末王女と端切屋
あらすじ 末王女の策略(子供の涙とも言う)にはまった法務官、狙われる孤児弟。
孤児弟の財布の中身が食い尽くされるのは時間の問題か?
末王女は市場を満喫しているようだ。この市場と言うものが色々観た事も聞いたこともないもので溢れているおもちゃ箱みたいなものなのだろう。はしゃいでいる姿はまるで子供である。
「なぁなぁ、法務官。あれを買ってくれ!」
指差したのは何かの毛皮、一尾分丸々剥がされているそれは敷物なのか素材なのかが良く判らないが値段を見てみると結構いい値段している。
「末王女様、買って差し上げても宜しいですが二度と交渉に応じませんよ。それで宜しければこの法務官、喜んで末王女様のために献上いたします。」
「ううっ、法務官の意地悪!!侍従官、買って!」
「今持ち合わせがありませんので・・・・・・・・・・・・・」
「王城に行って、お金とって来て!」
「王女様、なんの毛皮か聞いて後で買いに行かせれば宜しいではありませんか・・・・・・・・・・・・ 王女様の化粧費から出るでしょうがそのくらいの余裕はあったはずです。」
「むぅ、ちゃんと用意してよね!!」
「仕方ありませんね、この店の主人に取り置きを依頼しておきますから我慢してくださいね。」
なんだかんだと侍従官も末王女に逆らえないようだ。甘いぞ甘いぞ侍従官!王族のわがままを諌めるのも侍従の勤めではないのかね?
「いえ、暫くすれば忘れますのでそれまで放置です。」
「納得・・・・・・・・・・」
「はい、末王女様。こちらが取り置きの契約書となります。王城宛だと五月蝿そうでしたので孤児院宛に届くようにしてありますので代金は後で孤児院のほうに回してください・・・・・・・・・・・」
「ありがとう孤児弟!」
孤児弟に抱きつく末王女!しかし、何時の間にこんな気働きができるようになったんだ?
「だんなの下でしばらく働いていれば嫌でも出来る様になりますって、こうやって毛皮をネタにしておけば交渉が失敗に終わっても王女様の買い物を届けに来たと言う口実が出来てごまかせるじゃないですか。」
「うむ、さすが私の従者だ。これは褒美だ、どうせ末王女に食われまくって涙目なんだろう・・・・・・・・・」
「だんな、助かります。」
孤児弟に銀貨を数枚渡す。ちょいと渡しすぎな気もしたが今まで給金渡していなかったからちょうど良しとしよう。
「ご主人様弟を甘やかしすぎないでください。どうせ食べ物に消えてしまうんですから。」
「まぁまぁ、孤児姉。今日くらい多めに見てやれ。王女様に結構食われて可愛そうだろ・・・・・・・・・」
そう言って頭をなでると孤児姉は気持ちよさそうに目を細めながら
「ご主人様は甘いんですから・・・・・・・・・・・無職で倹約しないといけないのに・・・・・・・・・」
と小言を言う。世帯じみた発言に苦笑していると、
「甘い雰囲気のところ悪いが・・・・・・・・・・・ 法務官、金の事ならば心配するな!復職の際には給料を倍額!いや、三倍は出させるよう宰相に頼んどくから・・・・・・」
「末王女様、私は仕事したくないんですが・・・・・・・・・・・・特に王族の下では。」
「王妃殿下との一件は知っている。娘として申し訳ないと思う。どうか許してやってくれないか?」
「それは虫の良すぎる発言でしょう。殺されかけて一言で許せと言われて許してもらえると思いますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「まぁ、陛下でも答えられなかったものですし、子供に言ってもしようがないですがね。王女様が気に病むことではないですよ。それにしても王宮の人材不足はどうしたものなのかねぇ・・・・・・ 私の代わりを育てて置いてくださいと陛下にも宰相閣下にもお願いしてあるのですがそれをしていなかったから今回のように私が抜けただけで自爆する。そっちのほうが問題ですよ。」
「むぅ、それだって法務官が急にいなくなるのが悪いんだ!!」
「では、質問しますよ。私が出奔しなくても急病とか事故とかで抜けたとき如何するのですか?私だって無敵の存在ではないのですよ。それも含めて国家運営を行うべきなんですよ、誰がいないと駄目と言うのならば誰かがいなくなったとき国が壊れてしまうでしょう?」
「居なくなった者の代わりに皆で仕事を分担するのは?」
「その結果が今の現状でしょう。そこも含めてこっちに回すなと文句の一つも言いたい気分ですので交渉のときが楽しみですよ・・・・・・・・・・・・ふふふっ」
「だんな、だんな!!相手は小さな女の子。抑えて抑えて・・・・・・・・・・いくら王族でも文句つける相手が違うでしょう!!」
おっと、自重自重・・・・・・・・・この怒りは宰相閣下と国王陛下に・・・・・・・・・・・
「法務官、私が言う立場ではないがその・・・・・・・ お手柔らかにな!」
「大丈夫、酷い事はしないから・・・・・・・・・・・ そんな酷い事は・・・・・・・・・・ふふふっ・・・・・・・・・」
「法務官、怖い・・・・・・・・」
末王女が孤児弟の背後に隠れてしがみついている。侍従官も心なしか引いているようだ、酷いねぇ・・・・・
自分達のしたことを棚に上げて怯えるなんて・・・・・・・・・・・
「それを言ったら、だんなも結構えげつないと思うよ。上奏一つで国を混乱に陥れたんだから・・・・・・・・・」
呆れ顔で言うな、遠因その一が!
