表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラブワールド  作者: ササデササ
代理恋愛
59/64

認めるわ!

 結局、彼は私の無事を確認すると、名乗らずに去ってしまった。

 でも、私は彼の名前を知っている。


 ダンディさん。


 いえ。


 ダンディ様~……。

 

 ぽわわん。




 そうこうしていうるうちに、時刻は午後2時。

 お昼が終わりそうになってしまった。

 ログアウトしてから、昼のワイドショーを見ていたはずなのに、何にも記憶にない。 

 私の記憶にあるのは、ひたすらリピートされる、ダンディ様だけ。


「大丈夫でしたかな? ご婦人」


「あの、えぇ、大丈夫です。その、良かったら名刺交換してくれませんか?」


「な~に。名乗るほどの者じゃありません。それでは失礼」


「あ、まって。名前はもう知っているの。正式にお近づきになりたいの。……って、もういないわ」


 大体、その数秒をひたすらにリピートしていた。

 時々は喧嘩のシーン。 


 あぁ。ダンディ様……。

 私は、もうワンリピートしようかと思ったけれど、夕食の準備をしなくてはいけなかった。

 

 

 

「今日はずいぶんと豪華だな」


 パパは春巻きを箸で切りながら言った。


「本当。なんかの記念日なの?」


 美紀はチラシ寿司を小皿に取り分けながら言った。


「そぉ~? 別に普通よ~」


 私は豚の角煮を口に運びながら言った。


「いやいや。豪華だろ」


 パパはチラシ寿司を指差し、


「まず、寿司だろ」


 続いて、春巻きを指差し、角煮を指差し、コロッケを指差し、鳥のから揚げを指差し、サケのムニエルを指差し、茶碗蒸しを指差し、ポテトサラダを指差し、ポテトフライを指差し、卯の花を指差し、お吸い物を指差した。


「10もおかずがある」


「あら。お吸い物はインスタントよ」


「ほかは手作りじゃん。やりすぎだって。これ、食べきれないよ」


 美紀もパパに賛同するらしい。

 別に、普通なのに。

 いえ、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、テンションが高かったのは認めるわ。

 今日はみんなの帰りが遅かったから、もう1品、もう1品と増えていったことも認めるわ。

 でも、頑張ってるのは今日だけじゃないのに。

 それだけじゃなかった。

 せっかく頑張ったのに、なにやら不満みたいだ。


「しかも、組み合わせが滅茶苦茶だしな」


「ね~。お母さんって微妙に味覚が変だよ」


「結婚した当時なんか、味噌汁に玉ねぎを入れたんだぞ」


「嘘! 信じられな~い」


「あら~。私の実家じゃ普通だったのよ。と言うか、多分私の地方じゃ普通なのよ~」


「俺は母さんと同郷だ」


「っていうか、私もだけどね」


「何よ何よ! じゃあ、私も同じ地元よ!!」


「いや、知ってるから。うざっ」


 パパに変だと言われた時に、友達に調査したけれど、玉ねぎのお味噌汁は割りと普通だったもん……。

 あ~あ。

 家族って、無くしてみないと母の大事さを分かってくれないものよね。

 嫌になっちゃう。

 

 ダンディ様なら、なんて言うのかな。

 きっと、毎晩、ありがとうって言ってくれるの。

 つい、お茶漬けとたくわんだけみたいな日があっても、文句言わないの。

 それどころか、心配してくれるのよ。具合でも悪いのかって。

 知らないけど。

 でも、きっと、そうよ。

 そして、頭も撫でてくれちゃって。


「私は人々から成功者と言われている。確かに地位も名誉も権力も金もある。

 だが、本当に私のことを理解している人は誰もない。

 そんなものは、私の宝ではないのだ。

 全部下らないではないか。

 ……私の人生における最大にして雄一の成功は、お前を手に入れたことだけだ」


 とか言ってくれるのよ。

 知らないけど。

 きっと、絶対、そうよ。

 きゃ~!

 も~、やだ~!

