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夏が終わる前に、君は消える  作者: きなこもち
夏が終わる前に、君は消える

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呼ばない日


十七日目。


朝。


目が覚めた瞬間、蓮は呼ばなかった。


呼べば戻る。

でも燃える。


呼ばなければ薄まる。

でも削れないかもしれない。


布団の上で天井を見つめる。


三秒。


五秒。


十秒。


胸がざわつく。


それでも呼ばない。


やがて。


遠くから、かすかな声。


「いる」


自分から。


鈴のほうから。


蓮の胸が強く打つ。


「鈴?」


「呼ばないから」


小さく笑う。


「自力で戻った」


弱いが、確かにある。


蓮は息をゆっくり吐く。


「痛くないか」


「今日は平気」


少し間。


「でも、ちょっと寂しい」


胸の奥が鋭く痛む。


---


学校。


廊下で雫とすれ違う。


「蓮」


立ち止まる。


「今日、時間ある?」


真っ直ぐな目。


「少しなら」


「放課後、屋上」


胸が重くなる。


答えの時間が近づいている。


鈴は静かだ。


何も言わない。


---


昼。


屋上。


空は高い。


呼ばない。


今日は呼ばない。


自分から戻れるか確かめる。


数分。


何もない。


胸が冷える。


五分。


七分。


そして。


かすれた声。


「いる」


遠い。


昨日より明らかに遠い。


「鈴?」


「戻るの、時間かかる」


息が浅い。


「足場、狭い」


その言葉が重い。


呼ばなければ縮む。


呼べば燃える。


均衡が崩れ始めている。


---


放課後。


屋上。


夕方の光が柔らかい。


雫が待っている。


「蓮」


一歩近づく。


「そろそろ答え欲しい」


鈴の気配が揺れる。


弱いが、いる。


蓮の喉が乾く。


「俺」


声がかすれる。


「まだ整理できてない」


正直な言葉。


雫は目を伏せる。


「そっか」


笑おうとして、うまく笑えない。


「私ね」


静かに続ける。


「蓮が誰かを見てるって分かってる」


胸が締めつけられる。


「それでも好き」


その一言が重い。


未来が目の前にある。


温かくて、現実的な未来。


鈴は何も言わない。


干渉しない。


ただ、存在している。


今ここで選べば。


鈴はきっと何も言わない。


その優しさが痛い。


「雫」


震える声。


「もう少しだけ待ってくれ」


雫の瞳に傷が浮かぶ。


それでも。


「分かった」


小さく頷く。


「でも、逃げないで」


その言葉が深く刺さる。


---


夜。


部屋。


「鈴」


今度は呼ぶ。


すぐには来ない。


長い沈黙。


やがて。


「いる」


薄い。


明らかに。


「今日、呼ばなかったな」


責める響きはない。


ただ事実。


蓮は目を閉じる。


「燃やしたくなかった」


正直に言う。


鈴が小さく笑う。


「優しい」


そして。


「ちょっと落ちかけた」


心臓が跳ねる。


「やっぱ呼ぶ」


反射的に言う。


「待って」


鈴が止める。


「今日、なんとか戻れた」


一拍。


「でも」


声が揺れる。


「アンタの声、欲しい」


胸が強く締めつけられる。


呼べば燃える。


呼ばなければ落ちる。


どちらも削れる。


蓮ははっきりと言う。


「鈴」


強く。


「好きだ」


空気が震える。


鈴の気配が一瞬、輪郭を持つ。


「ばか」


泣きそうな声。


「それ、燃料」


一拍。


「一番効く」


風が吹く。


風鈴が鳴る。


ちりん。


音は少し短い。


十七日目。


残り三十二日。


均衡は崩れ始めている。


繋ぐ方法はある。


だが完全な解はない。


それでも。


蓮は決めている。


呼ぶ。


思い出す。


好きだと言う。


削れても。


燃えても。


足場が消えるその瞬間まで。


夏はまだ半分も終わっていない。


だが時間は、もう容赦がない。


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