少女との再会1
駈が受付に並び、自分の番を待っていると、横から割り込んでくる男があった。
男は振り返り、悪びれた様子が全くないような表情で、駈に声をかける。
「へへ、わりいが先に使わせてもらうげっ!?」
その口調が、歯切れの悪いものとなる。
駈は男に、見覚えがあった。
男はダンジョンで、駈を囮にした者たちの内の一人だった。
「てめぇ、生きてやがったのか」
人のところを囮にしておいて、ひどい言い草で、駈は内心イラッとくる。
しかし、絡まれるのが非常に億劫でもあるので、知らないフリをする。
「えと、どこかでお会いしましたっけ。生憎とモンスターに知り合いはいないはずなんですがねぇ」
「誰がゴブリンみたいだ、てめぇコラ!?」
ゴブリンとは言っていない。
自分の顔にコンプレックスでもあるのだろうと、駈は勝手に納得する。
「おいコラ?! 何うなずいてんだ!? 何に納得してやがんだ?!」
男は興奮し、無駄に大きく醜い声で鳴く。
しかし、自分がいる場所を思い出したのか、自らを落ち着かせるように深呼吸した。
小さな脳みそなりに気を使っているようだと、駈は感心するように頷く。
「だから、何うなずいてんだ!? それよりもてめぇ、この間のことチクりやがったらどうなるか分かってんだろうなぁ?」
周りにバレないよう、自分にとっては小さいと思っているのであろう声で、駈を脅してきた。
それでも丸聞こえではあったが。
逆ギレも甚だしい。
しかし、こういうチンピラを下手に刺激すると、何をするか分かったもんじゃないため、どうすべきかと駈は頭を悩ませる。
厄介ごとの匂いがしたためか、周りの人だかりも二人から離れていく。
その時だった。
「何を騒いでいるんだい?」
凛とした少女の声が響く。
駈の何人か後ろに並んでいた者が、発したものだった。
駈はその声に聞き覚えがあった。
「んだぁ、てめ……」
突如、自分たちのやり取りに割り込んできた人物に、因縁を付けようとした男の動きが止まる。
そして、その目つきが少女の身体を舐め回すようなものになり、口元は嫌らしく釣り上がった。
男である駈の目から見ても、その顔は気持ち悪い。
モンスターのような醜悪な面をしていることが、余計に気持ち悪さを際立てていた。
それを向けられているはずの当の本人は、女性であるにも関わらず、微動だにしていなかったが。
「へ、へへ嬢ちゃん。俺に文句があんのかよ。俺がどこのクラスのもんか分かってんのかぁ?」
「どこのクラスなんだい?」
待ってましたとばかりに、男の顔がより嫌らしいものに変わる。
「モンステルクラスよ!!」
その答えに、全くと言っていいほど反応を示さない少女。
恐れを成したかと、気を良くした男が続ける。
「怖くて声も出せねぇか。へ、へへ。おい嬢ちゃん、今なら特別に一晩これから付き合うってなら許しやらんでもねぇがなぁ」
男の顔がより嫌らしいものになり、本当に同じ人類かと駈が目を疑っていると。
はぁ、と少女はため息をついた。
勢い付いていた男の顔が、訝しげなものに変わる。
「えーと、そのモンステルクラスっていうのは知らないし、どうでもいいけどさ」
一拍置いて、
「君がどうにかなっても。クラスの皆さんが気にするほどの存在なのかな君は」
男は何を言われているのか分からない、という間抜け顔を晒す。
しかし、徐々にその言葉の意味が分かってきたのか、顔を赤くして怒鳴った。
「て、てめぇ、それはどういう意味だぁ?!」
「どうこうもそのままの意味なんだけどね」
男を小馬鹿にするかのような笑みを浮かべて、少女は告げる。
美少女はどんな表情をしても様になる。
そばで見ていた駈は、場違いな感想を思い浮かべた。
「それともこう言った方がいいかな。仮の話でそのクラスが凄かったとしても、君自体は大したことのない。クラスという威を借るだけの取るに足らない男だってね。もっとも、モンステルなんてクラス聞いたこともないけどね」
「おめっ、舐めてんのかぁ?!」
少女に襲いかかる男。
駈は少女と男の間に割って入ろうと動く。
しかし彼女は一瞬、駈に目を合わせると、手の平を彼の方へ向ける。
手助けは必要ないという彼女の仕草だった。
それでも駈は少し心配だったが。
そして、この男。
こんな人の目があるところで喧嘩沙汰を起こせば、本人はもちろんのこと、クラスにも罰則が下されるだろう。
脳みそまでモンスターなのかと、駈は思った。
果たして、少女に襲いかかった男は。
突然倒れ、身悶える。
「あ、あちいあちい!?」
少女の髪が一瞬だけ赤く染まるのを、駈は見逃さなかった。
「あまり派手にやると、ボクもお縄になっちゃうからね。なるべく地味なのを使わせてもらったよ。それでも結構痛いだろうけどね。でも、自業自得だよ」
地味なものでさえあんなに熱がるほどの威力があることに、駈は寒々しいものを覚えた。
「あと」
未だに熱いと醜く身悶える男の元に、少女が近寄った。
「君がクラスの名前を言ったから。ボクも名乗らせてもらおうかな」
少女はそこで一つ間を置いて、横目で駈の方を見る。
その目にはなぜか、少しだけ悲し気な感情が乗っているように感じて、駈の印象に強く残るのだった。
「鳳凰院。ボクの名前は鳳凰院 蓮火だよ。チンピラさん」
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