「あら、あの時の端切れ屋がありますわ。王女様気晴らしに覗いてみませんか?」
「端切れとは?」
「布のキレッパシですわ。服とか拵える時のあまりの部分とかを売る店があるのですよ。」
「なんに使うの?」
「見てみれば判りますわ・・・・・・・・・・」
遠因その二が末王女を連れて行く、流石にこんな雰囲気に子供を置いておくことを不適当と思ったようだ・・・・・・・・
うちの侍従達は良い子達だ・・・・・・・・・・
「あの二人を侍従官として引き取らせてください!!」
金貨を積まれてもやらんぞ。
「財務官の補佐官、宰相閣下の経理見習い、東方樹林帯伯の家令見習い、東方街道城伯令嬢の学友、騎馬公の養子に侍従官・・・・・・・・・・・・ おいら色々引き抜きに掛かっているんだな、ある意味凄いや・・・・・・・・・・」
「私の知らないところから引き抜きにかかっているようだが、他にも王妹殿下の小姓とか東方建国公令嬢の付き人なんて言うのも声かかっているし、王宮では仕事に困らないぞ・・・・・・・・・・・」
「うわぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 助けてください・・・・・・・・・・(涙目」
「法務官、世の中には知らないほうが良い事とかいっぱいあるだろう!こんな小さな子供に残酷な現実を教えるなんて酷い奴だ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・確かに、残酷すぎる現実だったな。」
男三人が馬鹿な会話をしている間に末王女と孤児姉は端切れ屋で色々見て回る。
末王女にしてみればこんな布切れがどうして売れるのかとか如何使うのかがわからない様子だが端切れ屋がパッチワークキルトを見て小さな端切れが大きな布になる事が純粋に驚いているし、小さな布切れを使いまわして花ができたりするのも興味津々に見ている。
針仕事と言えば針子が作る服か手巾の刺繍くらいしか思い浮かばない末王女としては新鮮なのだろう。
「今日は貴族の旦那の付き添いじゃなくて、この御嬢様のお供かい?」
「そうなんですよ、ご主人様の知り合いの娘さんで今日はお忍びで遊びに来ているのですよ。」
「うむ、苦しゅうないぞ。普段どおり応対すればよい。」
「凄い高位の貴族様の御令嬢かしら?ゆっくり見ていってね、然程流行っている店じゃないから。娘さん達が群がっているだけでも客寄せにはなるわ。」
端切れ屋、お前が客寄せと言い切ったお嬢様は一応王族だぞ。
「法務官、末王女様はれっきとした王族ですから・・・・・・・・」
「突っ込みどころ其処?」
「普通客寄せと言うところで突っ込みいれないですか侍従官様?」
まぁ、少々小さいのもいるが女の子が屯してる光景は華やかである。
微笑ましいものだな・・・・・・・・・・・・
末王女は孤児姉が髪にしているリボンと同じものが店にあるのを見て付けてみたいなどと言い、端切れ屋は見本のリボンを合わせてみる。手鏡を見て思い通りの仕上がりにならなかったことに不満を覚えていると
「顔の造作や髪の色が違うのですからお嬢様にはこういうのが宜しいのでは?」
と、色々なリボンを合わせてみる。
「どうせならば先ほどの布の花を合わせてみたら面白そう・・・・・・・・・・・」
「それだったら、こっちのリボンにして花を髪の色を調和させるように・・・・・・・・・・・」
「髪にリボンを編みこんでみたら?」
「それ面白そう!」
末王女はすっかり端切れ屋と孤児姉のおもちゃと化している。本人も満更ではない様だ・・・・・・・・・・・
商売はいいのか端切れ屋?
