Blade:24
バイトでなかなか書く時間がないです(泣)
なんだか最近は担い手ではない小説ネタが浮かんでは消えて行く………。
やっぱり自分の妄想を字にするのは難しいですね(;^_^A
ギルドまで戻ってきた俺は、受付のカウンターにオークの耳が入った袋を提出した。その受付嬢さんはリリアを連れて帰ってきた俺を訝しげな表情で見たが、特にそれに対して突っ込むようなことは無かった。
元々ギルド通いの奴というのは色々事情があったり、特殊な人間が多いので、身分さえ証明出来ればギルド側からは何も詮索はしないということになっているのだ。
そんな緩いシステムでいいのかと思うところもあるが、依頼を受ける側の俺としてはいちいち説明しなくて済むのでとても助かっている。
「確認しました。報酬の7000Gです」
「あっ、どうもお疲れ様です~」
カウンターに出された報酬金を受け取り、早々とギルドを出る俺。リリアは気付いていなかったらしいが、ギルド内の人間の目は小さな子供を連れている俺へと向かっていた。
ゴツイおっさんたちが睨むようにジッと俺を見ており、その視線にいたたまれなくなった俺はこうしてさっさと外へと出たのだ。
しかし、視線から逃れる為に外に出たのは愚策だったのかもしれない。
先ほど述べた通りギルド内では注目を浴びることはあっても、あれこれ詮索されることは無いのだが、ギルドの外に出てしまうと話は変わる。
「おい、あのカイルが子供を連れているぞ!」
「なにぃ!?女ならなんでもいいのか、あいつは!?」
「鬼畜だー!誘拐だー!」
「そんな!カイル君がロリコンだったなんて……」
「ついにあいつも犯罪者の仲間入りに……」
「いつかやると思ってたよ、俺は」
「ツケ払えー!!」
「カイル君、君も我が同志だったのか……歓迎するぞ!!」
幼いリリアを連れて歩いている俺を見て、街の住人たちの間で様々な憶測が飛び交い、見る見るうちに真実は違った形に歪められ伝わっていく。
何故こうもこの街の住人は俺を犯罪者にしたがるんだ?どこからどう見ても俺は完璧な紳士だというのに……。
「ふっ。人気者は辛いぜ」
意味もなく気取ってみる。
そんな俺の態度に住民たちからの視線がさらに冷たくなるのを感じた。
おかしいな?こうすれば少しは和らぐはずだったのだが……。
「おなかへった……」
そこでくぅ、と可愛らしい鳴き声がリリアの腹部から鳴った。確かに時刻は昼時を過ぎており、さらに馬車の中に拘束された状態で収監されていた彼女はロクなものを与えられて無かったのだろう。未だにリリアの腹は可愛らしくも自己主張していた。
「そうだな。俺も腹減ったし、ちょっと急ぐか」
ジロジロ見てくる野次馬の男にはガンを飛ばし、女性には笑顔を振りまきながら大通りを突き進む。
どこか洒落た喫茶店で一服といきたいところだったが、こうも注目されるとそういう店にも入りづらい。
仕方ない、ここはあいつのところに行くか。
そう思った俺は途中で進路を変えて裏通りに入った。
傍目から見ると裏路地に幼女を連れ込む不審者にしか見えないだろうが、そのことに気付かないまま俺はズンズンと裏通りを進んで、目的地である一軒の店のドアを勢いよく開いた。
「いらっしゃーーってなんだ、カイルか」
店に入ってきた俺を見て、ボサボサの黒い髪を掻きながら俺とさほど年の変わらない少年が出て来た。
こいつの名前はジルディオ=ベルヴォルト。苗字から分かった人も居ると思うがアインの実の兄である。妹のアインが鍛冶屋であるのに対して兄のジルは料理人としてこの店、『アルカディア』を経営している。
普通は兄と妹が反対なのだが、ジルよりも鍛冶屋としてアインの方が優れていたため、鍛冶屋はアインが継ぎ、ジルは自分の好きな料理の仕事をしているのだ。
「ちぇっ、客かと思って損した」
「紳士世界代表の俺が来たというのにその反応はどうなんだ、ジル?」
「お前のそーいうのが鬱陶しいんだよ。今日は何だ?またシェオルさんに家から追い出されたのか?」
うむむ、中々鋭いではないかジルよ。さすがは俺の親友だ。
「親友だ、じゃねーよ。毎回家を追い出されては人の店に突撃してきやがって……。何様のつもりだお前は!?」
