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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
混迷の岩盤浴
70/206

外伝 春乃、旅人をやっています

お久しぶりです。


改稿作業はまだ残っていますが、少しずつ更新を再開していきます。

 のっそりとした動きで殴り掛かってくる男。彼女はその腕の肘と手首を取り関節技を極めて取り押さえた。

「ハルノ様、今です!」

「はい! キャンセル!」

 私が取り押さえられた男の頭に触れて力を発動させると、男はビクンッと大きく身体を震わせ、そのまま動かなくなります。

 あ、殺した訳じゃありませんよ。


 申し遅れました。私の名前は東雲《しののめ》春乃《はるの》。

 冬夜君と同じ『女神の勇者』なのですが、正式な名称である『光の女神の神殿の勇者』であるかは微妙になってきた勇者です。

 とは言え、神殿の勇者として微妙になってきたのは冬夜君も同じなので私は気にしません。むしろお揃いみたいで嬉しいです。


 アテナ・ポリスで『光の女神巡礼団』と別れた私達は、キュクロプスのプラエちゃんに案内されて一路風の神殿を目指して旅をしていました。

 と言っても何事もなくと言う訳にはいきません。

 一番の問題は路銀です。私達は『巡礼団』から離れましたので。

 アテナ・ポリスでもらい、『巡礼団』と山分けにした賞金がありますが、それだっていつまでも保つ訳ではありません。

 そこで私達は、モンスターなどの被害に遭い困っている村があれば、それを解決して報酬をもらうと言う、流しの戦闘レイバーのような事をしながら旅をしていました。


 そして私達はある街道沿いの村で「丘に薬草摘みに行ったまま戻って来ない村人を捜して欲しい」と言う依頼を受けました。

 ポリスから遠く離れた辺境の村なので報酬はあまり期待できませんが、その分食料を分けてもらう事ができるでしょう。

 その丘の上には半分埋もれた遺跡があり、夜な夜な幽霊が現れると言う噂が昔から村人の間で囁かれていたそうです。

 もしや幽霊に何かされたのではないか。村人達が町に出て神殿に助けを求めようかと話し合っているところに私達が立ち寄りました。

 そして皆で遺跡に赴き、石を積み上げて造られた古びた建物の中に入ったところ、行方不明になっていたはずの男に殴り掛かられ、冒頭のシーンに続いたのです。



「お見事です、ハルノ様」

「サンドラさんこそ。よく取り押さえてくれました」

 意識を失った村人を壁際に横たえた後、私に声を掛けて来たのはサンドラさん。『巡礼団』を離れ、私に付いてくる事を選んでくれた三人の内の一人です。

 藍色の髪を結ってポニーテールにしていて、スラッと背が高く、顔付きは凛としていて神殿騎士の制服がよく似合っています。

 実はセーラさんとは昔から親友同士だったらしく、その縁で私も仲良くなりました。



「やはり操られてましたね……上手く行って良かったです」

 行方不明になっていた村人は、遺跡の幽霊に操られていました。

 実はこれ、セーラさんが予想してくれていたんです。割とよくある話だとか。

 幽霊の類と言うのはれっきとしたアンデッドモンスターの一種で、MPをHPの代わりにして生きているそうです。

 取り憑いたりするのもMPを使っているそうなので、私のギフトで上手く対処する事ができましたね。

 触れる事により、MPに因って起きる現象を無効化する。ほんの少し成長した『無限リフレクション』の新しい使い方です。


「お、終わりました~?」

 柱の陰から亜麻色の長い髪を持つ神殿騎士が顔を覗かせました。

「リン! そんな所に隠れてどうする!」

「だってぇ、私じゃサンドラちゃんみたいに手加減して取り押さえたりできないしぃ」

 サンドラさんに怒られてしゅんとなっている彼女はリンさん。サンドラさんと同じく私に付いてくる事を選んでくれた一人です。

 ちなみにリンさんの言っている事は本当です。

 いえ、リンさんが弱い訳ではなく、サンドラさんが強いのです。彼女はあの『巡礼団』の中でも指折りの武闘派でしたから。


