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再始動 -Second Life on-line- そして第二の人生が始まる  作者: 絢奈
第六章 天使の使いと巨龍の使い
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新たな魔王に差し伸べる手

『みんな、落ち着いて聞いて。今、千棘が魔王を倒した。だけど、魔王の因子って言うのが千棘の体に埋め込まれて魔王になりかかってる。エルもデルも千棘ママも全員私の所まで来て』


『お、おい!アルメラ!それだけじゃわかんねーぞ!?どうしてそう…』


 …


「くそ!アルメラの奴、用件だけ言って切りやがった…」


「鏡、落ち着け。あたいらがここで喚いても何にもなんねぇ」


「わかってるが…何で()()()()()そんな落ち着いてんだよ?」



 聖地セルファスの上空…この場でアルメラの連絡を受けた鏡、エルリ、ルエリ、ユリス、ルノアール、フィーヤは取り乱していたが、何故かユーランだけは腕を組みながら落ち着きを払っていた。



「…あたいまで慌てちゃすぐに行動出来ねーだろ?…まずはちー助の方に向かう組とエルとデル、ちーママと合流して向かう組に別れるぞ。ちー助が魔王を倒したおかげであの気色わりぃ結界は無くなってるから転移出来るはずだ。…きっとすぐに人手が欲しいはずだからルノアールはあたい以外を全員ルノアールが戦闘した所まで転移してすぐに向かってちー助達を探してくれ。あたいは屋敷に転移して戻ってエルとデル、ちーママと合流する。三人を連れてまたここに戻ってくるからルノアールは皆を送った後にもう一度ここに来てくれ」



 ユーランはそう言いながら皆の表情を見渡すと、自分のやるべき事がわかった様な表情を浮かべながら皆が頷く。



「わかりました。では皆さん転移しますので私から離れないでくださいね。では、ユーランさん、また後程」


「ああ、頼んだルノアール」



 ルノアールが全員を連れて城に転移したのを見届けたユーランはインベントリから屋敷に転移する為の魔道具と()()()()を取り出しながら屋敷に居るであろう千棘の母、那奈のイヤリングに通信を繋げる。



