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【番外編】エイプリルフール

 前世の日本には、決まった日付に行われるイベント(行事や風習)がたくさんあった。


 月に一つは何らかのイベントがあるはずである。


 ユウイチが子供の頃にはなかった"ハロウィン"は、今では仮装を楽しむ大イベントになっている。

 

 関西限定の風習でしかなかった"恵方巻き"がいつの間にか全国的なイベントになっていたなんてこともある。


 とにかく、日本人はイベントが大好きなのである。


 そして、四月一日に行われる"エイプリルフール"も決まった日付に行われるイベントのうちの一つである。




「うーん、"エイプリルフール"ってどう変換されるんだろう?」


 ユウイチの転生者特典である自動変換が働けば、恐らく"四の月の馬鹿"である。


 だが、こちらの世界に同じような風習があって呼び名が付いていれば、そちらに変換されるかもしれない。


 気になったユウイチは、バイアリターク王国のイベントに付いて調べてみることにした。


「えーと、建国祭と祈念祭があることは、もう知っているんだよ……」


 教会本部も関わる二つのイベントは調べるまでもなかった。


 だから、ユウイチはもう少し詳しく調べてみることにした。


「サマーバケーションは決まった時期に行われているが、エイプリルフールなどのイベントとは少しニュアンスが違う気がする」


 サマーバケーションは前世の夏休みのような物である。


 ユウイチは、手掛かりを求めて手当たり次第に調べてみた。


「何だ、他のイベントが見つからないじゃないか!」


 ユウイチは色々と調べてみたのだが、バイアリターク王国には前世の"ハロウィン"や"クリスマス"にあたるイベントが何もないのである。


 ユウイチは転生してから、今の今までその事に気が付いていなかったのである。


「そこへいくと日本人は凄いよな。

 他国の文化でも柔軟に取り入れて、自分達に合う様にアレンジして楽しんでしまうんだからな」


 日本人は古くは中国から、近代になっては欧米から多くの風習を柔軟に取り入れてきた。


 日本人がワインのボジョレー・ヌーボーの解禁日を祝うなど、その最たる物ではないだろうかとユウイチは思っている。


「ならば、王都の民も前世のイベントを柔軟に取り入れることかできるかもしれない」


 以前、ユウイチの発明した入浴剤に端を発して、王都の民は臭いフェチ文化の扉を開いた。


 その、王都の民なら新しいイベントを取入れて楽しむことは可能だとユウイチは踏んだのである。


「よし、エイプリルフールを王都で試してみよう!」


 明日はちょうど"四の月の一日"で、前世で言えばエイプリルフールである。


「うーん、それで誰にどんな嘘をつくかだな……」


 (注:エイプリルフールには嘘を付いても良いが、人を傷つけたり損害を与えることは厳禁である)


 先ず、神に仕え奉仕をしている教会本部の神官達に嘘をつくのはご法度である。


 だからと言っていきなり庶民を巻き込むような大掛かりな嘘には尻込みしてしまう。


 ましてや貴族を巻き込む気は毛頭ない。


 もし、何かのはずみで王族を巻き込んでしまったら「エイプリルフールでした」では済まさせれない。


「だとすると、研究所内と言うことになるのたが……」


 これ迄の経験から推察するにミレイとリーネの沸点は低い。


 ネタばらしをした途端にお説教タイムが始まることは目に見えている。


 仕掛けるとしたらアルマかリリアであるが、リリアの場合は嘘に気付かずに周りを巻き込んで大騒動に発展する可能性がある。


「ならば、ターゲットは一人だな」


 消去法によりユウイチはアルマにエイプリルフールの嘘を仕掛けることにした。


「次は何をするかだな……」


 前世では、嘘の記事を載せた新聞社や嘘の新商品を発表をした企業もあった。


「それに倣うと研究所なら嘘の魔導具だな」


 ユウイチは「新たな魔導具を発明した」とアルマに嘘をつくことにした。


「アルマ君は、どんな嘘なら笑ってくれるだろう……」


 幾らエイプリルフールと言ってもやり過ぎは良くない。


 大事なことだからもう一度言っておくが、エイプリルフールには嘘を付いても良いが、人を傷つけたり損害を与えることは厳禁である。


「嫌ですよ、ユウイチ所長」と言って笑ってもらえる程度の反応がベストである。


 だが、ユウイチにはこちらの世界の貴族令嬢のボーダーラインが分からない。


 分からないなら聞くしかないのだが、そんなことを聞ける人が見当たらない。


 見当たらないなら自分で考えるしかないのである。


「欲しいスイーツを作ってくれる魔導具があると言う嘘はどうだろう?

