麦秋老と赤き腹巻
あらすじ 事務官長は下痢ピー そして茶番劇
茶会で決まった結論を元に王室会議を開く事になる。
その糾弾の場に現れるは麦秋老、有象無象の前にして心なしか青ざめた顔をしているが毅然として場を睨み付ける。
王室に楯突く田舎貴族がとか悪逆の徒めとか罵詈雑言が飛んでいく。
私はこの腐れ貴族共に嫌悪感を隠せない。そして言葉を発する。
「黙れ、能無しども!どうして麦秋老が兵を率いて王都まで行かねばならなかったのか知ってその口をたたくのか?」
「知ろうと知るまいと反逆は悪だ!」
「そうか?では貴殿は家之子郎党が無体にさらされても忠義として受け入れるというのだな?」
「・・・・・・・・・・・・・うむ。」
「その間は何だ!悩まず忠義をすればよかろうに。そういえば貴殿の娘は可愛い盛りだな、王兄殿下に差し出して忠義としたら如何だ?」
「そ、それは・・・・・・・・・・・・」
「それが答えだ!」
喧喧轟々、煩型があーでもないこーでもないと騒ぎ立てる。
麦秋老は一言も発さずに場を眺めている。
そうこうしていると宰相閣下を伴い国王陛下が入場する。
「静まれ!」
先触れの護衛官が鑓矛を床に打ち付けると床の破片と共に大音響がする。
静まり返った貴族諸氏、其処に宰相閣下が声を上げる。
「貴公等も存じ上げて居ろうが王妃の無体から逃げ出した王妃付事務官長を救出せんと麦秋伯と辺境貴族連合の件について話し合おう。」
「王妃の無体とは何か?」「どうせ仕事から逃げ出したのだろう?」「下級官吏くらい幾らでも替えがいるのに馬鹿なことだ!」
ピキピキ・・・・・・・・・私の米神から青筋が浮き出るのが良く判る。
この腐れ貴族共が・・・・・・・・・
私が怒鳴り声を上げようとした矢先、
「静まれ!わしからこの件について説明しよう。」
宰相が淡々と説明する。
王妃の謹慎からその後の勤務態度、故に起こった政府機能の停滞・・・・・・・・・・寡兵で立ち向かう王妃付事務官達・・・・・・・・
それを諌めぼろきれのようになった事務官達と辛くも逃げ延びた事務官長。故郷に落ち延びた事務官長を襲う追っ手・・・・・・・・彼もまた今だ癒えぬ傷を負っていること・・・・・・・・・・(正確には二日酔いと麦秋老の打撃による)
貴族達も黙る・・・・・・・・・
「この件については事務官長を不問とし王妃については公的行事以外は無期限謹慎とする。」
どよめく貴族共・・・・・・・
「そして、麦秋老に関しては王室に対する反乱として死罪!以下辺境貴族連合所属のものに対しては一家あたり金貨3枚の罰金。但し、麦秋老に関しては以前の功に免じて罪を減じ家名断絶とする。」
更にどよめきを増す貴族。
本人の死罪より家名断絶という処分はその家の名誉をない物とする。家名第一の貴族としては酷すぎる刑罰であろう。
家名断絶で笑うのは守護辺境伯家くらいな者であろう。
「ありがとう御座います陛下とは申しあげません。そもそも、陛下が王妃様を御していればこのような事態に陥らないものでしょうから・・・・・・・ 何故に民草を蔑ろにする者に権力をお与えになったのか聞きたいものであります?そして諸兄等に問いたいですな、どうして誰もいさめなかったのかと・・・・・・・・」
ばたり・・・・・・・・・麦秋老が倒れる。足元には赤い水溜り・・・・・・・・・・・
この糞爺影腹を切ってやがった!!