『ちーママ、さっきの通信は聞いたろ?』


『ええ…私達もすぐに戻るわ』


『あたいが一度そっちにいくからそこで待っててくれ。その後にルノアールに転移でちー助の場所まで転移させてもらうから』


『…わかったわ。待ってるわユーランちゃん』


 …


「よし、後は屋敷に転移するだけなんだが…」



 ユーランは転移の魔道具に魔力を込めながら起動するのを待っていると、魔族と悪魔の軍勢を一撃で屠った『ケラウノスの槍』をコルに見せた事を思い出し、悪態をつく。



「…ったくちー助のやつ…何が()()()()()()を作ってくれだよ…」



 魔道具と一緒に取り出した剣…ユーランが作り出した()()()()()()()()()()()()を忌々しそうに睨みつけながら腰に吊るす。



「こんなのあたいに作らせるとか…あたいが言ってたことを忘れてたら容赦しないぞ…くそっ…」





 ■





 ユーランはある事を伝えに一人でアエリアがいる部屋に向かって行き、扉をノックしながら問う。



「おう、ちー助!!ちょっといいか?」


「あらぁ、ユーラン…どうしたの~?」



 するとアエリアではなくコルが部屋の扉を開け、何かを準備していたであろう薬草や器具等がユーランの視界に映る。



「わりぃ、取込み中だったか?」


「いえ~。これからみんなのポーションをフェイナ達と作る為に用意してただけですよぉ」


「おう、ならちょっと時間をもらえるか?」


「いいですよぉ?何か急用でしたか~?」


「んや、遂にあたいだけの武器が出来たから見せようと思ってな?これからの作戦に使えんならそれも視野に入れて作戦を組み立てて欲しいと思ってよ」



 そう言うとユーランはインベントリから『ケラウノスの槍』を取り出し、コルに見せる。



「…これはどういう槍なんですかぁ?」


「これは『ケラウノスの槍』っつってな?神格魔法の『雷炎(エレクトフィ)災害(ディザスター)』の再現が出来る魔槍なんだよ!すげーだろ!?」


「…すごいですねぇ…雷の神格魔法ですかぁ…」


「すげーだろ!?あたいってやっぱ天才だよな!?」


「これと同じ、神格魔法の再現が出来る武器は他にもあるんですかぁ?」


「おう!作りかけのが何個かあんぜ!」



 コルはその槍をじろじろと見つめ、作りかけの武器があると聞いて表情を真剣なモノに変えながらにユーランへ願いを伝える。



「…ならユーランにお願いがあるのですぅ…」


「おう?この魔槍の力を使うのか!?」


「…それはとっておきの時に使わせてください~。…私の事を殺せる魔剣を作っておいて欲しいのですよぉ」



 そう言われたユーランはコルが言っている意味がわからず、もう一度聞き直す。



「…わりぃ、今なんつった?」


「私の事を殺せる魔剣を作って欲しいんですよぉ」



 ようやく自分の聞き間違えじゃなかったと認識したユーランは大声を上げながらコルに何故そんなものを作る必要があるのか理由を問う。



「な、なんでだよちー助!!何でそんなもんを作らなくちゃいけねーんだよ!?…あ、あれか!?ちー助よりもつえーやつがいるかもしんねーからそんな言い方してるとかか!?」


「…いいえ~。私の事を殺せる魔剣ですよぉ。…先程フェイナが用意してくれた書類を見たんですよぉ」



 コルはそう言いながらフェイナが作ってくれた書類をユーランに渡し、見て欲しい項目を指差しながら理由を伝える。



「ここ、魔王は能力をコピー…もしくは奪う事が出来るみたいなんですよぉ…もし、魔王が今までの勇者達の能力を持っていてその中に私が魔王に洗脳等されてしまう様な能力を使われてしまってぇ…ユーラン達の敵になってしまった時の保険として用意しておいて欲しいんですよぉ」



 ユーランは書類を読みながら握りしめて怒声を発する。



「だ…だからってあたいにそんな仲間を殺すような物を作らせんのかよ!?あたいの武器は仲間の為の物なんだぞ!?洗脳されたり操られたりしても何とかなんねーのかよ!?」



 コルは力を入れ過ぎて震えているユーランの手を包み、しっかりと見つめながら真剣に伝える。



「私もそう簡単に操られたりしませんよ。でも、万が一…そんな事が起きてしまって私の手でみんなを殺したりするのは嫌なんですよ…こんな事を頼めるのはユーランしかいないんです…」



 いつもの間延びした口調でなく、真剣な口調で問われたユーランは手から力を抜き、しばらく俯きながら考える。



 その間もコルはユーランの手を包み続け、ユーランが答えを出すまで待ち続けた。



 顔を上げたユーランは少し怒った様な表情をしながらコルへ自分の考えを告げる。



「…あたいは仲間を殺す為に武器を作ってるわけじゃねぇ。そんなものは作りたくなんかないんだよ…だけど、それが他の仲間の為になるなら作ってやる…」


「ありがとうユー『だけどなちー助!!』…」



 ユーランはお礼を言おうとしたコルの胸元を掴み、顔を近づけながら叫ぶ。



「こんな胸糞わりぃお願いはこれっきりだ!!もし、次同じようなお願いをしてみろ?あたいは絶対にちー助を許さねぇからな!?これから作るちー助を殺す剣を使う前にどうにか出来るなら死んでもなんとかしろ!!もしそれが出来ねぇならあたいがちー助を殺したっつー罪を一生背負って他の仲間に嫌われながら生きてやる!!それが嫌なら意地でもどうにかしやがれ!!」