「まぁまぁ、サンドラも押さえて。

 前に出られなかったのは私も同じですし」

「セーラは甘過ぎです!」

「ハルノ様~!」

「……まぁ、下手に手を出して怪我をさせるのも不味いですから。

 実際幽霊に操られた人を、素手で怪我をさせずに取り押さえる事ができたのは、サンドラさんだけだと思いますし……」

「それは、まぁ……」

 リンさんが私の背に隠れたのでフォローすると、サンドラさんは毒気を抜かれたように矛を収めてくれました。

「リンさんも、牽制するだけでも助かりますから、次からはちゃんとお願いしますね」

「は~い」

 リンさんの方にも一言言っておくのを忘れません。

 なんと言うか、不真面目と言う訳ではないのですが、要領が良くて楽をしようとするところがあるんですよね、リンさんって。

 一方サンドラさんの方は生真面目な性格で、昔から割を食う事が多かったそうです。



 そんな話をしていると、奥に偵察に行ってもらっていたインプのデイジィが空を飛んで戻って来ました。

「お~い、ハルノ~。幽霊見付けたよ~」

 戻って来たデイジィは、私の肩にちょこんと座り耳元で囁くように報告してくれます。

「やはりいましたか。他には?」

「全部の部屋を見た訳じゃないけど、見付からなかった」

「その幽霊を倒せば、今後こう言う事件は起きなさそうですね」

 入り口にはプラエちゃん達がいますし、遺跡の中にモンスターの気配は無いので、気絶した村人はここで寝かせていても大丈夫でしょう。

「それじゃ行きましょうか。デイジィ、案内してください」

「任せて!」

 元気良く私の肩から飛び立ったデイジィは遺跡の奥へと飛んで行き、私達はその後を追い掛けます。

「うわっ!」

「……気を付けろ、リン」

「ありがと~、サンドラちゃ~ん」

 瓦礫の多い廊下でリンさんが転びかけ、サンドラさんがそれを助けると言う微笑ましい光景を繰り広げながら。

 なんだかんだと言って仲良しですね。


「ほら、あれだよ」

 デイジィの案内で辿り着いたのは、遺跡の最奥にある一室でした。

 六畳、いえ八畳くらいでしょうか。苔生した石造りの部屋の中央に、石でできた台座があるのは良いのですか、その上にぼんやりと光る白い影が浮かんでいます。

 人型ですが、輪郭がぼやけていて顔はよく分かりません。

「ゴースト、ではありませんね。この肌寒い感覚、恐らくレイスです」

「不味いな……」

「あの幽霊が何か分かるのですか?」

 後ろからセーラさんとサンドラさんが話し合っている声が聞こえてきたので、私は振り返って彼女達に尋ねました。

「あれは『レイス』と言う、ゴーストより高位のモンスターです。

 実体が無いため普通の武器が効かないのはゴーストと同じなのですが、レイスはそれに加えて大半の魔法も効きません。魔法の掛かった武器もです」

「ご覧下さい、ぼんやり光っているでしょう? あの光のせいか、ヤツには『光の精霊召喚』も効かないんですよ」

 『光の精霊召喚』、冬夜君も使えた魔法でしたね。光に光を当てても効かないと言う事でしょうか。

 ちなみにゴーストとの見分け方は、近付くと肌寒くなるのがレイスだそうです。


「効くのは、対アンデッド専用の魔法――その中でも高位の物くらいですね」

「そのくせヤツ自身は魔法を使い、憑依して操る事もできる。厄介なモンスターですよ」

 そう言いつつ、悔しげな表情を見せるサンドラさん。『巡礼団』として各地を転戦してきた人ですし、過去に戦った事があるのかも知れません。

 文献によると、MPを消耗させる魔法で倒すと言う方法もあるそうですが、残念ながら光の神官魔法にそんな魔法は無いそうです。

 あの村人はこの部屋に入り、レイスに憑依されて操られてしまったのでしょうね。

「うへぇ、部屋入んなくて良かったぁ……」

「大丈夫だよ。ハルノ様が治してくれるから」

「そもそも操られたくないんだよっ!」

「二人とも静かに」

 どこかのんきな会話をしていたデイジィとリンさん。

 サンドラさんに窘められて二人がおとなしくなったところで、セーラさんがおずおずと声を掛けてきました。

「ハルノ様、どうしますか?

