第134話 遅れてきた勇者たち
「いえ、大した用件ではないんですけどね、はい。私は暇なので言伝を頼まれただけで」
「言伝?」
「ええ、ええ、実はあなた様とコスモス様を訪ねてこられた方が」
「……はい?」
一緒に召喚された五人の内の一人、『聖王の勇者』神南夏輝。
ハデス十六魔将の生き残り『百獣将軍』を倒して以降噂も聞かなかった武闘派勇者が、ここにきて姿を現した。
「……念のために確認するが、殴り込みか?」
「いえ、普通に訪ねてきましたよ?」
魔王達の事を知って攻めてきた訳ではない……のか?
出方が分からない内は『無限バスルーム』に入れない方がいいだろう。中には非戦闘員のキュクロプス達がいる。
しかし、扉を開いたまま遠くに行く事もできない。
「神南さん達は今どこに?」
「すぐそこの部屋にご案内しておりますよ。ほら、そこの」
『炎の魔神』が指差したのは、搬入口を挟んで向かいの一室だった。あれぐらいだったら扉を開けたまま移動できそうだな。そういう事ならば遠慮なく部屋を借りるとしよう。
「神南さんは何人で来たんだ? 二人か?」
彼は仲間候補相手に連戦連勝を続け、唯一自分に勝った老将軍のみを仲間にして旅立った。あれから仲間を増やしていなければ二人のままのはずだ。
「いえいえいえ、三人でございました」
「三人? 神南さんと老将軍と、あと一人は?」
「それがまぁ面白い事に、『百獣将軍』を連れておりました」
「……はい?」
ますます神南さんの目的が分からなくなってきた。
「……ルリトラ」
「お供します」
「こちらはお任せください。門番はルミスを呼んでおきます」
ルリトラもサンドラも話が早い。となると、セーラさんの方はリンか。
相手は召喚されてすぐに戦って仲間を選ぶという発想に至った武闘派だ。向こうが三人ならばこちらももう一人連れていきたい。最悪戦闘になっても大丈夫な人選で。
しかし、春乃さん達は料理中。港に残しているグラウピス達も連れてきていれば腕が立つ者を一人連れて行けたのだが、それは無いものねだりか。
どうしたものかとあたりを見回してみると、ふとある人物のところで目が止まった。
「『炎の魔神』、今暇なんだよな? ついて来てくれ」
「はい?」
あちらが魔将を連れてきているならばこちらは五大魔将だ。
「お前は味方といえるか微妙だが、あっちに正体を知ってるヤツがいれば戦いを避けようとするだろ?」
「身も蓋もありませんなぁ。まぁ、間違ってはおりませんが」
「どうして魔将が向こうにいるか分からないからな。魔王側の事情が分かる人にいてほしいという真面目な理由もある」
「そっち先に言ってください」
その後も色々と言ってきたが、『炎の魔神』はひとまず承諾してくれた。
明らかに面白がっているが、興味を持っている感じなので、自分から壊すような真似はしないだろう。多分。
「お~い、デイジィ~」
「ほ~い、なになに?」
「一緒に来てくれ。それで、向こうで戦いになったらこっちに戻って皆に知らせてくれ」
「怖い事言うな」
更にいざという時の連絡役も確保。まずは話し合いなので、これで問題は無いだろう。
「心配性ですなぁ」
「そこは『慎重』と言いませんか?」
『炎の魔神』とルリトラの会話に、何かあった時のために備えるのは当然だろうと思ったがスルー。『炎の魔神』に声を掛けて案内してもらった。
部屋の前に到着して扉を開けると、芳しい香りが感じられた。アレスでは客を迎える時は香木を焚くそうだ。
中は飾り気の少ない板の間。広さはそれなりで上品なデザインの木製のテーブルと椅子が並べられている。
ここに来る前に教えてもらったが、アレスの建造物は基本的に土か岩なので木製家具の価値が高いらしい。床、壁、天井も然りである。
神南さん達は既に席に着いていた。部屋に入ると三人が立ち上がり迎えてくれる。三人とも体格がよく、部屋が一気に狭くなったように感じられる。
「久しぶりだな、ユピテル以来か」
「ご活躍の噂、聞いています」
神南さんが手を差し出してきたので、こちらも握り返す。
彼は、袖が無く飾り気も無い、丈夫そうな革製の上着を着ていた。剥き出しの腕は日に焼けて、より引き締まったように見える。
元々俺より背が高かった彼だが、しかし以前よりも細くなった印象は無い。それどころか以前よりも迫力が増した気がする。その鋭い目付きは俊敏な肉食獣を思い起こさせた。
俺の肩に腰掛けるデイジィも同じような感想を抱いたようで、「ひっ」と小さい声を漏らして頬にしがみついてきた。
「こうして話すのは初めてじゃな。お主らの事は聞いておる。ワシの名はアキレスじゃ」
「ルリトラです。トウヤ殿のレイバーをしております」
豪快に笑い、ルリトラの肩を叩きながら挨拶している巨漢の老人。この頭がきれいに禿げ上がり白い髭をたくわえた人が例の老将軍だろう。
見た感じ相当な年齢だと思うが、プレートアーマーを軽々と着こなし、重たげな感じを全く抱かせない。身長はルリトラよりわずかに低いくらい。鎧のシルエットの分厚さからして、首から下はゴリラのような肉体が隠れているのではないだろうか。
