兎と猫と天使
「んー!ここ見晴らし凄いいいなー…まぁフェニックスで空飛ぶよりは穏やかだけど…」
ユリスは千棘が監視していた鐘の塔に登り、千棘から貸してもらっている変装の腕輪で狐型の獣人に姿を変えて辺りを見回す。
(あの図書館がフェイナさんが入っていった図書館、あのお屋敷がチヅルが入っていったフェルミット侯爵の屋敷…上から見ると結構近い場所にあるのかー…地下とかで移動出来るようになってるのかな?…相変わらず図書館には本を読まなそうな人達が不自然にならない程度に入っていってるねー…)
手筒型の望遠鏡を覗きながら状況を把握していく。
(これからクーデターを起こす為に徴兵しているっていう割には静かなものだよねー…んー…もしかしてリアみたいに転移が使える人がいるのかな…?図書館から出てくる人はほとんどいないし…チヅルの方は特に問題はなさそうかな)
『チヅル、聞こえていたら音、1回お願い』
コツン…
『上から見た感じ、チヅルがいるお屋敷は特に怪しい所はないよ。どっちかと言うと、フェイナさんが入っていった図書館に違和感がない程度に冒険者っぽい人達が入って行って全く出て来ないの。もしかしたら地下に集まってそこから…転移魔法とかそういうので王都に移動するかもしれないって考えたの。だから一旦、図書館に入ってみようと思うんだけどいい考えなら2回、待機なら1回お願い』
コツンコツン…
「よし、いっちょ確かめてみよー!」
■
「ええっ!この図書館で借りていた本があったのに今日は入れないんですか…?」
「ああ、今日は関係者以外は入れないようにとフェルミット侯爵様からのお達しがあったんだよ嬢ちゃん」
「ええ…今日この借りた本の期限で、今日中に返さないと超過金を払わないといけないんです!そうすると今日のご飯代が…」
「その制服、騎士学校の子か?確か騎士学校は寮でご飯はしっかり出たはずだぞ?」
「…お母さんの身体が弱くて、体調崩しがちだから私が見ててあげないと心配だからお家から学校に通ってるの。今もお母さんが待ってるから早く返したいの!お母さんが頑張って働いたお金で学校にも通わせてもらってるのにこんな事で超過金まで払ったら、私…お母さんに合わせる顔ないよ…」
ユリスは騎士学校の制服に身を包み、本を適当に用意して探ろうとしていたが中には関係者以外は入れないと門前で止められていた。
「ねぇ…お兄さん?本当に返したらすぐ帰るから…ダメ…?」
目をウルウルさせながらお兄さんの服を掴み上目使いを駆使してお願いをするユリス。
「か、かわ…んんっ!!…んー…本当に返すだけなのか?」
「返したらすぐ帰る!」
「…わかった、その代わり10分して戻ってこなかったら中に迎えにいくからな?」
「ありがと!すぐ行ってくるね!」
ユリスは何とか時間制限付きだが図書館の中に入る事が出来た。
入って辺りを見渡すが図書館を管理している職員が一人だけ受付におり、上から見ていた時に入っていった冒険者は誰一人いなかった。
(やっぱり地下が有力だね…フェイナさんもいないし、きっと地下なんだろう…さすがに地下はフェイナさんの情報待ちで私に出来る事はここには残念だけどなさそう…いや、ぱっと見職員が一人だけなら…おびき寄せるか…)
職員がいる所から遠い位置にある大きい本棚に隠れながら、自分の身長がギリギリ届く高さの本に手をかけて無造作に引き抜き床に本をばら撒く。
バサバサバサ…
「ん…?冒険者のやつか…?これだから冒険者は…本は丁寧に扱わなきゃいけないのに…」
(ごめん職員さん!いつもは本を丁寧に扱ってるから…!)
心の中で謝りつつ職員が持ち場を離れた瞬間、カウンターの裏側の扉を開けて中に入り込む。
(うん…特に人の気配はなし。やっぱりあの職員さんだけだね…なんか今回のクーデターで役に立つ情報ないかな…)
ユリスは辺りを物色しながら役に立つものがないか漁っていく…。
(なるほどね…これは決定的な証拠になりそう…あれ、こんな棚の裏に金庫が埋め込まれてる…?鍵開けは得意じゃないけど…)
今回のクーデターに参加するであろう貴族の名簿を手に入れたユリスは、更に金庫を見つけて鍵開けをする。
(んー!!やっぱり苦手なんだよー…!………後3分以内に…後2分……よし!……っ!!なにこれ!?本当なのこれ…!早くチヅルに報告しないと…でもその前に無事に脱出しなきゃ…!)
