第135話 ( ゜ω゜ ) お断りします
「武闘会への参加ですが……無理です」
という訳で俺は、ハッキリと断りの返事をした。
神南さんは断られるとは思っていなかったようで唖然としている。ここは理由も話して畳み掛けておこうか。
「ユピテルが風の神殿を襲撃した件は聞いてますか? 今、そちらの避難民を預かってまして、彼等の生活をどうにかする方が先なんですよ」
「そういう事ならば、優勝賞金は必要ないか? アレス金貨五千枚だが」
「いや、色々あって金はあるから」
チラリと『炎の魔神』を見ると、ニヤニヤ笑っていた。
昨日の内に彼と話したのだが、闇の女神のギフトが生み出した畳は金になるらしい。
アレスでは植物製の家具は高価だという事もあって金貨二百枚で売ってほしいと言ってきた。それならば彼等の生活費その他に不足はあるまい。
思っていた以上の値段がついたと思ったが、実は闇の女神信仰が廃れていなければ五百枚になっていたとか。
それはともかく、俺なら金貨五千枚を自力で稼ぐ事もできるという事だ。そんな額のために目の前にいる三人を相手に戦うとか考えたくもない。
「とにかくコスモスの方にも伝えておきますよ。あちらも王女次第かもしれませんが」
「そ、そうか、頼む」
という訳で、この件については早々に切り上げる事にする。神南さんもそれ以上続けようとはしなかった。
それからお互いに情報交換をしたのだが、ここでひとつ妙な情報が出てきた。
「中花律が……ユピテル・ポリスにいる?」
「なぁなぁ、誰だよそれ?」
「デイジィは知らないか。なんというかお騒がせ勇者? ケレスで戦闘レイバーを集めていた後の事は知らなかったけど……」
いつの間にかユピテルに戻っていたのか、中花さん。
アキレスさんは各地の光の神殿でこまめに聖王都ユピテル・ポリスと連絡を取っていたらしく、そのルートで彼女の事を知ったらしい。
アレスには光の神殿が無いため今の状況は分からないが、前の連絡の時点で王子の側近のような立場に収まっていたので今もいるはずとの事だ。
「側近? 彼女、王子を怒らせてませんでした?」
確か彼女は王子を仲間にしようとして断られ、その時点で仲間にしていた二人だけを連れて逃げるようにユピテルを旅立ったはずだ。
「なんでも、軍勢を引き連れて戻ってきたらしくての。その手勢が手に入ると思ったからか、リツの帰参を認めたそうじゃ」
「軍勢って……」
ケレス・ポリスの豪農の屋敷に転がり込み、豪遊しながらケレス中の戦闘レイバーを集めていたという話は聞いていたが、そんな事になっていたのか。
コスモスは王女親衛隊を連れているし、春乃さんもアテナまでは『光の女神巡礼団』と一緒だった。安全を考えれば軍勢を引き連れる事はアリだと思うが。
それよりも問題は、どうして彼女が側近になったかだ。目的がさっぱり分からない。
どうして「なれたか」は王子が彼女の手勢を求めたか、中花さんが詳細不明のギフトで何かしたかの二つの可能性が考えられるが。
元々王子を仲間にしようとしていたのだし、そのリベンジだったとも考えられるが、それ以上の事は分からない。
「というか、中花さんは風の神殿を攻めるの止めなかったんですか?」
「その辺りは分からんのう。戻ってきた時期を考えれば、当時聖王都にいたとは思うが」
この件については後で王女にも話を聞いてみたが、追加の情報は無かった。
彼女も光の神殿があればユピテル・ポリスと連絡を取っているそうだが、こちらもネプトゥヌスを出港してからは連絡できていないらしい。
という訳で、今のところは気に留めておく以上にできる事は無いだろう。
お互いに何か分かれば連絡しようと確認。彼等は武闘会まで特訓を続けるそうで、その場はお開きとなった。
「小僧! クレナが欲しければ、この武闘会で優勝してみせろォッ!!」
「勝手に賞品にしないでよっ!!」
「ぐふぅっ!?」
その後『闇の王子』が同じチラシを持って殴り込んできたが、クレナがすぐに撃退したのでスルーしておく。
それを見ていた『炎の魔神』は、腹を抱えて笑い転げていた。
後で『白面鬼』から聞いたのだが、この武闘会には長い歴史があるらしい。
今でこそ毎年の恒例行事として盛り上がっているが、元々は魔将に全然敵わない王国軍を不甲斐ないと感じた当時のアレス王が、強者を募るために始めたものだとか。
そういう事情もあって、今でも魔将の参加は遠慮してほしいと要請されているそうだ。
「だから『武闘会で決着をつける』とは言ってこなかったんだな」
「あの方は、なんだかんだで真面目な方ですからね。アレス王家からの要請を無視するような真似はしないでしょう」
自分と戦って勝てと言われるよりハードルは下かもしれないが、それが親切心なのかどうかは微妙なところである。
というか『百獣将軍』の方は自粛要請を無視して参加するつもりなのか。神南さんの配下になったわけだから問題無いのかもしれないが。
その日の晩、夕食の前にお風呂に入る事になり、大浴場でお互いにあった事を報告し合う事になった。
セーラさんが気になるが、彼女はサンドラ達三人と連れだってサウナに入って行った。例の件について話すつもりなのだろう。サウナなので長時間出てこないようなら声を掛ける事にする。