青白い顔だと思っていたが緊張ではなく失血だったのか・・・・・・・・・・
「早く医者を呼べ!!」「良いではないか反逆者くらい!!ぐえっ!!」
「とりあえず止血を・・・・・・・・」
暴言を吐いたのは私が殴り飛ばして麦秋老を助け起こす。
息も絶え絶えで意地を張っている糞爺は
「願わくば・・・・・・・・・・・無体に泣・・・・・・くものなき施・・・・・政を・・・・・・・・・・」
顔色を失う国王陛下に宰相・・・・・・・・・・立ち込める血の匂い・・・・・・・・・・
そばに駆け寄る庭園公・・・・・・・・・
「どいてください!」
庭園公に連なる血族の得意技である癒しの術。その光が庭園公の腹部から命の迸りを押し止める・・・・・・・・・・・
せめて無事でいてくれ。
一時的処置を終えた庭園公は麦秋老を連れて庭園に引き篭もる・・・・・・・・・・・・
誰かが声を上げる
「麦秋老の功績と今の影腹に免じて刑を軽減できぬのか?」
「いや、ただの嫌がらせだろう!放置しておけ!」
「あの功臣がここまで行うにはそれなりの理由があってしかるべきだ。その理由から言っても罪に問うのがおかしい・・・・・・」
喧喧轟々・・・・・・・・・
一時を越える激論の末、本人の引退及び貴族籍剥奪。家名は娘婿に継がせる事を条件に存続許可に収まる。
麦秋老の娘婿か・・・・・・・・押しが弱いが堅実で麦秋老とは違うが領民思いの良い領主になるな。
ここには居ない麦秋老の娘婿の事を思い出す。
数日後・・・・・
麦秋老は一命を取り留める。腹部の傷がふさがりきっていないが庭園公曰く
「馬鹿の治療は此処までですわ。後はつける薬がないからご自分でなさって。」
と辛辣な事を言う・・・・・・
腕はいいのだが言葉がきつい・・・・・・・・おまけに腐っているし・・・・・・・
「最後のは関係ないでしょ!」
腐った者に言われたくない・・・・・・・・
面会を許可されて麦秋老と話す。
「糞爺、議場の床の清掃が大変だったぞ!!」
「ふんっ!そんなことを言いにきたわけではないだろう用件を話せ。」
「家名だけは残ったぞ、爺お前は平民に格下げだ!」
「・・・・・・・・・・・・そうか・・・・・・」
自分が生き残っていることにいまだ実感が持てずにいる糞爺に問いかける?
「麦秋老、これからのことを決めているのか?」
「否、娘の元に厄介になって孫と遊んで過ごそうと思っていたが・・・・・・・」
「老みたいな頑固者は鬱陶しがられるぞ。それよりも孤児院で教鞭でもとらないか?今、王室向けの官僚を育成しているのだが教えることが出来るのが少なくてな・・・・・・・・・・・」
「そんな魂胆か、ワシの教えは厳しいぞ。餓鬼が逃げ出さねばよいがな(苦笑」
「なぁに、私の弟子達はそんなにやわではありませんよ(邪笑」
そのとき孤児院で勉学に勤しむ孤児達に悪寒が走ったというのは笑い話。
通いの子供達はそんな予感を知らず一時の平穏を楽しんでいた。
貴族の子息連中は逃げ出すだろうな(邪笑
その頃の麦秋領城館。
麦秋老の娘夫婦は身支度を整え掃除をしっかりとさせ使用人や配下の兵達に暇を出す。
麦秋老が兵を挙げたときから夫婦で決めた事だ。
多分反逆ととられて麦秋領は接収されるだろう。その後、領民たちがどんな無体をされるかわからないがそれに抗おうと・・・・・・・・
弱腰な娘婿にしては似合わぬ決断だ。其処には弱気な婿養子の顔ではなく覚悟を決めた男の姿があった。
それに感化されたかは知らないが暇を出された兵達や使用人の中には家族ごと手弁当ではせ参じる者がいる。
「馬鹿者共が!!これは麦秋伯家の戦い、関わらなければ何事もないのに!」
「水臭い事はなしですよ若旦那、大旦那には世話になっているし嫁にはけつをたたかれておらが行かなければあたすがいくとばかりに包丁持ってはせ参じる始末でしょう・・・・・・・・・・」
「御屋形様の喧嘩ですからねぇ・・・・・・あの爺様、抜けているところあるからあっしらが整えてあげないと気の抜けたものになってしまうでしょうし(笑」
「ちげぇねぇ。」
集まった領民その他数百・・・・・・・・その中には事務官長の妻子がいる。
「私達親子のために立ち上がっているのにのうのうとしてられません。」
事務官長の妻の手には似合わぬ剣が握られている。
「愛しきお馬鹿さんたち・・・・・・・・・・この一線は勝ちを拾えるとは思えませんが意地を見せますわよ!」
麦秋老の娘の檄に集まった衆は声を上げる。
王国の伝令が早馬で老の結末を届けに来たときには街道が封鎖され意気揚々と戦いの準備をする麦秋地方の民草の姿に腰を抜かすのであった。
その収拾に病み上がりの麦秋老が意地でも止めると倒れたり王兄殿下が土下座内政に向かったりするのは別な話。
作者も書く予定はない。