 言い切ったユーランは乱暴にコルの胸元を放し、握りしめていた書類をテーブルの上に乱暴に置いて部屋を出ていこうとする。



 コルはユーランの眼が潤んでいたのを見て、心が締め付けられる様な気持ちになりながら伝える。



「ユーラン…こんな酷な事をお願いしてごめんなさい…」



 ユーランはコルを一瞥し、何も言わずに部屋を出ていく。



「…本当にごめんなさい、ユーラン…」





 ■





「…くそっ!この剣を見る度に嫌な事を思い出させやがる…忌々しいぜまったく…」



 腰に吊るした白い鞘に納められた魔剣を一度殴りつけ、一瞬の浮遊感がユーランを包み、視界に映る景色を建物の中にいる景色へ変える。



「わりぃ、待たせたなエル、デル、ちーママ」


ユーラン様(ユーラン様)お帰りなさいませ(お帰りなさいませ)


「ユーランちゃんおかえり……その()()()()はユーランちゃんの武器?」


「ああ、これか…そんな綺麗なもんじゃねぇよ…」



 那奈の問いにユーランは表情を歪めながらもう一度転移の魔道具に魔力を籠め始める。



「この剣は()()()()()()()()()()()()()()なんだよ…」


「……そうなのね…」



 那奈はユーランが苦しそうな表情をしながら剣の事を語った為、それ以上の事は聞こうとはせずにユーランの魔道具に魔力を込めるのを手伝う。



「わりぃ、あたいだけじゃ少しだけ起動するのに時間がかかるから助かるぜ」


「私の息子が魔王になって暴れそうになってるって聞いたら、母として叱りに行かないといけないですからね」



 ユーランは手伝ってくれる那奈の表情を見て力を抜く。



 那奈の表情は本当に悪い事をした子供を叱る様な母親の表情をしており、この人が居ればきっと、仲間殺しの魔剣を使わなくても済むかもしれないとユーランに思わせてくれた。



「…ははっ!そうだな、ちー助の野郎をガツンと叱ってくれ!じゃなきゃ、あたいがぶん殴っちまうかも知れねーしな!」


「それぐらいしないとダメかもねぇ…あの子はきっと、みんなに頼ってるつもりだけど…一人で何とかしようとする気がするの」



 那奈は母の表情から仲間の表情に変え、ユーランに自分の心の内を吐き出す。



「私の主神、セッテから聞いたの。ルノアールちゃんを助ける時、自分の命すら投げ出してルノアールちゃんを助けるやり方をして救ったって…きっと他の人が聞いたら美談に聞こえるだろうけど…私達仲間からしたら堪ったもんじゃないわよね。残された人達の事を考えられない様なら…私が叩きこんであげるわ」


「…全く同感だ。ちー助が死んだら誰があたいらを…」



 そう言うユーランの表情を那奈が見た時、揶揄う様に問う。



「あら?ユーランちゃんもうちの千弦の事が好きなの?」


「はっ…はぁ!?な、何言ってんだよ!?」



 ユーランの燃えるような赤い髪色にも負けないぐらい顔を赤く染めたユーランは那奈の事を咎めようとするが、那奈はそんなユーランの視線を心地よく思いながら言う。



「ふふっ。千弦のそう言う所が女の子を惹きつけちゃうのかしらねぇ…母として誇らしいけど、女の子に心配をかけるような息子は許せないわ。ユーランちゃんの為にもガツンと言ってあげないとね」


「だ、だからそんなんじゃ…!?」



 抗議しようとしたユーランの手元で稼働している転移の魔道具がようやく発動し、この場にいるユーラン、那奈、エル、デルに浮遊感を与えてユーランが元居た場所へ転移して四人の視界の光景を変える。



