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夏が終わる前に、君は消える  作者: きなこもち
夏が終わる前に、君は消える

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遅れて届く声


二十一日目。


朝。


目が覚めて、すぐに呼ぶ。


「鈴」


返事はない。


十九日目の空白がよぎる。


心臓が早まる。


「鈴」


少し強く。


沈黙。


三十秒。


一分。


胸の奥が空洞のように冷たい。


自分は何もできない。


ただ呼ぶしかない。


情けない。


「鈴」


声が震える。


一分二十秒。


やっと。


「いるよ」


遠い。


かすれた声。


甘い響きが、弱い。


「戻るの、遅くなった」


息が浅い。


その一言で理解する。


空白は短くならない。


伸びている。


蓮は唇を噛む。


自分が弱いからだ。


支えきれないからだ。


---


学校。


授業中。


黒板のチョークの音がやけに響く。


蓮はノートに日付を書く。


7月30日。


二十一日目。


半分が見えてきている。


「鈴」


心の中で呼ぶ。


五秒。


「いる」


返事はある。


だが水の底から届くみたいだ。


「今日はどんな感じだ」


「足場、細いの」


鈴の声は柔らかい。


弱い。


「昨日の空白のあと、ちょっと削れた」


胸が締めつけられる。


戻ること自体が代償。


空白は待機ではない。


削れる時間。


「俺のせいだろ」


思わず言う。


鈴が少し拗ねる。


「なんでそうなるの」


小さく。


「れんのせいじゃない」


でも声が揺れている。


---


昼休み。


屋上。


空が青すぎる。


蓮はフェンスにもたれる。


「空白の間、何見えてる」


鈴は少し黙る。


「暗いよ」


小さく。


「でもね」




「遠くに光みたいなの、ある」


胸が冷える。


「終わりか」


子供みたいな問い。


「分かんない」


かすれた声。


「でも近づいてる気はする」


まだ半分も来ていない。


なのに光が見える。


蓮は拳を握る。


「近づくな」


幼い命令。


鈴が小さく笑う。


「れん、えらそう」




「でも好き」


その声は薄い。


甘くて、弱い。


---


放課後。


コンビニ前。


雫は淡い色のワンピース。


立ち姿がきれいだ。


指先まで整っている。


「冷たいもの、召し上がりますか」


差し出されたアイス。


「ありがとう」


冷たさが現実を戻す。


雫は静かに言う。


「蓮、最近遠くをご覧になりますね」


胸が揺れる。


「何もないところを見つめる目をなさっている」


逃げ場がない。


「私ではないどなたかを、見ていらっしゃるのですか」


問いは穏やかだ。


だが鋭い。


蓮は言葉を失う。


嘘はつけない。


だが言えない。


「ごめん」


情けない答え。


雫は微笑む。


少し寂しそうに。


「まだ、私ではないのですね」


胸が痛む。


未来を傷つけている。


それでも今は。


鈴を手放せない。


自分は卑怯だ。


分かっている。


---


夜。


日記を開く。


21日目。


空白1分20秒。


正確に書く。


やがて文字が浮かぶ。


怖かった。


線が震えている。


蓮はすぐに書く。


俺も怖い。




次、戻れなかったらどうする。


残酷な問い。


長い沈黙。


やがて。


戻れなかったら。


小さく。


それで終わり。


胸が締めつけられる。


「終わりって何だよ」


声が荒くなる。


鈴は静かに言う。


「消える」


淡々と。


「完全に」


呼吸が乱れる。


「嫌だ」


即答。


鈴の声が少し甘くなる。


「分かってる」


「れん、泣きそう」


からかうように。


でも弱い。


「でもね」


小さく。


「れんが覚えててくれるなら、私ちょっと安心」


「足りねえ」


強く言う。


自分でも驚くくらい。


鈴が少し照れる。


「欲張り」


でも。


「嬉しい」


風が吹く。


風鈴が鳴る。


ちりん。


音はさらに短い。


二十一日目。


残り二十八日。


空白は伸びる。


戻るたび削れる。


そして蓮は気づく。


時間切れではない。


存在の薄まりが先に来る。


四十九日を待たず消える可能性。


カウントダウンは目に見えない。


それでも。


まだいる。


まだ声は届く。


蓮は目を閉じる。


「鈴」


「なに」


弱く甘い声。


「明日も呼ぶ」


「うん」


「戻れ」


卑屈な願い。


子供みたいな命令。


鈴は少し笑う。


「がんばる」


その声は、まだある。


だが確実に遅れている。


夏の夜は静かだ。


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