【第七十六話】人事と改革
クーデター後の王城では体制の見直しが急ピッチで行われている。
「後任の宰相は決まったのか?」
還俗したミエスクが空位であった公爵位を継ぎパーソロンは婿養子として公爵家の一員となるため既に宰相を辞任している。
故に国王が尋ねた通り次期宰相の決定が喫緊の課題で悩みの種でもある。
因みに王族と同じ家名では何かと不都合があるとして公爵家の家名は便宜的に"パーソロン"となっている。
そして、ミエスクを"公爵"と呼び元宰相は"パーソロン公"と呼び混乱を避けることにしている。
(これについては読者の皆も気を付けて欲しいところである)
「はい、既にホークワイド卿に絞り込んであります」
馬車の屋根の上のドラゴンの頭で大笑いしていたホークワイドは実は現王妃の実兄に当たる。
そして、近頃のホークワイド領の賑わいを見た者達からの評価が上がっていて次期宰相にと推す声が多い。
「うむ、ホークワイドか……
それに反対する勢力はないのか?」
二大派閥であった公爵派と宰相派はトップが表舞台を去ったため実質的に解消されている。
国王としては下手な人選を行なって不満を持つ者が新たな派閥を作らないように慎重を期さなければならない。
「今のところは水面下で打診しておりますので目立った動きは出ておりません」
「あい分かった。
そのまま、ホークワイドの線で進めよ。
ホークワイドの宰相就任と共にハイオーク討伐の功績を理由に子爵位を叙爵する」
宰相さえ決まれば後のことは新宰相に任せておけばよいので国王は一先ずホッとした様子である。
「それから魔法検査局へ異動する者の人選は済んでおるのか?」
魔法規制局は解体されて魔法検査局が新設されることになっている。
業務的には何ら変わりがないので、これは明らかに看板の掛け替えということになる。
「はい、局長と魔導具課長に近かった者達は他の部署へ異動させることになっております。
欠員は学院を卒業した者の中から優秀な者を選ぶ方針のようです」
人員を一新してしまっては業務が滞る可能性があるので必要最小限の異動としたようである。
「それで、新しい局長のことなのですが……」
「はぁー、皆まで申さずとも良い」
検査局局長に名乗りを上げている者が二名いる。
そのうちの一名が国王の二つ目の悩みの種である。
「ですが、公爵自らが役人となるのは前例がございません」
前例を踏襲するのは役人の性と言っても過言ではない。
「それは分かっておる……」
だが、「過去に公爵家の子女が役人になった例はあるはずです」とミエスクが主張しているようである。
リリアモデルの建国の折にケーキの借りは返したが、他にも借りはたくさんあるのでミエスクの申し出を国王が断ることは難しい。
しかも、あらゆる魔法に精通したミエスクを越える人物はこの国に存在しない。
「陛下、いっそのこと魔法検査局の局長には魔導具研究所に出向して貰うと言う話にしませんか?」
「ん、どう言うことであるか?」
担当役人が捻り出した苦肉の策に国王は一筋の光明を見出だそうとする。
「前身の規制局からはミレイ嬢が研究所に出向しておりました。
ですから、局長になられた公爵様が出向されてもおかしくはありません」
「うーむ、出向者が公爵である必要はあるのか?」
出向するなら一局員でも問題はないはずである。
事実、ミレイは優秀だが一局員であった。
「はい、リリアモデルは独立宗教国家で国外の扱いでございます。
国外への出向ですから、それなりの地位に就く者でなければ先方に対して失礼に当たります」
正に、ものは言いようである。
これは、誰が聞いても強弁であることは明らかである。
「よし、それで行こう」
だが、理屈としては間違っていない。
間違っていないので国王はこの案に乗っかることに決めた。
「ご理解賜りありがとうございます」
こうして、ミエスクの局長就任は魔導具研究所に出向することが条件となった。
ミエスクならば、問題児のユウイチのお目付け役にぴったりの人材かもしれないと国王は打算している。