 するとそこには金髪碧眼の美少女が真っ青な炎に身を焼かれながら首を傾げて待っており、様子のおかしいユーランに何があったのかをその美少女は問う。



「ユーランさん?お顔が真っ赤ですけど…何かあったんですか?」


「るっ!?…いや、何でもねぇ…ってか何でお前燃えてんだよ!」


「ああ、これは…」


「ふふっ。ルノアールちゃん、ユーランちゃんはね?ち『おい!!やめてくれ!!』…ふふふ」


「え?え?何ですかお義母様?」


「ルノアールも詳しく聞くな!!いいからちー助のとこに行くぞ!!」


「え…そ、そうですね!すぐに行きましょう!!」



 事情の分からないルノアールはきょとんとしていたが、今はそんな時ではないと思い直して転移魔法を構築していく。



「まったく…」


「ふふ。ユーランちゃんにもライバルはいっぱいいるから頑張ってね?」


「だから…!!」


「ユーラン様、ファイトです」


「おい、エルまで何言ってんだよ!」


「ユーラン様?女の価値は胸じゃありません、包容力です」


「おい!デル!!お前まで何言ってんだよ!!」


「皆さん転移するので早く私の近くに来てください!!」


「…ああもう!いくぞ!!」



 やけくそになったユーランは顔を赤らめながらも三人を引き連れルノアールに近づき、コルの元へ転移していく…。





 ■





「覚悟しろ千棘…正気に戻ったら全力で殴り飛ばしてやる…!!!」



 アルメラは覚悟を決め、フェイナの大盾を構えながら蹲りながら尻尾で破壊を撒き散らしているコルの元へ一気に飛び込む。



「あ、アルメラ…!?な、何をす、ううううううぐぐぐうう!?アルメラ!!わ、わらわに一人で近づくのは…ああああああああああああああ!?」



 コルはこちらに近づいてくるアルメラに驚き、どうにか自分の身体を押さえつけようとするがコルの意思に逆らう様に尻尾の動きが激しさを増す。



「千棘!!全部終わったらぶん殴ってや…ぐうっ!?」


「あ、アルメ…あがあああああああああああああああああ!!!!」



 アルメラが大盾でコルの尻尾を防ぐがその衝撃はフェイナを吹き飛ばして気絶させる程の威力を持っている。



 どうにか踏ん張り、床を割り砕きながら後ろに下がってしまうアルメラを見てコルは自分のせいで二人も仲間が傷ついてしまった事実に自分を忘れそうになってしまう。



「くそ…何なのあの馬鹿力…フェイナ程じゃなくても私だって頑丈なのに…!!」


「アルメラ!!コルからバハムートとの獣神化を解かせるんだ!!」


『アルメラさん!!きっとバハムートが千棘さんの身体から抜ければ押さえられるはずです!!』


「ピュリエット!コウ!どうやって獣神化を解かせるの!!!」


『わかりません!!ピュリエットと私ぐらいちゃんと力を引き出せるなら私の方から獣神化を解くことが出来るんですが、きっと今の神龍バハムートは意識がありません!!なのでその神龍バハムートに語り掛けてどうにか千棘さんの身体から出る様にしてください!!』


「まったく無茶な事言うね!!!」



 そう言いながらアルメラはコルの攻撃で痺れた腕を振り、痺れを取ってもう一度近づいていく。



「アルメラ…近寄るな!!もう、わらわは…わらわは傷つけたく…があああああ!?」


「そんな状態の千棘をほっとけるわけないでしょ!!!ぐっ!?ば、バハムート!!起きなさい!!!っう!?あんたの力は千棘の道を開く為にあるんでしょ!?何閉ざす為に振るってるのよ!!!ぐっ!!」



 暴れまわる尻尾を大盾で防ぎながらコルの中で眠るバハムートに必死で語り掛けるが全く尻尾の勢いが収まる事なく、どんどん激しさを増していく。



「千棘!!何で魔王の力に屈してるの!!千棘は私達のリーダーでしょ!?どうにかしてバハムートとの獣神化を解きなさい!!」


「ぐ、ぐぐ…出来るならとっくに…やっておる!!…な、何故なのじゃ!?信仁は魔王の因子を…がああああ!?…魔王の因子を埋め込まれてもすぐに芽吹くことはなかったのだろう!?な、何故なのじゃ…ああああああああああああああ!?」


「気を確かに持ちなさい!!もうすぐでみんながここに来る!!


