第三十七話 「そうだ、山に行こう!」
さぁ、さぁ、さぁ。だれとくなのだろうとも、新しい章の始まりー、始まりー。
(* ´ ▽ ` *)
今日は晴天。雲は僅かにこそ見えるが青さが際立ついい天候だ。山登りなどのレジャーにもってこいの天気である。
そんな空を眺めてみればどうしても気になってしまう事が一つある。それは薄く緑の靄がかかっていることだ。しかもその靄はある特定の者しか見えない上に、見えた者にしかわからない不安要素を含んでいる。
その靄の正体こそ、術式を用いてあふれでた呪力によって生み出された呪気だ。正直、晴天にこれほど似つかわしくないものは、ない。
そんな不安要素を含んだ空のもと、悟月九津は九月になってもなかなかひかない暑さのためにこぼれた汗を拭いながら、目の前で光になっていく存在に目を落としつつ、隣にいる一つ年上の先輩、鯨井光森に声をかけた。
「先輩、今ので何体目ですか」
「髪の毛座、コップ座に…名前も知らないやつ入れたら四体目じゃなかったか」
「先輩で四体…俺は五体目。星座って確か」
背景に木々を背負い、眉をひそめながら指折り数える光森が答えた。それを聞いた九津は心底面倒そうに今度は自身の指を折って数えて始めた。目的の数字はなかなか出てこない。いや、出したくない。
「八十八座だ」
しかし、非情な現実を告げるように数字を述べる光森。九津は嫌そうに息をついた。
星の数は数限りなくあれど、星座の数は決まっている。八十八。過去に幾多の物議、論議を醸し出し、そう決まった当たり前の事実だ。今日、それが大事であるのだが、同時にとても面倒な制約でもあった。
「と言うことは、全部で八十八体いるってことかもしれませんね。相手にするのは七人で一人頭…」
それは、「星座の形を模した存在」に襲われたからだ。もし、それが本当に星座を模した存在なのだとしたら、その数は今いった通り明白だ。
八十八体。
相手にしなければならない可能性の数を考えて、九津の顔はますます面倒そうに歪んでいった。
「いや、キツネの奴があのとき姿を隠してたから六人だろ」
冷静な光森の追撃。九津は膝を折って項垂れた。
「……うわ、一人二十四体くらい相手にしなきゃなんないのか…」
「ちっ。面倒だな」
光森もその数に顔をしかめた。相手に出来ないほどではないが、相手にするには本当に煩わしいものだったからだ。
それでも向かわなければならない場所が二人にはある以上、倒して進まなくてはならない。目指すは山頂だ。
気合いを入れ直すように勢いよく立ち上がった九津。
「そうですね、とにかく急ぎましょう。誰かが山頂につかなきゃ、あの人を止めれない」
仕方なくと言った風に覚悟を決めて、山道を歩き始めた。
さて。なぜ二人が星座の形を模した存在と戦っているのか。そしてなぜ、山頂を目指しているのか。
それらを語るには少しだけ時間を遡らなくてはならない。
────
どことなく白く感じる朝の日差しが残るなか、七人乗りの自動車が颯爽と道を行く。今日は絶好のドライブ日和であり、天気予報でも言っていた通り山登りなどに適しているだろう。
そう例えば、霊峰などと謳われるパワースポットに向かうには。
中座席の窓側に座りながら旅行系雑誌を膝の上に開き、にこにこ顔で二つに結った髪を揺らし、鵜崎瑪瑙は元気よく言った。
「ありがとうございます、九津さんの叔母さん」
「あっはっはっ。良いって、瑪瑙ちゃん。私もどうせ暇してたしさ」
言われた運転席の金髪の女性、悟月桃輝はにこやかに返した。
瑪瑙は九津の後輩であり、中学生の少女だ。何よりも特筆すべきは彼女が呪術師だということだろう。独学で学んだとは思えないほどの才能を持ち合わせていた。そして桃輝は九津の叔母であり、今回の移動のためにかって出てくれた保護者だった。
