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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
誘惑の洞窟温泉
131/206

第122話 魔王軍今昔物語

 夢の中で混沌の女神と出会った翌朝、二人で朝風呂につかりながら、ラクティに昨夜の夢についてもう少し聞いてみる事にする。

「……つまり、混沌の女神の祝福自体は特別なものではないのか?」

「はい、お母様の祝福は私達も含めた皆が持ってます」

 俺の膝の上を独占できて嬉しいのか、ご満悦な顔をしたラクティの説明をまとめると、混沌の女神の祝福は女神姉妹も含めてこの世界の全ての生きものが授かっているそうだ。ただし、それに気付くものはほとんどいないらしい。

「どうして俺は気付けたんだ?」

「トウヤさんの場合は、私達全員の祝福を揃えたからだと思います」

 ケレスで大地の女神の祝福を授かる際に言われた事だが、二柱以上の祝福を授かるには一定以上のMPなどの素養が必要だ。

 つまり、六柱全ての祝福を授かるとなると、それ相応――おそらく桁外れの――のMPが必要となる訳だ。

 初代聖王の仲間だった聖ピラカも五柱までだったそうだし、おそらく六柱の祝福を揃えた者は俺が史上初だろう。

 俺の場合は光の勇者召喚で祝福を授かった事により成長が早く、『無限バスルーム』でMPを日常的に消費し続けてきた。

 そういえばギフトが増える事で消費は倍々に増えていたが、ギフトを使うためのMPで困った事は無いんだよな。消費が増える事で成長も加速する。自覚してなかったが、それだけ成長していたという事か。

 逆にいえば、ここまで成長していなかったら祝福の儀式が失敗していた可能性もあるんだな。上手くいって良かった。向こうは『女神の勇者』だからって事で気にしていなかったみたいだけど。

「じゃあ、俺以外にも気付いたヤツはいるのか? あ、もちろんラクティ達以外で」

「ドラゴンさん達ですね」

 なんと俺は、ドラゴンと一緒らしい。

 よくよく考えてみれば、ドラゴンというのは種族ではなく「周囲の環境に影響を及ぼす力を持った強大なモンスターの総称」だ。

 そういえば俺、影響を及ぼしているわ。『無限バスルーム』の中に。

 いや、この空間が混沌の女神の祝福によって生まれた小さな世界だとすれば、その中の一部でしかないこの名前は正しくないのだが、この世界の名前が分からないのでこのまま呼ぶ事にする。

「……俺、ドラゴンみたいに強くなったとは思えないんだけど」

「自分の世界を持ってるドラゴンさんっていませんからね?」

 単純な強弱ではないという事か。

 まぁ確かに、カバドラゴンはともかく、花ドラゴンはそこまで強そうではなかったな。

「この話、皆には?」

「喋っても構いませんよ、別に隠してる訳でもないですし」

 なお、ラクティ達が今まで話さなかったのは、混沌の女神から止められていたからとの事。俺が思い出すまで教えてはならないと言われていたらしい。

 要するに試されていたんだろうな。俺が自力でここまでたどり着くかを。

 だとすれば昨日の夢は、お眼鏡にかなったという事だろうか。

「あ、それからもうひとつ。トウヤさんは、私達家族の中に入ってきた一番新しい人という事になります。つまり……」

「つまり?」

「私の方がお姉ちゃんなんですよっ!」

 ラクティはザバッと勢い良く立ち上がり、エヘンと胸を張った。

 得意気な様子が愛らしかったので頭を撫でた。

 嬉しそうに目を細めていたラクティだったが、ハッと我に返りもう一度「お姉ちゃんですよっ!」と宣言した。

 やっぱり愛らしかったので抱きしめた。なんとも愛くるしいお姉ちゃんである。


 朝風呂を終えて上がる頃には皆も起きていた。朝食の準備が始まっていたので、俺達もエプロンを着けて参加した。

 丁度『魔犬』がいないので、ルリトラを呼んで混沌の女神の件について話す。

「……にわかに信じがたいわね。いや、トウヤがそういう嘘つくとは思わないけど」

 やはり皆、簡単に信じられないようだ。

「話を聞くと、そういうものなんだろうなって思いますけど」

 そう言って納得しているのは春乃さん。実のところ、俺も同意見だ。

 だが、この世界の人達にとっては、そうはいかない。クレナによるとこの世界は六柱の女神姉妹によって生み出されたと考えられているようで、世界を生み出した女神は別に存在し、それが女神姉妹の生みの親でもあるなど考えた事も無かったそうだ。