「ううううう…!!!があああああああ!?」



 コルが一際大きな咆哮を上げると聖堂床や壁、柱などに亀裂が生まれ、どす黒い瘴気が聖堂中を満たす。



「ぐっ…こんなどす黒い物が千棘の身体に入ってるの…!?息がしづ…ゴホッ!!…な、何…これ!?」



 アルメラはコルの咆哮によって生まれた衝撃で後ろに下げられ、少し離れた所からコルの身体から黒い瘴気が噴き出るのを見ていた。



 その黒い瘴気を吸い込んだアルメラは胸の内からどす黒い悪意が湧き出る感覚を感じながら咳き込み膝をついてしまう。



「ゴホッ……ピュリエット!!この瘴気は絶対に吸わないで!!おかしくなる!!」


「僕は大丈夫だ!!それよりもアルメラこれを受け取れ!!」



 するとピュリエットの蒼い炎の翼から炎が放たれ、膝をついているアルメラに炎が直撃して身体を燃やし始める。



「あつっ!?……なんか身体が楽に…」


「その炎はコウちゃんの炎だ!!フェニックスの炎は不死であると同時に神聖な炎なんだ!!その炎がある間はその瘴気を防げるはずだ!!アルメラ頑張ってくれ!!」


「…わかった!!」



 身体を焼くはずの蒼い炎は不思議と心地よく、胸の内から湧き上がる悪意も心地のいい蒼い炎が燃やしてくれる様な気がしながら大盾を構えて瘴気の発生源であるコルに三度突っ込む。



「千棘…!!!こんな瘴気に負けないで!!私達の千棘はカッコいいのに何処か抜けてて!!それでも頼りがいがあって!!私達が辛い時はいつも支えてくれて引っ張ってくれるんだよ!!!千棘が辛い時は私達が何とかするから!!!千棘は一人じゃないから!!私達が傍にいるから!!!!!」


「アルメラ…っ…もう、おさえ…きれない!!!にげ…!!!がああああああ!!!!」


「ちとぐぅ!!!!!」



 アルメラはコルに必死に語り掛けていたが黒い瘴気が爆発するように噴き出し、アルメラの構えていた大盾を砕く程の威力が籠った尻尾をアルメラへ振り抜く。



 その大盾を砕く程の威力の籠った尻尾を振り抜かれたアルメラは聖堂の壁目がけて吹き飛ばされるが、壁に激突する事は無かった。



「アルメラぁ!!!」


「ぐ…鏡…やっと来てくれた…」



 アルメラの名前を叫び、その身を賭して壁からの激突を防いだ仲間…鏡が居たおかげで行動不能にならなかったアルメラは鏡の腕の中で力を抜く。



「お、おい!アルメラ大丈夫か!?お前なんか燃えてるぞ!?」


「だい…じょうぶ…力が抜けただけ…この炎はピュリエットの…」



 そうアルメラが伝えると駆けつけた仲間に蒼い炎の雨が降り注ぎ、全員の身体を蒼い炎が包み込む。



「鏡!エルリ!ルエリ!…それとそこの君達!!その炎はこの瘴気を防ぐ炎だ!!この瘴気を吸うと悪意が君達の身体を蝕む!!その炎が消える前にこの状況をどうにかしてくれ!!!」


