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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
誘惑の洞窟温泉
132/206

第123話 だんじょん商店街 ~伝説の剣持ってきました~

 通路内に反響する蹄の音をBGMにゲムボリック車は進んでいく。

 時折ガタガタと音を立てる車輪。その揺れを感じながら少し遅れてしまった昼食、おにぎりを頬張っていると、進行方向が明るくなってきた。そろそろ中央エリアのようだ。

 そして地下通路を抜けると……まだ地下だった。

 さっと開け、天井が高くなる。天井の高さは門前町エリアより少し高い程度だが、道の幅が広い。歩道付きの六車線道路ぐらいと言えば通じるだろうか。

 ただ門前町エリアと違ってとにかく明るい。天井に一列に並ぶ明かりが地下空間を照らし、さらに磨き抜かれた鏡のような壁面がそれを反射している。

「あれは地上の光を取り入れてるのか?」

「いや、あれは虹閃石を加工したものでござる。とあるコケから作った塗料を塗ると、ああいう風に光るようになるとか。まぁ、定期的に塗り直さねばならんそうでござるが」

「便利なものがあるんだな~」

「むしろあれが無ければ、地下都市なんて造ってないのでは?」

 俺の肩の上に座るデイジィの言葉を、『魔犬』はさらりと切り返した。それもそうだ。

 天井、床、壁は真っ平らに整えられており、元は土のはずだが鏡のようになっていた。ここまでのエリアも全て魔法で補強されていたが、これほどまでのものは無かった。

 俺自身もMP量には自信があるし、これより堅固な床を作る事もできる。しかし、こんな光を反射する程の滑らかな面は無理だ。おそらく職人的な技術によるものなのだろう。

「こ、これは……」

 隣のクレナも、この光景に絶句している。

 無理もない。今までのエリアはまだ「洞窟の中」と思えたが、ここは極めて人工的な町並みだ。今まで見てきたどの国とも違う。

 しかし、アレスの中央エリアと名乗るに相応しい光景がここにはあった。

「…………」

 しかし、俺はクレナとは別の意味で言葉が無かった。

 春乃さんの方を見てみると、彼女も何か言いたげな顔でこの光景を見ている。

「これ……地下街だよね」

 そして身も蓋もない事を呟いたのは雪菜だった。

 そう、現代の日本を知る俺達には、ここが大きな駅の地下街のように見えた。

「こっちの世界に、こういう町並みがある……という意味ではビックリだな」

「……ですね」

 馴染みのある風景に見えるため、クレナ達のような驚きも感動も無かったのだ。

 ちょっと損したように思えるのは気のせいだろうか。

「というか、中央なのに『恵みの地』じゃなくていいのか?」

 『恵みの地』とは天然洞窟の事だ。地下都市の国アレスでは、人工の洞窟よりも格が高いものとして扱われている。

「中央エリアの中央、王宮はそうでござるよ」

「ああ、人が増えて元々あった洞窟だけでは足りなくなったのですね」

 なるほど、春乃さんの言葉に納得した。拡張するにしても王宮と並ぶに相応しいものをという事で、これだけ整然としたものが造られたのだろう。その結果、中央エリアは現代的にも見える地下街となったのか。

 違いがあるとすれば、両側に並ぶ店にはショーウィンドウが無いという事だろう。

 その代わりに大きな看板や、商品を紹介するポスターが壁を覆っている。ここでは看板とポスターでいかに店頭を飾るかが大事なようだ。

 ゲムボリック車はここまでらしいので、ここからは徒歩で町並みをじっくり見させてもらうとしよう。

 『魔犬』によると『白蘭商会』は、この大通りを王宮に向けて進んだ先にあるそうだ。

 大通りというだけあって人の数は多く、賑やかだ。が、人間の数は少ない。ほとんどいない。一番多いのは、大地の神殿と同じく闇エルフ。リュカオンもいる。しかしギルマンとマーシュ・リザードマンは少ない。港から離れたからだろうか。

