表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/78

【第五十三話】かすみ網

 今日は、再びユウイチが冒険者ギルドを訪れている。


 これは、ヴィーラングからゴブリン対策を頼まれていた自動販売機をコイン式からカード式に変更した説明をするためである。


 自動販売機はギルドカードを翳して指定された暗証番号を入力しなければ商品が出ない仕組みに変更されたのである。


 これで、ゴブリンが使い方を覚えても暗証番号を頻繁に変更すれば商品を買うことはでくなくなるはずである。


「所長殿、助かった。

 これでゴブリンが自動販売機で購入するのを防げるよな?」


「アハハハハ……

 ゴブリンが勉強熱心じゃない限り大丈夫だろう」


 ユウイチはゴブリンがねじり鉢巻をして机に向かっている姿を思い浮かべてついつい笑ってしまった。


「それから、頼まれ次いでにもう一つお願いしていいか?」


「どうせまた無茶な話なんだろ?

 グフフフ…… 」


 図星を突かれて目が泳いでいるヴィーラングを見てユウイチは更に笑いが込み上げてきた。


「そう言わずに聞くだけでも聞いてくれよ。

 困っている牧場主がいて、そいつの相談に乗ってやって欲しいんだよ」


「聞くだけならただだからな。

 詳し話は当人から聞いた方が良さそうだな」


 その困っている牧場主には、ヴィーラング経由で研究所に来るように伝えてもらった。


 ユウイチが冒険者ギルドを訪れてから一週間後のある日のこと、研究所にヴィーラングから紹介を受けた牧場主のモーメイブがやってきた。


「それでは対策会議を始めます。

 先ずはモーメイブさんから相談内容の説明をお願いします」


 久しぶりの対策会議にリリアが張り切っているようである。


「私はコノトーチ男爵領で牧場を営んでおります。

 近くの森に棲むコカトリスがうちの乳牛や山羊を頻繁に襲いにやってくる様になりまして……」


 前世では空飛ぶ円盤に乗った宇宙人が牛を拐っていくという話を聞いたことがあるが、こちらの世界では魔獣が乳牛を拐っていくようである。


「コカトリスの被害かあるなら、騎士団に依頼されていらっしゃらないのかしら?」


 ミレイの言う通り魔獣討伐といえば先ずは男爵領の騎士団の出番である。


「騎士団にはお願いしておりますが、コカトリスは騎士団がいる間は襲って来ません。

 騎士団に常駐して頂くわけにも参りません。

 狡猾にもコカトリスは騎士団がいなくなるのを待っているんですよ」


 ゴブリンもそうであったが、こちらの世界の魔獣は凄く悪知恵が働くようである。


 前世の子供頃に、バレないだろうと思って冷蔵庫にシールを貼って母親にこっぴどく怒られたユウイチよりもよっぽど知恵が働いている。


「それなら冒険者の出番じゃない?」


 リーネの言う通り騎士団が駄目なら冒険者ギルドに依頼を出して冒険者に討伐してもらうのがセオリーである。


「騎士団は無料ですが冒険者となると報酬が必要になります。

 しかし、優秀な冒険者がいる間は襲って来ませんから日払いの報酬だけが嵩んでいくことになります」


 人の懐具合まで計算しているとなると相当な知恵者である。


 前世で給料日前になるとカップラーメン頼みになっていたユウイチとは大違いである。


「ぼ、牧場の従業員で追い払ってみるのはどうですか?」


「ははは、それは無理と言うものです。

 うちの従業員はラボラトリー・エンジェルズの皆さんとは訳が違いますから」


 近頃、巷ではリリア達のことを"ラボラトリー・エンジェルズ"と呼んでいるようである。


 モーメイブの発言を聞いて居ずまいを正したミレイの横で、リーネが鬼の形相でユウイチを睨み付けている。


 このリーネの一睨みだけでコカトリスが"ビビって"来なくなるかもしれないと思わせるほどである。


「罠を仕掛けてみるのはどうでしょうか?」


「奴は檻の罠には近寄りもしません。

 もし捕らえたとしても檻を破壊されて逃げられてしまうでしょうね」


 アルマとリリアの提案も却下されてしまい、ここにラボラトリー・エンジェルズの提案は全滅したのである。


「皆さんにコカトリスを討伐していただくのが……」


「いや、それは駄目だな。

 モーメイブ殿、断じて認められないぞ!」


 禁断の一言を発しかけたモーメイブをユウイチが慌てて制した。


 何故なら、この提案を止めなければエンジェルズのレッドの怒りがレッドゾーンに突入してしまうからである。


「へっ、そうなんですか?