「ピュリエット…!?おま、何で…くそ!!わけがわかんねぇ!!ルノ!!お前はユーランを迎えに行け!!」


「わかりました!!」



 鏡はどんな状況なのか全く理解できなかったが、悪意を植え付ける瘴気を撒き散らしているコルの姿を見てルノアールに指示を出す。



 その指示を受けてルノアールは転移し、姿を消すのを見て鏡は全員に指示を出す。



「エルリ!ルエリ!ユリス!!お前達はどうにかあそこで尻尾振ってるちーを押さえてくれ!!俺様が弱体化させてやる!!」


「「「わかった!」」」



 エルリとルエリ、ユリスは鏡の強化魔法を受けて全能感を覚えながら暴れているコルへ一気に近づき、尻尾を避けながら押さえ込もうとしていく。



「フィーヤ!!お前はピュリエットと一緒にフェイナをこっちに連れてこい!!あいつらの余波からフェイナとアルメラを守る障壁を張るぞ!!」


「わかったわ!!」



 フィーヤがピュリエットの元に向かい、二人でフェイナを担ぎながらこっちに向かってくるのを見ながらアルメラの様子を確認する。



「おい…アルメラ大丈夫か?()()()()()()()()()()()()()()…?」


「わか…んない…多分…あの瘴気をモロに吸ったから…かもしんない…」



 アルメラは左眼に手を当てると熱く脈打つ感覚を覚えるが、深呼吸をすると脈打つ感覚が無くなっていく。



「なんか…収まったかも…」


「…ああ、いつも通りの眼だ…これが終わったらちーママに治してもらえよ…」


「ミラー先生!連れてきました!…後、シンジ・サクラバの遺体も!」


「よくやったフィーヤ!!障壁を張るぞ!」


「はい!!」



 鏡はフィーヤと一緒に行動が出来ないフェイナとアルメラを守る障壁を張り、コルを押さえつけに行った三人を見つめ続けながらピュリエットに指示を出す。



「ピュリエット!フェイナとアルメラが復帰出来るようにしてやってくれ!!こんな時に動けなきゃきっとこいつらに悔いが残っちまう!!」


「わかった!アルメラ、かなり不味いけど我慢してこれを飲むんだ!」



 ピュリエットがインベントリから紫色のドロドロとした液体が入っている瓶をアルメラに渡すと、顔を顰めながら瓶の中身を問う。



「ピュリエット…この紫の何…?」


「…聞かない方がいい。でもきっと君の力になるはずだから飲み干してくれ!」


「………わかった」


「絶対に吐くなよ?絶対に吐くなよ!?」


「………」


「フリじゃないからな!?」



 そんな事を言われながらピュリエットから受け取った液体を飲んだアルメラは、この世の物とは思えない、生ごみを煮詰めた汁の様な味を感じながら飲み干す。



 整ったアルメラの顔が絶対に人に見せれない表情になっているのを見て鏡とフィーヤは眼を見開き、絶対に飲みたくないと思っているとアルメラが今までの事が何も無かったかのように立ち上がり、身体の調子を確かめていく。



「味はヤバいけど…これならすぐに動ける」


「お、おう…アルメラ、俺様の魔法をかけるからお前もちーを押さえに行ってくれ!」


「コウちゃんの炎もかけ直しておくけど、無茶だけはするなよ!」


「わかった」



 そう言いながらアルメラは手に何も持たず、蒼い炎を棚引かせながらエルリとルエリ、ユリスの元へ突っ込んでいく。



「にしてもちーの野郎…あいつら四人を全く寄せ付けてないぞ…!?どうなってんだよありゃ…」



 鏡の視界には姿がぶれて見える程の速さでコルの尻尾を避けて押さえつけようとするエルリとルエリ、ユリスの姿と、その尻尾を受け止めようとしているアルメラの姿を見ていた。



「あれはバハムートと獣神化した状態で、魔王の力が暴走しかかってるんだ…神龍の力、魔王の力、更には僕達自身の素の強さ…全てが合わさってる。普通の人じゃこの空間の余波だけで身体が砕ける…しかもそれが尻尾だけの状態でこれだ…今はどうにか身体が動き出さない様、コルが頑張ってるが…そろそろ限界に近い。コルの身体が動き出したらこの世界はコルの手で滅ぼされる…僕達しか止める事が出来る人はいないんだ」


「くそ…俺様の弱体化もかかりづれぇ…早くあいつらも来い…」


「わりぃ、待たせたな?」


「すみません、ミラー先生遅れました!!」


大変お待たせしました(大変お待たせしました)