我々男性陣は孤児弟が買ってきた茶を片手に待ちぼうけを喰らっているのである。
「貴族の旦那、今日は酒にしないので?」
「おお、酒屋か・・・・・・・・・・ 今日はあの御姫様のお供だから素面でいたいのだよ。」
「そっか残念・・・・・・・・」
「法務官、先日馬鹿どもがお主を出汁に呑んでいたというのはこの市場か?」
「そうだがなにか?」
「何故、誘わなかった!! 魔神族侍従官は楽しかったと嬉々として始末書書いているし置いてきぼりは悲しいぞ!!」
「あれは良かった。某子爵令息を脅したのなんて楽しかったぞ!!」
「だんなぁ、楽しかったって其処かい?」
「正義の名の元に無体をするのは楽しいぞ、そういえば小間物屋はどうなったか判るか?」
「民部官の元で書類仕事に忙殺されているぞ、経理面が楽になったと喜んでいたなぁ・・・・・ 小間物屋自体は最近やつれてきているようだが・・・・・・・・・・・」
「激務なんだな・・・・・・・・・・・」
「法務官が戻ってくれば楽なんだが・・・・・・・・・・・」
「蒸し返すなよ、仕事なんてしたくないのに・・・・・・・ おっ、そろそろ決まるかな?」
私は話題をそらして末王女を見る。
布製の花飾りをリボンであしらって結んでいる。髪と同時に花が揺れているようで面白い。
末王女の可愛らしさを生かしているが髪が揺れるたびに香りが・・・・・・・・・・・・・
「それはね、髪飾りの中綿の代わりに香草を詰めているからだよ。一種の匂袋だね。」
「面白い工夫だな。」
「もともとあの花は箪笥の中に入れて虫除けに使う物だし・・・・・・・・・・・」
「虫除けか・・・・・・・・・・・くくくっ」
で、支払いの段になって孤児姉の持ち合わせでは少々足りないようだ。普通大金は持って歩かないだろうし仕方ないね。
末王女はもの欲しそうに我々男性陣の顔を見る。私は払うつもりはないぞ・・・・・・・・・・・
侍従官も顔を背けて視線をそらす。残るは孤児弟か・・・・・・・・・・・・・・
じぃ・・・・・・・・・・・・・・・(視線
負けたな・・・・・・・・・・・・・ あと一時は持たせないと・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・ 末王女様この場の支払いはおいらが持ちましょう・・・・・・・・・・・・ この小さな花を受け入れていただけますか?」
「感謝するぞ孤児弟!!」
抱きつかんばかりの末王女。満面の笑みを孤児弟に向ける。
笑みを見て仕方ないなとため息一つ。小銭入れを開いて代金を支払う。
「少年、男を上げたね!それにしてもこっちの大人達ときたら・・・・・・・・・・・・」
「基本このお姫様は私にとって厄介事を持ってきたものだから其処までする必要はない。」と嘯く私と
「少々持ち合わせがね、つらいのだよ・・・・・・・・・・・」 と弁解する侍従官。
「本当に私の元に来ないか?孤児弟、あたしはお前が欲しいぞ!」
等と引き抜きにかかる末王女。虫除けの花の積りが食人華だったか・・・・・・・・
奢ってくれる孤児弟を財布と認識したようだ・・・・・・・・・・・・孤児弟は私の従者だからと逃げている。
子供らの駆け引きを微笑ましく眺める孤児姉。
「侍従官、孤児弟がかわいそうだからこの代金も請求するぞ!」
「わかった、善処する。」
「さて、帰りましょうか。あまり遅いと皆様が心配なされるでしょうし・・・・・・・・・」
「わかりましたわ侍従官。」
孤児弟の手を引き、王城への道を進む末王女。
引かれていく孤児弟は仕方ないかとなすがままにされる。
王城まできたら返してもらうからな!!私が手塩に掛けた従者だ!末王女如きにはやらん!!
「ご主人様大丈夫ですわよ。孤児弟はなんだかんだ言っても裏切りませんから。」
「裏切り以前に連行されそうな雰囲気だぞ。」
「まぁ、お気に入りの友達を家族のところに連れて行く程度でしょうから大丈夫でしょう。」
孤児姉が言うのならばそんなものだろうけど、そのまま捕まりそうな気がするのは私だけか?
「まぁまぁ、微笑ましい光景ではないですか。こんなに喜ばれている末王女様は久方ぶりですよ。もう少し貸して置いてください。」
「孤児弟を牛や馬みたいに貸し借りするつもりはないのだがな。」
「そりゃ、そうでしょう。牛や馬を借りたければそっちを借りますから・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・
孤児弟の将来に幸あれと祈りながら、王城へと向かうのであった。
孤児弟のフラグ立ての回?でした。
この後、末王女の造花を見た王妃様は面白そうだと端切れ屋を呼びつけて自分の分を作らせたりするのは別の話。
これで王宮の舞踏会における飾りの派閥に生花派、宝玉派、造花派等という分類が出来て夫々に贅を尽くし始めるのですがどうでも良いですね・・・・・・・・・
「女性の衣装に如何でもいいですねとか最低ですわね作者・・・・・・・・・・・」
あれ?王妃様?
「いいです事女性の衣装と言うものは・・・・・・・・・・(説教」
はい、作者は連行されてます。




