少年たちは怪物と邂逅する
「おい、あんたら。前に進んでくれ」
男の催促の声に二人の思考は遮られる。
どうやら列の進行の邪魔になっていたらしい。
「すいま……」
声が聞こえた方向に慌てて振り返り、知らせてくれた男に謝罪と感謝の念を伝えようとした駈の声が詰まる。
歴戦の戦士だ。
頭はスキンヘッド、眼光は鋭く尖っており、身体は筋骨隆々で身長二メートルは下らないだろう。
さらにその体躯には、無数の傷跡まである。
恐怖で声も出せない、はずだった。
圧倒的な強者、蛇に睨まれたカエルよろしくプレッシャーに押し潰される。
そのはずだった。
男がフリフリショッキングピンクの半袖Tシャツとスカートという出で立ちをしていなければ。
駈と蓮火は固まる。
恐怖によって、ではない。
それどころかもっと原始的な何か、本能にひしひしと訴えてくるかのような、そんな感情が二人の心を強く揺さぶっていた。
駈と蓮火の表情にはだんだんと、悲壮感が表れてくる。
(鳳凰院さん、短い間でしたけど、あなたと知り合えて良かったです。楽しかったです。ありがとう。ここは僕に任せて遠くへ逃げてください。さあ、お行き!)
(そんな?! それじゃあ君はどうなるんだい!? 知り合ってから短い時間だとしても、君を置いて行くことなんてボクには出来ないよ! それに、二人で立ち向かえばいいじゃないか!何か活路が見えてくるかもしれないから! とにかく、ボクは君を置いては逃げない!)
(ほ、鳳凰院さん……)
二人は目と目を合わせて頷き合う。
そして、目の前の怪物にいざ立ち向かわん。
ちなみに、ここまでのやり取りにかかった時間はおよそ二秒。
「おい、なんであんたらはそんな覚悟を決めたみたいな顔をして頷き合ってるんだ? このダンジョンにそんなに思い入れがあるのか?」
まあ確かに、と男は続けた。
「このダンジョンには出たらしいからな」
男はもったいぶるように言葉を切る。
確かに出た。
駈と蓮火の目の前に不気味で理解不能な怪物が。
さんざんもったいぶるようにしていた男が、ようやく続きの言葉を発した。
なんでこの男の言葉の意味が分かるんだろう。
もしかして。
信じたくないけど、同じ人類なのか!?
駈は男の言葉を聞いている間、そのようなことを思っていた。
失礼な思考だ。
「ランクの低い宝箱から激レアなアイテムってやつがな!」
ドヤ顔を見せて、男が語る。
しかし、それでも駈と蓮火からの期待通りの反応が得られなかったのか、男は怪訝な表情を浮かべた。
そして、やおらに何かに納得するよう頷く。
「俺の冒険者ランクを心配しているのか? まあ確かに、こんだけ強そうな見た目をしていればそうなるだろうな」
強そうな見た目というよりも、目に強いショックを与える見た目である。
「だか、心配ご無用だ! 俺のランクは下級中位だからな! 入場規制に引っ掛かる心配もない!」
喋る言葉だけではなく、ランクまで同じとは!
駈の心は傷を負った。
「しっかしなんでだろうなぁ。一応ランクを上げられるだけのことはやっているはずなんだが、試験も受けられねぇ」
やっぱりこの髪形が原因かあ、見た目で判断しやがって、くそが、と男は毒づく。
そもそもよく冒険者証が発行されたものだと、駈は半ば感心の境地に至っていた。
あと間違いなく髪形が原因ではない。
「と、まあそんなわけでだ。お前らも激レアなアイテム目指して頑張れよ!」
ポン、と駈の肩に手を叩き。
結局、男は一人で喋るだけ喋って駈たちの前へと進んでいく。
ちゃっかり、順番を抜かしていった。
「分かりましたね……混んでいる理由が……」
「うん……でも、もっと違う形で知りたかったよ……」
ダンジョンに潜る前からどっ、と疲れる駈と蓮火なのだった。
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