 ……それは残念です。

 娘がミレイ様の大ファンでして、ご活躍を目の前で見られると期待していたのですが…… 」


 モーメイブの言葉に再びミレイが居ずまいを正した。


 恐らく、今のミレイの気分はオーバートップ状態であろう。


「よし、それならコカトリスを捕まえるための罠を仕掛けよう」


「ユウイチさん、それは私が提案して却下されましたよ」


「全く、所長さんは未だ素材採集惚けが抜けていらっしゃらないようですわね」


「はぁー、顔を洗って出直してきたら」


「ゆ、ユウイチ所長、もしかしてスランプですか?」


 リリアと同じ提案をしたユウイチにエンジェルズの四連ツッコミが見事に炸裂した。


 だが、決して寝惚けているせいではなくユウイチには何やら考えがあるようである。


「どんな罠を仕掛けるのかは、一週間後に牧場で披露しよう」


 このユウイチの一言で、今日の会議はお開きとなったのである。



 一週間後、ユウイチは王都から普通の馬車で丸二日かかるコノトーチ男爵領にあるモーメイブの牧場に来ている。


 当初は全員が参加する予定であったのだが、同行したのはリリア一人だけである。


 ユウイチがコカトリスの吐く猛毒対策としてパワードスーツ着用を条件とした途端に、三人には急な仕事が入ったようで今回は不参加ということになってしまった。


「ユウイチさん、このマスクを着けておけば良いんですよね」


「そのマスクには"防毒の魔法"を付与してあるからコカトリスの猛毒を喰らっても問題ないからな」


 リリア一人にパワードスーツを着用させるのは忍びないと思ったユウイチは、前世の防塵マスクに似た形状の防毒マスクを作って渡しておいたのである。


「所長殿、遠い所までこ足労いただき感謝します。

 先ほど罠の設置が完了したと報告がありました」


 ユウイチ達の到着を出迎えてくれた従業員に罠を渡した際に簡単な説明しかしなかったのだが問題なく設置できたようである。


「しかし、あのような網で本当にコカトリスを捕まえることができるのでしょうか?」


「モーメイブ殿、あの"かすみ網"はミスリルスパイダーの糸を混ぜて編んであるから、コカトリスでも破ることはできないだろう」


 ユウイチは乱獲の危険性から前世の日本では禁止されている"かすみ網"を罠として使うことにしたのである。


「ユウイチさん、かすみ網ってなんですか?」


「鳥には視認しにくい細い糸で編んだ網のことをかすみ網と呼ぶんだよ。

 このかすみ網に鳥がぶつかると反射的に網を掴むんだ。

 そして掴んだが最後、飛び立とうとしても飛び立てず、もがいているうちに羽などが網に絡まって身動きが取れなくなるんだよ」


「ユウイチさん、コカトリスと普通の鳥は違う気がしますが……」


「そうですな、鳥と言ってもコカトリスは魔獣ですからな」


 ユウイチの説明を聞いただけのリアとモーメイブは半信半疑のようである。


「"果報は寝て待て"と言うからな。

 モーメイブ殿、今日のところはこれぐらいにして明日の昼頃に様子を見に来るとしよう」


 ユウイチ達は牛舎を後にしてモーメイブの案内で牧場内の居住地へと移動した。


 そして、一夜開けて二日目の朝を迎えた。


 昨晩は夕食後にリリアがパワードスーツを着て登場するサプライズがあった。


 モーメイブの娘のレイラが大興奮して自分も"パワードスーツ風の子供服に着替えてくる"と言い出して大変な騒ぎになったようである。


 それから、レイラはリリアの後を付いて回って離れなかったようである。


 小さなミレイブルーは本物と違って実に可愛らしいとユウイチは目を細めていたことはミレイには秘密兵器である。


 さて、余談はこれくらいにして、かすみ網の確認に牛舎に出向く時間である。


「私は行かなくても良いんですか?」


 リリアがそう言っているが、リリアのパワードスーツを摘まんで離さないレイラも一緒に付いてきそうなので出番がくるまで待機という名の子守り役を務めてもらうことにした。


「コカトリスが暴れて居住地に来た時の備えも必要だからな」


「分かりました。

 ここはしっかり守って見せます!」


 そう言って拳を握りしめるリリアを真似てレイラも小さな拳を握っている。


「ここにはラボラトリー・エンジェルズが二人もいるから安心だな」


 そう言ってユウイチは、はにかむレイラに視線を送る。


 これで、ユウイチに対するレイラの好感度が少しは上がったはずである。


「モーメイブ殿、この魔法耐性を付与したゴーグルと防毒のマスクをしておいてくだい」


「ありがとうございます。

 これがあればコカトリスの攻撃は防げそうですな」


 コカトリスは猛毒を吐く上に石化の魔法を使う。


 だから捕まえたからといても迂闊に近寄ることはできない。


 これだけでは万全ではないが何もないよりは遥かにましである。


 ユウイチがそう思っている横でゴーグルを着用したモーメイブが剣を抜く真似をしている。


 ひょっとしてラボラトリー・エンジェルズの一員にでもなったつもりなのかもしれない。


 それを見てユウイチは、子が親に似るのは異世界でも同じなんだなと染々と思う。


 それから、ユウイチ達は居住地にほど近い場所にある丘に登り牧場を見渡している。