「本当なのですか?」
「ほんと、ほんと」
快く引き受けてくれたとはいえ、やはり気をつかわせているのではと気になった瑪瑙は、確かめるように尋ねた。返す桃輝は、あっけらかんと答えた。
「私の旦那さ、実家近くで骨董屋やってんの。んで私はそこの手伝いしながら、ワンコーナーを使って趣味丸出しの本屋やってんだけど…基本暇なんだよね」
耳を傾けている瑪瑙に、それに、と桃輝は続ける。
「旦那も今、お父さ…ああ、九津のじいちゃんね。じいちゃんについて海外に行ってるもんだからさ」
だから暇なのよね、とバックミラー越しに歯を見せて笑った。
「海外って…お仕事ですか?」
そこへ中座席の真ん中に座っている少女が、二つの色をもつ瞳を覗かせながら問いかけた。少女の名前は鷲都包女。九津の同級生であり現在に生きる魔術師の一族の娘である。そして今回のドライブに同行したメンバーの一人だ。
包女は、普段耳にしない九津の家庭の話に恥ずかしながらも興味津々だった。
「そだね、半分正解で半分外れってやつだよ、包女ちゃん」
片目を閉じて茶目っ気をもたせた桃輝の返しに、包女は九津との繋がりを確かに見た。
「じいちゃんさ、物書きやってんのね。それでよくうちの旦那を連れてく取材旅行行くのよ」
へぇ、と包女と瑪瑙が相づちを打つ。骨董屋のこと、物書きのことは知らなかったが、よく出掛けているのは聞いていた。まさか取材旅行だったとは。
「うちってさ、男三人に私の四人兄妹だったわけなんだけどさ、長男、つまり九津の父親が早く死んじゃってさ」
知っていた事とはいえ身内に語らせたそれに、包女は申し訳なさそうな顔をした。しかし、気にしないで、と言わんばかりの笑みをそえ、桃輝の口は動いた。
「その下の兄貴たちも、仕事が忙しいやらなんやらでじいちゃんの相手をしてやれないからさ、うちの旦那が自然とじいちゃんと仲良くなっちゃったのよね」
どこか呆れたようにも見える笑みでそう告げた。
「そうなんですね。でも身内に物書きの方がいるってなんかすごいです。確か悟月くんのおばあさんはカメラマンでしたよね」
「あっはっはっ。別に大したことないわよ?育てられた私が言うのもなんだけど、じいちゃんもばあちゃんも底辺プロだからさ。ただばあちゃんは珍しい写真を撮るからそれなりに名前は通ってたけどね」
楽しそうに語る桃輝に、包女は首を傾けた。引っ掛かることがある。
「珍しい?」
「そ、珍しいことやもの。よくかち合ったりするのよ。私も多少はそうだったし、こればっかりは血筋だろうなぁ」
包女と瑪瑙は顔を見合わせた。なるほど血筋か。九津という少年を思い浮かべると、心当たりが次々に浮かんでくるからだ。
例えば、魔術師に出会うことであり、呪術師に出会うことであり、超能力者に出会うことである。こんな人間、そうはいないはずだ。
そしてまた例えるならば、精霊魔術師に襲われることであり、超能力者の一騒動に巻き込まれることであったりする。こんな人間、そうはいてたまるものか。
二人は頷いた。
「すごく納得したのです」
「うん、私も」
桃輝はますます楽しそうだった。
「あっ、そうそう、写真と言えば、九津の昔の奴があるから今度見せてもらったらいいわ。絶対に笑えるから…って言うか、笑えるやつを選んでもらってさ」
「おお!是非ぜひ」
「え、え…いいんですか」
機嫌よく三人の話が盛り上がる一方、一番後ろの席を陣どる二人の少年たちは、声をひそめてこそこそ話していた。
「お前、いいのかよ?どんどんプライバシーらしきもんが音をたてて崩れさってるぞ」
「いいんですよ、先輩。基本的に悟月家の男子は、女子に逆らえません」
