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「…………」
「……………………」
エンバーが何か言うまで待っている間に、酒瓶が1本消えた。エンバーはまだ何も言わず、次の酒瓶を開ける。
フゥは人間じゃなかった。初めから、手脚なんて無かったかもしれない。失った手脚の為?失う前提であってはならない?笑い話だ。笑ってないけど。
「つまりあれか?俺たちは化け物を人間にしたってことか」
「…………」
肯定したくないのは、その呼び名だ。化け物なんて言いたくない。
「手脚を失う事を選択肢に入れてはダメだ……ハハハ」
エンバーが笑う。そして酒を飲み干す。
「ルナミス、どこまで見たんだ」
「まだ何も。人間じゃないというのは事実だね。胴体の身体構造も違うらしいし、喋れる舌になってもほとんど変わらない辺り、初めから発声した経験も無いだろうし」
「狼に育てられた子供。みたいな話もあったな」
「フゥは狼ってこと?」
「可能性はあるだろ?」
「無限大に」
フェンリルという大きな狼を思い出す。フゥが本来なんだったか、あの身体よりも大きければ、全て可能性がある。あそこまで肉を削ればいいんだから。
手脚と顎と片目と瞼の無い、皮膚の焼けた人の子に"見えれば"、それは何でもいい。
何でもいいんだ。本来の姿なんて、だって今フゥは、あれで人間になれていると思っているんだから。
フゥは今、自分の部屋で眠っている。当たり前の日常が、彼女にとっては手に入れたかった物なんだろう。
「……まだ、選択を尊重すると?」
エンバーが僕を睨む。
「……世界が許すなら、そのつもりでいる」
「人間じゃないんだぞ?」
「人間ですら、人間扱いされてないのに?」
「…………」
「魔法の常識をぶっ壊して来たんだよ?人間かどうかは、僕にとっては……そりゃあ、不安はあるけど、だから無条件で排除しようなんて。それじゃ魔族差別と同じだろ」
「その結果が、血を見る事になってもか?」
「それは、人間のする事じゃない。フゥがそうするのなら教えてやらなくちゃいけない。人間になりたいのなら、誰かが人間を示さないといけない。僕はその為に居る」
「……そうか」
エンバーが立ち上がる。僕もつられて立ち上がる。
「うし。もっと良い義肢を作ってやる」
「ん?なんで?」
「お前の考え方に、少しだけワキワキしたんだよ。面白いじゃねぇか。俺も乗った」
「……はぁ」
ニヤリと笑うエンバーは、かつて改変魔法の話をした時の顔と同じだった。
「手脚を失う事を前提に入れてはならないからな、仕方ないよな、壊れにくい物を与えてやらないと。フゥにとっては、それが手脚なんだからな」
エンバーは言い訳を並べてニヤニヤしている。技術屋としての好奇心に、やっと少しだけ笑えた。
「確かに」
丘の下まで一緒に歩く。他愛のない昔話は、思ったよりも弾まない。
あーだったよね。確か。
こうだったよね。そうだったね。
そんな適当な会話が、大事に思える。そこにリヒトの名前が、一度も無くても。
「じゃあな」
「うん、また」
そう手を振る。少しふらつくエンバーの背中を見送って、家まで戻る。




