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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
神泉七女神の湯
168/206

第159話 朝焼けのひかり背に受けて

『異世界混浴物語6 誘惑の洞窟温泉』は

オーバーラップ文庫より、5/25発売です!


これもひとえに、皆様の応援のおかげです。

 幸い敵に遭遇する事なく聖王都に近付き、起伏の陰まで到着する事ができた。一面が草原のおかげか『空白地帯』の時ほど土煙も上がっていない。

 振り返ってみると、皆の消耗が酷い。特に王女は車酔いならぬリザードマン酔いで、一人で立つ事もできない様子だ。

 車に慣れているはずの春乃さん達もフラフラしている。平気そうなのは俺と雪菜、それにリウムちゃんぐらいだ。

 すぐさま『無限バスルーム』の扉を開き、中に入って休んでもらう。

 入った途端に十数人がトイレの前に列を作っていたが、そちらの詳細は割愛しておく。酔ったのだから仕方がない。

 扉を閉じると見つかる心配は無いので、ゆっくり休んでほしい。

 俺は余裕があったので、皆が休んでいる間に偵察をしておく事にした。遠征軍を見るのはMPの消耗が激しいので避けるが、聖王都の様子は見ておきたい。

 雪菜とリウムちゃんを伴って屋内露天風呂に向かう。

 雪菜は空を飛んで先に進もうとしていたが、俺がリウムちゃんと手をつないで後に続くと、戻ってきて俺の空いている手を握ってきた。

 そのまま二人の手を引いて屋内露天風呂に到着。

 聖王都の門付近を映し出して様子を見てみたが、衛兵達は落ち着いたものだった。

「これは、気付かれてないのか?」

「気付いていたら……もう少し慌てていると思う」

 リウムちゃんの言う通りだ。こちらに気付いていたら守りを固めようとするなり、こちらを確認しようとするなりするだろう。しかし、それらしい動きは無い。

「お兄ちゃん、町の方も落ち着いた感じだよ。これって普段通り?」

「俺も普段の様子をそこまで知ってる訳じゃないが、緊張は感じられない……か?」

 改めて門を見てみるが、守っている兵の数も特別多くはなさそうだ。

 この様子だと、衛兵達には気付かれていないと判断していいだろう。


 その情報を携えて皆のところに戻ってみると、ほとんどの者がグロッキー状態だった。

 本丸一階中央の板の間では、少女達がぐったりと倒れ伏している。王女は闇の和室に運び込まれたようだ。彼女、気苦労が絶えないせいか常連になっているような……。

 それはともかく、比較的なマシそうな者達の中にリコットがいたので、彼女と衛兵の様子について話してみる。

「という訳で、まだ聖王都からは見つかってないみたいなんですけど、この先どう進めばいいと思います?」

 今回俺達は、王女の一行という形で聖王都に戻る事になるので、できる範囲で彼女達のやり方に合わせなければならない。

「このまま進むと到着は夕方か夜にあたり……まずいですね」

「ダメなんですか?」

「基本的には避けます。これには別の理由もあるのですが……」

 詳しく聞いてみたところ、王女一行が大きな町に入る場合は、まず町にほど近い場所で宿営し、先触れの使者を出して町長などと諸々の打ち合わせを先に済ませるそうだ。

 そして午前中に町に到着するようにするのが、不文律であるらしい。

 そういうしきたりがあるのか。事前に話を聞いておいて良かった。

「こう言ってはなんですが、殿下が到着した時にお出迎えしないのは失礼に当たります。そのため町側も、到着する日は朝からずっと待っていないといけない訳で……」

「ああ、なるほど……」

 だから朝の内に出迎えが済むように調整する訳か。

 王女の場合は出迎えの負担を考え、旅の途中の小さい村などには入らないそうだ。補給が必要な時も、親衛隊員だけを派遣するらしい。

「それってつまり……先触れの使者無しで聖王都に行くと怪しまれます?」

「何事かと思われるでしょうね」

「でも今回の場合、下手に事前に知らせると……」

「……ええ、まぁ」

 リコットは視線を逸らして言葉を濁した。王子が何をしてくるか分からないとは言えないか、流石に。

 こちらとしてもできるだけ王女達のやり方に合わせるつもりだが、それで危険を呼び込むのは避けねばならない。

「……ダメだ。普通に使者を出して打ち合わせなんてやっていられない」

 聖王都は最近まで中花さんがいた。彼女のギフトの影響がどこまで及んでいるのか分からない。たとえば各門を守る隊長格全員が影響下にあるなんて事も考えられる。

 だからといって使者無しで行くというのもまずそうだ。足止めなども考えられるし、最悪王女が戻ってきたら攻撃するよう命じられている可能性も考えられる。

 コスモスを誘拐しようとしたのだ。それぐらいやってきても不思議ではない。

「かといって形式を無視するのもまずいですよ。隙を見せる事になります」