 申し訳ありませんが、私はまだレイスに効く魔法は……」

 なるほど、MPを消耗させる魔法が使える人もいませんし、レイスへの対抗手段が無いと言う事ですね。

 村からそれほど離れていない遺跡だと言うのに、今まで誰もレイスを退治しなかった理由が分かりました。

 レイスに効くような高位の魔法を使える神官を呼ぶだけの報酬を、辺境の村では用意できなかったのでしょう。

 しかし――


「私が一人で部屋に入れば終わりますね」


――『無限リフレクション』には魔法も憑依も効きませんよ。

 その身体がMPで構成されていると言うのであれば、近付いて触れば消滅させる事ができるでしょう。

「ちょっと行ってきます」

 と言う訳で、私は夜営中に水を汲みに行くような気軽さで部屋に入り、レイスが上げる唸り声を無視して、人差し指で触れてそれを消滅させました。



 その後部屋の中を探索してみたところ、レイスのいた石の台座が、実は石製の宝箱だった事が分かりました。

 最初は気付かなかったのですが、デイジィが「闇の中にお宝の気配がする」と言い出して発覚しました。

 魔族の仲間であるインプの彼女は「闇の気配」と言うのが分かるらしく、石の台座が実は箱で、中に真っ暗闇――空洞があり、宝物が入っている事に気付いたようです。


 中に入っていたのは宝石や貴金属類。毛皮らしき物も入っていましたが、それは流石にダメになっていました。

 それを見て、父の隠し倉庫を思い出したのは、ここだけの話です。

 そう言えば、乱雑に扱っていた掛け軸が虫に食われて悲鳴を上げていましたね。

 修繕してもらおうと専門家に依頼したところ、偽物だった事が判明してそのまま捨ててしまったそうですけど。


 この手の遺跡などで発見された物の権利は、基本的に発見者にあります。

 国が管理している場所などであればその限りではないのでしょうが、そもそもそう言う場所は許可無く探索できませんからね。

 今回のケースも村の近くに遺跡がありましたが、村でそれを管理していた訳ではないので、この宝物は私達の物と言う事になります。

 とは言え、これだけの物を手に入れて、その上報酬は別にもらうと言うのはがめつい気がしますので、宝石の幾つかで食料を村から買う時に割り引きして貰う事にしました。




 その後、レイスに憑依されてた人が無事に目覚め、更に一泊して何事もない事を確認した私達は、再び風の神殿があるプラエちゃんの故郷を目指して旅を再開しました。

 お風呂は大きめの町に行かねばありませんので、旅の間は基本的に水浴びです。

 村に滞在中とか、かえって水浴びできないんですよね。冬夜君からも聞いていましたが宿も無いような村だと周りを警戒しないといけないので。

 と言う訳で村を出て半日ほど歩いた私達は、道から少し離れた所にあった川で水浴びをしています。


 もちろん、四方に幕を張って周りからは見えないようにしていますよ。

 身長が三ストゥートを超えているプラエちゃんのために一番大きな物をアテナ・ポリスで購入したのですが、それでも肩から上が覗いているんですよね。

 当の本人はあっけらかんと笑っていてあまり気にしてませんし、胸までは見えていないので良しとしましょう。立ち上がると丸見えですけど。


 皆一緒に水浴びしていると、誰かが近付いて来ても気付かないかも知れないので、半分は水浴び、半分は見張りです。

 私と一緒に入ってるのはデイジィとプラエちゃん、そしてもう一人。

「ハルノ、これで次の町で一気に補給できるね!」

