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その箱を開けた世界で  作者: ナガズボン
第1章 鳳凰院 蓮火(仮題)
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少女との再会2

 その少女、鳳凰院蓮火が名乗った瞬間だった。

 身悶えていた男もといチンピラの動きがピタリと止まる。


「鳳凰院……」


 周囲で聞いていた人々は騒めき出す。


「鳳凰院って……」

「裏切りの……」


 チンピラは自分が誰に突っ掛かったのか理解し、その顔を青褪めさせる。


「素直に連行される気はあるかな?」


 蓮火がニコリと顔に笑みを浮かべ、チンピラに声をかける。

 その顔は笑っていたが、駈には彼女が、強がって表情を作っているようにも見えた。

 チンピラは壊れたおもちゃのように、首を縦にカクカク振る。


 その反応を見た蓮火はギルドの受付の方へ向き直る。


「というわけで、受付嬢さん。対応をお願い出来ますか?それともうちで連れて行った方がいいかな?」


 それを聞いたチンピラは、首を横に何度も小刻みに振る。

 受付嬢は、その顔に恐怖と、そして少しの侮蔑の感情を浮かべて答えた。


「い、いえ。それには及びません。ギルド内で厳重に処分します」


 受付嬢が答えてから一分も経たないうちに、ギルド内に詰めている警備員が、チンピラを拘束しにやってきた。

 そんなに早く出てこれるんだったら、自分が絡まれた時に対応して欲しかったと毒づく駈。


 しかしながら何はともあれ、助けてくれたお礼を言おうと蓮火の方を向く駈であったが、彼女はすでにギルドの出口へ向かって、歩いているところだった。


「って、いやいやいや」


 駈は慌てて追いかける。

 蓮火の前に踊り出た。

 乱れた息を整える。


「あの、ありがとうございました!」


 頭を下げる。

 駈は当然のごとく覚えていたが、蓮火の方は忘れてしまっているだろうか。

 彼女からすれば、自分のことなど有象無象の一人だろう。

 そう思う駈だったが。


「……どういたしまして。身体が勝手に動いただけだから、気にしなくていいよ」


 最初に助けてくれた時と同じ返事をしてくれた蓮火の言葉を聞いて、少し安心する。


 駈は頭を上げた。

 しかし蓮火は駈と目を合わせないよう、その目を伏せる。


「それと。ボクには関わらない方がいいよ」


 蓮火はそう言うと、駈の横を通り過ぎようとする。

 その声音を聞いた駈の身体が、自然に動く。

 その事に自分でも驚く駈は、気付けば蓮火の腕を掴んでいた。


「ダンジョンに潜るつもりだったんですよね?ちょっと僕のお手伝いをしていただけませんか?」


 言った瞬間、それは強引過ぎるだろうと駈は内心、自分にツッコむが時すでに遅し。

 諦めてそのまま、話を進めることにした。


「へ?」


 蓮火は、この人何言ってんだと思っているのであろう、少し間の抜けた顔をした。

 そんな表情でも様になるとは、もはや嫉妬しちゃうねと、駈は開き直る。


「いやいやいや、ボクの話聞いてた!?」


「えーと、クラスの威を借る大したことない男でしだっけ?いやぁ、かっこいいですねぇ」


「今の流れでそっちの話かい!?」


 違うよっ、と蓮火は声を荒げる。


「関わらない方がいいって言ったんだ、ボクには」


「でも、一応潜るつもりで来たんですよね?それで、帰ることにしたと。それなら、ただギルドに来ただけになって勿体ないので、ちょっと僕のお手伝いをしていただけるといいなーと思いまして。僕はダンジョンに潜って最低限の食費を稼げればいいのでそれだけ頂いて、あとは全て差し上げますんで何卒」


「君、意外と図々しいね?!あと、人の話も聞かないし」


 蓮火のツッコミを横に流し、それに、と続ける駈。


「なんで関わんない方がいいんでしたっけ?」


 目を白黒させる蓮火。

 その表情には驚きと、少しの哀しみが乗っかっていた。


「なんでって……ボクの名前、というか名字は知っているよね?」


「そりゃあ有名ですよねぇ」


「ねぇって……それなら理由も分かるでしょ?!」


「うーん、でも僕あなたに会ってから助けられてしかないですしねぇ?なのに関わらないなんてほざいたら、それこそ図々しいような気もしますし」


 ダメ、ですかね?

 そう付け加えた駈。

 なぜか手の平を蓮火の方に向けている。


「やっ、あのっ、ダメというかっ。っていうかこの手は何だい?」


「パーティー登録してくるので、冒険者証を出してください。ウダウダ言ってないで早く」


「追い剥ぎかい君は!?本当に図々しいな?!」


 それでも手を引っ込めない駈に対して、諭すように蓮火は告げる。


「ボクに関わったら、何かされるに違いないから。諦めなよ」


 ふっ、と鼻で笑う駈。

 ムッとする蓮火の顔は、それでも駈には綺麗に見えた。


「ちょっと!ボクは真面目に言ってるんだよ!?」


「大丈夫ですって。こんな小物にちょっかい出してくるほど皆さん暇じゃないですよ、きっと、多分、メイビー」


「自信なさげじゃないか?!」


 ほら、と駈は更に手を差し出す。

 蓮火はそれでも渋るような表情を見せていたが、駈の圧に負けたのか、はたまた考えるのが馬鹿らしくなったのか。


「もう!もうもうもう!どうなっても知らないからね!?」


 そう言うと、受付の方へ歩き出す。

 その声音は少しだけ、いや、大分嬉しそうなものだと駈は感じる。

 粘って良かったと思う駈なのだった。


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