別居
「ごめんね」
「謝らないでよ……」
私の頬を1粒の涙が流れ落ちていく。
アバターの私は、一体どんな顔をしているのだろうか?
少し疑問に思ったけれど、それよりも顔を隠さなくちゃいけないという気持ちが強かった。
ゴーダ君には一度見せてしまってはいるけれど、やはりお姉さんとしては、泣き顔を見せたくなんかない。
心配させたくない。
「やっぱり、ゴメンだよ。薄々感づいてはいたんだ」
「何を?」
「依存しているなって。
ゲーム内でさ、俺が手取り足取り教えちゃってるなって。
それに加えて、このゲームは出会い系ネットゲームじゃん。
だから……、気をもたせちゃうかもしれないなんて、自惚れ心が無かった訳じゃない。
無かった訳じゃないのに、ずるずる続けちゃった」
「やっぱり、謝る事じゃないわよ。そんなの。
私が……、私が勝手に、ほ、んん」
私は一度の咳払いをしてから、出なかった続きを言う。
「ほ、ほ、惚れただけなんだもん」
「違うよ。俺が悪い」
「私よ」
それからは、しばらく何も言わなかった。
言葉を捜しているのか、言葉を待っているのか、自分自身でも分からなかった。
それは、多分、ゴーダ君もなのだろう。
やがて、どこからともなく、ゲームの朝を知らせるニワトリの声が聞こえてきた。
それを合図にするように、ゴーダ君はこう言った。
「俺たち、一度別れようか……。別居、しようか」
「別居?」
「そう。詳しくは分からないけれど、そういうシステムもあるらしいんだ。
……多分、一度離れてみなくちゃ駄目なんだ。
スーナのその気持ちも、状況が作り出した偽者かもしれないし、その、あの、俺も離れてみて自分の本当の気持ちと真剣に向き合わなくちゃいけないし」
私は言葉が出ない。
自分の気持ちが分からない。
色々な感情が、ぐちゃぐちゃに私の心を乱す。
頭を白くさせる。
でも、一つだけ分かる。
色々ある感情の中でも、一番強い想いだけは、簡単に分かった。
嫌だ!
友達でも良いから、傍にいたい!
「その、友達として続けるにしても、やっぱり気持ちの整理は必要だと思うんだ」
ゴーダ君は言葉を変えて、また、 別れようと説得してきた。
また無言の世界。
でも、私の気持ちも落ち着いてきた。
そうなのかもしれない。
離れてみた方が良いのかもしれない。
ゴーダ君の言う通り、私はゲーム内での行動を全て依存していた。
肉じゃが作り以外、全部ゴーダ君が教えてくれた世界だった。
この気持ちは、そんな状況が作り出した、偽者なのかもしれない。
それに、ゴーダ君にとって気付かぬうちに、私が軽い存在じゃなくなっていたならば、その別居中に寂しいと思ってくれるのかもしれない。
「分かったよ」
私は随分と待たせてから、やっとこの短い返事できた。
「うん。手続きは任せて。調べておくよ」
「そう」
「今日は、多分、ゲームどころじゃないよね。お互いに」
「そうだね」
「だから、落ちるね」
「私も……」
「それじゃ……」
「うん、またね……」
またね、か。
今度はあるのかな?
こうして、3連休最後のラブワールドは、辛い世界だった。