「私の息子が暴れてると聞いて叱りに来ましたよ」



 鏡の独り言に答えるようにユーラン達の声が聞こえ、鏡は反射的に振り向きながら口端を上げる。



「まったく遅いぜ…お前等があまりにもおせぇから、ちーが癇癪起こしちまったじゃねぇか」


「ユーラン、久しぶりだね。…挨拶はこれぐらいで君達にもあのコルを止めてもらうよ」


「ピュリエット…おう、任せときな」



 そう言うとユーランは腰に下げた真っ白な鞘から無色で透き通ったガラスの様な剣を抜きながらコルを見据えていると全員の身体が蒼い炎に包まれる。



「この炎があればこの空間に満たされている瘴気は防げるはずだ。あの中に飛び込むのはかなり勇気がいるけど…頼んだよ」


「俺様の魔法もかけてやるから頼んだぜ」


ピュリエット様(ピュリエット様)鏡様(鏡様)ご助力ありがと(ご助力ありがと)うございます(うございます)



 白と黒の軍服姿のエルとデルがピュリエットと鏡の支援を受けてコルの元に走っていくのを見ながらルノアールに指示を出す。



「ルノ、お前の魔法でちーを止められそうか?」



 そう問われたルノアールは頼もしい表情を浮かべながら力強く頷き、答える。



「はい、絶対に止めて見せます」


「…わかった、フィーヤ、お前もルノと一緒にちーを止めに行ってくれ」


「わかりました!ルノいくよ!!」


「うん!」



 ルノアールとフィーヤもコルの元に送り出し、障壁の中にいるのは鏡、ピュリエット、那奈、ユーラン、気絶したフェイナの五人になり、鏡は那奈へ問う。



「ちーママ…フェイナの事を起こせるか?」


「何とかやってみ…待ってください」



 那奈は鏡に待つよう伝えるとゆっくりと目を閉じて独り言を呟き始める。



「はい…はい……なら…」


「鏡、彼女は神子の聖女だよね?今彼女の事をちーママって…」


「それも後だ。きっと今神様と話してる。ピュリエット、気付け薬とかでフェイナは起こせないか?」


「それが何個も使ってるんだけど目を覚まさないんだ…フェイナの身体だから特に外傷もないし、すぐ目覚めるはずなんだけど…っ!?」



 鏡とピュリエットが話し込んでいると障壁内が突然神聖な魔力に満たされ、空気の密度が濃くなった様に感じる。



「な、なんだ!?」


「ピュリエット落ち着け。多分ちーママが神様と何かし始めるはずだ」


「ちーママ…なんかそう言われるのは不思議ですね?」



 鏡とピュリエットはそう言う那奈の方に視線を向けると何か違和感を感じ、その違和感を解消する為に那奈へ問う。



「ちーママ…?いや、ちげぇな…あんた、誰だ?」


「私は那奈ちゃんの身体を借りて顕現したセッテです。那奈ちゃんと千弦さんの主神のセッテですよ?」


「なっ!?め、女神様!?」


「ふふふ。ピュリエットくんはいい反応してくれますね?それに比べて鏡くんはあまり驚かないんですね?」


「ぴゅ、ピュリエット君…」


「…女神と話が出来るならそう言う事もあり得ると思っただけだ。…あんたとちーママなら、あのちーを止める事が出来んのか…?」


「…顕現したとしても肉体強度は那奈ちゃんのままです。今のままじゃ無理でしょう。だから、貴方達がどうにか千弦さんを止めてくれなければどうしようもありませんよ。…それとフェイナちゃんを起こしてあげます」



 そう言いながら那奈を依り代にネシアに顕現したセッテは気絶しているフェイナに近づいて額に指を当てながら、鍵を開けるように指を捻る。



 するとガチャンという鍵が開く様な音が響き、勢いよくフェイナが目を開けて身体を起こす。



「ちーちゃん!?」


「フェイナ!!やっと起きやがったか!」


「きょーちゃん!?それにおかあ…違う…誰?」


「何で気付け薬じゃ起きなかったんだ…?」


「ふふ。私は那奈ちゃんの身体を借りてるセッテですよ。フェイナちゃんが起きなかったのは、私の眷属になったおかげで無意識に私が千弦さんにかけた封印と同じものを使えちゃったみたいですね?」