いや、これは駄目だな……」


 先ず頭に浮かんできたアイデアをユウイチは直ぐに没にした。


 何故なら、食べ物の恨みは恐ろしいからである。


「飲むだけで痩せるポーション……」


 これは頭に浮かんだ瞬間に没にした。


 何故なら、体重関連で女性を糠喜びさせるのは、丸腰でドラゴンの前に立って挑発するぐらいに危険だからである。


「いっそ、魔獣が出たとリリア君に着ぐるみを着せて……」


 ユウイチは最後まで考えずに没にした。


 恐らくリリアなら魔獣役をノリノリでやってくれるだろうが、子供騙しが過ぎてアルマからは白い目で見られそうである。


「ちょうど良い嘘を考えるのは意外と難しいなぁ……」


 エイプリルフールが浸透していた前世の日本でも嘘の匙加減は難しかった。


「"ブーブークッション"は無理だよな……」


 ユウイチは、ふと前世の悪戯グッズを思い出した。


 昭和の時代のOLなら笑ってくれたかもしれないが、令和のOLだと難しかしいかもしれない。


 恐らく、こちらの世界の貴族令嬢には絶対に無理である。


「"笑い袋"はどうだろう…… 」 


 これは、スイッチを押すと笑い声が聞こえる前世の面白グッズである。


 部屋に放置しておいた"笑い袋"が誤作動を起こして、夜中に急に笑い声が聞こえて驚いた経験をした人がいるはずである。


「これなら魔法陣を使えば再現は可能だな」


 ユウイチは創造と付与のスキルを使って魔導具を作ってみた。


「この、スイッチを押してみて」ではアルマが警戒するかもしれないと、スイッチ方式ではなく振動を感知して"笑い袋"が起動するようにした。


「うん、これならいけそうだが剥き出しだと味気ないよな」


 前世の"笑い袋"は文字通り袋の中に入っていた。


 ユウイチはそれを参考にして、こちらの世界に合うようにアレンジすることにした。


 そして、エイプリルフール当日の朝がやってきた。


 アルマが出勤してくるのをユウイチはヒュドラの様に首を長くして待っている。


 アルマより先に来たリーネとミレイが、ニヤニヤが止まらないユウイチを不審に思っていることを当の本人は気付いていない。


「お、おはようございます」


 そうこうしているうちに、遂に待望のアルマが研究所に到着した。


「おはようアルマ君、これはいつも頑張ってくれているお礼のプレゼンだよ」


「はぁ? ……」


 何の前振りもなく本題に入ったユウイチにアルマは困惑気味で、プレゼントを受け取っていいものかと迷っている。


「おはようございます!」


 そこへ、リリアがいつもの様に元気良く出勤してきた。


「おお……

 リリア君、おはよう」


 この時、ユウイチはエイプリルフールの計画に不測の事態が起こったことを悟った。


「ユウイチさん、それは何ですか?」


 ユウイチが危惧した通りにリリアの面白い物センサーが反応した。


「ゆ、ユウイチ所長、頑張っているリリア様にもプレゼントはあるんですよね?

 私は後でいいので、先にリリア様に渡して下さい」


 ユウイチの動揺を見て取ったアルマは、危険を察知してプレゼントをリリアに振ろうとしている。


「も、勿論、リリア君に渡すのは当然だな」


 アルマに逃げ道を塞がれたユウイチはリリアに渡さない訳にはいかなくなった。


「わぁー、開けて見てもいいですか?」


 ユウイチから箱を受け取ったリリアが蓋を取って中を見た。


「はははははは、はははははは」


「キャー、スライムが笑っています!」


 そう言ってリリアは投げ捨てた箱ごと"笑い袋"を踏みつけた。


 実は、こちらの世界に合わせるためにユウイチは、袋ではなく見た目をスライムの様にした。


 しかし、ディテールに拘り過ぎて本物そっくりにしてしまったのである。


 ただでさえスライム嫌いのリリアは何の迷いもなく踏みつけたと言う訳である。


「所長、話があるからそこに座りなさい」


 この後、ユウイチは頭に角が生えたリーネにエイプリルフールに付いて必死で釈明をした。


 だが、理解を得られるはずもなく、ランチタイムになるまでお説教を喰らったのであった。

 


 とても、大事なことだからもう一度言っておく。


 エイプリルフールには嘘を付いても良いが、人を傷つけたり損害を与える嘘を付くと痛い目に合うこともある。


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