鍵開けに成功したユリスは手に入れた資料を見て絶句し、その内容を千棘に伝える為にまずはこの図書館から脱出しないといけない状況で、脱出のルートまで頭が働かずどうしようと頭を悩ませていた。
(もう、ここまで来たらやるしかないか…)
そして部屋の窓を開けて外に出て、音もなく窓を閉める。
入口の門の前にはさっき話していた冒険者っぽいお兄さんがいた。
(チヅルからもらったこの靴下があれば…出来る!)
千棘から今回の作戦の為に何個か装備をもらっていたユリスはその一つである”風精の足袋”と言う薄緑っぽいオーバーニーの靴下をもらっていた。
装備している者のスピードを底上げする装備で、レンジャー型のユリスにはとてもありがたい装備だ。
(まずは気付かれる前に一気に門前まで走って、扉を開けて中から出てきたようにごまかす!!)
そう意気込んで一瞬で風になるユリス。
自分でもこんな速度が出るとは思わなかったユリスは少し驚きながらも、装備の性能に心躍らせていた。
■
「そろそろ10分経つな。嬢ちゃん迎えにうぉ!すげぇ風!?」
辺りをきょろきょろ見渡すが、風魔法で攻撃されたわけでも無く、今のすごい風はなんだ?と考えていると後ろから扉を閉める音がした。
「ん、嬢ちゃんか。え…嬢ちゃんすごい汗だし髪もめちゃくちゃ乱れてるけど大丈夫か…?」
「ん!?え、うん!大丈夫!もう少しで10分だったから迷惑かけないように走ってきちゃった…あはは…」
「ん?あー…まぁ本も返せたようだしよかったな?でもあんま図書館を走ったりするなよ?」
「うん!じゃあお母さん待ってるから私そろそろいくね?お兄さんありがとう!」
そう言うとかなりのスピードで走り去っていく。
その後ろ姿を呆然と眺める一人の青年。
「はえー…今の学生ってあんなに早く走れるんだな…それに可愛くて性格もよかったし…教員でも目指そうかな…」
一人の青年はこの図書館に入る一般人を今日1日止めるという依頼が終わったら教員を目指すことになる…。
■
「で?私をどこに連れていくつもりなの?」
「…」
「それにリアは本当に無事なの?」
「…」
「何とか答えなさいよこの不審者」
「…」
「はぁ~あ、こんな可愛い女の子にビビってるようじゃこの先思いやられるわ…」
「いい加減黙って歩け…」
「やっと反応したと思ったら男の安っぽいプライドが傷つけられて反応しちゃった?」
「…」
「まぁもういいわ」
「それでいい」
(なんか知ってそうだけど煽ってもあんまり効果薄そうなだなー…)
『フェイナ、聞こえていたらそのイヤリングを一回弾いて』
(あ、ちーちゃんだ…こうかな?)
指で軽くイヤリングを弾く。
『おっけーフェイナ。そのままフェイナは情報集めとかよろしく。僕も行動し始めるから、大丈夫だったら音2回、ダメだったら音1回』
(りょうかいー!なんかこういうの映画とかでスパイがよくやってるの見てたけどまさか自分がやるなんて思わなかった!えっと2回弾いて…よし!)
「何をニヤニヤしている…」
「あら?黙ってるんじゃなかったの?」
「…」
「別にあの屋台の料理が旨そうに見えたから味を想像しただけよ」
「…」
「話しかけてきたと思ったらすぐダンマリ…そんなんじゃあんたを好きになってくれる人なんていないんじゃない?」
「黙れ…」
「図星だったかな?はいはい黙りまーす」
「一言多い奴め…人質がいる事を忘れるなよ」
(その人質も私達が偽装したんだけどね~一応悔しい顔でもしておこうかな)
「ふん、分かればいい、黙ってついて来い」
「…」
色々演技しながら黙々とフードを被った人物について行き、20分程回り道などをしながら付いた場所は図書館だった。
(ふ~ん、図書館ね。武力を隠すには割といい場所かもね~)
声には出さず、辺りを見回して情報を集めていく。
するとフードを被った人物はカウンターにいる職員に近づき、
「連れてきた、後は主が話をつけている冒険者が屋敷にいる。今はこの後ろにいるでかい女で最後だ」
と、伝えると職員は何も言わずに後ろのドアに入っていき、しばらくするとカウンターの近くにあった大きな本棚が横にずれて、地下に続く階段が現れる。
(おー!!こういうギミック初めて見た!推理アニメとかだとこういうのよくあるよねー!)