「勝手に人の心を読むな。それに金は毎回きちんと払っているだろ。フフン、感謝しな」
「メシ食ったんだから金を払うのは当たり前だろ!」
ぜーはー、と息を切らすジル。少し言い合いをしただけで息があがっているなんて、相変わらず体力は無いんだな。
「ーーーところで、その子供は何だ?」
ジルが俺の陰に隠れているリリアを指して言う。おお、そういや話してなかったな。でも一から説明するのも面倒なので簡略にして伝える。
「この子の名前はリリア。今日、俺が森の中で拾ってきた」
「あのな……。誘拐は犯罪だぞ、カイル」
呆れたような顔でジルが言う。
どうやら先ほどの説明では不十分だったらしく、ジルは俺がリリアを誘拐してきたのだと思ったらしい。
まったく、俺のような紳士を捕まえて誘拐犯だなんて失礼にもほどがある。
だが、俺は心が広い。なので俺を誘拐犯扱いしたことは許そう。
頭が弱いジルでは俺の崇高な説明を理解出来なかったのだ。
「なぜだろう。凄いバカにされてる気がする」
やけに直感だけは鋭いバカは無視して、カウンターに取り付けられた椅子に座る。そんな俺に倣ってリリアもちょこんと可愛らしく椅子に腰掛けた。
「おい、バカ。俺とリリアにアップルパイを一つずつだ。こっちは腹が減ってるんだ、マッハで作れよ」
「(こくこく)」
「はぁ!?ちょ、ふざけ「あぁ!?」……ああ、分かったよ。作ればいいんだろ、作れば!」
暴君のような俺の態度に異を唱えようと立ち上がったジルだったが、俺が少し凄むとたじろき、やがて肩を落とし諦めたように厨房の中へと消えていった。
てか、俺の暴言に何気にリリアも頷いていたことに少しびっくりした。
「アップルパイ、楽しみ」
「ん?リリアはアップルパイが好きなのか?」
「……食べたことないから分かんない」
「食べたことない?」
今どきの子供にしては珍しいな……と感想を漏らしたところで俺は彼女がどういう状況で捕まっていたのかを思い出した。
ただの奴隷では説明のつかない厳重な拘束具に縛られていたリリア。
そこから察するに彼女のこれまでの人生が少なくとも良いものでは無かったということが想像出来る。
少し、訳を聞くのに躊躇いが生じる。
俺がこの話を切り出すことでリリアを傷つけてしまうかもしれないという考えが俺の口を鈍らせた。
そこからリリアとの会話は無く、厨房の方から漂う甘酸っぱい香りだけがその場を支配していた。
その匂いを嗅いだリリアの表情にまだ見ぬ料理に対しての期待が反映される。とても話を切り出せる雰囲気では無かった。
「お待ちどうさん、アップルパイ二つ」
テーブルに置かれる出来たてのパイを目にリリアの瞳が輝く。ここにきて初めてリリアの表情が変わるところを見たかもしれない。
是非とも彼女に期待に添えるような美味いアップルパイであって欲しいとこっそり胸の中で願う。
まあ、ジルはバカではあるが料理の腕は自分の店を出すくらいあるので、少なくとも不味いってことは無い筈だ。
もし万が一不味かったら、リリアの期待を裏切ったとしてジルを八つ裂きにしてやる。
「ーーッ!?じ、じゃあ俺、洗い物して来るから食い終わったら呼んでくれ」
料理を出すとジルは逃げるように厨房へと戻っていった。
俺から放たれた微弱な殺気を感じたのだろうか?本当に勘……というより危機察知能力だけは鋭いやつだ。前世は肉食動物から逃げ惑う草食動物かなにかだったのだろう。
と、そんなことを考えているとリリアに服の裾を軽く引っ張られた。ジッと俺を見るその様子から「早く食べよう」と催促されているのだと理解する。先に食べ始めることなく、俺のことを待っていたリリアのその律儀なところが可愛いと思った。
「悪い悪い。じゃあ冷めないうちにいただくとするか」
「うん」
いただきます、と挨拶をして二人同時にアップルパイに手を付ける。
出来たてで熱いのでリリアが火傷をしないか少し心配だったものの、自分でアップルパイを小さく切り分けて口に入れている様子を見る限り大丈夫そうだ。
「どうだ?おいしいか?」
「うん。こんなにおいしいのはじめて」
感想を聞くとなかなかの高評価だった。
どうやらアップルパイを気に入ったらしい。はふはふしながらパイを口にするリリアの姿は見ていて和む。
