第73話 勇者共闘
コスモスに続いて浜辺に吶喊してくる王女親衛隊。言うなれば武器を持った水着の女子高生軍団か。壮観だな。ある意味感動的ですらある。
中でも目立っているのは親衛隊隊長のリコットさん。スラリとした長身をワインレッドの競泳水着で包み、槍を手に舞うように戦っている。年の頃は女子大生ぐらいだろうか。
そしてコスモスはというと、二丁拳銃を手に、時折ポーズを決めながら戦っていた。
「何、あの……なに……?」
その姿を見て、隣のクレナが戸惑っている。
ああ、拳銃を見た事が無いのか――と言いたいところだが、そうではない。
ガンアクションと格闘技を融合し、更に格好良さげなポーズをミックスした動き。
どうして時々一瞬だけ爽やかな笑顔でポーズを決めて止まるんだろう。俺も幻惑か何かの効果があるんじゃないかと思ったぞ。
きっとクレナも理解できない。いや、理解する事を脳が拒否しているのだろう。
「落ち着け、クレナ。目の前のモンスターに集中するぞ」
「う、うん……トウヤ、ちゃんと守ってね」
いつになく弱気になっているな。これはこれで新鮮だ。守ってあげたくなる。
「任せろ。離れるなよ」
後でからかいつつ愛でようと心に決めながら、俺はクレナの肩を叩いて元気付けた。
「さぁ! 一気に片付けるぞ!」
「オウッ!」
「にゃー!」
俺の掛け声に合わせて飛び出して行くルリトラとマーク。
リウムちゃんも『無限バスルーム』で弾を補充し、『光の雨』を一発ずつ撃ち込むスタイルで着実に仕留めていっている。
後は俺とロニの二人で、クレナとクリッサを守りながら近付く敵を倒していけば、遠からずノーチラス貝の大群は全滅するだろう。
親衛隊員達の勇ましくもかしましい声をBGMに、俺は手近なノーチラス貝に『三日月』を叩き込んだ。コスモスの方は極力見ないようにしながら。
太陽が頭上に差し掛かった頃、俺達はようやく全てのノーチラス貝を片付ける事ができた。最初に撒き餌を使ってから一時間以上戦い続けた事になる。
コスモス達のおかげで最後の一戦は助かった。お礼を言わなければならない。
問題は、『無限バスルーム』をコスモス達に知られてもいいかどうか。
元々俺がギフトの情報をあまり晒さなかったのは、「ギフトに戦闘能力がない」弱い勇者である事を知られたくなかったからだ。知られれば危険を招く事が予想できるので、それを未然に防ぐためである。
だが、今では神官魔法を使えるようになって、ギフトが無くても戦える自信がついた。
今ならば単に便利なだけのギフトだと笑い話で済む。知られてしまっても良いだろう。俺は扉をそのままにしてコスモス達と話す事にした。
「ありがとう、助かった」
「ハッハッハッ、これぐらい当然の事サ!」
握手を求めて手を差し出すと、朗らかな笑い声と共に手を握り返してくるコスモス。
その隣には、にこにこと微笑むフランチェリス王女が寄り添っている。
遠目では気付かなかったが、白のマイクロビキニか。凄い格好をしているな、王女。
小柄な王女は何というか、凹凸の少な――もといスマートな体型をしているので、正直似合っているとは言い難い。
王女の反対側にはエルフのフォーリィがいるが、こちらはフリルの付いた可愛らしい花柄のチューブトップビキニだ。王女もこういうタイプの方が似合うんじゃないだろうか。
コホン、ジロジロと見るのは失礼なので話を進めるとしよう。
「ところで、どうしてこんな事に?」
コスモスが周囲を埋め尽くすノーチラス貝を見ながら問い掛けてきた。
「ロンダランの撒き餌を使ったら、ちょっとな……」
「ォオゥ……」
自分もロンダランが原因で倒れた事があるためか、コスモスはその一言で理解してくれた。オーバーリアクション気味に天を仰いでいる。
「まぁ、間にあって良かった。それじゃ僕達はこれから海水浴だから」
ああ、それで水着だったのか。お前は服の下に水着を履いて登校する小学生か。いや、服を脱いでいるからそれ以上か。
だが、そういう事ならばノーチラス貝を持って行ってもらおう。貝殻は渡せないが、中身の方なら問題ない。浜辺ならバーベキューとかするのに丁度良いだろう。
「それなら、お礼にノーチラス貝を持っていってくれないか。貝殻の方は必要だから渡せないが中身なら百匹でも二百匹でも」
ちなみに倒した数は、正確には数えていないが三百匹と少しぐらいだと思う。
しかし、コスモスは困ったような顔をする。