「どうでしょうか、所長殿」


 双眼鏡を覗いているユウイチにモーメイブが声をかける。


「コカトリスが一羽かかっているな。

 モーメイブ殿も確認してください」


 そう言ってユウイチが渡した双眼鏡をモーメイブが覗いている。


「おぉー、いつもやって来るコカトリスのようですね。

 早速、捕まえに行きましょう」


「どうせ網からは逃れられません。

 魔力が消耗するまでお茶でも飲みながら待ちましょうか」


 大切な家畜を持ち去られた恨みに満ちたモーメイブは、今にも走り出しそうであるが、アースドラゴンと同様に魔獣はできるだけ弱らせてからトドメを刺すに限るのである。


 それから優雅とは言い難いが、ティータイム終えていよいよコカトリスにトドメを刺しに行くことになった。


「リリア君、頼んだぞ」


「任せて下さい、ユウイチさん」


「リリアお姉ちゃん、がんばって!」


 どうしてもリリアに付いて行くと言って聞かなかったレイラを何とか言いくるめて馬車の中で待機させるのにユウイチ達は苦労した。


「レイラちゃん、ここが特等席だぞ。

 ラボラトリー・エンジェルズ以外でリリアの必殺技を見るのはレイラちゃんが初めてだからな」


 このユウイチの一言が殺し文句となって、レイラは大人しく馬車の中でも待つことを了承した。


 その、レイラには念のため結界のローブを羽織らせてゴーグルとマスクも装着させて万全を期してある。


「レイラちゃん、そろそろ始まるぞ」


 馬車の中にいるレイラの視線の先では、リリアが少しづつコカトリスとの間合いを詰めている。


 同時に殺気を感じたコカトリスが網から逃れようと"バタバタ"ともがいている。


「リリアお姉ちゃん……」


 馬車の窓に齧り付いてリリアの一挙手一投足を真剣に見ているレイラの手には力が入っている。


 リリアが動きを止めて上段の構えを取るとコカトリスも動きを止めてリリアをじっと見据えている。


 恐らく石化魔法を発動させているのだろうが、魔法耐性が付与されたゴーグルの前では無力である。


「疾風迅雷!」


 そう叫んだリリアが豪快に刀を降り降ろした。


 "バリバリ"と稲光が走ったかと思うと、次の瞬間には"ドーーン"と轟音が牧場に響き渡った。


 恐らくだが、牛舎の中の乳牛がパニックになっているのではないだろうか。


「わぁーー!」


 ユウイチに耳を塞がれながら歓声を上げているレイラの目が"キラキラ"と輝いている。


「レイラちゃん、終わったようだ。

 リリアお姉ちゃんのお出迎えにいこうか?」


「うん!」


 ユウイチに返事をするよりも早くレイラは馬車を飛び下りてリリアに向かって駆け出して行った。


「リリアお姉ちゃん、凄い!」


「ありがとう、レイラちゃん」


 レイラの目線に合わせてしゃがみ込んだリリアに少し背伸びをしながらレイラが必死に訴えている。


 恐らく自分の見た全てをリリアに伝えているのだろう。


 かくしてリリアはコカトリスを討伐に成功し、同時にこの国で一番のファンを獲得したのであった。


 因みにユウイチはコカトリス討伐の功で冒険者のランクがまた一つアップしたのであった。 



 後日談。


 アースドラゴン討伐フィーバーから十五年が経ったある日のこと。


 教会騎士団は日夜、地域の平和を維持するために活動している。


「おい、聞いたか?

 また昇格するらしいな」


「あぁ、未だ入団して三年だろ。

 信じられないよな」


 ある団員が小隊長から部隊長に昇格すると言う噂が団内を駆け巡っている。


 このことを、やれ大司教の知り合いだとか団長の隠し子だとか影で囁く者もいる。


 だが先日、行われた騎士団対抗戦で先鋒を任される程に団長のシェーケンの信頼は厚い。


 次期部隊長はそれに応えて全戦全勝で、教会騎士団史上初の三位入賞に貢献したのである。


「やはり目標があると違うんだろうな……」


「あれだろ、いつかドラゴンを討伐するって言う夢物語みたいな話だろ?」


 十五年前に王都で巻き起こったアースドラゴン討伐フィーバー自体を知らない世代も増えている。


 ユウイチ達のアースドラゴン討伐は、今では歴史上の話になりつつある。


「だが、アイツは本気らしいぜ。

 ラボラトリーなんとかみたいになってみせるってよ」


「聞いた話じゃ、アイツの部屋にはパワードスーツ風の子供服が飾られているらしいぜ」


「はははは、まるで子供だよな」


 二人は馬鹿にしたように笑い合う。


「お前達、人の陰口を叩いている暇があったら鍛練しろ」


 そこに偶然、団長のシェーケンが通りかかった。


「いや、俺達は陰口を言っていた訳じゃ……」


 シェーケンに注意されて二人はシュンとなっている。


「いいか、お前達がこうしている間にもレイラは剣の鍛練をしているんだ。

 レイラならいつか竜騎士のリリア様と肩を並べられるようになるかもしれんぞ」


 そう言ってシェーケンは未だ灯りの付いている訓練場を見て微笑んだ。


「疾風迅雷!」


 その、訓練場ではレイラがリリアの必殺技の型を繰り返し練習ていた。


 あの日、リリアを見て輝かせた瞳のままで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