「え、セッテ…?女神様じゃん!!一歩間違えれば私もちーちゃんみたいに寝てたの!?ていうかちーちゃんは…!?」


「ちょっとお前達落ち着け!」



 鏡はごちゃごちゃになってしまっている状況を整理する為に一度手を叩き、空気を変えながら指示を飛ばしていく。



「これで動ける奴が二人増えた。フェイナはすぐにちーの攻撃を防いでちーを押さえつけてくれ!ピュリエットは蒼い炎が切れない様に全体のバックアップと傷ついたら即回復、ヒーラーとバッファーをこなしてくれ。俺様も遠距離支援でバッファーに回る…ちーを押さえつけられたら俺様はちーママを連れていく。…それとユーラン、お前は何時までそうしてるつもりだ?」



 今の今まで一言も発さず、ずっと抜身の透明な剣を持ちながらコルを見つめていたユーランに痺れを切らした鏡が問う。



「…あたいは()()()()()にここにいねぇとダメだ…」


「…わかった、おめーにも考えがあんだろ?だけど、俺様達が危なくなったらしっかり助けてくれよ?」


「ああ、それは任せてくれ」



 ユーランの答えを聞いたフェイナとピュリエットはお互いの顔を見合わせ、力強く頷いてからコルと戦っている仲間達の元に走っていく。



「…さて、俺様もあいつらのサポートに集中する。あんまり俺様に話しかけないでくれよ?」


「わかってる。鏡のサポートは秒管理だからな…あいつらをサポートしてやってくれ」



 ユーランがそう言うと鏡の目は鋭く細まり、深く集中してしていく。



 そんな鏡からユーランと那奈を依り代にしているセッテは一歩引き、激しい戦闘を見つめながら話し合う。



「なぁ…セッテ様…どうにかしてちー助の事を止めらんねぇのか…?」


「那奈ちゃんの身体じゃ無理ですね…千弦さんに施した封印を使ってしまえば千弦さんの意識だけを封印してしまって身体だけが暴走してしまいますから。…それよりユーランちゃんこそ、その剣を使えばこの状況を()()で片を付けれるんじゃないんですか?」



 セッテに問われたユーランは苦虫を嚙み潰した様な表情を浮かべながら俯く。



「…やっぱりわかってんのか…この剣は絶対に使いたくねぇ…」


「ふふふ。()()()()()()()()()()()()…その代償として、()()()()()()()()()()()()()()()()…そんな剣を使いたくない気持ちはわかりますよ?」


「その事も知ってんのかよ…女神っつーのは何でも知ってんだな。ちー助を殺す剣なんてそう簡単に作れねぇからな…あたいの命を賭け皿にかけてようやく作れるもんだよこの剣は。…だけど、別にあたいが命欲しさに使わないってわけじゃねぇ…あたいはちー助が居ない世界で生きていける程心が強くねぇからな。…もし、我儘を言うならこんなの使わずにあたいはちー助達と楽しく生きて行きてえ…」



 ユーランはセッテに自分の中でずっとぐちゃぐちゃと主張していた気持ちをセッテに吐き出し、戦っている仲間達の背を見つめる。



 セッテはそんなユーランのやりきれない表情を見て慈しむ様に頭を撫でながら伝える。



「ユーランちゃんの我儘はきっと叶います。だからそんな悲しい顔をしないでください。誰かが命を落とせば私が全力で蘇生してあげますから。…でも、その剣で命を落とせば魂まで消滅します。だからその剣は仕舞っておいてください」


「…………ああ、わかった。ちー助の主神様がそう言うならそうなんだろ。…この事が終わったら、あたいも信仰させてもらうぜ」



 ユーランはセッテにそう言うと少し笑顔になりながら剣を仕舞い、水色の魔剣を取り出しながらコルの元に向かおうとする。



 その後ろ姿を見てセッテはクスクスと笑いながらユーランを見送る為に言葉をかける。



「あらあら、なら私も頑張って新しい信者を満足させないといけないですね?」


「ああ、あたいに女神の加護って言うのを信じさせてくれ!!」



 最悪の魔王になりかけているコルの為に、コルを慕う者達が命を賭して救いの手をコルへ差し伸べていく…。

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