出されたアップルパイよりもリリアの満足そうな顔の方が俺にはご馳走だった。
女の子の喜ぶ顔こそが俺の生きる源なのだ。
*
ちょっと遅い昼食も食べ終わり、店の中で食後あの気怠い時間を過ごす。
「アップルパイ、おいしかった」
「それは良かった。たまにはジルも役に立つことがあるんだな」
今、俺たちが使った食器を片付けるために厨房で洗い物をしている親友モドキに一言感想を漏らす。
すると厨房から「それはどういう意味だー!」と返事が返ってきた。つくづく悪口には敏感な男だ。
「………何も聞かないの?」
「うん?聞くって何を?」
「わたしが何で捕まっていたのか」
「………」
まるで俺の心の中を見透かすように見つめるリリア。
彼女の表情はアップルパイを食べていた時の満面の笑みとは打って変わって険しく、そして体は震えていた。
「……わたし、実はーーー」
「言わなくていいよ」
語り出したリリアに割り込んで話を無理矢理やめさせる。
その瞬間、微妙な変化があったもののずっと無表情がデフォだったリリアの表情に明らかな戸惑いの表情が浮かんだ。
「ど、どうして……?」
「お前、泣いているじゃないか」
「ーーーッ!?」
リリアは俺に言われて気づいたのか、床に零れ落ちた雫を見て驚きの表情を浮かべる。
そんな彼女に構うことなく俺は言葉を続けた。
「言いたくないなら言わなくていい。どんな事情があったとしてもリリアはリリアだ。だから……言わなくていい」
リリアに言うというよりは自分に言い聞かせているように囁く。
結局、リリアにどんな事情があっても俺のすることは変わらない。
可愛い女の子を守るのが紳士たる俺の役目だ。
「ほら、泣くなって。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」
指でリリアの瞳から溢れ出る涙を拭う。
元から赤かった瞳は更に充血してその色が濃くなる。
俺はそんなリリアを抱き寄せて膝の上に乗せたあと、あやすように優しく背中を撫でてやった。
触れた時にリリアの体がビクッと震えたが、よしよしと撫でていると直にその震えも収まった。
「ハハッ、こうしていると妹が出来たみたいだな。いっその事、俺の妹になるか?」
「妹……家族?」
「俺じゃ、ダメかな?」
「そ、そんなことない!……でもわたし、迷惑かける」
「迷惑を掛け合うのが家族だろ?幾らでも俺に迷惑をかけてくれよ、俺もそれに負けないくらいリリアを頼るから」
「でも……」
言葉尻を濁したまま、リリアは俯いてしまった。
うーん、イマイチ煮え切らないな。
仕方ない。少し強引な気もするがここは強行突破だ。
すかさず俺は両腕でリリアをがっちりホールドする。
いきなりのことで混乱はしてはいるものの、リリアからの抵抗はなく、小さい体がスッポリと腕の中に収まる。
前世だったら一発で刑務所行きな絵面だ。
「あぅ……?」
「子供なんだから難しいことなんて考えずに素直に頼ればいいんだよ。どんなワガママだろうとこの超絶紳士のカイル様が叶えてやる」
今のリリアに必要なのは側にいてくれる人間だ。
本来ならまだ親という存在が必要な年齢なはずなのに彼女にはそれがいない。
彼女の歳で孤独というのは想像を絶する辛さだろう。
精神年齢的には三十路いきそうな俺でも親父との死別というのはかなり堪えた。
俺でも辛かったことなのだ。幼いリリアが負った傷はとても深いものなはずだし、その上奴隷……もしくはそれ以上に酷い扱いを受けてきたリリアの心はもう修復出来ないくらい傷だらけなのかもしれない。
でも、
たとえ修復出来ないとしても、
彼女を救いたいと思うことは悪いことではないはずだ。
「……いいの?わたし、ずっとカイルさんに甘えちゃうよ?」
「好きなだけ甘えればいいさ。『家族』はそういうものだろ?」
「……ひっく、うわあああああん!!」
感極まったリリアが声をあげて泣き始める。
まるで心に溜まっていた蟠りを洗い流すかのようにただ涙が溢れ、彼女の頬を伝った。
この小さい体がどれほどの悲しみを経験してきたのか俺にはわからない。
どんなに辛いことがあったのだとしても、それが吹き飛ぶほどの幸せを教えてやる。
俺はあやすようにリリアの背中を優しく撫でていた。




