大噴火
「ぷは~。食った食った」
ゴーダ君は味のない食事を堪能し、満足げにお腹をさすった。
続いてこう言った。
「美味しかったよ。ご馳走様でした」
私は照れながら答える。
「お粗末さまでした」
多分、私のアバターは顔が赤い。
ゲーム内時間が23時だったので、私たちはベッドに横になりながら、疲労度を回復しつつお喋りをした。
「スーナって、リアルでも料理できるの」
「人並みには出来るつもりよ」
食べてみる? まで言いたかったのだけど、言えなかった。
「へ~、是非食べてみたいな」
でも、ゴーダ君はナチュラルに言う。
調子の良いゴーダ君の事だから、半分お世辞半分冗談で、全然本気ではないのだろうことぐらいは、私にだって分かる。
でも、でも……。
言ってみようかな。リアルでも会ってみようって言って見ようかな。
この流れはチャンスよね。
「ほ、ほ、本当に、食べてみる」
「ん?」
「会ってみない?」
「あ~、そうか。そっか……」
ゴーダ君は1人で何かに納得し、
「そうだよね」
寝返りをし、私に背中を見せた。
それから、黙り込んでしまう。
「私は、会ってみたいんだ」
ちょっと大胆だ。
でも、余裕なんてこれっぽちもない。
顔は熱い。
頭はボーっとする。
何より、息が苦しい。ラブグラスのマイクが鼻息を拾ってしまわないのか心配してしまうぐらい、息が苦しい。
でも、ゴーダ君は無言のまま。
私は頑張って、もう一押し。
「まだ、自分でも良く分からないけれど、多分好きになっちゃったんだ」
「……、あのさ……」
そう言って、ゴーダ君は言葉を選ぶように、無言のまま。
私はじっと待った。
緊張する。
怖い。
ちょっと、早すぎたかなと後悔する。
私は待ちきれなくなった。
「最初は変な言葉喋るし、ヒステリックだの天然だの失礼な事を言うし、嫌な人だなと思ったの。
でもね、小さなことでも褒めてくれたり、ほら、今も味のしない料理をおいしそうに食べてくれたりして、そういう優しい所に惹かれちゃったんだ」
「優しくなんかないよ。俺は」
「ううん。優しいよ。ゲームのことだって、色々教えてくれたよ」
「そっか……」
また無言。
今度こそ、私はゴーダ君の返信を待った。
長い長い数分間。
私はソワソワしながら、ドキドキしながら、待った。
「ゴメン」
ゴーダ君は謝った。
ドキドキがズキズキに緩やかに変化していく。
「ゴメンね。俺はまだ、ちょっと、会いたくないかも」
「そ、そっか」
「スーナは面白いし、一緒にいて楽しいし、嫌いじゃないよ」
「うん」
「でもね、それは全然恋心とかじゃなくて……」
「そ、そうだよね。まだ、出会って1週間だもんね」
私は涙をこらえながら、冷静を装う。
そして、つい強がってしまう。
「でも、私は待つよ」
「いや……、ゴメン」
ゴーダ君は何かを言いかけ、それを飲み込み、謝った。
「アバターが原因なのかな。
全然女としてみてなかった。
ゲーム自体が楽しくてさ、ゲーム内の夫婦って感覚しかなかった。
でも、これって、出会い系ゲームなんだよね。
俺が間違ってたよ」
ゴーダ君は寝返りを打ち、こちらを見た。
目線を合わせるも、でもすぐにそらし、話を続けた。
「ゴメン。今のはちょっと嘘かも。アバターは関係ないかも」
「え?」
私に魅力がないってこと?
「例えばさ、俺、明るい人が好みなんだ。
だから、スーナにじゃなくて、ミーナさんにちょっと興味持った
もちろん、恋には程遠い感情だけれど……」
「は? はぁ~!?」
私はドキドキもズキズキも、一瞬でムカムカに変え、怒ってしまう。
とてもとてもムカムカした。
大噴火だった。
「何でよ!! だって、彼女は人妻よ!!!」
可愛さ余って、憎さ百倍?
百倍は大げさにしろ、私はちょっとゴーダ君に憎しみに近い感情を覚えていた。
それって、だって、心の浮気じゃない!
私たちは仮想夫婦なのよ!!
……、そっか、私たちは恋人でも何でもなく、ただの仮想夫婦なんだ。
そして、ミーナさんも仮想人妻なのだ。
私の心の大噴火は、一瞬でしぼんでいく。
ムカムカはシクシクに変わっていく……。




