結婚してよ!
今回は週一更新を目標に頑張ります。よろしくお願いします。
「ほら、あなたの同級生に田中さんっていたでしょ?」
テレビのバラエティ番組を見ていた美紀は、面倒臭そうに振り返り、ダルそうに答えた。
「あ~、りっちゃんね。あの娘がどうかしたの~?」
「結婚したんですってね」
美紀は隠そうとしない不満顔を見せ、
「……知ってるよ」
と答えながら視線をテレビに戻した。
最近の美紀は『結婚』というキーワードを聞くと、あの不満顔を見せる。
私がしつこいからだ。うるさいからだ。
そうよね。親から結婚についてクドクド言われて喜ぶ娘など、世界中を探したってそうはいないだろう。
美紀の気持ちを理解しつつ、それでも私は引き下がらなかった。
「あなたはいつ結婚するの?」
「さぁ~?」
「早く孫の顔が見たいわ」
「そう」
「せめて彼氏はできないものなの?」
「へ~」
「あのね、女だからって待ってるだけじゃ駄目なのよ」
「なるほどね~」
美紀はもう話を聞くつもりはないらしい。
明らかに適当に相槌をうつだけだ。
私は段々イライラしてきて、ついヒステリックにまくしたててしまう。
「あなたね、真面目に聞きなさいよ。
良い?
最近じゃ晩婚も珍しくないって言うけどね、私が若かった頃は、あなたの年齢なんて、29歳なんて、行き遅れも良いところでね、そりゃ~、ご近所様の噂にはなるし、親戚の間でも噂になるしでね、」
「もう! ウルサイな!! 今、テレビ見てるの!!!」
そして美紀がヒステリーで反撃する。
これが、もう一年は続いている我が家の週一行事になってしまった。
頻繁に遭遇する場面でも、やっぱり空気が重くなる。
美紀はもうテレビを見る気分じゃないだろうに、テレビを睨みつける。
私は小声で「本当に、もう……」と言いながら、意味もなくテーブルを拭き続ける。
パパは新聞を持ちながら固まってしまう。
そんな気まずい空気の中、テレビだけは平常運転。
呑気に明るく、コマーシャル。
日本初! と字幕スーパーが流れ、
「日本初の出会い系MMOが誕生。その名前は『ラブワールド』!」
とナレーションが流れる。
次に、ゲームシーンなのだろう。
テレビの左半分におとめちっくな部屋と女性キャラが、中央に白線、右半分にシンプルな部屋と男性キャラが映し出される。
彼らは憂鬱そうな表情で、窓から夜空を眺めていた。
「なんとなく恋人は欲しいけれど、出会い系サイトはちょっと怖い?」
とナレーションが流れ、大きい文字が次々と画面を隠していく。
最初に『そ』、続いて『ん』、『な』、『あ』、『な』、『た』、『!』と次々文字が現れた。
つまり『そんなあなた!』という文字で画面が隠された。
と思えば、
「そんなあなた、ラブワールドへいらっしゃいな!」
とナレーション。
文字は崩れ去り、画面が見えたかと思えば、今度は3人の女キャラと、3人の男キャラが、カラオケルームらしき場所で楽しんでる映像。
ノリノリで歌う男に、様々な小道具で盛り上がるその他。
彼らはとても盛り上がっているように見える。
恐らく、合コンなのだろう。
と私が状況を理解すると同時に次の場面。
今度はカップルが釣りをしていた。
と私が状況を理解すると同時に次の場面。
今度は男1人が4人の女とピクニック。
と私が状況を理解すると同時に次の場面。
今度は女1人が王座に座り、ひざまつく男、男、男、男。
え? これ、どんな状況?
と私が状況を理解しなくても画面は変わり、赤いテーブルクロスが引かれた机を上から映し出していた。
その机の上に、今までのゲームシーンが写真になって、一枚一枚重なっていく。
同時にこんなナレーションが流れた。
「どうせなら楽しく恋人を探したい? そんなあなたもラブワールドへへいらっしゃいな!」
今度は実写で、お笑い女芸人が鏡を見ながら悩んでいるシーンが映し出され、
「顔に自信がない? 中身で選びたい? 選ばれたい? そんなあなたたちもラブワールドへようこそ!」
とナレーション。
そして、『安心安全!』と大きく字幕スーパーと、
「安心安全月額定額制、税込み5000円!!」
のナレーション。
最後にウエディングドレスが映し出され、
「さぁ、あなたも仮想ワールドで楽しく恋人を探しませんか?」
というナレーションで締めくくられていた。
「ダサいCM」
美紀は独り言。
その表情は、特に恐ろしい目が、まだ機嫌が直ってない事を告げていた。
しかし、私は違う。
閃いた。
「ねぇ、あなた、これやってみなさいよ」
「これ、って何さ」
お~、ドスがきいている。
親にそんな声色で話すなんて、なんて恐ろしい娘なの。
でも、私はめげない。
「ラブワールド」
「いやよ」
「じゃあ、私がやろうかな」
パパがギョッとしながらこっちを凝視。
でも私は無視した。
娘はテレビからこちらに視線を移し、
「はぁ? 意味わかんないですけど」
「だから、あなたのプロフィールで登録して私がゲームするの」
娘はため息をつきながら、テレビに視線を戻し、
「いやだ!」
とキッパリ否定した。
「そう……」
と私は諦めるフリをした。
でも、私は諦めなかった。
美紀はいくら急かそうと動かないだろう。
ならば、私が動くしかないのだ。
翌日、私はラブワールド事務所に電話したのだった。




