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ココノツバナシ  作者: 高岡やなせ
夏のある日の序破急 編
22/83

部屋の中での一人言

 この部屋は暗く、普段は誰もいない。けれど必ず毎日、この部屋は人の出入りがある。


 少ない日。多い日。


 いつでもこの部屋は誰かの言葉を受け止める。





 数年前、ある日。


「ごめん。僕ではやっぱり五位にしかなれなかった。君のように強くはなれなさそうだ」


 言う人の顔は辛そうだ。しかし。



 大丈夫。あなたを支えてくれる人たちを信じなさい。あなた自身を信じなさい。だって。


 あなたを選んだのは他でもない、この私なんだから。



 そう、聞こえるはずの無い声を聞き、少しだけやわらいだ。


「ごめん…いや、違うね。うん。頑張ってみるよ。僕が鷲都を…そして包女の力になれるのは頑張ることだけだからね」





 ────





  数年前、少女が獣と出会ってからのある日。


「お母さん。この子は私の親友なの。一緒に強くなろうって決めたんだよ」


 言う人の隣には眠たそうな獣が一匹。そして。



 そっか。親友と約束したんだ。なら、頑張んなきゃね。大丈夫、強くなれるよ。だって。


 あなたは私の自慢の娘なんだから。



 そう、聞こえるはずの無い声を聞き、強く強く頷いた。


「うん。見ててね、お母さん」




 

 ────





 数ヶ月前、梅雨入りが聞こえ始めたある日。


『最近、ぬしの娘はまた笑うようになったぞ。強くもなったのじゃ。さぞ、誇らしかろう』


 言う人の姿には写真に写る人の面影がみえた。あとは。



 知ってる。あの子の笑った顔の可愛さや前を向く強さ。けどね。誇らしい、なんて私は言えない。だって。


 私はもう側にいてあげられない薄情者だから。



 そう、聞こえるはずの無い声を聞き、シシシと空気を揺らした。


『じゃからこそ、妾がこの姿でいる意味があるのじゃろうて』





 ────





 数週間前、遠くにいるこの家の当主から報せを受けたある日。


「今日、お嬢様がご活躍なさいました。本当に…本当にご立派になられましたよ」


 言う人の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。それから。



 でしょ。あの子ならやれると思ってたのよ。うんうん。やっぱり才能は受け継がれるのね。だって。


 こんなに大好きな人たちに支えられてるんだから。



 そう、聞こえるはずの無い声を聞き、貯めた涙を堪えるのを少しだけやめた。


「ええ、ええ。これからだって、ずっと、ずっと、私は旦那様とお嬢様の味方ですよ、ご安心ください。通弦お嬢様」





 ────





 夏のある日。


「ここは…違うか。和室かな?ん、いや、仏間…かな?」


 言う人の髪色は黄金に染まっていた。すると。



 あら、あなた。あの子の友だちかしら。なら、あの子をよろしくね。



 そう、聞こえるはずの無い声を聞き、一度だけ頭を下げた。


「初めまして。鷲都…包女さんにはいつもお世話になってます」


 だって。


 と、聞こえるはずの無い声が続く。


 魔術師である前に一人の女の子なんだから。


「じゃぁ、またあらためて来るかも知れません。けど、今はまた。失礼しました」


 言う人は、あけたすき間を閉めた。光は閉ざされ、部屋の中は静寂で支配された。





 部屋から遠ざかり、言った人は考える。こういう場合は一人言になるのだろうか。


 確かにあの写真の人と会話をした気になったんだけど、と。


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