第158話 爆走鱗人トカ&ゲー!!
北の地下道を進む一行。こちらは他の地下道より短かったようで、二日で出口に到着する事ができた。まだお昼にはなっていない。午前中のはずだ。
地下道を出た先は、鬱蒼とした森だった。足元が斜面になっている。どうやら山中のようだ。おそらく俺とルリトラが旅立ってすぐに越えた山だろう。
「本当にユピテル領内なんですね……」
「まあな」
当時「他国と連携させないため、ユピテルの進軍を遅らせろ」と命じられてゲリラ戦を仕掛けていたのが当の『百獣将軍』だ。それはこの地下道にも詳しいというものだろう。
それはさておき、ここまで来るとユピテルの聖王都まであと少しだ。
ただ、ここから聖王都まではなだらかな草原が広がっており、身を隠す場所はほとんど無い。ここを集団で進めば、すぐに見つかってしまいそうだ。
ここはいかにして早く聖王都までたどり着くかの勝負となるだろう。
「あと少しと言っても、それなりに距離があるし」
「隠れながら……というのは現実的ではありませんね」
春乃さんとクレナの言う通り、隠れながら進むというのは難しい。
ならば向こうに対応する間を与えず、風の如く聖王都まで行くしかないだろう。そう、ルリトラの曳く人力車で旅立ったあの時のように。
ここに人力車は無いが、トラノオ族の戦士達がいる。
「やっぱりルリトラ達の背に乗って走ってもらうのが、一番速いと思う」
「我々は構いませんが、敵襲だと思われませんか?」
猛スピードで接近してくるトラノオ族の戦士集団。うん、そう思われても無理は無い。
「それは、まぁ……でも、ルリトラ。それが一番速いのは間違いないだろう?」
「そこは否定しませんが……」
「ならば、アレを使いましょう」
ここでフランチェリス王女が助け船を出してくれた。
頼まれて『無限バスルーム』の扉を開くと、彼女とリコットは中に置いた荷物から一棹の大きな旗を出してきた。白地に金糸で刺繍が施された豪華な旗だ。
「これは我々が王女殿下一行である事を示す旗です」
「つまりは親衛隊の旗?」
「いえ、隊旗は別にあります。これは王女殿下がいる時のみ掲げる事が許される旗です」
人里に入る時や、出立する時は、きっちり隊列を組んで、この旗を掲げながら行進するそうだ。出立する時はともかく、入る時は疲れているので結構大変らしい。
「あ~、分かる分かる。大変だよねぇ、ああいうのって」
それに同意したのはリン。ルミスもうんうんと頷いて同意しており、サンドラは視線を逸らしてそっぽを向いている。なるほど、『巡礼団』も同じような事をしていたのか。
「へ~、そうだったんだ」
そして素直な反応を見せるコスモス。どうしてそこでお前が驚いているんだ。
詳しく聞いてみたところ、毎回掲げる旗の内のひとつぐらいとしか認識していなかったらしい。そうか、常に王女が一緒だったからこの旗を掲げない時が無かったのか。
それはともかく、この旗があれば襲撃と勘違いされる事は無いだろうと王女は言う。
確かにそうかもしれないが……。
「この旗があれば、攻撃されないって事ですか?」
「ええ」
「お兄さんが、聖王都に入る前に王女様を始末しろと命じても?」
「誰が、そんな命令を聞くと……」
「そりゃあ、中花さんのギフトの影響下にある人?」
王女は黙ってしまった。有り得ない、とは言い切れないのだろう。
結局のところ、怖いのはそこなのだ。コスモス誘拐は、明らかに王女に対する敵対行為である。ここでもやられない保証は無い。
「そ、それでも、全員が影響下にあるのでなければ効果はあるでしょう」
「なるほど……でも、これって王女様が一緒じゃないと掲げてはダメなんですよね?」
「そうですね。その一団に私がいると知らしめるための旗ですから」
「……つまり、王女様もトラノオ族の戦士の背に乗って聖王都まで行くと?」
「もちろんです」
「正直、おすすめしませんよ? 物凄いスピードが出ますから」
「ユピテルのため、耐えてみせましょう」
胸を張って答える王女。決意は固いようだ。
不安はあるが、そこまで言うのならば安定感があるドクトラに任せてみようか。
「それにしても……」
「なぁ……」
「はっはっはっ」
俺と神南さんで顔を見合わせる。コスモスは笑っている。
「リザードマンの戦士達を連れて、爆走しながら帰ってくる王女……」
「なんというか……暴走族っぽいな」
「フランチェリス、グレた君もステキだよっ☆」
「……意味の分からない言葉もありますが、誉め言葉として受け取っておきますわ」
そう言いつつも、彼女は複雑そうな顔をしていた。俺と神南さんの表情から、単に褒めている訳ではないと察したのだろう。
親衛隊の体格ならば、トラノオ族の戦士一人で二人運ぶ事もできる。流石にアキレスと『百獣将軍』は一人ずつしか無理だろうが。