 

 私は妄想の世界でクネクネしていた。

 でも、現実じゃポーカーフェイス。

 というか、むくれっ面。


 すると、美紀はニヤケながら聞いてきた。

 

「記念日じゃないならさ、……なんか、あったんじゃないの?」


「あら~。なんかってなによ~」


「浮気……、とか? よく言うじゃん。急に優しくなったり家族サービスしだしたら浮気を疑ったほうが良い、みたいな」


「なななな、なななな、なんだって?」


 パパは動揺しすぎだった。

 そして、私も動揺した。


「浮気なんてするわけないじゃない!! なんてこと言うの!!」


 私は怒鳴ってしまう。

 美紀は冷たい目で、私を睨む。


「冗談だったのに、動揺されたら、マジ疑っちゃうんですけど~」


 浮気なんて、してないわよ。

 だって、してないもの。

 ちょっと、ときめいただけだもの。

 私はパパを愛したままだわ。


「母さんどうなんだ!?」


 パパはテーブルを叩いた。

 

「してないって言ってるでしょ!!」


 私は角煮を思いっきり噛んだ。

 怒りをこめて、舌を噛まないように気をつけながら、力いっぱい何度も何度も噛んでやった。

 

「じゃあさ、お母さん携帯貸してよ」


「なんでよ?」


「なんでも。疑惑を晴らしてあげる。してないんでしょ?」


「えぇえぇ。どうぞどうぞ」


 美紀は私の携帯電話をいじっている。 

 そして、パソコンを立ち上げ、携帯電話会社のホームページにアクセス。

 すると携帯電話にメールが届いて、美紀はなにやら携帯電話を操作する。

 それから、またパソコンを見た。


「あ、本当だね。ここ1週間、別に変な所に行ってないよ」


「そうなのか?」


「うん。スーパーと映画だけ」


「なんで分かるの?」


「今時の携帯はそうなの。紛失や盗難対策なんじゃない?」


「へ~」


 携帯電話マスターである私が知らない知識を知っているなんて、美紀のITスキルは凄いのね~。

 なんて、感心している場合じゃなかった。


「ほら、言ったでしょ! まったく、疑うなんて酷いわ」


「あぁ……。すまなかった」


 パパは素直に謝ってくれた。

 でも、美紀は違う。

 ジトーッと私を見てくる。

 

「ねぇ。本当に何もないの?」


「ないわ」


「家に連れ込んだんじゃないの?」


「し、してないわ」


「そうなのか? 母さん」


「だから、してないって何度も言ってるじゃない!! もう、本当に怒りますよ!」


「もう怒ってるけどね。

 ところで、お母さん知ってる?

 不倫って超高いんだよ。ばれたら慰謝料を少なくとも100万円ぐらいは払うんだよ。

 法律は主婦にだって容赦ないんだからね。

 そんなへそくりないでしょ? 払えないでしょ?

 しかも、パパに有利な条件で離婚されちゃうよ」


「本当にしてません!」


「なんか、怪しいんだよね~」


 せっかくの晩御飯が台無しになった。

 その後、私たちはほぼ無言で食事をする。

 私はお腹いっぱいになるまでヤケ食いをして、後片付けもせずに寝室に閉じこもった。


「もう今日は寝ます! ふん!!」


 そう言って、どかどか歩いていると、後ろからは美紀の声が聞こえた。


「敬語になるところが、本当怪しい」


 まぁ、なんて娘なの。

 私はあなたのために頑張ってたのに!

 

 ベッドに潜り込み、数分経った頃、パパも来た。

 パパもベッドに潜り込み、私の手を握ってくる。

 まだ時刻は21時前。

 

「母さん。その、なんだ。俺は愛しているからな」


 はい。

 20年ぶりぐらいの、『愛している』頂きました。

 そんなことで機弦を直す、私だと思ってるのかしら。

 直っちゃうんですけど。

 

 私は寝たフリをしながら、ちょっとだけ反省した。

 認めるわ。

 何もなかったけれど、あれは、心の浮気だった。 

 何もなくて、妄想の中だけだったのだから、パパがアイドルのABOBAに夢中になったり、バレンタインに若いOLさんからもらった義理チョコにデレデレしてたり、街中で美人さんがいると釘付けになったりするのと、一緒だとは思うんだけど、それでも少しだけ反省した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