九津と光森だ。
遠くを見つめ、諦めた風を装う後輩に、光森はそんなもんかと呟いた。
「聞こえてるわよ、九津」
桃輝がにやにやと割り込んできた。光森の方が驚き九津に視線を向けたが、言われた当の本人は肩をすくめるだけで平然としている。
「そうだよ、あまり聞こえが良くないよ、お兄ちゃん。私、そんなにお兄ちゃんのことをないがしろにしたことはないと思うんだけどなぁ」
桃輝に続き、前方から幼さが残る声が聞こえた。助手席に座る九津の妹、悟月界理だ。
界理は誤解があるよと、可愛らしい顔に不服を張り付けている。しかし、不服があるのはあくまでも一部らしい。
「そんなに…って九津妹よ、少しは身に覚えがあんのかよ」
「どうです先輩。これが悟月家のカースト制度です。だから叔父さんたちもあんまり寄りたがらないんですよ」
そこを光森が小さく突っ込んで、九津がどうだとばかりに返した。
「そう言えば筒音さん、ずっと窓の外を眺めてますね。何か面白いものでもありました?」
一言申し立てることで気がすんだのか、へばりつくように外を眺める筒音へと界理の興味は移ったようだ。
筒音は姿形は包女にそっくりだが、人間ではない。「間堕ち」した妖怪で俗に半妖と呼ばれる存在だ。見ると筒音は、流れる景色をぼんやりと眺めていた。それはとても普段の彼女からは想像も出来ないほどに静かに。
『なに、鷲都ではなかなか車はないからな。電車に乗るときは消えるか獣の姿じゃし、自力で移動するとなると基本、空を飛んでいたからな。地を走る車の目線はなかなか新鮮じゃよ』
そう告げると、また覗き込むように窓の向こうを見始めた。
景色はもう町並みを過ぎ、緑の多い道なりになってきた。それでも思うところがあるのだろう。飽きもせずに見ている。
「そうですか」
「そりゃぁ良かった。楽しんでもらってんなら良いよ。聞いてたらいつも移動は任せっきりだったみたいだし、今日は気楽にしててよ」
界理はそれ以上尋ねず、桃輝も嬉しそうに告げると、あとは包女たちと喋り始めた。
しばらくすれば目的地だ。本日向かっているのは瑪瑙のおすすめの場所。パワースポットとして昔から存在する、とある山だ。最近は流行にのっとり色んな所がそう呼ばれるが、古来から云われのある場所はやはり違うと瑪瑙は語る。
こう言ったオカルト関係の話において、瑪瑙が語るのならば外れは少ない。それほどまでに彼女は有望な呪術師だからだ。
それは界理も知っていたし、認めている。だからこそ、漂い始めた違和感をどうにも拭えずに、ついには声にしてしまった。
「……ねぇ、桃輝おばあさん」
「ん、言いたいことはわかるわ、界理。ねぇ、瑪瑙ちゃん」
姪の言葉に自分も察していることを伝える桃輝。前を見つめる視線もいつの間にか真剣になっていた。まるでそこには見えていない物を見つけ出そうと試みているようだ。問いかける言葉もどこか重みを含んだ。
「はい」
「今日の目的地って、確かパワースポットで有名なあの山よね?」
「そうなのです!未熟なこの私の呪術のパワーアップを謀るため、今回、そうさせていただいたのです」
元気よく答える瑪瑙に、確かめるように尋ねると、さらに元気よく返ってきた。
ふむ、と考え込むように口を結ぶと、桃輝は真っ直ぐ前を見つめた。もともと目的は聞いていた通りであり、なんの問題もない。道は込み合わず、順調なくらいだ。
「山は元より霊峰と呼ばれる場所が多く、ひいてはあらゆる脈が集中する場所でもあります。そこに行けば未熟なこの私も、少しはましな呪術師としての力を得られるのでは、と藁にもすがる思いでいるのです」
「ん、それはさ、理解してるんだけどね」
