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ココノツバナシ  作者: 高岡やなせ
百鬼夜行の来襲 日の沈む後 
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最終話

『あーあー、本当・・の本気を出せれば圧倒的だったのになぁ』

『……』

『全くー、何だかんだと人間に甘いんだからさー、アスモデウスはー』

『…そんなことはないさ』


 天高く飛翔し、朝日に背を向けて二人は進んでいた。下にはすでに海が広がり、代わりばえしない景色といつもの話し相手が眠っているせいか、ベルフェゴールは唇を尖らせるようにアスモデウスにす話しかけた。アスモデウスは前を見据え、軽くあしらうようにそれだけ言った。


『そんなことは、ってさー。ルシファーやリヴァイアサンに制限をかけてたろ?マァモンのヤツは知らないけどさー。ベルゼブブだって何だかんだって他の星界に散らばってる分は集合させなかったじゃないか』

『ルシファーとベルゼブブは体を集めるのに時間がかかるからな。リヴァイアサンはもともと力を抑えたがる性格だろう。マァモンは…知らんがな』


 ベルフェゴールは最後の台詞を聞いて、楽しそうに笑った。


『何よりさー』

『まだあるのか』

『僕たち以外の大罪者なまえもち、呼ばなかったんだもん』


 指折り数えながら、この地に留まる悪友たちの顔を思い浮かべた。


『…お前だって本気を出さなかっただろう?』


 アスモデウスは横目にベルフェゴールをとらえながら囁いた。傍観者はうっすらと笑みを携えた。


『んー、基本的に僕はみてるのが役割だからねー、あんな程度の封印じゃ、僕は死なないしさー。久方ぶりに魔力に縛られるのもそこそこ面白かったよー』


 今度はアスモデウスが笑った。


 役割を終えた彼らはそうしながら自分たちの場所に帰っていった。





 ─────





「うっわ、もう朝だ…」


 九津は眩しく差し込む光に目を細めた。日が沈む頃に始まった戦いは、気がつけば日が登り始める今まで続いていたのだ。ずいぶんと長かった気もするし、あっという間だった気もする。ぼんやり夢心地なのもそれを後押ししているのだろう。


 と、突然背中を叩かれた。


「シャキっとしなさい、シャキっと」


 隣に立つ師である女性、月帝女だ。彼女は遠慮の欠片もなく強い力で九津に活を入れたのだ。面食らいながらも九津は直ぐに背筋を伸ばした。そうだ、今は彼女が隣にいるのだということを思い出して。


「ん、ちょっと疲れてて気が抜けてた。けど、今ので気合いが入ったよ、ありがとう、月師匠」

「どういたしまして。まぁ、今回はあんたも相当だったと思うわ。相手が本気じゃなかったとしてもね」

「……やっぱり?」


 九津は苦笑気味に返した。月帝女が言う言葉の真意に気がついていたからだ。今回の戦いにおいて、相手である妖怪は本気ではなかったという事実。


「へぇ、あんたも気がついてたの?」

「気がついてた…というよりも、半妖に近い存在だって聞いた辺りからなんとなく、ね」

「そう。あいつらは本気ではなかった。正確には本領を発揮でできなかったってところかしらね。それでもあんたたちにとって人間とは比べ物にならないくらいの強敵だったはずよ。だけど」


 月帝女はそこで九津の頭をくしゃくしゃにした。


「あんたたちは見事に耐え抜いた。完全なる勝利よ」


 九津はそれだけで充分に嬉しくて、


「あのさ、」

「じゃぁ、私は帰るわ」

「え、もう帰るの?」


 何かを言いかけるが、遮るような月帝女の言葉に驚いた。月帝女は肩をすかして、


「輝たちに挨拶くらいはするけどね。今回は私も久方ぶりに焦ったもんで、旅行しに来た訳じゃないからね」

「そっか…」


 九津は寂しそうに呟いた。月帝女は、そんな九津を覗き込むよう身を屈めて、


「つ、月師匠」


 強く抱き締めた。


 最初こそ抵抗の意思と言うか、恥ずかしさからかもがいていたがいかんせん、敵わない。力でも想いでも。九津は身動きせずに立ち尽くした。


「うし、これで弟子成分も吸収したし、これで本当にここでの私の仕事は終わったわ」


 九津を解放し、笑みを浮かべると、


「じゃあ、またね、九津」


 颯爽と踵を返して歩いていった。


 走れば間に合う速度と距離。九津は追いかけなかった。代わりに、


「ん、またね。月師匠」


 彼女はヒラヒラと手を振って小さくなっていった。


 と、月帝女を見送る九津に包女たちはようやく近づいてきた。包女たちも月帝女を気にしながらも近づけずにいたようだ。それに苦笑した。


「あれが、悟月くんの師匠…頭の中で見た通り、綺麗な人だね」


 包女がどことなくぎこちなさを残すように言う。九津は、そう言えば一瞬とはいえ全員に自分の過去の修行の姿と師匠たちの姿を見られてたのだと思い出した。あんなものを見せられては、確かに近づきにくいかもな、そう思うとまた苦笑してしまった。