「ああ、俺は乗らんぞ。リザードマン程度のスピードならついて行ける」
もっとも『百獣将軍』は乗る必要が無いらしいが。
「あたしも多分大丈夫だよ~」
同じく自前の足で問題が無いというのはプラエちゃん。歩幅の違いだろうか。
という訳で、自前の足で走る二人以外は全員トラノオ族の戦士達の背に乗ってもらう。
こちらは俺と雪菜、春乃さんとリウムちゃん、クレナとラクティ、リンとルミスが一緒に乗る。王女はコスモスと一緒に乗るそうだ。
「旗は私が」
旗を掲げるのは親衛隊長のリコット。彼女は馬に乗るような体勢で旗を掲げるつもりだったようなので、それは無茶だと止める。
「あの、大きな旗を高く掲げると、風の抵抗を受けてスピードが落ちませんか?」
春乃さんも加勢してくれた。しかしリコットも、旗があるからこそ安全が確保できると引き下がらない。
「まだ距離があるし、ある程度近付くまでは旗を掲げなくてもいいんじゃないですか?」
「それならば……」
途中までは全速力である程度の距離まで聖王都に近付き、そこからは旗を掲げて堂々と進むという事だ。
無論、何かあった時にいつでも掲げられるよう、リコットには旗を持って先頭集団に加わってもらう。
先頭集団は、ルリトラに乗る俺達、クレナ達、春乃さん達、ロニ、サンドラ、それに神南さんと『百獣将軍』が加わってリコットを守る形だ。
ドクトラは申し訳ないが、王女を乗せるので後方に行ってもらおう。あちらはあちらで王女を守ってもらわなければならない。
全速力で走るルリトラ達にしがみついているのは結構力が必要なので、念のためロープで縛っておけば安心だ。
「じゃあ、私はここで」
「そこは止めておけ」
俺の胸元に潜り込もうとしたデイジィは、マントのフード部分に入ってもらう。
という訳で隊列も決まり、全員がトラノオ族の戦士達の背に跨って準備完了だ。
「よし、行くぞ! 皆、ちゃんとしがみついてろよ!」
俺の号令と同時に、一斉に地響きを立てて走り始める。先導するのは俺達だ。
盛大に土煙を上げながら爆走。あの時の人力車よりもスピードが出ているんじゃないだろうか。それでも『百獣将軍』とプラエちゃんは平然とした顔でついて来ている。
このままある程度の距離まで休息無しで進みたいところだ。
「お兄ちゃん……これ、聖王都までどれくらい……?」
やはり揺れが激しいのか、雪菜が弱々しい声で尋ねてくる。
「人力車の時は半日以上掛かったけど、途中までだしそれよりは短いと思う、多分」
「うえぇ~……気持ち悪くなりそう……」
こればかりは仕方がない。なんとか耐えてくれ、雪菜。
デイジィもフードのおかげで振り落とされてはいないが、必死にしがみついているようだ。髪を掴まれているが、我慢である。
そのまま一時間程走っただろうか。デイジィも慣れてきたのか、髪を引っ張られる事は無くなってきた。
それにしても、あの頃は余裕が無くて分からなかったが、よく見てみるとただ平坦な地面が広がっている訳ではない事が分かる。
なだらかながらも起伏があり、進行方向右手の地面が少し盛り上がっていた。
ささやかで丘という程でもないが、あの陰ならば聖王都側から俺達の姿を見えなくするぐらいはできるんじゃないだろうか。
「ルリトラ、あの起伏に隠れるように進むんだ」
「ハッ!」
このスピードだと二、三時間ぐらいであの起伏辺りまで到着できるだろうか。
周りの様子を窺った感じ、無理をして聖王都までというのは難しそうだ。
「よし、あの起伏の陰で休息を取るぞ」
「分かりました。皆、スピードを上げるぞ!」
ルリトラの掛け声に、トラノオ族の戦士達が一斉に返事をした。その威勢の良い声に合わせてスピードが上がる。
続けて背後から悲鳴が上がった。親衛隊の少女達だ、セーラさん達も混じっているかもしれない。物凄いスピードが出ているし、無理もないが……これはまずい。
「声を出すな! 舌を噛むぞ!」
俺より先に神南さんの怒声が飛び、悲鳴は収まった。皆必死に声を抑えているようだ。
とはいえ、この調子だと休息時は『無限バスルーム』が活躍する事になりそうだな。主に風呂ではなくトイレが。
向こうに到着しても、皆へろへろでろくに動けない状態になっていては意味が無い。
せっかく先行できているし、『無限バスルーム』の中に入れば見つからないのだ。ここはしっかり休息を取って、万全の状態で聖王都に到着できるようにしよう。
今回のタイトルの元ネタは、『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』と
『WILD ARMS 2nd IGNITION』の登場人物トカ&ゲーです。
実際にトラノオ族にトカ&ゲーという兄弟がいるかどうかは謎です。