 リコットの言う事にも一理ある。非常時だと判断されると、向こうもそれを理由に兵を集められるそうだ。足止めと合わせてやられると非常にまずい。

 どうしたものかと悩んでいると、クレナと春乃さんが近付いてきて、話し合いに参加してくれた。こういう時の二人は頼もしい。

「先触れの使者は、ちゃんと出さないとダメよ」

 話していた内容を説明すると、クレナはすぐさまそう言ってきた。

「こっちはやるべき事を、ちゃんとしてましたって言えるようにしておきましょう。その後、向こうの準備が整うまで待ってあげる必要はありませんけど」

 春乃さんが、そう付け足して悪戯っぽく笑った。

「実際その準備も、何の準備か分かったものじゃないしね」

 クレナも、そう言って春乃さんに同意した。

 二人の言う通り、こちらに槍を向けての物騒な歓迎となる可能性も考えられる。だから向こうの準備が整う前に行くというのは間違っていないだろう。

 とは言っても、それは事実上の強行突破のようなものだ。上手く行くかもしれないが、衛兵との正面衝突になる可能性も高い。

「ここは二人の提案通り、使者は出すけど準備の時間は与えない方向でいきましょう」

 俺は、そう決断を下した。ここは、できるだけ隙は見せずに行こう。

「……仕方ないですね」

 リコットも不承不承ではあるが頷いてくれた。できるだけ穏便に城に行くためなので勘弁してほしい。

 先触れの使者については、王女に任せる。

 そしてこちらも、戦いを避けるためできるだけの手を打っておこう。



 その日は、そのまま『無限バスルーム』内で一泊。

 そして翌日、夜も明けない内に改めて聖王都に向けて出発する。まだ夜更けだが、今から出発すれば、ある程度ペースを落としても夜明け頃には聖王都に到着できるそうだ。

 先触れの使者となったのはリコットとアキレス。リコットは親衛隊の代表だ。アキレスは、衛兵に一番顔が利くという事で王女が指名した。

 リコットは立派な角を持つ若い戦士が、アキレスは巨漢のドクトラがそれぞれ乗せて、一足先に走っていく。

 それを追い掛ける形で、俺達も走り出した。昨日よりもゆっくりのペースなので、王女達も酔うような事はない、と思いたい。

 そのまま走る事数時間。聖王都から軍が出て来て迎撃される事もなく、俺達は夜が明ける頃には聖王都の門の前に到着する事ができた。

 皆もまったく問題無しという訳にはいかないようだが、昨日よりはしっかりしている。

 門の方を見ると、昨日屋内露天風呂で見た時と同じぐらいの数の衛兵達の姿が。歓迎は不要だと伝わっているはずだが、皆緊張した面持ちで背筋を伸ばして並んでいる。

 緊張の原因は王女か、アキレスか、俺達が連れているトラノオ族か。それとも……衛兵達以外にここにいる、同じぐらいの人数のもう一グループか。

 そのグループの先頭に立つ人物が、俺の前に出てくる。

「久しいの」

「またお世話になります」

 長い髭をたくわえた老人。以前お世話になった光の神殿の神殿長さんだ。落ち着いた雰囲気で、威厳のある白いローブを身に纏っている。

 何故彼が、早朝のこんな時間にここにいるのか。

 種明かしをしてしまうと、王女と同じように俺も先触れの使者を出していたのだ。

 ただし、衛兵にバレないよう密かに。

 どうしてそんな事ができたのか? その秘密は神殿長さんの後ろに立っているマントに付いたフードを目深に被った二人にある。

「お疲れさま、バルサミナ!」

「ホント、疲れたわ。こういうのはこれっきりにしてよね」

 コスモスが、その内の一人にサムズアップしながら労いの言葉を掛けた。

「ロニもよくやってくれたな。ありがとう」

 遅れて俺も声を掛けると、ロニの方から近付いてきたのでその頭を撫でると、彼女は嬉しそうに顔をほころばせた。

 今回ロニには光の神殿への使者になってもらった訳だが、実は鍵を握っていたのは彼女ではなくバルサミナの方である。

 思い出してほしい。バルサミナは、この聖王都に潜入してコスモスと王女を襲撃した事がある。そう、彼女は元々、密かに聖王都に潜入するルートを知っていたのだ。

 そこで二人には、夜の内にそのルートを使って聖王都に潜入してもらい、神殿長さんに俺の手紙を届けてもらったのである。

 もちろんこの件は王女にも話は通してあり、潜入ルートについても既に知らせている。

 それはともかく、手紙の内容は現在の状況の説明と、スムーズに城に行けるよう神殿騎士を使って衛兵達を牽制してほしいというもの。

 神殿長自ら率いてくるというのは予想外だったが、それだけこの件を重要視しているという事か。こちらとしてはありがたい話である。

 衛兵達が迂闊に手を出せないようにするために神殿騎士を呼んだ訳だが、神殿長さんがいることでその効果は跳ね上がる。

 おかげで不必要なトラブルは起こさずに済むだろう。

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