アカズのダンジョン1
よろしくお願いいたします!
「あの人……」
ダンジョンに潜ってすぐ、蓮火がポツと呟いた。
「ボクの名前を見ても、何も反応してなかったな」
先ほどの係員の女性のことを言っているのだろう。
駈はすぐに察した。
蓮火の呟きには、彼女のこれまでの歴史というか人生みたいなものが詰まっているような気がして、駈には非常に重みがあるように感じられた。
知ったかぶりして、そんな妄想を思い浮かべている自分が薄っぺらく、おこがましいとも。
「ええ。そんなに気にしない人もいるんですよきっと」
結局駈は、ありきたりで慰めにもならないような言葉しか吐けなかった。
吐いてすぐ後悔した。
赤の他人の自分からそんな軽口を叩かれたって、嬉しくもなんともないだろう。
じゃあ、赤の他人じゃなくなればいいのか。
という駈の思考が彼の口を勝手に動かした。
「それに、少なくとも僕はずっと友達でいたいと思ってますし」
「え?」
駈の言葉を聞いた蓮火の顔が、口を半開きにして固まる。
蓮火の反応を見て、もしや自分は無意識に恥ずかしくて酷く傲慢な戯れ言を口走ってしまったのではと、また後悔する駈。
慌てて訂正を入れた。
「あ、いや。年も1つ上ですし、命の恩人に友達はおこがましかったですかねぇ。すいません」
「いやいやいや!そうじゃ、なくって……」
蓮火は下を向き、駈の顔を上目遣いでチラチラっと伺い見る。
(はぁ……美人は何をやっても様になるよねぇ)
そんなことを駈は思っていた。
「そうじゃなくって、さ……ボクたちって友達、だったの?」
蓮火の声は震えていた。
「えーと……鳳凰院さんがよければ、ですかねぇ」
蓮火の様子を見た駈も思わず、同じように緊張してしまう。
果たして駈の言葉を聞いた蓮火は。
「いいよいいよ?!友達になろうよ!!」
食い気味に同意してきた。
(ち、近い)
「えへへ、友達、かぁ……何かいいなぁ」
何事かを呟き。
前屈みになり、やおらに駈の手を握った。
やはり大層なものをお持ちである。
こんな時でもそんなところに目が行く自分に、駈は少し恥ずかしくなった。
「ありがとう!!」
そう言った蓮火の顔は。
驚くほど眩しく、魅力に溢れていて。
駈の脳裏に強く強く焼き付く。
(何だろうか……この感覚は)
空っぽなはずの自分の中身が、何も入っていない、入らないはずのそれが少し音を立てるような。
まるで生まれて初めて感じるかのようなそれに、駈は戸惑うのだった。
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