 大通りを歩いていると、視線を感じる。『魔犬』が一緒の上、この辺りでは珍しいだろうキュクロプス、注目される理由はいくらでもある。

 しかし一番注目を集めているのはロニだろう。同じリュカオンでも彼女は『光』リュカオン、周りは皆『闇』リュカオンだから仕方がない。居心地が悪そうにしている。

 クレナも気付いたようで、視線から彼女を庇うポジションをキープしている。俺もそれに倣うとしよう。

「それにしても人が多いですな……」

 最後尾のルリトラが言う。子連れの家族、二人連れの若い男女、そして客引きをする店員達。あれを買ってとねだる子供達の声、店員達が威勢のいい声を張り上げる。

 人混みをかき分けて通るほどではないが、それでも歩きづらい。身体の大きいルリトラ達は尚更だろう。

 人混みが苦手なのか、肩に座ったデイジィが顔にしがみついてくる。そうだ、子供は危ない。俺は後ろのキュクロプス達に、子供達がはぐれないよう声を掛けた。

 いや、身長は人間の大人にも負けてないが、中身は子供なので念のためである。

 それにしても先程から南国の果物であろう甘い香りに、焼き立てであろうパンの香り。そして焼けた肉の脂の匂いに鼻孔をくすぐられる。店頭販売をしているようだ。

 逃げ場の無い地下空間でこれは厳しい。おにぎりを食べたばかりだというのに、お腹が減りそうだ。

「今日はお祭り?」

「いや、いつもこんなものでござるよ」

 リウムちゃんの問いにあっけらかんとした顔で答える『魔犬』。今日が特別という訳ではなさそうだ。単に中央エリアが、それだけ賑わっているという事か。


 王宮の入り口だという大きな扉が見えてきたところで『魔犬』は足を止めた。

 右手には大きな『白蘭商会』の看板を扉の上に掲げた店があった。その看板は乳白色の陶製で、文字の周辺を花を象ったレリーフで飾っている。

「お花は売ってないんですね~」

 ここでのお決まりで貼ってあるポスターをラクティと一緒に覗き込む。

 この店は花こそ売ってないものの、武器から食料までなんでも扱っているようだ。

 例によって多数のポスターが貼られているが、なんというかよそと違って統一感というものが無く、乱雑な雰囲気を醸し出している。ここは雑貨屋、でいいのだろうか。

「魔王様の方針なのでござるよ。どんな商品でも、好機と見れば食いついていくと」

「……魔王ってハデスの王よね?」

 感慨深げに言う『魔犬』に、呆れ顔でツっこみを入れるクレナ。

 むしろ、魔王が当時からそういう考え方だったのならば、ここまで逃れた魔王軍の残党が商売を始めたのも納得できるような気もする。

「もう連絡は行ってるんだよな?」

「早便が既に到着しているはずですよ」

 よし、待たせるのも何なので早く入ろう。『魔犬』を促し、彼を先頭にして入店する。

 扉のサイズは、ルリトラでギリギリだな。プラエちゃん達キュクロプスは外で待っていてもらうとして、彼女達だけでは危ないので、サンドラ、リン、ルミスにお願いしよう。

 店内は虹閃石が放つ光のおかげで思いの外明るかった。

 中には一段高いスペースがあり、その上に商品棚が並んでいる。雪菜が「なんか時代劇みたい?」と呟いた。確かに呉服屋っぽいな。

 段は腰掛けるには丁度良いが、上るには一苦労といった高さだ。実際に客らしき数人がその縁に腰掛けて店員と談笑している。なお、どちらも闇エルフだ。

 店の奥から出てきた店員が『魔犬』の姿に気付き、慌てて踵を返し店の奥に駆け込んでいった。客も、応対していた店員達も気付き店内がざわめき始める。

 しかしその騒ぎも一人の人物が現れた途端に収まり、店内は水を打ったようになる。

 店の奥から姿を現したその人物は、一言で言えば「真っ白」であった。

 春乃さんを超えた透き通るような白い肌。クレナよりも色が薄い、白銀のようにきらめく髪は短めで、後ろでまとめられている。こめかみからはその一筋が頬に流れていた。

 見た瞬間、俺は直感する。この人物こそが五大魔将の一人『白面鬼』だと。

 キンギョみたいに仮面を被っているとか、そういう意味じゃなかったんだな。