「いや、僕はお礼が欲しくて助けた訳じゃないからね。先日助けてもらったお礼という事にしておいてくれたまへ」
「…………」
この男、本気で言ってそうだな。思わず目を丸くして親衛隊長リコットさんの方に視線を向けると、彼女は無言で首を横に振った。
この反応、慣れているな。いつもの事なのか、このコスモスの対応は。
一見良い事を言っているように聞こえるが、実はそうではない。
リーダーはパーティを運営するものだが、そのためには先立つものがいるのが現実だ。
確かに貧しい者達から無理矢理むしり取るようなあこぎな真似は俺も御免だが、今回はそうではないだろう。
そんなやり方で、今までどうやって旅をしてきたのか。
もしかしてアレか。王女がパトロンになっているのか、このパーティ。
当の王女は、日焼けをしたくないのか、お付きの者が差した日傘の下にいる。彼女はコスモスの態度をどのように考えているのだろうか。にこにこと笑みを浮かべるその姿からは、その内心は見えてこない。
「……こんだけあっても処理しきれない。今から焼くから食べていってくれ」
「お昼のお誘いですか。そういう事でしたら。姫様、いかがでしょうか?」
「ウム、よきにはからえ」
コスモスが反応する前にリコットさんがフランチェリス王女に問い掛けると、王女はいかにも高級そうな扇子を優雅に扇ぎながら鷹揚な態度で答えた。
王女が賛成したならばコスモスも反対しないようだ。先程までノーチラス貝との激闘を繰り広げた浜辺で、今度はそれをメイン食材にバーベキューである。
まずは身を取り出して下ごしらえだ。
三百以上あるので、俺、リウムちゃん、ロニ、クリッサ、マーク。それにエルフのフォーリィと王女親衛隊から数人の助っ人が加わって取り掛かっている。
取り出した中身は、ラクティとクレナで殻を剥いたり切り分けたりしていく。縦に割って鉄板で焼くのもいいだろう。
一匹一匹が大きいため、俺のパーティとコスモスのパーティ、全員掛かりでもどれだけ食べられるかは分からないが、こちらも数人の親衛隊が手伝ってくれた。数が多いから本当に助かる。
鉄板の方は、細かい手作業には向いていないルリトラが運び出して準備をしている。
ちなみにこの鉄板は、魔王城から持ち帰った武具を精錬した鉄で作られていたりする。
その様子を横目に、貝殻にダガーを差し込んで本体を引っ張り出す。結構難しい。
するとフォーリィ達が驚きの目で俺の事を見てきた。何事かと思って尋ねてみると、コスモスは全く料理ができないので、俺も同じだと思っていたらしい。
そしてコスモスは、興味があるのか俺達の後ろから覗き込んできた。
「ハハハ、ザリガニみたいだねぇ」
「せめてロブスターと言え」
同じ世界の人間同士だからこそできる会話かも知れない。
実際に貝殻から引っ張り出したノーチラス貝は、意外に長い尾を持っていて、エビの類に似た形をしていた。海のモンスターなので、ロブスターの方が近いと思う。実は食べた事ないけど。
やはり作業スピードはロニとクリッサの二人が飛び抜けて速い。その次はマーク。やはり手先が器用だ。コツを掴んだのか、どんどんスピードアップしている。
三人のおかげで思っていたより早くに下ごしらえが終わり、貝殻は全て『無限バスルーム』に放り込む。
クレナ達が他の準備を進めてくれていたので、貝殻の片付けが終わったらバーベキューの開始だ。
コスモス達はお客様なのだが、フォーリィ達は引き続き料理を手伝ってくれた。あちらも普段から彼女が中心になってやっているとの事。
コスモスや王女に料理をさせる訳にはいかず、リコットさんに料理を求めるのは無謀との事。クールで、親衛隊長としては有能な彼女だが、私生活は割とダメダメらしい。
皿などは明らかに足りないので、彼女達の分を借りる事にする。
まぁ、元々数日こちらでキャンプする予定で準備していたノーチラス貝狩りが、半日以下で済んでしまったのだ。当然食料もそれだけ買い込んでいたので、ここはお礼も兼ねて盛大に振る舞うとしよう。
という訳で、鎧を脱いだ俺は、エプロンを着けて料理している。バーベキューって、皆で料理するのも楽しい。
「トウヤさん。はい、あ~ん」
ラクティが味見を求めてきたので、ノーチラス貝の切り身を一口食べさせてもらった。
魚醤の色にほんのり染まった身肉は弾力があった。噛みしめるほどに口の中に広がる濃厚な味わいは、エビよりもカニを思い出させる。鍋にしても良かったかも知れない。
