ダンジョン実習:サイド『鈴』
鈴が気付いた時、目の前にはすでに、半透明の壁が出来ていた。
その先で、駈がモンスター(?)と相対しているのが見える。
尤も、言葉を喋るモンスターなど、鈴には聞いたことがなかったが。
「何ですかこの壁はーー?!」
お下げが狼狽えた様子で叫ぶ。
「気付きません、でした。見たことがないものですが……魔法なのでしょうか……」
アシュリーは、恐る恐る壁に触れる。
どうやら、この場にいる全員が気付かない間に、出来たものらしかった。
アシュリーが壁を調べていると、大きな音が彼女の横で響く。
班員にとっては驚愕の事態だったが、鈴が壁を殴って出した音だった。
「とりあえずこれを壊して駈と合流した方がいい。あれは得体がしれない」
そう言うと、鈴は次々と拳を繰り出していく。
その一つ一つが凄まじい力を持っており、アシュリーたちは目を疑った。
あの細い身体のどこに、そんな力があるというのだろうか。
そんな疑問の目に気付いたわけではないだろうが、殴る手を止める鈴。
「やらないの?」
そして、ジトッとした目でアシュリーたちを見る。
一行は慌てて、各々の方法で壁を壊そうと試みる。
しかし、一行の中でも最も高い威力を持つアシュリーの魔法を撃ってしても、鈴の馬鹿力を持ってしても、壁はびくともしないのだった。
そうこうしていると、駈とモンスターがつばぜり合いを始めている光景が、鈴の目に入った。
力は拮抗しているようで、ひとまずの安心を得る鈴ではあったが、両者が離れるとその顔色が変わる。
モンスターが指を差し出したかと思えば、その先から細くて眩しい何かが放たれたのが、一瞬光って見えたからだ。
その身に当たる前に、駈は横に転がり何とか避けたようであったが、もし自分があの場にいれば、そして、それが致命傷となるような威力を持つものであれば、ゾッとするものを鈴は感じた。
壁を壊すことに集中したい鈴であったが、直後さらに、それを妨げる瞬間が訪れる。
駈がうずくまったかと思えば、何かに苦しみ始めたのだ。
しかし、あのモンスターが攻撃した様子は見えなかった。
今も、苦しむ駈を見ているだけである。
鈴は考えることをやめる。
目の前の壁を壊す、ただそれだけに恐ろしいほどの集中を見せ始めるのだった。
ありがとうございました!