 雅やかなローブを羽織り幅広の腰帯を巻いた出で立ちは、まるで着物のようだ。実際、着物を意識しているのかも知れない。

 そして足下は足袋だ。おそらくフィークス・ブランド製だと思われる。よく見ると店員達もそうなので、この店は土足禁止なのだろう。

 隣の春乃さんが、耳元で囁いてくる。「女性……ですよね」と。

 元からそうだったのか、闇の勇者召喚で転生する際に変わったのかは分からないが、目の前に立つ『白面鬼』の体形は、春乃さんの言う通り明らかに女性のそれだったのだ。

 彼女の姿を見た客と店員は左右に下がり、俺達と彼女の間に誰もいなくなる。

 俺達の前まで近づいてきた。見目麗しく整った顔立ちだが、冷たい印象は受けない。

 そのまま『白面鬼』は縁に跪き、三つ指をついて頭を下げる。

「『女神の勇者』御一行様、ようこそおいでくださいました」

 滑らかな高い声、やはり『白面鬼』は女性のようだ。

 ゆっくりと顔を上げ、姿勢を正した彼女は、ちらりとクレナに視線を向ける。

「お話は伺っております。そちらの方が……」

 クレナがこちらを見てきたのでコクリと頷いて返すと、彼女は一歩前に出て腰に佩いていた『闇の王子』の剣を鞘に収めたまま手渡した。

 受け取った『白面鬼』は少しだけ鞘から抜き、刀身の根本・はばきに刻まれた五つ木瓜紋を確認。速やかに鞘に収めると、恭しい態度で剣をクレナに返した。

「失礼いたしました。こちらへどうぞ」

 そして立ち上がり、奥へと案内しようとする。

 すると店員が二人掛かりで横に長い台を持ってきた。段の半分ぐらいの高さで、前に置くと丁度階段のようになる。なるほど、上る時はこれを使うのか。

「あ、ちょっと待ってください。店の前に仲間を待たせてあるんです。キュクロプスの」

「それは……扉を通れませんね。裏に回ってもらいましょう。店のものに案内させます」

「ルリトラ、頼めるか?」

「承知しました」

 そちらはルリトラに任せて、俺達は靴を脱いで段を上がった。それを見た『白面鬼』が「やはり、慣れているのですね……」と呟く。

 そのまま彼女に案内されて奥へと入っていく。廊下は店と比べて薄暗いが、足下が見えない程ではない。

 少し進むと、開けた場所に出た。『白面鬼』によるとここは搬入口であり、朝早い時間は荷物を搬入するゲムボリック車でごった返す場所なのだそうだ。よく見ると奥の壁に大きな扉が並んでいる。『魔犬』によると倉庫につながる扉だそうだ。

 今は荷物の搬入も無く空いているので、プラエちゃん達はここに案内するらしい。

「『魔犬』……」

「なんでござるか?」

「最初からこっちに案内してくれ」

「……おぉぅ!」

 ポンと手を打つ『魔犬』、どうやら気付いていなかったようだ。

 このやり取りを見ていた『白面鬼』は、歩みを止めて振り返り、どこか呆れた様子で問い掛けてくる。

「『魔犬』殿は捕虜になったと聞いていましたが……随分と馴染んでいますね」

「アレスに来るまで、おとなしいものでしたからね」

「なるほど……ならば、解放していただけますか? こちらも身代金を、そちらの言い値で支払う用意はありますが」

「身代金、ですか……」

 なんというか今更の話だ。

 というか、アレスに到着したので昨夜の時点で解放しようとしたのに、自分から『無限バスルーム』に戻ってきたんだよな、『魔犬』は。

 ふと彼の方を見ると、捨て犬のような目でこちらを見ていた。罪悪感を刺激しようとするんじゃない。そんなに気に入ったのか、『無限バスルーム』が。いや、米と味噌が。

 こうなったら仕方がない。

「本人と話し合ってください」

 俺は『白面鬼』の方に向き直り、真っ直ぐに彼女を見据えてこう言った。

 案の定というか一瞬呆気にとられた顔をした彼女は、不思議な顔をして交互に俺と『魔犬』の顔を見ていた。

 今回のタイトルの元ネタは、PSで発売されたRPG『だんじょん商店会 ~伝説の剣はじめました~』です。


 伝説の剣は、クレナの『闇の王子』の剣の事です。

 ソトバの剣は、元々剣じゃないので対象外です。

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