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VRMMORPGの世界の果ての果ての果てまで旅をする  作者: 8TR残響
第一章、ゲームプレイ1日目
10/27

第九話 「はじめてのアイテム、ワルスベルグの町(2)」

 初心者向けのショップを出て、私とゼファーとトルゼは、まず町をざっと周回することにした。それから町の外 (フィールド)に行って、戦闘をするらしい。

 それにしても……

「ホント西洋ファンタジーだね」

 町は、私たちのいる現代ジャパーンとは違い、あくまで西洋風の町並みにそろえられている。煉瓦づくりが基本で、足下の道も、石畳で舗装されている。

 この町は、前にも見たとおり、煉瓦づくりの壁に囲まれている町で、半ば城塞都市っぽくもある。

 ……城塞都市? 私はそこでふと思った。

「この町って何かに襲われることあるの?」

 すると、私のそばの二人はニヤっとして、

「さすがだな、そこに気づくとは」

「あのね、お姉ちゃん、基本的にはこの町は安全なんだけど、突発的に起こるクエストによっては、モンスターが攻めてくる場合があるんだ」

「って、危なくない?」

「んにゃ、その時期は前もって知らされるし、それはレイド (大規模戦闘)として、この町にすむひと全員のクエストになるんだよ」

「なんのためにそういったのがあるんだろう……」

「簡単に考えろ。レイドがあれば、それだけ各ギルドも戦闘の機会が増える。おもいっきり共同で暴れられる、な。それで経験値荒稼ぎって寸法だ。それに、生産職にとっても利益大だ。そういった戦闘チームをヘルプすることで、濡れ手に泡的に稼ぐことが出来る」

「はー、ほとんど戦争の軍需ですな」

「アレな例えだが、まあシステム的にはそういった感じだ。それに、このことによって、町の結束、各ギルド間の結束も固まったりする。もっとも、これでトラブる傾向もないわけではないが……」

「そこを含めての、MMORPGなんだよ」

「と、いうことだ」

「なるほど」

 いちいち、いろんなものに理由があるんだなぁ、と思う。考えられているゲームだ。

 というか……ほとんど現実と変わらないようなプレイ感覚を誇るゲームなんだから、プレイヤーが知恵を絞るんだろうな。

 ゼファーが感慨深そうにいう。

「ここ――ワルスベルグは、俺たちの町なんだ。ホームタウン。それだけに、愛着がある。ここいら最大の町で、基本の町だから、ということもあるけど、俺らが守ってきた、という自覚もあってのことだ」

「ふうん」

 私はそもそもそういう愛着精神を……忌避してるわけじゃないけど、そもそも根無し草旅プレイをしようとしているから、そういうのに全面的にコミットするのは、たぶんないかもしれない。クールなようだけど。

 でも、この町の雰囲気というのは、活発で、暖かかった。生き生きとしている。そして誰かを蹴落としてまで、という感じがない。なんとなく、それはこうやって町をふらふらしていて、各NPCや、プレイヤーの息づかいをみていたら、わかる。

 悪くない町なのかもね。もちろん、みんなそれぞれの苦労はあるんだろうけど、さ。

 私は、そんなワルスベルグの町を、二人につれられて、いろいろ観光する。そう、観光。いくら当面の私の仮宿とはいえ、ここもまたひとつの旅の舞台なのだ。


 まず、ゼファーとトルゼは私を町の中心部にわりに近いところに連れてきた。

「ここが酒場だな」

「居酒屋とは違うの?」

 何言ってんだ、という目をされるが、もう言葉に出すのも疲れたらしい。悪かったな。

「酒場は、情報源だ。いろんな旅人、いろんな冒険者が集まって、情報交換をするところだ。それはふつうのオフラインRPGからの伝統なんだよ」

「なるほど。だいたい、リアルの世界各地の要所にある、伝説的な旅人用施設、と同じようなものだね」

「そこまで大仰しいものじゃねえけどな」

 ゼファーはほほえむ。

「それで、宿屋はここだよ」

 次の区画まで行ったところで、トルゼが案内する。

「一から説明すると、宿屋っていうのは、HPとMPを完全回復するところ。それから状態異常も」

「寝りゃあ、世はすべてこともなし。あっさり全部回復するって寸法だ」

「リアルでもあったらいいのにね」

「……」

「……」

 ものすごい渋い顔をする二人。気持ちはわかるよ。社会人辛いもんね。


「ところで……」

 町を歩きながら、トルゼが私の顔をじっと覗き込んで尋ねる。ほら、前向きなさい、危ないったら。

「そもそも、花屋ってどういうことするんだろう」

 それは素朴な疑問だった。私も逆に尋ねる。

「古参ゲーマーでも知らないの?」

「実装されたのが、つい先日って具合だからね。ユーザの間でも検討がされてない……いや、してるひともいるんだろうけど、さすがに数日じゃ、いろんな可能性ってものがわからないよ」