「こっちだ、ついてこい」
「はいはい」
内心ちょっとわくわくしながら地下に続く階段を下りていくフェイナ。
少し降りると入ってきた入口からの光がだんだん狭まり、最終的には光が届かなくなっていた。
すると壁に掛けられたランタンの様な物が明るく光り、足元を照らしてくれる。
「何を見ている、早くいくぞ」
「別に見ても減るもんじゃないでしょ。はーあ、これだからせっかちな奴って嫌なのよね」
「…」
(結構深い…元々何かを隠す為に作られた地下っぽいねここ…)
そしてしばらく降りていると鉄製の凄い頑丈そうな扉が一つ見えてきた。
フードを被った人物の後をついて行きながらその中に入ると、サイズが全て同じ石で作られたかなり大きい部屋の光景がフェイナの目に飛び込んできた。
「そこら辺で時間まで待っていろ」
そう伝えられたフェイナは何も答えずに扉の近くの壁に背を預けて辺りを観察する。
(かなりの人数…ぱっと見じゃわからないけど、クーデター起こすにはこのぐらい人はいそうだよね…んで、別の貴族も力を貸してるなら更にこれの倍以上って感じか…おんなじ装備を付けてるのはフェルミット侯爵のお抱え騎士か兵士、冒険者っぽいのは直接契約で集めた感じかな…お金に目が眩んだのかな…)
部屋の奥には同じ装備を身に着けた集団が固まっており、ドア付近になっていくにつれ装備も年齢も性別も種族もバラバラな人が多くなっている。
しばらくフードを被った人物の言っていた時間が来るのを待ちながら辺りを見ていると懐かしい声がした。
「おい、そこにいるの…もしかしてウェイナか?」
「え…そんな…何でここにいるの…!ペイン!!」
まさかこんな所で助けてもらったペインに会うなんてフェイナは予想していなかった…。
■
「バンさん、ここまで送って頂きありがとうございました」
「おう、ここから先はマジで気をつけろよ?」
「わかりました」
「んじゃまた依頼受けに来るの待ってるぜ」
そう言い残し、乗ってきたギルドの馬車に乗り込んだバンはそのままギルドに帰っていった。
そして屋敷の門を警備している人に呼ばれて来た事を伝えて、案内をしてくれる人が来るまで門の前で待つ。
今の千棘はこのネシアに来た時に着替えた格好と同じ黒のインナー姿だった。
違うところがあるとすれば武器は何も装備しておらず、フードが付いた丈の短いジャケットに首元には千棘の顔にフィットするようなマスクが首にぶら下がっていた。
案内人の執事、こちらで捕らえた執事とは別の執事が外まで出てきたのを確認して門にいる兵士に声をかけ、その執事の前でボディチェックを受ける。
「チヅル様、この度は依頼終わりでお疲れの所、すぐこちらへ足を運んでいただいてありがとうございます。私、このフェルミット侯爵家、現当主のゲイル・フェルミット様の執事をしているファイと申します。以後お見知りおきを」
「ご丁寧にありがとうございます。私、Aランク冒険者のチヅルと申します。何分、冒険者なもので粗相などがあるかも知れませんが、お目こぼしの程よろしくお願い致します」
「こちらこそご丁寧に。チヅル様の格好を見れば冒険者とわかるのですが、言葉遣いなどとても丁寧で、特に私は心配しておりません。ではゲイル様がお待ちしていらっしゃるお部屋までご案内致しますのでついて来て頂いてもよろしいですか?」
「わかりました、案内よろしくお願いします」
軽くお辞儀をして執事フェイの後ろをついて行く。
屋敷に入ると明らかに高いものが至る所に置いてあり、この家の格が高い事をありありと伝えてくる。
そんな豪華絢爛な屋敷を歩いていき、ある一室の前で執事のフェイが止まる。
「チヅル様、この先に当家の現当主ゲイル様がいらっしゃいます。どうぞお入りください」
無言で軽くお辞儀をし、扉をノックする。
しばらくすると中から「入れ」と声がかかったので扉を開け入室する。
「失礼致します、ゲイル・フェルミット侯爵様。私、今回お声をかけて頂いたAランク冒険者のチヅルと申します」
膝をついて執務などを行う机を前に椅子に腰かけている今回の黒幕とも言えるゲイル・フェルミットに挨拶する。
「チヅル、急な呼び立てにも拘らずここまで来た事を労おう。私はフェルミット侯爵家当主のゲイル・フェルミットだ。まずはそこのソファーにでも腰を落ち着けるがいい」
「はっ」