ここで話は変わるが、ミレイの大司教就任に伴いバイアリターク王国は国王の名の下に恩赦を実施した。
恩赦によりクーデターで捕らえられた公爵一派を始め多くの犯罪者の処分が軽減された。
「ミレイ様は、ご両親を助けるために自ら出家なさったそうよ」
「大変なご決断をなさったのですわね。
まるで、聖女様のようですわ」
このように王都の社交界では大司教ミレイ=聖女の噂が急速に広がっている。
「全く聖女だなんて噂を立てられては人前で欠伸の一つも出来ませんわよ」
だが、当の本人はハードルが上がってしまったことが不満のようでボヤき通しである。
「ミレイ様、聖女でなくても大司教なのですから人前での欠伸はお止め下さい」
これは、相談相手と護衛と監視役を兼ねた側仕えであるリーネのツッコミならぬ諫言である。
そのリーネは「大司教のミレイ様には仕えるけど、神様に仕える気はないわ」と出家して神官になることを断固として拒否しているようである。
この為、教会本部は特例としてリーネを受け入れている。
特例が認められたのは教会本部の上層部にリーネレッドの大ファンがいるからだと噂されている。
因みにリーネは修道服ではなくスウィフトが作った茶系のパンツスーツを常日頃から着用している。
近頃は、そんなリーネの姿を見たいがために教会に通う女性が増えているそうである。
そしてリーネは「貴族からの寄付に頼らない教会運営」を旨とした教会本部の改革をミレイに訴えている。
これは、両親を餌にして大司教のミレイを利用しようとする善からぬ貴族が現れるかもしれないとリーネが考えた結果である。
この意見に対してミレイは「リリアモデルの独立性を保つためにも必要である」と概ね賛同している。
ミレイが大司教に就任して暫く経ってからリーネ主導で商業主義的な教会本部改革が始まっている。
先ず手始めに魔導具化した聖典の販売を教会施設で行っている。
そのため、ユウイチは子供向けに"飛び出す絵本の聖典版"を大急ぎで作らされていた。
何やら前世のカルトっぽい臭いがするが、子供達が聖典に親しむきっかけになったと信仰心の篤い親達から喜ばれているようである。
気を良くしたリーネは第二弾として老人向けに音声機能付きの聖典を考えているらしい。
その上、教会の地方支部でポーションや魔石、衣類、食料品などを自動販売機で売る計画を立てている。
「後は、商業ギルドが魔導具研究所の発明品を販売する際のロイヤリティの見直しね」
今までは商業ギルドが主体となって行ってきた魔導具の販売を、これからは教会本部が主導する様である。
企画立案から販促までを教会本部で行い、商業ギルドは魔導具の販売とクレームの取次のみを担当する。
「だから、支払うのは販売手数料だけで十分よ」
商家の娘であるリーネが本領を発揮しているようにユウイチ達には映っている。
しかし、リーネによれば「最終的には販売も行える体制にしたい」とのことで道半ばだそうである。
恐らく、次から次へと発明品を作らされる未来が待っているとユウイチは早くも怯えている。
そして、王城ではパーソロンが宰相としての最後の仕事に取り掛かっていた。
「アルマよ、今日を以て魔導具研究所への出向の任を解く」
「は、はい」
アルマは宰相に返事をしたが既にリリアモデルの国民となっているので王城補佐官として仕えていることにそもそも無理があった。
だから、パーソロンの宰相辞任に伴いアルマも王城補佐官を辞めることになった。
「アルマは良く仕えてくれた。
とても感謝している」
「さ、宰相閣下、勿体ないお言葉です。
私こそ感謝しています」
学院の文官課を卒業して直ぐにアルマは王城補佐官としてパーソロンの補佐官になった。
これを前世で例えれば、新卒の学生が専務の筆頭秘書に抜擢されるようなものである。
「宰相殿の隠し子では」と影で囁く声がなかったわけではないが、その辺りはパーソロンが上手く対応したようである。
「正式に研究所の助手となるアルマに頼みがある」
「は、はい。
お伺いします」
何かを付け足すのがパーソロンの癖だとアルマはよく理解している。
「これはここだけの話だがリリアの兄であるカークとの縁談を考えてみて欲しい。