「まあ道理だよね」

「そもそも、そういうマイナー職を選ぼうって奴のほうが少ねえ。服飾師だったら、まだコスプレ系の需要があるだろうから、やってる奴もいるだろう。風水師もマイナーっていったらそうだが、これは【新しい魔法体系】の可能性があるからな。これもこれで魅力的だ。で、花屋……」

「パッと見、何かある、ってわけじゃなさそうだよね。完全に趣味系」

「趣味系?」

 ゲーマー語が出ましたよ。

「ようは、ゲームの攻略に関係しないものってことだ。まあ、何をやってもいいってのがこのゲームなんだが、基本的にクエストは、【戦闘】か【生産】だ。モンスターとバトって報酬を得る戦闘職、アイテムの調合なんかで実験して新しいモンを生み出す生産職。花屋は……多分、多分、おそらく、生産職なんだろうけど」

「あやふやな形容詞を三回も使いおって」

「まあ、花屋に類似した職業では、【商人】っていう職業もあるんだ。でも、それはそれで、戦闘でも【所持金を使って特殊スキルを発動させる】といった技や、【知性を持った敵との交渉】っていう、かなり珍しい技を持っている、支援系の職業だわな。それは認知されてる」

「じゃあ私の花屋も……!」

 おお、希望が見えてきたぞ!

 しかし、

「お姉ちゃん、戦闘で花を売る気?」

「そこだわなぁ。むしろ比喩的にいったら、花を手折られないように守るのが俺ら戦闘職の役目だし」

「うまいこというなぁ、相変わらず」

 さんざんコケにされてるのに、むしろ感心してしまう私だった。

「そうだ、初期装備、というか、キャラメイクのときにアイテム渡されなかった?」

「ああ、アレね。邪魔なんだ、正直」

「花屋に関連するものだろ……お前なぁ……」

「花とか種、といった園芸用アイテムを、通常配られる15倍、っていうことなんだけど」

「お姉ちゃん、ちょっと見せて見せて」

「いーよ……っていうか、私のアイテムボックスの中、見れるの?」

「お姉ちゃんが、私というキャラに対して【いいよ】って許可を思えば見せることが出来るよ」

「なるへそ」

 ここでバカみたいに見せないというのは、本当のバカなので、見せる。私は言われたように意識を操作する。そしてトルゼに示す。

「ふーん……って! 何この種類!」

「だから15倍だっていう話でしょう」

「いやいやいや、いやいやいや! ゼファー、ちょっと見てよ! 【紺碧のカラス草】、【クラセッサ竜胆】の種、【花摘み姫の勿忘草】!!」

「ハァ!? おい、ちょっと待てよ!! そのアイテム群なんなんだよ!」

「どしたの二人とも」

 いきなり異様なテンションになる二人にちょっとびっくりした。

 すると、二人は神妙な顔をしていうのだった。

「ルルィ、ここにあるものは、よっぽどのことがない限り外に出すな」

「お姉ちゃん、盗人……じゃなかった、PK系のシーフに気をつけてね、こんなものばっかりあって……」

「だからどしたの二人とも」

「お前が持ってるモンは、どれも売ったら最低でも万のGはいきます」

「え」

「お姉ちゃんが初期で持ってるものは、生産クエストでの超貴重素材なんだよ! それこそ、使いようによっては、家が一軒買えるんだよ!」

「いや、単独で戦闘用のアイテムとして使っても、すげえ効果だ。使いようによってはレイドの状況変えるレベルの戦略的兵器並み」

「そんなに凄いんだ。どれも綺麗なお花みたいに見えるけどね」

 二人は頭を抱えながらぶつぶついう。話し込んでるようにも見える。

「あー、花屋のメリットってこれかー。すげ。……でも、これらのアイテムが初期であっさり手に入る、ってことは、花屋っていう職だったら、やりようによっては俺らよりも簡単に手に入る、ってことだな」

「ねえお姉ちゃん、この町の専属の花屋にならない? お姉ちゃんだったら物凄い生産補助になると思うんだけど」

「却下。私は世界をくまなく旅したいの」

「うわー、宝の持ち腐れだ……」

「しょうがないね、お姉ちゃんだから……」

 悪かったなぁ。


 ざっと、主要な町の施設を見終える。

「……うーん、ざっとこんなとこか?」

「そうだね。必要最小限の施設の案内は。あとはお姉ちゃんが自分で探索するってことで。何といっても世界を旅するんだからね!」

「心遣いどうも。未踏の地を探索。そだね、それが旅の醍醐味だし」

「んじゃあ、平和な町に対して、危険の代表格、フィールド行くか!」

「危なっかしい言い方するなぁ」

 そんなわけで、私たち一行は、とりあえず戦闘のイロハを (私一人が)学ぶために、町の外のフィールドに出るのであった。

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