「人間以外の所には、また別の創世神話が伝わっていたりするか?」

「いや、そういうのはありませんな」

 そういうものは大体神殿の専売特許らしく、ルリトラにいたっては創世神話そのものを知らなかった。まぁ、確かに簡単に布教に行ける場所じゃないよな。彼等トラノオ族が住んでいる『空白地帯』は。

 なお、混沌の女神が忘れられた件については、神殿に責任は全く無いとの事。というのも混沌の女神が忘れられたのは神殿が誕生するより遥か昔の事なのだそうだ。

「……セーラさん、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です。光の女神様が否定された訳ではありませんし」

 なお、一番ショックが大きかったのはやはり神官であるセーラさんだったようだ。

 光の女神信仰は、「光の女神は長姉で姉妹のトップ」だと考えているところがある。更に上の存在として母親がいるというのは衝撃的なのだろう。

 女神の上下関係についてはさほど気にしていないだろうセーラさんでもこれなのだ。相手によっては大変な事になる可能性も考えられる。

「すごーい! 風の女神さまにはお母さんがいたんだねーっ!」

 プラエちゃんはまったくショックを受けていないようだが、多分彼女は例外である。

 うん、この話はあまり大っぴらにはしない方がいいな。『魔犬』も含めて秘密にしておこうと確認してこの話を終えた。


 そして朝食が終わり、準備が済めば出発となるのだが、神殿長が全員分のゲムボリック車を用意してくれた。一台に大人は二人乗るのがやっとのキュクロプス達の分も合わせてだ。それを使えば今日の午後には中央のエリアに着く事ができるらしい。