だが、順調過ぎではないだろうか。昔ながらのパワースポットとは言え、少なからず需要というものはあるはずだ。なのに自分たち以外の人の気配を感じない。
明朗に語る瑪瑙に、苦笑を浮かべながら桃輝は言葉を濁した。ここまで来ると瑪瑙、包女も何事かあったかと前のめりになった。
「あの、何かあったんですか?」
「いや、どうもね」
疑問を一度浮かべると、嫌な予感しかない。全く、困ったことにこういった予感というものがよく当たる家系なのだ。桃輝と界理は互いに顔を見合わせた。
『気を引き締めた方が良さそうじゃぞ』
「筒音さんまで」
「…ん、おばさん、これって!」
ついには半妖の筒音までも良からぬことを想像させるような一言を発し、悟月家最後の一人もようやくといった頃に気がついたようだ。
ミラー越しだというのに、桃輝とばっちり目があった九津。茶化すように言われる。
「ようやく気がついた?九津。ちょっと遅いんじゃない?月帝女ちゃんに報告するよ」
「それはやめてっ」
車内中に響く九津の情けない声を他所に、光森も口を開いた。
「で、なんなんだよ一体。なんかあるのかよ?」
「たぶん、と言うかこれだけのメンバーが気がついてるってことは間違いないとは思うんですがね…」
辺り、窓の外に見える流れ行く景色を探るように、九津は言う。
「どうもこの近くで呪力結界が張られているようです」
「呪力結界?あの鵜崎が前にやってたやつか…意識的に視線を外させるとか言うやつ」
「おお、先輩。覚えてました!正解ですよ。どうも俺たち、それに引っ掛かってる…いや、引っ掛かりそうになっているみたいなんです」
九津の言葉を合図に、全員に緊張感が走った。こういった類いの件に関して、この九津という少年の言葉は不吉なくらいよく当たる。そうでなくてもすでに三人の口からも言われている。
もうすでに目的の山はその全貌を見せ始めているが、同じほどに緊張感が走る。その陰鬱な空気を払うように、桃輝は額をぺしりと音を鳴らすように叩いた。
「そうなんだよねぇ。あちゃー、私としたことがしくったわ。話に夢中になってて呪力結界に気がつかないなんてさ」
おかしいと思ったんだよね。対向車もないし、継続車もないし、と軽口を挟む。
『妾も気がつかなかったのぉ。この辺はやはり力をもつ脈が多いせいじゃろぉ』
それに続き、擁護したのは筒音だ。全員、妙に納得してその言葉を飲み込んだ。
登山口までたどり着いた。今のところなんの変わりもないが、不穏な空気が辺りを漂っているのは数人の顔を見れば一目瞭然だ。ここまで来ると、包女や瑪瑙も何らかの気配を感じている。
道沿いに車を付け、山を見上げるように桃輝は外に出た。しばらくそのままで立っていたが、ふと考えがまとまったらしく、九津を呼び出した。
「よし、九津」
「ん、何?」
「あんた、切りな。かかってしまった内側からならともかく、まだかかってない外側からなら大丈夫だから」
「ん、了解」
大それたことはない。そう言いたげに桃輝は言い放ち、九津も大したことはないと言うように了承した。
九津は魔術師や呪術師、超能力者の類いではなく、当然妖怪などの人外でもない。加えると、霊力を変換して操る術式と呼ばれる力を使うことは出来ない。
しかしだ。彼にはそれを補う力があった。
それが今、彼がその手に携えた光の剣だ。名を「万式紋」。
彼の師匠たる人物が作り上げた彼専用の武器だ。その光の刀身は、九津から霊力を受けあらゆる源力と術式を切り離す力を持っていた。
全員が車内から降り、注目している。このとき、筒音だけは色々と理由をつけて包女に憑いた状態になった。九津は気配を確かめ万式紋を構えた。狙いを定める。
「ここら辺、か……なっ!」
耳をつんざくような音。
