第二十六話「中国サーバ秘密管理区域【失われた大陸】」(5)
エネミー登場!
巨大な岩に水がそよそよ流れ込んでいる。とても静かに。岩に染み入る夏の声……じゃない。水が流れてきて、リアルに岩そのものに”すうっ”と染み入っているのだ。その証拠に、水はどこにも行かない。
そりゃ最初に穴があるんじゃないか、って思ったが、そうでもない。……とても静かに染み入っている。あれだけの川の水が、岩で、ストップ。
……違和感。そう、これが違和感。
ある意味で調和している世界観ともいえるけれど、しかし微細な変化こそが、やはり「切れ目」だろう。
岩に手で触れてみる。……微弱に振動している? 腕を通して、虚空に「こおおぉぉぉ……」と響くような感じがする。音でいえば、倍音がたっぷり含まれている感じだ。コーラスみたいな。
システム画面を開いてみる。さっきアジェンダが言ってた。すると、「特技」の欄がピコーン!ピコーン!と明滅している。
「特技・植物観察、のオート探知が
作動されます」
「探知結果、【超越系】花の種採取モードに移行します」
……なんのこっちゃ?! ……そばにいるアジェンダを向いて……やっぱりやめた。訊こうとしたけど、やめた。アジェンダはそのそぶりを見て、うなずいた。そう、試行錯誤こそが、望ましいオリジナリティなプレイである、と。
さて……なんじゃこりゃあ。
とりあえず、文字面の検討からしてみるか。私・花屋の特技というと、まずは植物をどうこうするものだ、という。そんで、花屋は植物を前にしたら、独自のコマンドがオートで発動する。で、探知した結果……どうもこの岩には、なんかの種があるらしい。種って。種て。地味な展開だな……。
……ひとつの要素が、そこに彩り(?)を添えてはいるが。【超越系】……なんかワケアリなものの予感がひしひしとする。これでキュウリの種とかいうたら殴るぞ。
岩のあたりを、私はうろうろしながら、なんかないかいな、と調べる
。
すると、この岩は、てっぺんのあたりに亀裂が入っていることに、今更ながら気づく。
「おーいアジェンダ」
「なんだ」
「肩かして」
「はぁ?」
「岩のてっぺんに登ってみるから」
「……何をするんだ、いったい」
「それをあなたが言うかな?」
しょうがないな、と不承不承でアジェンダは私を肩車してくれる。ある程度の高さまでいったら、足をかけて、私は岩をよじよじと登る。ゲームだからこうやって、簡易ロッククライミングがうまくいくのであって、現実じゃなぁ。
そんで、岩のてっぺん。
ふむ……結構深い亀裂だな、これは。
しゃがんで、じいっと亀裂の中を覗いてみる。
(たす……けて……)
ん? なんか聞こえたぞ。
(たす……)
眼下のアジェンダに訊いてみる。
「ねえ、なんか聞こえた?」
「君の幻聴ではないのか」
「いや、この頂上の穴からなんか聞こえてくるのだけど」
「それはアレだ、君専用のクエスト
に入った、という証みたいなもんだぞ、ゲームフラグ的に言ったら。君自身が興を削いでどうする」
「私はゲーム2日目やねん」
すると、岩の中から、押し殺した声。
(漫才はいいですから……)
「誰が上方落語やねん」
(そこまで言っていません)
「ノリいいね誰だか知らんけど。で、何を助ければいいの。ていうか誰、きみ」
もうここまできたら、だいたい想像つくけど。この声の主は……
(……私は、超越系植物、黒死桜の種です。私はこの岩に封印されていて……)
「え、なにそのワルなネーミング。君、封印されていたほうがいいんじゃね」
(違います……あくまでそれはネーミングなだけであって、実際の私は綺麗な桜です……)
「自分で綺麗とかいうかね」
(……話進まないので、説明していいですか)
「あ、はい」
(黒死桜の系統は……莫大な魔力を秘めた、マジックアイテムの素材として使われます。それを疎んじ、かつ舌なめずりをした魔族が、私をこの岩に幽閉したのです……いつか、自分たちの秘密兵器にしようと……)
「なるほど。倉の中に入れとく的な」
(まあ表現はなんだっていいですが……ともかく、助けてください……お礼はなんだって……)
「私、日本サーバに帰りたいんだよ」
(……お助けができるかもしれません……)
「よし助けよう」
現金な私であった。で、亀裂にぐぐいっと手を伸ばしてみる。適当に動かして、いじってみる。
と……
カチッ。
「なんか音したよ」
(言い忘れましたが……)
「なんか嫌な予感」
ズゴゴゴゴ……と、さっきまでの虚空的な振動とは、まるっきり違った地響きが鳴る。あたりを地震めいて振動させる。揺らす、揺らす……そして、顕現する!
ドン! と衝撃を受けて、私は岩から突き飛ばされる!
「うわっうわっ!」
「ルルィ!」
とっさにアジェンダが巨体に似つかわしくない、機敏な動作で私をキャッチしてくれる。そして私を地におろし、体勢を立て直させる。
「ありがと」
「幻聴じゃなかったようだな……そして君は【橋】の【フタ】をこじ開けたようだ」
「【フタ】ってことは……これが守護神めいたモンスターってこと!?」
目の前には、岩に根付いた、巨大な幹の樹木が、知らぬ間にそびえていた。しかも……幹には邪悪な瞳があって、枝の数々は、千住観音みたいにうごめいている。さらには、枝の先端は刃物のようにとがっている。ああ、モンスター……。
「……これ、かなり強くない?」
「強いな」
「……私一人でだよね?」
「そうだな」
Ah Yeah...
しかし、ここから逃げる選択肢は、どう考えてもないのであって……。
次回、バトルです!