「……どうして貴様がここにいる?」
「こちらの方とは懇意にさせていただいておりまして」
そして『炎の魔神』相手に唸り声を上げている獅子の亜人。体格はアキレスと互角で立派なタテガミの分、彼の方が高い。彼が魔将『百獣将軍』だろう。
こちらもどうして『百獣将軍』がここにいるのかが気になる。
「ああ、こいつは倒して仲間にした」
神南さんの説明もあっさりとしたものだった。『百獣将軍』を倒したという話は聞いていたが、その後仲間に加えていたようだ。
「脳筋ばっかだな……」
彼等の間に何があったかは分からないが、デイジィの言う通り中身は似た者同士だったのかもしれない。
「どちらも手練れですな」
ルリトラの判断では、大柄な二人は立ち居振る舞いから見てかなりの手練れとの事。
神南さんはそこまででは無さそうなのだが、『暗黒の巨人』のような凄みを感じるのは彼の方らしい。
素の実力差を埋めて余りあるだけの戦闘向けギフトを持っているのだと考えられる。
それにしても筋骨隆々の男が、筋骨隆々の大男二人を引き連れている。なんというか俺やコスモスとは別の意味で物凄いパーティだな。
神南さんは『百獣将軍』を宥め、こちらに着席を促した。
俺の肩から離れないデイジィ以外の皆が席に着いたところで、神南さんが口火を切る。
「ところで、西沢はどうした?」
西沢……? あ、コスモスの本名か。
「王女がショックを受けて寝込んでいて、今はそちらに付きっきりですよ」
「ショック? 何があった?」
「良い機会ですし、お話ししてもよろしいのでは?」
そう勧めてくる『炎の魔神』。面白がっている……だけではないか。
あちらには『百獣将軍』がいるため、ある程度知っている可能性がある。そう考え、こちらで分かった五百年前の真実について伝える事にした。
ああ、すぐに分かる事だろうし、春乃さんがここにいる事も伝えておこう。
「……なるほど、そういう事だったのか」
全て説明し終えるのに少々時間を要したが、聞き終えた神南さんは五百年前の件については何やら納得した様子だった。やはり『百獣将軍』から事情を聞いていたのだろう。
「ユピテル側から攻めたという話は聞いていたが、そういう理由だったんだな」
「ああ、あなたが聞いたのはそれだけでしたか。まぁ、経済の話なんて『百獣将軍』さんに分かる訳ありませんからね、はい」
「貴様……!」
訂正、詳しい事情は聞いていなかったようだ。
ユピテル側から攻めたという話だけは聞いていたようなので、それで何か裏があると察していたのかもしれない。
今にも飛び掛かりそうな『百獣将軍』を、アキレスが押さえている。こちらも「煽るんじゃない」と『炎の魔神』の側頭部にチョップを叩き込んでおいた。
ちなみに魔王復活についても伝えたが、再びユピテルと戦争をする気は無い事も伝えると「やっぱり強そうだったか?」と気にしていた。
個人的に戦ってみたいとか考えているのかもしれない。やるなら他所でやってくれ。ここでやると町そのものが壊れてしまいそうだから。
「アキレスさん、あなたもこちらの話を信じますか?」
「一応、な。そういう事情があってもおかしくはなかろう。特に驚く事ではないよ。重要なのは国を守るための戦争であったかどうかじゃ」
元将軍としては、国を守るための戦いである事が第一、それ以外は二の次という事か。
実際魔王復活について伝えた時は腰を浮かせていたが、戦争する気はないと聞くと興味を失ったようだった。
「こいつら、魔王に任せちゃった方がいいんじゃない?」
デイジィの提案に心が揺れるが、ひとまずそれは置いておく。
ともかく神南さん達は、王女がショックを受けた件についてもそんな話を聞いたならば仕方がないと納得してくれたようだ。
「ですからコスモスをこの場に呼ぶのは……」
「そういう事ならば、言伝を頼む」
神南さんが差し出してきたのは、一枚のチラシだった。一色で刷られたそれには大きくこう書かれていた。『アレス大武闘会』と。
「なにこれ?」
「もうすぐ開催される武闘会だ。せっかく勇者が三人、いや四人だったか、集まったのだから、皆で出てみないか?」
そう言って神南さんは笑みを浮かべる。
「ああ、勇者以外だって構わないぞ。こちらもパーティ全員で出場する」
実に楽しそうな彼の視線はルリトラにも注がれていた。
なるほど、これが今回の訪問の目的か。チラシには装備は自前の物を使っていいと書いてあるので、『魔力喰い』を使えばいいところまでいけそうではあるが。
「優勝賞金はアレス金貨五千枚だ。どうだ?」
おもちゃを前にした子供のように目を輝かせている。本当に楽しそうだ。ユピテルではあまり話せなかったが、こういう人だったのか。
コスモスへの言伝はもちろんのこと、俺の返答も期待しているようだ。
まぁ、これについては悩む程の事では無い。
「武闘会への参加ですが……無理です」
という訳で俺は、ハッキリと断りの返事をした。
今回のタイトルの元ネタは、『緑山高校』のエンディングテーマのタイトルです。