このノーチラス貝の鉄板焼きは、周りの水着少女軍団にも好評だ。改めて見てみると、もの凄い光景だな、これは。
しかし、こちらも負けてはいない。周りを見ればクレナ、ロニ、ラクティ、リウムちゃんの四人がいるのだから。
上着とエプロンで水着はほとんど見えないが、それでも負けていないと胸を張って言う事ができる。いや、コスモスと勝ち負けを競っている訳ではないけど。
当のコスモスはというと、釣り竿を持って意気揚々と磯釣りにチャレンジしていた。
やけにテンションが上がっているようだ。陽気な掛け声と共に大きく振りかぶってキャスティングしている。ホントに楽しそうだな、あいつは。
王女も流石にあのノリには付いて行けないようで、ビーチパラソルの下でバーベキューに舌鼓を打っていた。楽しんでもらえているなら何よりだ。
「トウヤも休憩したら? ほら、これ焼きたてよ」
「ああ、ありがとう」
一段落ついたところで、クレナからバーベキューを持った皿を受け取って休憩に入る。
ラクティも食事中だったので、彼女の隣に座ろう。
そう言えば彼女は、ちょこまかと動き回って皆の手伝いをしていたが、誰もラクティが闇の女神だとは思わなかっただろうな。長い黒髪が邪魔にならないよう、ゆるく三つ編みにした姿を見ていると、俺だって時々忘れそうになる。
水着軍団はほとんどが食事を終えていて、まだ食事しているのが二人。片付けに取り掛かっているのがフォーリィを含む三人。リコットさん達五人が周囲を警戒し、残りは王女と共にコスモスの方に行って水遊びを楽しんでいた。
あ、コスモスが釣り上げたモンスターに噛み付かれている。
助けに行こうと立ち上がったが、俺が動くよりも先にリコットさんが駆け付け、手にした槍でモンスターを串刺しにしていた。
そんな光景を眺めながら、俺は食事をしている。コスモスも仲間に恵まれているなと考えていると、隣のラクティが声を掛けてきた。
「トウヤさん、これも美味しいですよ。ほら、あ~ん」
愛くるしい笑顔で、自分の皿に乗ったイモをフォークに刺して差し出してくる。先程の味見が気に入ったらしい。
きょろきょろと辺りを見回すと、クレナがにやにやとしながらこちらを見ていた。マーク、お前もか。
いつも通りの表情をしているリウムちゃんは、じっとこちらを見ている。
ロニは片付けをしながらチラッチラッとこちらの様子を窺っているが、頬が紅い。
そしてルリトラとクリッサは、温かい目で俺達を見ていた。
よく見ると、海辺にいる面々は気付いていないようだが、片付けをしているフォーリィ達や、まだ食事をしている者達は手を止めてこちらを見ている。
なんだこれは。この状況であ~んしないといけないのか。これは恥ずかしいぞ。
しかしラクティは、女神なのに天使のような笑顔でフォークを差し出している。これを断ったら、彼女はどんな顔をするだろうか。
無理だ。これは断れない。俺は覚悟を決めて、差し出されたそれを食べた。
「美味しいですか?」
「あ、ああ」
美味しい。が、それ以上に恥ずかしい。
しかし、ラクティの笑顔を守れるならば、これぐらいの恥ずかしさなど、どうという事はないだろう。
とは言え、周りにニヤニヤされっぱなしというのも癪だな。
毒を食らわばなんとやら。いや、食べたのはイモだけど。ともかく、こうなったらとことん開き直ってしまおう。
「よし、それじゃ次は俺の番だ」
「えっ?」
「ラクティ、あ~ん」
「あ、はい! あ~ん!」
フォークでウインナーを一口サイズに切ってラクティに差し出すと、ラクティは実に嬉しそうに大きく口を開けて食べた。うん、なごむ。
ふと見ると、王女がこちらに視線を向けていた。スマン、コスモス。王女に何か影響を与えてしまったかも知れない。
まぁ、彼なら平然と受け容れそうなので、これもお礼の一環という事にしておこう。
「クレナ」
「な、なに?」
「後でな」
短くそう言うと、彼女は顔を真っ赤にして伏せた。
もちろん、ロニとリウムちゃんもだ。
それに、俺達で食べさせ合っていれば、いずれクリッサもやり始めるだろう。マーク、俺のプレゼントを受け取るがいい。見ているだけで済むと思うなよ。
なお、コスモス達と協力して食べまくったが、ノーチラス貝を食べきる事はできなかった。というか、まだまだ余りまくっている。
どうしよう、これ。
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