「怖いところもある普通の良い先生だよ」

「うん、知ってるよ」


 今度は包女が笑った。


「しっかし、なんか最後はあっという間だったな」

「本当に、なのですよ。あんなにあっさりと引き下がるなんて、正直、びっくりなのです」


 後ろに続いていた光森と瑪瑙が顔を合わせながら、二人に追い付いた。光森としては、最後のアスモデウスの引き際の潔さが信じられないらしい。瑪瑙もそれに同意のようだ。


 九津と包女も二人を見るが、答えは別のところから来た。


『それだけ悪魔たちの皇の言葉は、奴らにとって重要じゃったと言うこことじゃろう』

「筒音は何か知ってるの?」

『詳しくは知らん。しかし奴らに名があるのは、おそらく皇どもに目をつけられたからじゃろう。そしてそれに救いの手でも差しのべたのが悪魔たちの皇と言うことじゃろうよ』


 筒音はそう言うと体を解すように伸ばした。


『にしても、九津よ。あの女、その悪魔たちの皇の力の一端を担うとは…何者じゃ?』


 九津はにへらと笑った。その笑顔の奥に込められた意味を今なら知っている。


「言ったろう?俺の先生だよ。俺の憧れのね」


 すると、ぼんやり明るくなってきていた世界に、確かな朝日の光の筋が五人を照し出した。正真正銘の、翌日。あの一日を乗りきったのだ。


「あーあー、完全に朝になっちゃったよ」

「本当に、なんだか眠たくなってきたのですよ」

「鵜崎に同感だな。もう、体中、ガタガタだよ」


 光森は、寄る年なみでも感じるかのように気だるそうに肩を回した。と、そこへ、


「何を言ってるの、皆。私たちの戦いはこれからだよ」


 パァン、と響く音をならして包女が全員に微笑んだ。始めは皆、呆気にとられたようだが、お互いの顔を見合わせながら、だんだんと笑った。


「どうしたんだよ、鷲都。お前にしちゃ珍しい気合いの入れようだな」

「ん、本当に。まるでこの間先輩たちに教えてもらった、俺たちの戦いはまだまだ続くエンドみたいだ」

「九津さん、やめてほしいのですよ、縁起の悪い」


 縁起を担ぐ瑪瑙は、困ったように言った。筒音はあくびをしている。和気あいあいとした雰囲気の中、念を推すように包女は言う。


「本当に、私たちの戦いはまだまだ続くんだよ」

「ん?んんん?本当に」


 九津たちは驚きを隠せなかった。


 妖怪たちとの戦いを経て、皆ぼろぼろ。駆けつけてくれた面々さえ、どうなっているのかわからない。これ以上はさすがに戦えない、いや、戦いたくない状態だ。なのにまだ戦いは残されていると包女は強気だ。


「で、でもよ、九津の師匠さんだって終わりだって」

「そうだよ、鷲都さん」

「いーえ。思い出してください」


 あたふたする二人に断固として譲らない包女。そして、


「そう言えば、皆さんの高校の文化祭…確か今日なのではなかったでしょうか?」


 その答えをついに瑪瑙が出した。


「そう、正解。ほら、悟月くん、鯨井さん、私たちの学生としての戦いはこれからですよ」


 その答えに、包女はにっこりと微笑んだ。九津たちは、ははは、と乾いた声を出して互いに口をひきつらせた。


「先輩、集合って何時ですか?」

「展示だから、八時だったか…」

「はは、俺たち仮想組なんで七時ですよ」

「マジか…やべぇな」


 包女が手を鳴らす。


「さぁ、さぁ、二人とも。早く帰って準備をしましょう。もう非日常は終了!これから日常が待っているんだから」

「ははは、さすが無限活性の魔術師。強くなれば強くなるほど元気だねぇ、鷲都さん」

「っつうか、まじで早く帰らないと時間が…」

『なんじゃ、大変じゃのぉ』


 あくびをする筒音と大変そうだと眺める瑪瑙をよそに三人は急いだ。おそらく、ここに集まってくれるだろう面々に礼を言わなくてはならないこともあるし、実際のこれからのことの話し合いもあるだろう。だが、何よりも一番大切にしなくてはならない、普通の一日が始まろうとしているのだ。立ち止まってなどいられない。


「んー、なら、もうひと踏ん張り、生きましょうか?」


 九津たちは歩き出した。






とりあえず、これにて終了です。


今後、自分が作品を投稿する場合、この作品で使われた設定を使うのでよろしければその時、覗いてもらえたら幸いです。


では、また機会がありましたら。


ではでは。


高岡やなせ。


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