勿論、アルマの意思が最優先であり無理強いはしない」
パーソロンは、いつになく優しい眼差しでアルマを見詰めている。
「と、とても急なお話で返答に困ります……」
結婚など全く考えていなかったアルマは頭の中が真っ白になった。
「それは申し訳ないことをした。
だが、飽くまで儂からの打診の段階なので答えは急がなくてもよい。
勿論、断ったとしても何の問題もない」
「わ、分かりました。
し、しっかり考えてからお返事致します」
パーソロンはお見通しかもしれないが、アルマは婚約話を一先ず先送りする腹積もりで答えた。
何故なら、研究所の助手としてやりたいことがたくさんあるからだ。
そして、何よりも大好きな研究所を離れたくないのである。
そんなアルマを見てパーソロンは満足そうに微笑み目を細めるのであった。
後日談。
ー立候補ー
魔法規制局が解体され新たに魔法検査局が設置される。
そして、看板を掛け替えて大幅に入れ替わる局員の人選が行われているとこの男は耳にした。
「さて、新しい局長は誰が適任だろうな?」
自称天才錬金術師で魔導具オタクのランバン=ニアークティック男爵は鏡に向かって問い掛けている。
近頃の彼は王城に足繁く通ってロビー活動に余念がない。
今までは、余り参加してこなかった社交界のパーティーにも積極的に顔を出している。
余りの熱意に根負けする貴族もいるようでランバンは少なからず手応えを感じているようである。
「ふふふ、この王都に於いて魔導具で儂の右に出る者はおるまい」
ここで"左に出る者はたくさんいる"とツッコミを入れるのは野暮と言う者である。
実は、こう見えてランバンは魔法課を首席で卒業している。
それがランバンの自信の源なのだが史上最低成績の首席卒業であることを本人は知らない。
「うーん、待てど暮らせど打診の一つも来ぬとは……」
痺れを切らせたランバンは担当役人に直接聞きに行くことにした。
「ニアークティック男爵殿、何用でございますか?」
ランバンの目的は担当役人にもおおよその予想はつくのだが白々しく聞いてみた。
「検査局の局長は決まったのだろうか?」
「えーっと、まだお答えできる状況ではございません」
ミエスクでほぼ決定なのだが出向の条件に対しての返事がまだ来ていない。
「そうか、儂が火中の栗を拾ってやっても良いぞ」
期待と自信を込めてランバンは担当役人に言い放った。
「いえ、領地の運営にお忙しい男爵殿の手を煩わせるつもりはございません。
その国を思うお気持ちだけで十分でございます」
担当役人はやんわりと断った。
「領地の運営など代官で十分である。
儂が骨を折ってやる!」
身分差を盾にしてランバンが担当役人に迫った。
「男爵殿、ここだけの話ですが局長には既に内定者がいます」
弱り切った担当役人は真実を打ち明けることにした。
「内定者だと……
一体、誰だ?」
ランバンは天才錬金術師の自分を差し置いて内定している者の名前を知りたくなった。
「ここだけの話になりますが、お聞きになりますか?」
情報漏洩を防ぐために担当役人は"ここだけの話だ"と念を押しておく。
「私を凌ぐ者が何者か興味がある。
聞いてやろうではないか」
相変わらず自信満々でランバンが答えた。
いや、ここまで来れば自信ではなく過信である。
「実は公爵であるミエスク様でございます」
「……」
担当役人からミエスクの名前を聞いたランバンは何も言わずにすごすごと帰って行った。
さすがの自称天才錬金術師も本物の天才であるミエスクには勝てないようである。
その翌日、ホークワイドの宰相就任と共にミエスクの局長就任が発表されたのであった。
「フッ、天才錬金術師の儂は魔導具の研究所で忙しいからな」
負け惜しみがランバンの研究室に響いた。
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次回の投稿は八月頃になります。
(奇跡的に筆が進めば七月になるかもです)
理由はシンプルに続きが全く書けていないからです。
大変申し訳ございません。