「そうね、ルミス」

 私に付いてくる事を選んでくれた三人の内の最後の一人、ルミスです。

 短めの明るいブラウンの髪をサイドポニーにした、小柄で可愛らしい女の子です。

 ルミスと私は同い年で、友達のように付き合っています。

 ちなみにサンドラさんとセーラさんは同い年で私より二歳年上。リンさんは私より一歳年上です。

 デイジィも私と同い年なので、実はこのパーティの最年長ってプラエちゃんなんですよね。性格は彼女が一番子供っぽいんですけど。


 それはともかく、ルミスは遺跡では中に入れないプラエちゃんと一緒に外で待っていてもらいました。

 実は彼女、プラエちゃんととっても仲が良いんですよね。

 彼女の故郷では人も亜人も仲良く暮らしていたらしく、元々亜人に対して何のわだかまりもなかったそうです。

 私と一緒に行く事を選んだのも、『巡礼団』よりもプラエちゃんとデイジィを助けた私の方が自分に合っていると考えたんだとか。


「よ~し、一気にプラエの故郷に近付いちゃおう!」

「はい~♪」

 ルミスが元気良く声を掛けると、プラエちゃんは嬉しそうな笑顔を見せてくれました。

 明るく前向きなルミスには、私もいつも元気付けられています。

「まぁ、しばらく仕事せずに済むなら有難いわね~」

「またデイジィったら、そんな事を……」

 デイジィは、まとまった収入があったのでしばらく仕事を探さずに済みそうなのが嬉しいみたいですね。私も早く進める事は嬉しいです。


「ハルノ様~。トウヤ様からメッセージが届きましたよ~」

 幕の外からセーラの声が聞こえてきました。

「ラブレターだよ~♪」

「こらっ、リン!」

 こちらはリンさんとサンドラさんですね。ラブレターなのは否定しませんけど。

 急いで水浴びを終わらせ、バスタオルを巻いた格好でメッセージを受け取りました。

 もちろんこのまま幕の外には出ませんよ。着替える時間も惜しいだけです。


 メッセージには、もうすぐ新しい街に着くと言う冬夜君の近況が綴られていました。

 他にも色々とありますけど、恥ずかしいので内緒です。

 冬夜君が向かっているのはネプトゥヌス・ポリス。この大陸の南東にある国で、商人と船乗り、そして漁師が多い港町だそうです。

 冬夜君達も無事に旅を続けているようで何よりです。

 冬夜君の目的は、『水の女神の神殿』を探す事はもちろんなのですが ハデス・ポリスで手に入れた宝物を現金化するのが目的みたいですね。

 商人が多いネプトゥヌス・ポリスでは、オークションが盛んなのだそうです。

 冬夜君、父みたいに偽物を掴まされなければいいんですけど。


 とにかく、着替えたらすぐに返事を書きましょう。

 私達も元気に旅を続けている事や、他にも色々伝える事はたくさんあります。

 もちろん「他にも色々」が何かは内緒ですよ、恥ずかしいですから。


「え~っと、『冬夜君のお風呂に入りたいです』?

 うわっ、ハルノったらだいた~ん!」

「デイジィ!」

 とにかく内緒なんです。

と言う訳で、次の舞台は港町ネプトゥヌス・ポリスとなります。


ネプトゥーヌス(ネプチューン)は、ギリシア神話の海を司る神・ポセイドンと同一視されている神ですね。


港町→貿易→商売と言う事で商業が盛んな国となっていますが、ネプトゥーヌスが商売の神と言う訳ではありません。


海以外だと競馬の守護神だったりします。

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