軽く返答をし、座る前に一度軽くお辞儀をしてソファーに腰を下ろすが、ふかふかすぎてお尻が沈み足が届かなくなってしまったので軽く座りしっかりと足を床につける。
するとその光景を見ていたゲイルは笑いながら対面に腰を下ろした。
「いや、何すまないな。笑い者にするつもりはなかったのだが、武勇を聞いた後にチヅルの風貌を見ると子供にしか見えなくてな」
「いえ、私自身、子供である事はしっかりと認識しているので問題ありません。今回、お呼び頂いた内容としてはゲイル・フェルミット侯爵様の私兵への訓練をという事で伺っているのですが…」
「ああ、建前はそうなるな。実はこれから戦が起きようとしているのだ」
「い、戦ですか!?っ!も、申し訳ありません、あまりの事に声が大きくなってしまい…」
「よい、いきなり連れて来られて戦が起こると言われれば誰でもそうなる。で、相手はまだ明かせないが、かなり腐敗しているのだ。その相手は」
「腐敗している……差し支えなければお伺いしても…?」
「ああ、実はつい最近、ある街で悪逆非道な行いがあった事を確認してな…その内容が街にあるスラムを…そこに住む民ごと焼き払ったのだ。これは絶対に許されない行為であると私は考えている。なので私は正義の名のもとにこの行いをした者を糾弾しようと思ったんだ」
(ん…あれ?この話…王都のスラム事件の事だよな…あれは円満に解決して死人なんて誰も出なかったはず…情報の行き違いってわけじゃないよな…あんな噂がここまで来て、改善されたスラムの情報が来ないなんて絶対におかしい…)
「なっ!そんな事が…酷い…!」
「チヅルもそう思うか。だから私が正義の名の元に行動しなければいけない。その為にチヅル、お前の力を私、ゲイル・フェルミットに貸して欲しい…!」
(もしかして本当に知らない…いやそんなはずはない…)
「ゲイル・フェルミット侯爵様。疑うわけではありませんが、その情報は確かなのですか…?ゲイル・フェルミット様を陥れる為に誰かの策略であったりそういう可能性は『チヅル、聞こえていたら音、1回お願い』…」
さりげなくイヤリングを軽く弾く。
『上から見た感じ、チヅルがいるお屋敷は特に怪しい所はないよ。どっちかと言うと、フェイナさんが入っていった図書館に違和感がない程度に冒険者っぽい人達が入って行って全く出て来ないの。もしかしたら地下に集まってそこから…転移魔法とかそういうので王都に移動するかもしれないって考えたの。だから一旦、図書館に入ってみようと思うんだけどいい考えなら2回、待機なら1回お願い』
(ユリスには危険な事をして欲しくないけど…でも装備を何個か渡してあるから大丈夫か…)
そう思いイヤリングを2回軽く弾く。
「…というわけだ。だからこの情報はこの私もしっかり精査した情報だ」
(少し話聞きそびれたけど明らかに自分で確認した上でこの話を持ち掛けてるって事は黒だな…)
「わかりました…私が持っている力の限り対応させて頂きたいと思います」
「おお…よかった。では今ある場所に兵を集めているので早速向かってもらいたい。場所は…」
「ゲイル・フェルミット侯爵様、お話し中、申し訳ございません。一つだけ先に確認したい事がございます」
「む?なんだ?」
「はい、今回、正義の名の元に集まった方々はどういった方々なのでしょうか?もし、ゲイル・フェルミット侯爵様と同じように、貴族様がいらっしゃったら無礼を働いてしまい、作戦が滞ってしまう可能性もあります。なのでそういう事が無いように事前に教えて頂きたいのですが構わないでしょうか?」
「子供の身なれど、知力、武力は一級品か。わかった、フェイ、今回参加する貴族達の名簿を用意しろ」
「かしこまりました」
そう答えると執事のフェイは音もなく退出する。
その名簿を持ってくるまで、少し時間が空いたので現状を整理しながら軽く雑談をする。
そして執事のフェイが帰ってきて千棘に名簿を渡し、その説明をフェイから聞いている時に千棘の耳に…
『ごめん!!戦闘が始まった!!地下に来て!!!』
フェイナの声が聞こえた…。
一応1話毎に5~8000文字ぐらいで毎回書いているのですが…やっぱり少ない2000文字とかの方が読みやすいのでしょうか?私もなろうの作品を見ていて更新された!と思って見た時に、すぐ読み終わるとちょっと物足りない感が出ちゃうので多めに書いているのですが読みにくいのですかね?




