少女は無防備
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駈と蓮火の二人は、今日潜るダンジョンへと向かうバスの中で揺られていた。
ダンジョンが出来ると、そこから最も近い場所にある冒険者ギルド付近のバス停から、ダンジョン行きのバスが出るようになる。
出発時間は朝十時、昼三時、夜八時であり、経費は国の負担となっている。
これはどこに出来ても同じだ。
経費を負担してまでバスという交通手段を用意するのには、二つの理由があった。
一つ目は場所によって交通の便が悪いところもあるため、せっかく出来たダンジョンに冒険者が潜らないという事態を防ぐためである。
二つ目にダンジョンは人間が潜れば潜るほどより早く成長していくと考えられており、美味しいダンジョンを増やしていきたいという国の思惑があるためだ。
夜であれば空いていると思っていた駈だったが、誤算があった。
最近出来たこともあってか、そこに向かう冒険者は多く、バスの中がちょっとしたすし詰めの状態になっていることだ。
そのせいで先程から、駈にとっては嬉し困った事態が発生していた。
「ねぇ、聞いてるの?」
(ちっ、近い……)
蓮火との密着である。
蓮火はバス内の角の窓を背に、駈は彼女の身体を正面とむさっくるしい冒険者たちを背にという配置になっていた。
混んでいるため距離を取ることも出来ず、それどころかイカツイ冒険者たちが途中のバス停から追加で乗り込んでくるため隅の方に追いやられてしまったのだ。
ちなみに椅子はない。
より多くの冒険者が乗れるようにだ。
「1937、1939……え、えぇ、聞いてますよ。僕の名前は阿架貫駈です」
「さっきから君は何で数字を呟いてるの!?あと、もう君の名前はいいよ!7回は聞いてるよ?!そうじゃなくて、君は学校の生徒なのかっていう話だって」
バスに乗るまでの時間で軽い自己紹介を済ませていた駈と蓮火。
バスに乗ってからも互いの能力など様々なことを話していた。
当初は余裕をもって蓮火との会話に集中していた駈だったが、少し経てば今の状況である。
浮かび上がってくる煩悩と暑苦しい冒険者たちがいてもなお鼻に乗る甘い香り。
それらを打ち消すために素数を数えていた駈は、蓮火の質問に先ほどから的外れな回答をしてしまっていた。
「柔らか、じゃなかった。そう……です……庄府の……生徒です……」
駈はまるで絞り出すように答える。
そうしないと集中が途切れ、何かの鍵が空いてしまいそうだった。
自らの力で。
「何でそんな苦渋の決断をしたみたいな顔をして答えてるの!?じゃ、じゃなかった。ご、ごめんね?嫌なら答えなくてもいいよ」
蓮火は慌てたようにそう言って、駈の顔を伺うようにする。
その顔は申し訳ないというものの他に何かを怖がっているかのような、そんな感情も乗っかっているように、駈の目には見えた。
そんな表情をさせたくなくて、駈も同じように慌てて蓮火に返答する。
「い、いや!そんなことないですよ!?むしろ、何だろう、聞きたいことには何でも答えますから!性癖とかでも全然」
「そ、そう?」
駈の勢いづいた言葉に蓮火は若干ひいていたが、同時にホッとした表情も見せた。
「それよりもさっきから体調悪そうだね?熱でもあるのかな?」
そう言うと、蓮火は自らのおでこを駈のそれにくっ付ける。
駈は百七十センチ前半、蓮火は百六十センチ中盤という身長だったため、彼女が背伸びして身体を前に倒した状態だ。
駈の煩悩が頂点に達する。
鍵どころか扉までおおっ開きの大解錠だった。
(あかん、耐えられへんっ。顔が近い!柔らかい!っていうかなんでこの人こんなに無防備なん?!)
駈の内心が思わず関西弁になる。
「うーん、ちょっと熱いかも?胸もドキドキしてるみたいだし」
蓮火はようやく、駈のおでこから自分のおでこを、胸付近から手を外した。
それでも、依然近すぎる状況で事態は全く解決していなかったが。
駈は何とか言い訳を捻り出した。
「バスの中が混んでて暑いせいですよ!あと僕、人混みが苦手でして!さっきから緊張しっぱなしなんですよ!」
ああー暑い暑いと駈は言う。
少しわざとらしかったかなと、バレないか心配する駈だったが。
「そうなんだ?確かに混んでて暑いよね。あとボクも人見知りだから気持ちは分かるなぁ」
うんうんと頷く蓮火。
(この人ピュアだ!お兄さんは心配になっちゃうよ!)
そんなことを思う駈だったが、彼女の方が歳上だとバスを降りてから知るのだった。
彼女との密着状態はダンジョン最寄りのバス停に着くまで続いた。
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