実際には聞こえなかったのだろうが、ここにいる者たちは確かにその気配を「音」としてとらした。そしてその瞬間、何かが崩れ去っていくように空間が僅かに揺れた。
崩れいく空間がもたらしたものは。
「(おやぁ、君たちが不確定要素かぁ。なかなかどうして。僕の結界を破るなんてさ、すごいじゃないか)」
忽然と現れた穏やかそうな笑みをした青年だった。
青年は杖に体重をかけるように立ち、九津たちをしっかりと見ていた。
「…えと、誰?何て?」
「フランス語、か?…早すぎてわかんねぇ」
「…なんか誉めてくれてるらしいよ。私らのこと」
桃輝が青年の言葉を伝えた。
「桃輝さん、わかるんですかっ」
「ちょぉっとだけね。っちゃぁ、しかし」
警戒をあらわにした桃輝。全員の視線を青年はあびた。それでも怯む様子はなく、にこにこ笑っている。
「あんまりいい雰囲気じゃないわね、どう思う、界理」
「うん、桃輝おばさん。あの結界はあの人が張った。間違いないよ」
「そっか」
界理は、確信を込めて言う。彼女の断言は悟月家では神託ほどの価値がある。
「(星の導きどおりだよ…じゃぁ、君たち。僕とおいかけっこをしよう)」
青年は九津たちに構うことなく言う。
「ん?星?示す?…あと競争?いや、ゲームの方が正しいのか」
「(僕は頂上をこのまま目指す。君たちはそれを止めるだけ。もちろん、多少の妨害はさせてもらうけどね。どうだい、簡単だろ?)」
「あの子が山頂目指すから、それを止めてみろってさ」
「いったいなんの意味が?」
「さぁねぇ。一発、ガツンと言ってみようか」
怪訝そうな顔で一歩前に進み出る。
「(あんたね。なんのつもりか知らないけど)」
「(止められなかったら、ここの竜脈、どうなるかわからないよ)」
「……はぁ?」
思わずといった感じで桃輝の口から間の抜けた声がもれた。
「どうしたの、おばさん」
「あの子、この山の竜脈に何かするつもりみたい。どうなるかわからないって」
「竜脈をっ?流れを止めるってこと!それは…不味いね」
「どう言うこと?」
不安そうなやりとり。包女は困惑したように呟いた。
「包女お姉さん、竜脈とは、力の流れそのものなのですよ。この間お話しした風水はその力を利用した呪術なのです」
「え…呪術に、それってつまり術式に使われるほどの力ってこと…そんなものをいじったら」
瑪瑙から説明され、包女の顔にも焦りがよぎった。呪術。包女自身は魔術師であり、魔術しか使わない。しかしその効果の絶大さは知っている。
『フム。この辺り一体、何かしらの影響が起こるかも知れんのぉ…暴走した超越変化の力によって』
ときに妖力や呪力で用いられる術式は、その超越変化から災いの象徴として伝わることがあった。それは「何がおこるかわからない」からだ。そのとどまることを知らない変化する力は、ときに善として、ときに悪として世に現れるのだ。
「っ!なんだそりゃっ。危険じゃないか」
「そうなのですっ。そんなことなさせないのですよ」
「ん、だね。俺たちを欺くほどの結界を張れる呪術師だ。力づくでも止めなきゃ、本当にどうなるか…」
九津たちがそう決めたとき、すでに青年は動いていた。笑みは崩さず、丁寧に告げる。
「(さぁ、もう準備はいいかい?では、おいかけっこの始まりだよ)」
杖をならし、それが合図になっていたかのように九津たちは光に包まれた。
九津が目を開くと、そこは木々に囲まれた斜面だった。
「……しまった」
思わず苦虫を噛んだように歪む。
「ばらばらにされた」
さて。もう一度だけ言う。
本日は晴天。山登りなどのレジャーにはもってこいの天気である。例えそこが、呪力に囲まれた霊峰と讃えられた山だとしても。
 