 また、神殿長が早ゲムボリック便を出そうと提案してきた。客車を曳かない分早く中央に着けるので、先に魔王軍に手紙を届けておいてくれるとの事だ。

 確かに誤解で戦闘になってはいけない。『魔犬』が書いた手紙を、確認してから送ってもらう事にした。

 お昼はゲムボリック車に乗ったままになりそうなので、お弁当を用意してから出発だ。

「にぎり飯を! にぎり飯を所望いたすっ!!」

 しっぽをブンブンと振った『魔犬』の提案により、お弁当はおにぎりになる。軽く食べるには丁度いい。お茶も用意しておこう。

 という訳で、分散して馬車に乗り、中央エリアに向けて出発する。

 俺は先頭のゲムボリック車だ。同乗しているのは『魔犬』、クレナ、春乃さん、ルリトラ、デイジィだ。ルリトラが二人分の席を使い、デイジィは俺の肩に座っている。

 時間が掛かるので、道中はどんな話題をと考えていると、真っ先に喋りだしたのは『魔犬』だった。

「そういえばルリトラ殿は、アレスの出身なのですかな?」

「いや、自分は『空白地帯』の生まれだ。祖先はこの辺りに住んでいたと聞いているが」

「なんと、『空白地帯』ですか……」

 その名を聞いて感慨深げな『魔犬』、彼等にとってはかつての故郷か。

 彼によると、アレスにはサンド・リザードマンが住んでいるらしい。主に地上に。

 よし、せっかくなので『魔犬』に色々と聞くとしよう。

 中央エリアに到着すれば、いよいよ魔王軍の残党と対面する事になるのだ。できる限り情報を集めておきたい。

「そういえば、アレスは王国だったよな? 魔王軍は王家と関係があるのか?」

 まずは気になっていた事からだ。アレス王家と魔王軍は今も協力関係にあるのか。

「関係、とは?」

「実は裏で操ってるとか」

「冬夜殿は、魔王軍を何だと……」

「キンギョの古巣。あと『炎の魔神』は現役か?」

「そこを突かれると困るでござるなー!」

 どちらもロクでもないからな。

 ともかく、クレナ達も興味深げにこちらを見ているので、このまま追及していく。

「で、実際のところはどうなんだ?」

「関係はあるでござるよ。我々がアレスにいる事は、王家も知っているでござる」

「匿われてるのか?」

「そこまで一方的ではござらんな。アレスは貧しい国ゆえ、我々はアレス王家に協力しているでござるよ」

 なるほど、五百年前の初代聖王と魔王が戦っていた頃、アレスが最後までハデスの味方をしていたのは、その辺りが理由か。

 昨夜、二の丸の屋内露天風呂で地上の様子を見てみたが、お世辞にも豊かな大地とはいえない荒野が広がっていた。

 この国にとってハデスとの交易がどれほど重要だったのかは想像に難くない。

 アレスが落ち延びてきた魔王軍を受け容れたのは、その辺りの付き合いも関係しているのではないだろうか。

 魔王軍は今もアレスに協力しているという。相応の利益をもたらしているとすれば、アレス王家が今も彼等を匿っているのも理解できるというものである。

「協力って具体的には?」

「色々でござるよ。というか、ここまで来たからには教えておかねばならぬのですが……今の我々は『魔王軍』ではござらん!」

「……は? それは、どういう……」

 戸惑う俺の態度に、『魔犬』はもったいぶった態度で答える。

「そう! 今の我々は……『魔王商会』! アレス随一の大商人にして、アレスの暮らしを支える王国の柱石でござるよ!!」

 ちょっと待て、それでいいのか元魔王軍。

 いや、確かに「魔王軍」が水の都に交易を申し込みに来るよりかは納得できるけど。

 詳しい話を聞いてみたところ、元々商会はアレスに潜伏するための隠れ蓑として始めた事だったそうだ。

 しかし、魔王のやり方を真似てやっている内に商売が軌道に乗り、魔王が復活する日までこのまま続けていればいいんじゃないかという話になったとか。

 ふと魔王軍が魔王復活派と新魔王派に分裂した原因は、実はその辺りにあるんじゃないだろうかと思ったが、それは置いておく。

 色々と言いたい事はあるが、とにもかくにも、まず第一にツっこむべき事がある。

「お前達……ホントに『魔王商会』って名乗ってるんじゃないだろうな?」

 すると『魔犬』は、すっと視線を逸らした。

「名乗ってたのか!? 潜伏してるのに堂々と名乗ってたのか!?」

「昔の話でござるよ、昔の! 一度見つかりかけてから変えたでござる!!」

 説明によると、逃げてきたハデス商人という名目で当初はそう名乗っていたらしい。散り散りになった魔王軍の残党が集結するための目印でもあったそうだ。

 ハデス滅亡後のアレスは、水の女神信仰が盛んだった頃のネプトゥヌスとしか交流が無かったらしいので、聖王勢力には見つからないだろうという打算もあったと思われる。

 しかし、三百年前辺りの光の女神信仰の勢力拡大により魔王商会は彼等に目をつけられてしまい、追及を逃れるために名前を変える事になったそうだ。

「それで、今は何と名乗ってるんだ?」

「ああ、今は白蘭……『白蘭商会』と名乗っているでござるよ」

 打って変わってまともそうな名前が来たな。

 元魔王軍の商会、『白蘭商会』か。『魔犬』によると『白面鬼』が代表を務めているらしい。それで白蘭なのか。

 クレナの事は別にして、彼等は今も魔王復活を目指しているという。さて、こちらはどういうスタンスで接すればいいのか。

 『魔犬』を見る限りは、わざわざ敵対する必要は無さそうだが、はたして魔王が絡んでもそれは通じるのか。

 この件については皆とも話した方が良さそうだ。一路中央エリアを目指して進むゲムボリック車に揺られながら、俺はクレナと春乃さんに声を掛けた。

魔王と『五大魔将』+1の正体については、「分かる人には分かるネタ」という事で。

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[一言] 白面鬼は森蘭丸ですかね。
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