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その箱を開けた世界で  作者: ナガズボン
第1章 鳳凰院 蓮火(仮題)
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ダンジョン実習4

「だぁから!何ともないってば!」


「でも切りかかられていた。うずくまっていた。駈は弱っちいから、ケガをしていると思うのが普通」


 はっきりともの申す幼なじみに、駈は苦笑いをするが、同時に感謝の気持ちも持つ。


 半透明の壁を自らの拳で壊した後、一目散に駈のもとに駆けつけしきりに彼の身体を確認した鈴は、向こう十分程度この調子だった。


 その様子にキリがないと判断したのか、はたまた黙っていられなくなったのか。


「あのぅ」


 アシュリーが声を掛ける。

 その表情には邪魔をして申し訳ないという罪悪感めいた感情とほんの少しの嫉妬や羨ましさが混じっていた。 


「はっ?!」


 動きが止まり、妙に気まずい心持ちになる駈。

 鈴は気にせず、駈の身体を確認していたが。


 アシュリーは続けて問いかける。


「結局あの人、なんですかね? 何だったんでしょうか?」


 とりあえず駈は、自分に引っ付いている幼なじみとさりげなく距離を取った。

 その幼なじみが不満気な顔をしたが、極力そちらを見ないようにする。

 そして、事情を説明し始めた。


「あの存在は自らを゛旧きもの゛だと名乗りました」


 その瞬間、一行の顔色が変わる。


 アシュリーは信じられないという顔でポツと呟く。


「旧きもの。超常現象……ですか」


 人々にとある箱を授け、今の世界の形が作られた要因となった存在。


 神ではないが、限りなくそれに近いだろう存在。


 魔法と科学の技術が進んだ現在であっても、未だ解明できない存在。


 ゆえに人々は、゛旧きもの゛を超常現象とするのだった。


 駈は続ける。


「彼は僕に用があったみたいでして。僕の力を試すような振る舞いをしていました」

 

 一歩間違えれば死にそうであったが、それは言わない。

 暴走しそうな者が約一名いるからだ。


「力を試す、ですか……そんなこともあるんでしょうか」


 お下げが重々しい様子で腕を組み、その上に重たいものを乗せながら首を傾げて呟く。


 柔らかそうだなー、と見ていた駈は鈴に脇腹を小突かれた。


「私はほとんど聞いたことがありません……゛旧きもの゛が人間にそのような接触をしてくるなんて。それこそ箱を授けた時くらいか、あとは……」


「冒険者ギルドが創設された時くらいでしょうか?」


「ええ。眉唾物の話ですが……」


 お下げとアシュリーはお互いに、自信なさげにそんなやり取りをした。


 冒険者ギルドの創設には旧きものが関わっているという噂が、冒険者の間ではまことしやかに囁かれている。

 それだけではなく、人間の技術力では再現不可能と思われるほどの便利な物が、ギルドから定期的に発表されている現状を鑑みて、旧きものが現在のギルドの運営にも携わっているのでは、と疑っている者も少なくはないのだった。


「知り合い?」


 二人のやり取りを尻目に、鈴が首を傾げて駈に聞く。

 天然な発言ではあったが、ある意味で的を射ているかもしれないと駈は思った。


「いや、あんな変な知り合いは僕にはいないはず、だと思う。でも向こうは僕のことを知っているようだった」


 ますます分からなくなったという雰囲気になった一行である。


「はいはいはい」


 そこでダンジョンに入ってほとんど一言も発していなかった金髪ロングのヤンキーが、思いの外に軽い口調で話に割り込んできた。


「えーと、何でしょう」


 多少面食らいながらも、駈は反応する。


「あそこにあるのってなんだろね?」


 興味を隠しきれずといった様子で、金髪ロングが指を差した。


 その先には一つの宝箱がポロンと置かれていた。


 そういえば、と駈は思い出す。


「彼が、いなくなる直前に贈り物を置いていく、って言ってたような」


 一行は恐る恐るその箱に近づいていった。


「旧きものからの贈り物か。さてなんだろね?」


 口調からワクワクしているのが分かる金髪ロング。


 キャラ変わってません?と心の中で呟く駈。


「とりあえず開けてみましょうか。駈さん、いいですか?」


 アシュリーは駈に確認する。


「はい、お願いします」


 駈の返事を聞いたアシュリーは箱の方向へ手をかざし、箱開けの魔法を使い始める。

 ダンジョンを攻略していくうえで欠かせない魔法であり、その適性が高いほどレアな宝箱を開けることができるのだった。


 しかし、アシュリーはしばらくすると、その手を下ろし魔法を使うのを止めた。


「どうしたの?」


 疑問に思った鈴が聞く。


「だめですね……ワタクシの力では開かないようです」


 周囲の面々は驚いた。

 アシュリーほどの魔法の適性の高さで開かない宝箱とは、一体どれほどの逸品が中に入っているのか。


「となると、誰も開けられないのではないでしょうか……」


 落ち込んだ様子で、お下げが言葉をこぼす。


 鈴が駈の脇腹を小突く。

 分かってるというように駈が頷いた。


「僕だったら開けられるかもしれません」


 鈴を除いたメンバーが再度、驚きを顔に浮かべる。


「駈さんの魔法適性はそんなに高いんですか!?」


 興奮して、身体を前倒しながら駈の方を見たお下げ。

 ぷるるんと揺れる。


「その手を止めるんだ鈴」


 気付けば、手をチョキの形にし腕を引き絞っていた鈴が、渋々それを下ろす。


 あの手は一体どこに突き出すつもりだったのか。

 旧きものと相対していた時以上のプレッシャーが、駈にのし掛かった。


「駈はムッツリ。真面目にやって」


 やっぱり大きさか、と誰にも聞こえないほどの声で鈴は呟いた。


「えーと、すいませんでした」


 何に謝っているのか分からないが、駈はとりあえず頭を下げる。

 女性陣の目が、中々に厳しいものになっていることを、駈は幻視した。


「それで! 僕は魔法の適性は全く高くない。ゼロに近いです」


 その雰囲気を打ち破るような勢いで、強引に話の流れを戻すと、駈は続ける。


「特性です」


「なるほど」


 お下げは納得したように頷いた。


「箱を開ける力なんですか?」

 

 アシュリーは駈に問いかける。


「いえ、鍵を開ける力です」


「ほえー、ダンジョン潜るのに便利そうだねそれ」


 金髪ロングが口を開け、感心した。


 ところが駈の表情には、少しの陰が射していた。


「いえ、そうでもないんです」


 ため息をつきながら金髪ロングに否定した後、駈はテンション低く続ける。


「先ほどアシュリーさんが使ったように箱開けの魔法がありますし、それが通じないような高ランクの宝箱が出現するようなダンジョンは僕の力なんかじゃ潜れません」


 それに、と


「取り柄がそれだけじゃ、パーティーを組んでくれる人も中々いませんしね」


「ダンジョンじゃなくて街中で使えばいい」


「街中で鍵開けって、それ犯罪の匂いしかしないよ!」


 鈴の発言に、ははっと空笑いし半ば自棄になって大声を出した駈。


「とまあ、そんなわけで。滅多に役に立つことがない僕の特性が今回、やっと陽の目を見るわけです」


 駈はおもむろに、箱に向かって両手を突き出した。

 気分的に叫びながら。


「開けー、ゴマ!!!」


「その掛け声はどうなんでしょう……」


 駈のアドリブは、神妙な顔をしたお下げには不評だった。

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