俺は檜風呂でプラエちゃんに抱きかかえられながら、クレナ達から話を聞く。
「えへへ~」
深い場所を使うのはプラエちゃんだけでいつも寂しそうだったから提案してみたが、想像以上に喜ばれたみたいだ。
ぬいぐるみのように抱かれて、彼女の身体にもたれかかっている状態になっている。このふわふわぷるるんな寝心地、天守閣のベッドにも負けていないぞ。
ただ、このままでは小さな子供のように見えてしまいそうなので、俺もラクティを呼んで膝の上に乗せる事にする。後ろはプラエちゃんに身を委ねてたわわな果実に頭を埋め、前はラクティの小さく華奢な身体を抱っこする。うむ、至福の一時だ。
その体勢のままクレナ達に今日あった事を話す。神南さんが魔将『百獣将軍』を連れて訪ねてきた事と、アレス武闘会について。それとユピテルに中花さんがいる事を。
「へぇ、そっちではそんな事があったのねぇ」
「中花さんがユピテルに……」
やはり気になるのは神南さんパーティの事のようだ。中花さんパーティの事も気になるが、こちらは情報が少ないため、気にはなるがそれ以上は話しようがない。
その一方でアレス武闘会に興味を持つ者はいなかった。サンドラあたりは腕試しにとか言い出しそうだったが、「戦いは見世物ではない」というのが彼女の考えのようだ。
向こうでは桶を湯舟代わりにしたデイジィが、神南さん達がいかに怖い顔をしていたかをリウムちゃん達に語って聞かせている。
それはともかく皆の感想は、敵に回らないのであれば良いのではないかとの事だ。
魔王を復活させた件を聞いても敵対しようとはしなかった人であり、自身も魔将を仲間にしている人なので、その点は安心してもいいんじゃないかと思う。
「雪菜の件もあるし、魔族が敵って言われると俺も妥協できないからな」
「冬夜君の場合、そうなりますよね」
いや、『魔犬』や『炎の魔神』との仲もなんだかんだで悪くはないし、『白面鬼』も話が通じる相手だというのもある。そして魔王はクレナの祖父だ。
だからといって聖王家と敵対する気も無い。フランチェリス王女も話が通じる人だし。
そもそも魔王側がユピテルと戦うつもりがないのだから放っておいてもいいだろう。
また経済方面で問題が起きる可能性はあるが、王女を通じて警告は出したので、最低限の事はしたといえる。
という訳で、これからはキュクロプス達の問題に集中してもいいだろう。
「やっぱり、今考えるべきはキュクロプス達の事だな」
そう言うと、プラエちゃんの腕が力を増した。埋まる埋まる、頭が柔らかに埋まる。
彼女にとってはキュクロプス達もグラウピス達も身内だ。やはり心配なのだろう。
しかしその問題を考えるとなると、アレスを拠点にして五百年の魔王軍の協力が欲しいところだが。
「そっちはどうだった? 味噌スイーツは上手くいったか?」
「とりあえず顔出してから言いなさい」
おっと。少し身を起こして聞く体勢になる。
「でミソスイーツなんだけど、美味しいとかは言わなかったけど、三回おかわりしたから気に入ったんじゃないかしら?」
それはよっぽど気に入ったんじゃないだろうか。
「フォーリィの方は?」
「おやつを食べた後、お茶を飲みながら話したみたいです。ユピテルと戦うつもりが無い事については一応納得したみたいですよ」
ロニの説明によると、当初はフォーリィも警戒して信用していなかったようだ。しかし魔王が損得勘定で戦う意味が無いと話し出すと、そういうものなのかと納得したらしい。
「それは経済について理解していたって事?」
「多分、よく分からないけど悪そうな考えをしていて、それで戦わないと言うなら納得できると思ったのではないかと……」
……まぁ、納得してくれたならいいか。
ちなみにコスモスパーティだが、リコットさん達親衛隊は夕方頃に到着したので、そのまま『無限バスルーム』に泊まっていってもらう事になった。
中を見て驚いていたが、王女から五百年前の真相について聞かされたようで、そちらの驚きの方が上回ったようだ。
王女も立ち直ってはいないが、今は彼女達を抑えるのに必死なのだろう。むしろやるべき事がある方が気が紛れるというのもあるかもしれない。
なおコスモスがアレス武闘会に興味を持ったそうだ。王女の苦労が増えるかもしれないが、これについては見守るしかないだろう。ご愁傷様である。
もうひとつ気になっている事があるが、これについても魔王達に聞かなければいけないので、後ほどキュクロプス達の件共々尋ねてみるとしよう。
今やるべき事は、別にある。
「……よし、癒された!」
「トウヤさん、大丈夫ですか?」
ラクティが心配そうに見上げてくるが、その顔を見るだけで更に癒やされそうだ。
「お兄ちゃん、大丈夫? 無理しちゃダメだよ?」
「まぁ、なんとかなるだろ」
雪菜達も不安気に声を掛けてくる。
ここまで皆に心配させる、俺が気合いを入れなければならない事はひとつ。
「魔王達、今日も来てるんだよな?」
「後で風呂にも入れろと言ってました」
「今日は更にコスモス一行もいると」
「人数多いですからね……」
そう、MPを振り絞って今夜ここに来ているお客様全員に振る舞うお米その他を用意する事である。
魔王達のおもてなしは ( ゜ω゜ ) 承ります。




