一気に解消されちまったぜ」
「まぁ、これぐらい何ともないし困ってるなら助けるよ」
「…これでルノは勇者じゃなくなる…だけどちーが勇者になるって言いだすとはなぁ?あいつらが集まる時にいきなり言うからこっちもビビっちまったぜ」
訓練場に生徒が集まる前、鏡からフィーヤが突っかかると教えられたタイミングで千棘もルノアールを勇者から下ろすという話をしていたのだった。
「まぁ…ね。普通の女の子として過ごした方がルノも幸せだろうし、今更勇者の肩書が増えた所でねぇ…その為に試合を録画してたんだし証拠映像があればエルラシア国王も認めざる負えないし、あの国王には貸しもあるしね。だからルノはこれから勇者としてじゃなく、ただのルノになれたんだしいいんじゃない?」
「そうだな、本当に助かった。まぁ、なんつーか大変ならいつでも手ぇ貸すからちゃんと言ってくれな?」
「わかってるよミラー。これで懸念はルノの身体と…帝国か…」
「その話はまた後でだ。とりあえず掃除終わらせて飯でも食いにいくか、ちー」
「そうだね、んじゃ終わらせちゃおうか」
■
「フィーヤもチヅルさんの事、好きになっちゃったの…?」
「へ!?何言ってるの!?好きなのはルノでしょ!?」
「…そうだけど…でもフィーヤちゃんって呼んでって言ってたじゃん…」
「い…や…あれは…なんて言うかその…私より強いから…子共扱いされても別にいいかなって思っただけだよ!」
「ふーん…それにしてもフィーヤちゃんって呼ばれた時嬉しそうな顔してたよね…?」
「……別にそんなんじゃ…ないと思う…わかんないけど!」
ルノアールとフィーヤは教室を出た後、汚れた制服を脱いで私服に着替えて二人で街を楽しんでいた。
どれだけ楽しんでいたかは彼女たちの両腕を引きちぎらんばかりに吊るされた大量の袋が証明してくれる。
そんな彼女達の話の話題は千棘…最後に話した時に二人とも呼んで欲しい名前で呼ばせて嬉しそうにしてたと言う所から話は始まったが、内緒にして欲しいという部分はお互い触れていなかった。
フィーヤもまんざらではない様子だが、千棘の事を気にしているのかはフィーヤ自身も気付いていなかった。
ルノアールはもう吹っ切れたとばかりに自分は千棘の事を好きだとフィーヤに言い、逆にフィーヤの事をからかっていた。
「ふーん?フィーヤまで好きになったらライバルが増えちゃうな~」
「だからそんなんじゃないってー!」
「…でも、本気を出してもチヅル様には勝てなかったなぁ…」
ルノアールは自分が負けた事を楽しそうな顔で思い出す。
フィーヤも負けたすぐ後は化け物の様に見ていたが、ルノアールと戦っているチヅルを見て化け物ではなく本当に勇者の様に見えていた。
だからフィーヤもルノアールの気持ちがよくわかると言った表情で負けた事を思い出す。
「うん…別次元の強さだった…追いつくために頑張るけど、追い越せるのは何時になるのかな~?」
「ねー?私は勇者とかじゃなくて冒険者としてチヅル様と色んな所に行ってみたいなぁ…」
そして二人は日が暮れるまで千棘の事を話し、耳に付いたイヤリングを揺らしながら街を散策していた。
「あれが唯一、生きてる失敗作…」
後をつけられている事も知らずに…。
■
学術都市ティクス とある酒場にて…
「ちー、今日はマジで助かったぜ」
「まぁ鏡が困ってるなら助けるよ。鏡はまだここで教師続けるつもりだよね?」
「お?そうだなぁ…もうしばらくは教師やってっから後で屋敷に一度連れてってくれや。したら俺も転移で好きな時にいけるしよ」
「はいはい、んじゃ~後はルノの身体と帝国の問題だね…」
「そうだなぁ…ルノの身体に関しては急を要してないから帝国が問題だろうな。人工勇者計画はしばらくは再開出来ねぇだろうし、やるとしたら魔王復活の方か?」
「んー…こればっかりは帝国に行ってみないとわからないよなぁ…それに憶測だけで動いても国家問題だし…」
「怪しいと思ってても証拠がなけりゃこっちが攻め込まれる理由を作っちまうしな…」
「やっぱり一度帝国に行かないといけないね…フェルミットの時と同じように潜入して証拠を押さえるしかないか…」
「後でちーには俺が集めた情報をなんかに書いて渡しとくわ」
「ありがとう。…ふぅ…鏡は明日も学校でしょ?そろそろお開きにする?」
「ん、そうだな…もういい時間だし良い子は寝る時間だなぁ」
「んじゃ、いこ…」
酒場を出ようとした時、千棘と鏡のイヤリングからフィーヤの声が聞こえて言葉を止めた。
『チヅルさん…先生…ルノが…連れてか…』
『フィーヤちゃん!?大丈夫か!?フィーヤ?…フィーヤ!!』
何度名前を呼んでもフィーヤからの返答は無く、焦りを感じていると鏡が千棘の頬を叩いた音が響く。
「ちー、落ち着け。まずフィーヤが何処にいるか探さねぇといけねぇ。何か方法あんのか?」
「っ!」
千棘はすぐにシステムウィンドウから今まで使っていなかったマップ機能を使用する…すると人がいる場所は緑色の点として表示されているが四つだけ青色の点で表示されており、一つは高速で移動していた。
「前に仲間が何処に行ったか分からなくなった時があって改良したんだ…マップの青い点がイヤリングを持っている人だ。鏡は高速で移動している方に向かってくれ。多分ルノが連れ去られた…帝国に…」
「わかった、フィーヤを助けたらすぐこっちに来てくれ」
「了解!」
二人はフィーヤとルノアールを救う為に二手に別れて救出に向かった…。




